第98話 またね
前回クーヤがカインを一撃で仕留めたのを、ジェルスは何て事だみたいに言ってましたが、ちょっと調べたところ、蹴り一撃で人を仕留めるのは珍しくないらしいです。
ボクシングヘビー級選手のパンチは一撃で重傷らしいです。パネェっす。
で、蹴りはパンチの三倍の威力を出せるらしいです。一撃で重傷負わせられるパンチの三倍です。想像したくありません。鍛えている格闘家ならともかく常人なら軽く死ねます。
現実でさえ一撃で人を殺れるキックなのに、クーヤのキックは魔力使って強化しています。常人はこんなモン即死なんかで済みません。原型留めていたら奇跡とかそういうレベルです。
そんなキックを喰らっても生きているカイン(後方に吹っ飛んで大木に叩きつけられた。キックの威力も合わせて、常人なら間違いなく死んでいる。)は超人です。あの時は軽い気分で書いてましたが、一年間で恐ろしく強くなってます。自分でも驚きました。
こんな風に超強くなっているので、メレンがローザに敵わなかったり、カインとジェルスがクーヤにボコられてるからといって弱い訳ではないのです。相手が悪すぎるのです。
……………噛ませ犬を用意すれば“こいつら超強くなってんじゃん!!”とか思わせる事ができたのでしょうか?
(カイン視点)
あっという間にジェルスが叩きのめされピンチだ。助けに行きたいが、俺の目の前にバリアが展開され、叩いてもビクともしない。
「指狙撃ッ!!」
ズドン!!
突然クーヤさんに向かって高速のエネルギー弾が飛んできた。咄嗟に気づいてかわしたため掠めただけだが血が吹き出し、動きがとまる。
シュタッ。
突然人影が飛び出してジェルスを抱え、離れた場所まで移動させた。
「大丈夫ですか、ジェルスさん?」
「フロウ!!」
フロウが俺の近くまで移動し、俺を覆うバリアを叩く。
「固い、助けられない!!」
「壊します!!下がってッ!!フロウさん!!」
「キュリア!?」
キュリアちゃんがこちらに銃を向け発砲する。魔導石を使っている銃で、吸収した魔力でエネルギー弾を形成して撃ちだす銃のようだ。見た目も俺らの世界の拳銃とは違い、マガジンやセーフティが無い。バレル部分がややゴツいが中々カッコいい。
ズドンズドンズドンズドンズドン!!
銃弾が命中して爆発する。なんかぶっ壊れたら俺に銃弾が命中しそうで怖かったが、少しバリアが薄くなるもバリアは壊れない。良かったのか悪かったのか…………。
「ダメです!!全然壊れません!!」
「そーゆーのは本体を叩くものよ。本体を倒せばバリアも消えるわ。」
さらにアイナさんが飛び出してクーヤさんに向かう。
「一年前には見なかったのが次から次へと数が多いのね…………面倒くさいこと……………。ま、いいけどね!!」
「安心しなさい。これで全部よ。それにしても余裕たっぷりなのね…………流石副将、といったところかしら?」
ドカアッ!!
アイナさんのパンチとクーヤさんのパンチがぶつかった。その衝撃のせいか周辺の大気が大きく震える。見た感じパワーはほぼ互角。大気が震える程のパワー。試した事は無いが俺にはできないだろう。アイナさん、ただ者ではない。
「…………やるじゃない…………。もしかして、貴方…………。…………やっぱり流石」
「無駄なおしゃべりはいいわ。さっさと続けましょ?」
ガッ! ガッ! ブンッ!! パァン!! ヒュン! パンッ!!
「…………ほーんと、強いわね、貴方…………。」
さらに数発やりあいながらクーヤさんが呟く。クーヤさんのキックをアイナさんが下がってかわした瞬間、
シュタッ!
「!!」
「魔力散弾!!」
メレンがほぼ一瞬でクーヤさんとの距離を一気に詰め、魔力散弾を放つ。あれ、何だ?どうやってあんな高速で?瞬間移動は魔力を溜めるため、隙が大きいハズだが……………。
「くっ……………ッ!!」
メレンの右腕を掴んで横向きに逸らす事によって魔力散弾を回避。しかし……………。
「隙ありッ!!」
ドスッ!!
アイナさんがクーヤさんの腹にパンチを喰らわせる。
ズドン!!
殴ったあとワンテンポ遅れ爆音が響き、クーヤさんが吹き飛ばされる。あれはパンチから相手に魔力を送り、体内から衝撃を与えているのか?
クーヤさんは吹き飛ばされるも着地する。口から血は流れているが、重傷とまではいかないようだ。
「………………ま、こんなもんか。」
突然クーヤさんが呟き、構えを解いた。
「これ以上やると数も多いし厄介そうだからね。今日はこの辺で止めておくわ。貴方達の強さもわかったし、レリカに報告しないと。」
「…………そう。ま、いいけど。…………まだ眠いわ…………ふわあぁ…………。」
アイナさんもそう言って構えを解き、大きく欠伸をする。
クーヤさんがこちらに向かって歩いてくる。キュリアちゃんが銃口を向けるが発砲はしない。…………腕が震えている。クーヤさんが強いのもあるだろうが、人に向けるのを躊躇っているのだろう。
「……………そういうのは撃つ気がないのに向ける物じゃないわよ。特に人にはね。」
「………!!そんな事は……………」
「貴方、人を撃った事ないでしょ?躊躇いで腕が震えているわ。そんなので敵と戦うというの?脅しで勝てる相手じゃないわよ?」
「……………それは……………。」
「……………強くなりなさい。」
「え?」
「何を思ってここにいるのかは知らないけど、迷わず人に向けて引き金引くくらいの強さがなきゃあその想いを達成する事なんてできないわよ?もう一度言うけど、脅しで勝てる相手じゃないんだからね。」
キュリアちゃんは黙って銃口をおろした。それを見たクーヤさんは再び歩いて俺へと向かう。
クーヤさんが指を鳴らすと俺を包むバリアが霧のようになって消えた。
クーヤさんが屈んで俺の耳元で囁いた。
「貴方とは次会った時にたっぷりと可愛がってあげる。楽しみにしておいてね?」
そしてクスリと笑う。
「ま・た・ね。」
そう言われた瞬間、俺の頬に柔らかい物が触れた。
「……………ッ!!!」
クーヤさんがにっこりと笑い瞬間移動で消えた。
メレンが俺に駆け寄る。
「カイン、大丈夫?何か言われてたみたいだけど………それに…………あなた…………クーヤさんに…………。」
俺は答える事ができなかった。それだけではなく、動く事もできない。怪我のせいだけでは無いようだ。
アイナさんが俺達に言った。
「………………ま、それは別にいいんだけど。あたしも舐められたものね……………クーヤって人、本気じゃなかったわ…………。貴方達二人とも全然お遊びでやってたわね。」
ジェルスとの一騎打ちでお遊び無しと言ってたけど、実際は遊んでいたのか…………あ…。あれが、副将…………。
「あんな人がいるとは…………予想外ですね…………。まぁ、一旦宿に帰りましょう。お二方の治療もしないといけませんし。カインさん、立てますか?」
「あぁ。」
フロウがそう言い、宿に戻る。立ち上がった俺をメレンが支えてくれる。
歩いている途中、メレンが俺に向かって言った。
「……………いつまで赤くなってんのよ。」
「え?」
「赤くなってる。クーヤさんからキスされてから。ずっと。」
「え、えっと、それは……………」
メレンは無言になり、不機嫌そうな顔で歩き続ける。俺は何と言ったらいいのかわからず、俺ら二人の間に微妙な空気が流れていた。