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安らぎの唄(ロイ&フォルトゥナート)

「“見えない”というのは、どのような心地なのでしょうな」


 白生地陶器のティーカップを静かにソーサーに載せたロイは、ベランダの向こうに広がる蒼い海へと思いを馳せていた。


「どうされたのですか、突然」


 相変わらずの淡々とした口調で言って、フォルトゥナートはゆっくりと、紫暗の瞳をこちらへ滑らせた。


「私の右目は、もう随分と以前から殆ど見えないのです。加えて、この歳ですからな……そのうちに左の目も見えなくなったらと、時折考えることがありまして」


 返事はない。

 眉一つ動かすことのないまま、すっかり押し黙ってしまったフォルトゥナートであったが、彼が“聞いていない”わけでないことは、よく理解していた。

 彼はただ、人よりも会話のテンポやリズムというものを気にしないだけ。

 いつ何時も独自のペースでものを考え、答えを導くのが彼なりのやり方なのである。

 時折、返事がかえってくるまでに何日もの時間を要することもあったが、目まぐるしく過ぎてゆく時の流れをのんびりとやりすごす術を熟知したロイにとって、そこにさしたる支障などというものは存在しなかった。


「私の目は、現実の世界を見ることが出来ない代わりに、もっと別のものを視ることが出来ますから。ロイ殿の感覚とは少し違うかもしれません」

「ますます興味深いですな」

「そうですか?」

「ええ、とても」

「ですが、見えなくなった経緯については、貴方と大して変わりはありません。大切なお方が辛い目に遭わずに生きてゆけると考えれば、惜しいものなどないでしょう?」


 揺らぎのない、確固たる信念と、決意。

 口調こそ淡白なものであっても、それは鼓膜を通してひしひしと全身に伝わってくるような思いがした。


「今」


 綻んでゆく口許を静かに持て余していると、フォルトゥナートが眠たそうな瞳をこちらへ向けるのが分かった。


「笑いましたね」

「よくお分かりで」


 穏やかに緩んだ目元が、うっすらと細みを帯びていた。

 ほんのりと塗り替えられた声色に、ようやっと気付かされる――おそらく彼も“笑って”いるのだということを。


「どこへ行かれるのですか、ロイ殿」


 極力音を立てることのないようにと気遣ったつもりであったが、彼にそれが通用することはなかったようである。

 不思議そうにこちらを見上げたフォルトゥナートに、ロイはにっこりと曇りのない笑みを向けていた。


「お茶のおかわりをお持ちしようかと思いましてな。もう少しのんびりと致しましょう、フォルトゥナート様」

お読みくださって、ありがとうございます!

茶のみ友達のロイとフォルトゥナートのお話でした。

こんなことを話しながら、のんびり過ごしてたらいいなーという妄想の……


鳥越さん、ロイさんをお借りしました!

お子さんを貸してくださってありがとうございます♪

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