友達の唄(レイ&アール)
「おい、どけよ。そんなところに居られたら、商売の邪魔だろ」
いつもの朝。
いつも通りに店を開けようとしていた俺の前に、“そいつ”は突然現れた。
軒から滴る雫が、朝陽をきらきらと照り返している。
昨日は確か、何日か振りに雨が降っていたような気がする。
俺の声が届いたせいなのか、冷たい雫につつかれたせいなのかはわからなかったが、店の外壁に背中を預け、両膝を抱え込んで動かなくなっていたそいつは、ゆっくりと顔を上げ、虚ろな蒼い瞳をこちらに向けてきた。
「お前、見かけない奴だな。どこから来たんだ?」
死体じゃなくて良かった。
朝一番に見た人間が店の軒先で冷たくなっていたとしたら、商売がどうのという話以前に、それこそ夢見が悪くなってしまう。
安堵に胸を撫で下ろすと、俺は再びそいつの燃えるような紅い髪を見下ろしていた。
「腹減った」
「何だって?」
「腹減ったあぁあああああああ」
「分かった! 分かったよ! てか気持ち悪ぃから! 離せって、馬鹿!」
爽やかな雨上がりの朝にはおおよそ似つかわしくない、血走った目で俺の足首を掴んだそいつの握力は、いかにも“最後の力を振り絞って”という雰囲気で、放って逃げようものなら、末代までしつこく呪われ続けるような予感がしてならなかった。
「いつから食ってないんだ?」
「三日前」
「仕方ねえな……じゃあ、食った分は働けよ」
俺が声を掛けると、そいつは顔中のありとあらゆるところをくしゃくしゃに歪めて、真ん丸い瞳をごしごしと擦っていた。
俺の言葉をちゃんと理解して涙を流せるってことは、頭もイカれてないし、水分だけは余るほど摂れてたってことだよな。そういや、昨日は雨が降ってたんだっけ――常春の街には珍しいくらいの、厳しく冷え込む夜だったことは間違いなさそうだけど。
風邪くらいは引いてるかもしれないし、後から施療院にでも連れてってやるか。
煌々と燃える暖炉に向かって、新しい薪をいくつか放り込んだ俺は、台所へと向かった。
兄貴と親父の使ってた食器、何処に仕舞ったんだったか――
企画提出用イラストより。レイとアール。
お読みくださってありがとうございます!
レイとアールの出会いを描いたお話でした。
道長僥倖さんのレイくんをお借りして、ツイッターでお話してたネタをお話に書かせていただきました♪
道長さん、素敵な相方とアイディアをありがとうございました!