紫電の唄(ハーキュリーズ&アタランテ&ロイド)
「はい、ロイド。これ、プレゼントだよ」
たぶん、あいつなりに俺を気遣ってのことなのだろうと思う。
ロイドは差し出された小さな箱をすぐには受け取ろうとはせず、複雑そうに表情を曇らせて、ちらりとこちらを側めた。
「一体どういう風の吹きまわしだ? 今日が何かの特別な日って訳でもねえだろ」
「あのね、ビアンカさんから聞いたの。王都では一年に一度、お父さんに感謝の気持ちを贈る日があるんだって。それが今日なの。私のお父さんはロイドでしょ」
ロイドは何も答えない。それどころか、ますます困惑の色を強めているようだった。
「受け取ってやれよ、ロイド。血は繋がってなくても、あんたはアタランテの父親だろ」
――いい歳こいたおっさんが、涙こらえてうるうるしてんじゃねえよ。気色悪ぃな。
はじめこそ胸のどこかが詰まるような思いがしたものの、その気持ちの良くない顔を拝んだ途端に笑いのこみ上げてきた俺は、突き飛ばすほどの勢いで、文字通りロイドの背中を“押して”やっていた。
「ハズには、一ヵ月後にプレゼントあげるね」
「一ヵ月後?」
「一ヵ月後は“お母さんの日”だって」
「はぁ?」
何がそんなに楽しいんだか、こいつは。
露骨に表情を歪めた俺を見上げたアタランテは、にこにこと満面の笑みを浮かべていた。
「だってハズ、いつも口うるさいから、お父さんって言うよりはお母さんみたいなんだもん。ハズもロイドも私の大事な家族だから、これから毎年その日に、プレゼントあげるね」
相変わらず、お前は鬱陶しい奴だな。
声に出して言ってやろうかと思ったが、喉の奥の疼くような感覚が邪魔するおかげで、うまく言葉が出てこなかった。
「――おい、ハズ。いい歳こいたおっさんが、うるうるしてんじゃねえよ。気色悪ぃな」
「お前にだけは言われたかねえよ」
こんなにも辛気臭い場所にわざわざ来てやったのは、暇を持て余してるはずのロイドに仕事の話を持ちかけてやろうとしたからなのだが――話し込むうちに、言いたかったことを洗いざらい忘れてしまった。
どいつもこいつも、本当に鬱陶しい奴らばかりだ。
独りで居た頃は、煩わしい感情に振り回されることなんてなかったのに。
ますます面倒臭くなって、俺はそそくさとロイドの工房を後にしていた。
お読みくださって、ありがとうございます!
二人のパパを持つアタランテと、親馬鹿コンビのお話でした。
佐藤つかささん、ロイドをお借りしました!
お子様を貸してくださってありがとうございます♪