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銀狼の唄(ジークヴァルト×ペルサ)

企画小説の本編で、展開の都合上ボツになってしまったシーンを切り出したものです。

「触るなと言っているだろう! 何度言ったら分かるんだ!」


 夜の静けさに包まれた城内で、甲高い大音声が響いていた。


「触るなってお前……自分ではもう立てないんじゃないのか」


 聞き分けがないのはいつものことで、平時と少し違うところがあるとするなら、突き刺さるように鼓膜を震わせてくる、その声の大きさくらいのものだろうか。


 ――――こんなになるまで、一体誰と飲んでいたんだか。


 知る術のないその“誰か”のことを思う度、もやもやと卑屈な気持ちが起こってくるような気がして、ジークヴァルトはすぐに考えるのをやめた。

 予想通りと言おうか、やはり彼女に動く気配はない。


「おい、寝るな」


 ひとしきり喚き散らした後で、そのままとろりと瞼を下げる姿が見えた途端、ジークヴァルトは溜め息と共に彼女の華奢な体を抱き上げた。


「何をしている! やめろと言ってるだろう!」

「分かった分かった。文句なら後からいくらでも聞いてやるから」


 最初こそ、まるで親の仇でも見るかのような目つきでこちらを見上げていたものの、鋭利に尖っていた眼差しはすぐ、胡乱(うろん)げに宙を泳ぎ始める。

 見慣れた部屋の前に辿り着いた頃、意識を手放す寸前まで悪態をつき通していた薄紅の口許は、いつの間にやら規則正しい寝息の音だけを零すようになっていた。

 出会った頃からほとんど背丈も重みも変わっていない、小さな小さな体。

 目に見えるものは何一つ変わっていないというのに、自分は――――


「ジーク」


 そこまでを思ったところで、ジークヴァルトは、背後に現れたもう一つの気配にドキリとさせられていた。


「随分飲みすぎてしまっているようだね。彼女がここまで無防備な姿を晒すのは、珍しい気がするな」


 振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた主君の姿があった。


「いつからいらしたのですか、ノイシュ様」

「君がペルサを抱えて廊下を歩き始めた頃だよ」


 ――厭な予感がする。

 背の真ん中を、じわじわと生温かいものがすり抜けていくのが分かった。


「ペルセフォネには、騎士団の副官たる自覚が足りていないようです。後から私が、言って聞かせておきます」


 早々に話を切り上げようとしたつもりだったのだが、どうにも浅はか過ぎたようである。

 幾度か両目をしばたたかせた後、ノイシュはすぐにいつものペースを戻すと、柔らかな笑みを浮かべていた。


「いちいち考えが固いよ、ジーク。私は何も気にしていない。彼女も日頃からきっと、いろいろと溜め込んでいることがあるんじゃないかな。たとえば、君のこととかね」

「どういう意味でしょうか……」

「そのままの意味だよ。そういえば、ペルサと飲みに行っていたのはユリシーズだったようだが、君は知っていたかな?」

「なっ――――」


 胸の真ん中をきつく締め上げられたような心地になる。

 よりにもよって、相手が悪すぎる。

 すやすやと深い寝息を立てるペルセフォネの安らかな表情を見ながら、ジークヴァルトは言葉を失っていた。

 しかし、背後からくすくすと遠慮がちな笑い声が響いてくるのを聞いた途端に、またも己の浅はかさを思い知らされる。

 目元に充満していく熱を極力気にしないようにと心掛けながら、ジークヴァルトはおそるおそる背後を振り返った。


「やっぱり顔色が変わったね、ジーク。大丈夫だよ、“何かあったと思われたらそれこそ迷惑だから、絶対に何もなかったとジークに強く言っておくように”と、ユリシーズ本人から言伝があったようだし――どうだい、これで安心したかい?」

「最初から、少しも心配などしておりませんが」

「強情だなあ、君は」


 ますますおかしくて仕方がないといった表情で、下腹を抱え込むように押さえつけた主君を尻目に――というより、これ以上他人と目を合わせていることに耐えられなくなっただけなのだが――ジークヴァルトは、そそくさと手にしていた鍵束のうちの一本を取り出し、ドアを開けた。

お読みくださってありがとうございます!

本編のボツシーンを切り出したものなので、唐突に終わっている感が否めないお話ですが……ジーク×ペルサ展開をどうしてもどこかで披露したかったので、つい(笑)


加藤ほろさん、ペルセフォネをお借りしました!

お子様を貸してくださってありがとうございます♪


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