3-15「任務開始」
――――――11月30日8時51分―――残り1か月と1日、15時間9分
鉱山町タルテルドの入口前には、大勢の鉱夫と住人が集っていた。
彼らの視線の先には、運ばれる鉱物が積み込まれた荷馬車と、それに同行する二人の町の人間と、二人の騎士の姿だ。
特に騎士への注目が多い。鉱山町の大半の女性達は銀髪の男性騎士に熱い視線を注ぎ、多くの鉱夫は美しく佇む女性騎士を滅多にない目の保養として扱っていた。
無論、ゼスとシェリーだ。
彼らは全ての鉱物を積み終えた後、見送りに出てきた町長と挨拶を交わしていた。
「それでは、任せてくださった鉱物は責任を持って聖都へと送り届けますので」
丁寧に町長の頼みを請け負うシェリーは、出発前の一言を伝えた。
町長は鷹揚に構えて返す。
「うむ。お二人とも、道中気をつけてな」
「はいこれを。アタシが特別に作ったピーオエードよ。さっぱりとした味わいと疲れを癒やすピーオの果実を飲料水にしたものよ。休憩する時に皆と一緒に飲んでらっしゃいな」
町長夫人から彼女が作ったというピーオエードを入れた容器を手渡される。
他にも鉱山町の人々から心ばかりの支援物資を受け取ったゼスは、頭を少し掻いた後、頷いて返した。
「すまないな。有効利用させてもらう」
「いえいえ。アタシ達はこれだけしかできないけれど……頑張ってらっしゃいね」
「勿論だ」
それだけゼスは答えると、素早く荷馬車に容器を置きに向かう。
シェリーと一通り段取りを確認し合った町長は、町からの同行者二人に檄を飛ばした。
「これお前達! きちんと鉱物を聖都に届けるんじゃよ!」
「任せて下さいよ、おやっさん!」
「りょーかい!」
応えたのは荷馬車を引く馬を御する中年の男性御者と、軽く陽気な性格をした若い男性鉱夫の二人だった。
彼らはゼス達が護衛だけに集中できるようにと町長が手配した、荷馬車の制御と鉱物の専門知識を有する者達だ。
「それから、騎士様の指示にはきちんと従って、迷惑をかけんようにするのじゃよ!」
「へいへい、分かってますって♪」
鉱夫の若者が軽い返事をすると、町長は苦笑だけで済ましたのだった。
今度は、ゼス達が泊まった宿の主人と女将がやってきて、詰めるだけの食料を荷馬車に積みこんでいく。それが終わると、シェリーの前に挨拶をしに来た。
「昨晩はよく眠られましたでしょうか?」
「え、ええ。まぁそれなりです」
女将の問いに、シェリーは濁った回答を返すしかない。
実は、彼女は昨晩あまりよく眠れなかったのだが、それを他の人間に悟らせる態度は見せなかった。
普段はあまりしない化粧で、うっすらと出来た隈を隠している。
「昨晩は迷惑かけてすまんかった。お詫びと言っては何だが、色々な食材を余分に載せておいたから、モリモリ食って元気付けてくれ」
宿の主人が頭を下げて、昨晩のシャワー室鉢合わせを引き起こした不注意を詫びる。
シェリーも、もう気にしていませんから大丈夫です、と何度も答えたのだが、宿の主人は事の重大さを理解している為か何度も謝る。
だから、彼女は彼が用意したという食材を利用すると宣言する事で、完全に事を清算した。
「有難うございます。全員で美味しく頂きますね」
「ああ、そうしてくれ。物資にもなるしな!」
「全くもう、調子が良いですから、ウチの旦那は」
女将のツッコミに、苦笑をするシェリー。
そこに、準備をし終えたゼスが彼女の元へと戻ってくる。
「準備は完了した。何時でも出れるな?」
「ええ、大丈夫よ」
頷くシェリーに、ゼスは改めて宿屋の主人と女将に顔を向けた。
ゼスは世話になったな、と無愛想に一言告げた程度だったが、宿屋の女将には伝わったようだった。
「いえいえ。気をつけて行ってらっしゃいませ」
女将の返事に、シェリーが会釈してゼスと共に荷馬車へと向かう。
彼らの背中に町長の檄が飛ぶ。
「お前さんたち、成功を祈っておるぞ!」
その言葉を受け、シェリーは振り返って会釈し、ゼスは左手を挙げて応えた。
かくて荷馬車は御者の手によって出発し、ゼス達は警護する形で追随する。
天気は朝靄で、今は視界が悪い。二人は初っ端から警戒心を上昇させる。二人の背中に、何時までも鉱山町の人々からの声援が伝わっていた。
ゼスとシェリー、二人の騎士は二人の護衛対象者と鉱物を積んだ荷馬車と伴って、南西にある聖都へと旅立つ。
護送任務の開始だった―――。
* * * * *
―――同日16時45分
荒廃した荒地が続く、サイアット荒野。
朝は露で視界が悪かったが、それはほんの一時だったようで、今は殆どが見渡せる状態となっていた。
出発時には徐行していた荷馬車も、視界が良くなった事を受けて、通常のスピードで進んでいる。
荷馬車を護衛するゼス達も、速足で並走しているが、彼らの視線は遠くに向けて見回している。
靄がかかっていた時は、奇襲を警戒して迫る気配を探っていたが、視界が良くなった事で逆に彼らの警戒心は上昇する一方である。
何故なら、彼らは襲撃者の偵察と狙撃を警戒しているからだ。
高低差が激しいこの荒野は高い丘が数多く存在している。荷馬車は丘に挟まれる形で行進しているが、丘の上から見れば、その存在はハッキリと視認されてしまう。
相手から見れば、偵察や狙撃にうってつけのポイントだ。靄がかかったままならそうでも無かったのだが、視界が良好な以上はそこは絶好の襲撃ポイントだろう。
昨晩の会議の際、ゼスは別ルートから聖都に向かった方が良い、と意見したことがある。
だが、荷馬車を安全に進める道幅が確保されているのは、このルートしかないらしく、他のルートは崖を通る場所であった。
襲撃者から避ける事は出来ても、荷馬車そのものを危険に晒すことはできないとして、あえて発見される可能性がある道へと進路をとる事になったのだった。
お昼休憩を挟み、再び万全の態勢で荒野の踏破を目指す一行。
吹き通る風も強くなり始め、照りつける太陽も徐々に傾き始めた頃に、一行は丘陵から見下ろせる広い森をようやく目視できる距離まで到達していた。
「こうしてみると、やっぱ広いよなぁっ! 話だけは聞いてたけど、外はすげぇ広いぜ!」
丘陵の先に立ち、前方見渡す限りの地平線に若者は興奮気味だ。
若者はそれまであの鉱山町で鉱夫として働き始めた年頃だったが、町の外は危険が一杯だからとあまり出た事がなかった。
それに、騎士になるまでは同じ立場のようだったシェリーも、共感したように話しかける。
「あら、貴方もなのね。私も、騎士になるまではずっと聖都に篭っていた方なので、実は都の外に出るのは、初めてなの」
「おぉっ!? もしかして君、聖都の出身? 通りで、佇まいが都の女らしいと思っていたんだよ!」
「都の女性……という基準がよく分からないのだけれど、私はそうして育ってきましたので。でも、外は凄く広いのよね。自然も多くて見目新しい物ばかりで、驚いたわ」
「そうなんだよー。俺も鉱山町に篭っていた方なんだけどさ、真新しいもんが殆ど来ない訳よ。だから、なんか仕事して、いつか町の外に出てぇと思ってたんだ」
「あら、私と同じだわ。但し、あくまでついでですけれど」
「マジで!? ……共通の話題ゲトッ♪」
歓喜するように若者は影でそっと拳を握りしめた。
シェリーはと言えば、今の光景を見回すのに夢中になって、彼の様子を気にしていないようだった。
そんな二人の様子を眺めながら―――
「ゼス君。どこで休む事にしますかね? 陽もかなり傾き始めたし、そろそろ近くで野営を考えるべきだと思うのだが」
常備する銀時計を一瞥して懐に仕舞う御者から予定を訊かれる。
「そうだな……。前提としてこの荒野では野営は向かない。森林に入ったら広い場所を確保して、そこで休む事にしようと思うのだが」
「うん、異存ないね。じゃあ、五分くらい休憩したら早速その方針で出発しようか」
御者の提案に頷き返すゼス。
少し水分補給をしようと、自分用に宛がわれた飲料入りの容器を取りに荷馬車の中を覗く。
全員分の飲料容器は隅っこにまとめて置かれていて、少し手を伸ばせば直ぐに取る事が出来る。容器の蓋を開けて、中から鼻が透き通るような香りと共に、出発前に町長夫人から渡されたピーオエードの液体が目に入る。
それを口に付けると、確かにさっぱりした味が疲れた体によく通った。同時に喉も潤され、本当に何度でも口に運びたくなる。
だが、無限にあるわけではない。この先の為にゼスは量を温存して蓋を閉めようとすると。
「あら」
「ん―――?」
声に反応して振り返ると、荷馬車の陰から出てきたばかりのシェリーがこちらを見つめていた。
「君も水分補給かな?」
「え。え、ええ……」
「そうか」
淡白に頷いて、自分の飲料容器を置くついでに、シェリーの飲料容器を手にとる。
それを彼女へと手渡すように伸ばした。
「ほら、君の分だ」
「あ……ありがと」
とは言いつつも、彼女は腕を伸ばすがまるでそこに見えない壁があるかのように、受け取ろうとしない。それどころか、彼女の視線がゼスを避けているようにも思える。
まるで、彼自身を見る事で何かを思い出す事を回避したいような。
「どうした?」
「べ、別に……。い、今受け取るから」
それでも彼女はゼスを見ようとせず、腕は容器から外れた見当違いの方向へと延ばされる。
……全く、しょうがない女だな。
「投げるぞ、受け取れ」
「え? ちょ……!?」
シェリーが咄嗟に振り返った時には容器が宙を舞っており、慌ててそれをキャッチする。
「ちょっと。せめて私が反応してから投げてよ。言って同時に投げるなんて」
「それくらい反応しないと、奇襲などのいざという時に冷静に対応できんと思うがな」
唸りながら蓋を開けるシェリーを一瞥しながら、肩を伸ばして腕を組むゼス。
飲料容器を口に運んでいく彼女は、やがて息を吐いて心底嬉しそうな表情を浮かべた。
「はぁ、やっぱりこれは良いわね。寝足りない身体をスッキリさせるから、何杯でも飲みたい気分だわ」
「寝足りない? やはり、あまり寝てないんだな」
「……あ」
しまった、と気を緩ませていたシェリーは口元に手を当てるが既に発した言葉は戻すことは出来ない。
代わりに彼女がとった行動は、開き直りだった。
「えぇ、そうよ。馴れない所だったから、普段よりは短い睡眠時間だったわ。でも、やはりって何よ、アンタは気付いていたの?」
「まぁ、普段より気が抜けていた様子が少々目に入っていたからな。どうせ野宿した時と同じで、初めての外にワクワクしてて眠れなかったクチだろうな?」
「なっ……そんな子供みたいな事、何度もあるわけないでしょ!」
シェリーが慌てて誤解を解くような口調で言う。
彼女はゼスからふいと顔を逸らすと、蓋を閉めた飲料容器を荷馬車へと置きに行く。
まだ荷馬車の傍にゼスは立ったままの為、自然とシェリーが傍を通って飲料容器を置こうとした時にそれは偶然聞こえた。
「……言えるわけないじゃない。昨日のあの姿を結局忘れる事が出来ずに寝付けなかったなんて―――」
「ん? 何か言ったか?」
「っ!? な、なんでもないわ!」
顔を紅潮させてシェリーは容器を倒したまま逃げるように去って行ったという、らしくない行動に首を傾げながら、ゼスは彼女の容器を丁寧に起こして置いたのだった。
***
休憩時間が終わった後、荷馬車は丘を降りて森林に続く道なりへと進んでいる。
「―――しっかし、相変わらずここは進みにくいね。不規則な突風や揺らす荒地、そして飛行型の魔物……。自然の要塞って感じがするよ」
荷馬車の馬を操る御者の男性が、立ち並ぶ丘を見回しながら呟く。
馬の右横に並んで歩くシェリーが彼の言葉に反応して、剣の柄に手を置いたまま見上げた。
歩きにくい荒い地面に、狭い道幅、突風に魔物による強襲を経験した事があるゼス達としては、確かに進みにくい道だと感じていた。
変則的な気圧によってこのように形作られた荒野は、とても農作業のみでの生活は不可能であるし、野宿するにも向かない。出来る限り、陽が沈む前には抜けてイザーク森林へと入らなければならない。
また、進む際も注意が必要だった。例の飛行型魔物―――フォールイーグルという、上空からの強襲を得意とする鷲型の生物がいる事が理由だ。鋭い鉤爪と目利きの良さは、獲物がどこに逃げても上空から見つけ出して延々と追いつめる事で知られる危険な大型魔物だった。
一回だけ、ゼス達は昨日フォールイーグルと戦い、勝利を収める事が出来たものの、今回護衛対象がいる限りでは苦戦するだろうと二人は考えた。
上空にフォールイーグルを見かけた場合は、直ぐに荷馬車を止めて車内に隠れてやり過ごすという方法を取った。この事から、進行速度は遅れてしまったと御者はいう。
「よくご存じなんですね」
「いや、何度も通った事のある道だからさ。聖都に鉱物を運ぶ仕事はずっと前からやっているもんでね」
シェリーの笑みに、自然と御者は和んだ表情で胸を張った。
その様子を耳にしながらゼスは殿を務めていた。
周囲を警戒しているものの、人との関係にも意識している彼女に対して、少し呆れかえりながら後方と上空に視線を動かす。
(―――全く、そんなのであの女は咄嗟の襲撃に対応できるのか? いくら不安を解消する為と言ってもな……)
彼がそんな風に思っていると一行がようやくイザーク森林に入った所で、荷馬車に乗っていた若い鉱夫が顔を出してゼスを探していた。
「よう、兄さん」
「―――俺は君の兄さんではないのだがな?」
「そういう意味じゃねぇって。名前が咄嗟に思いだせないんだよ」
「……ゼスだ」
ぶっきらぼうに答えるゼス。
若い鉱夫はあまり興味なさそうに頷いたまま、自分からの話題をまくしたて始める。
「いやぁ、いいよね彼女。綺麗だし、スラッとしたスタイルだし、騎士になるほど強いし、しかも優しい性格ときてるよ。俺、先ほど色々話してみたけれど、彼女も俺と同じで聖都から出た事が無いんだってさ。いやー、彼女と一緒に世界中を冒険できたらそいつどれだけ幸せなんだっつーの」
俺も騎士になろうかな、なんて呟いている若い鉱夫の話に、ゼスはさして興味がなさそうに周囲を警戒し続ける。
若い鉱夫は何かを思い出したように、手を叩いた。
「聖都って処はそれは鉱山町にはいない魅力的な女が一杯いるって聞いていたけれど、本当その通りだよな! そういえばさ、騎士って貴族の連中も成れるもんなんだろ? あのシェリーって娘の佇まいとか、礼儀正しくて優しい性格とかさ、もしかして彼女って貴族?」
彼は自分の話をするのではなく、ゼスに対して純粋な質問を飛ばしている。
風貌と素っ気ない態度であまり人に話しかけられないゼスは、彼が陽気な性格で馴れ馴れしく語りかけてくるのが好きでもないし、嫌いでもない。
慣れというのは怖いものだな、とゼスはかつて同じような人間が昔、別にいた事を思い出した。ゼスが騎士に成る為にその人物とは別れたっきりだ。確か最近は、傭兵業界では『火蜥蜴』という仰々しい二つ名を付けられた有名人になったとか。
そんな事情から、ついその人物と同じような対応をゼスは返す。
「確かに、そう聞いているな」
「おっほマジで!? 結婚とかできたらマジ逆玉の輿じゃねぇか! あんな美人で性格良くて、しかもお嬢様。至れり尽くせりじゃねぇかコノヤロー♪ よっしゃ、マジ燃えてきた。良いところ見せるチャンスがあったら積極的に狙うしかないなこりゃ!」
握り拳を作り、若い鉱夫は嬉しそうな表情で意気込んでいた。
ゼスはといえば、あんな女のどこが良いんだか、と語るような視線を若者に向けている。
そこで鉱夫は何かを思い出したように、ゼスへと見つめ返した。
「そういえば、兄さんさ。シェリーさんと同僚なんだって?」
「……そうらしいな」
「じゃあ一応訊いておくけど、兄さんは彼女と付き合っているわけじゃないよな?」
一体彼は何を言い出すのかと思えば、とゼスは心底溜め息を吐きたくなった。
鉱山町の町長にも問われたが、男女二人が同じ部隊に居て共に行動する事にそのような意味があるとは思えない。
……そもそも俺は彼女の事を同僚として信用していないし、思想も相容れない。雑誌や街中でよく見かける、カップルなどに発展するなど万に一つも有りはしないというのにな。それに、俺の態度を感じて、向こうも嫌いになっているだろう。さっさと昇進してくれれば、俺は楽ができるというのに……。
そのように考えながら、荷馬車の前方に意識を向ける。当のシェリーは御者と楽しく世間話で談笑しているようだった。
ちゃんと周囲を警戒しているのか怪しくなってきたな、と思いつつも。アレなら俺達の話は耳に届くまい、として溜め息混じりに問いに答える。
「違うな。そもそも俺は彼女の事を認めてはいないからな。ただの同僚以下、それだけでしかない」
「つまり、今後発展する事なんて無いって?」
「……そうだな。だから、君が彼女にどういう態度で接しようが、俺には関係な―――」
言い終える前に、馬の啼き声と共に荷馬車が急停車した。
不安定な姿勢で荷馬車から顔を出していた若い鉱夫は、突然の停車にバランスが崩れて地面へと不時着した。
「っ……あいたた……な、なんで急に止まるんだよ……」
鼻を打って擦る若者を一瞥して、ゼスは荷馬車の前方へと足を向ける。
今の様子からすると、御者が手綱を引っ張って意図的に急停車させたのだろうが、一体何故停車させたのか、それを探る必要がある。
「おい、どうして停車―――」
ゼスがそこで口を閉ざす。
荷馬車の前方には、馬の手綱を引いて困惑した表情を見せている御者と、右腕で制止のサインを出したまま自分の方へと振り返っているシェリーの姿を見たからだ。
―――まさか、今の話を聞かれて怒鳴り散らすつもりか?
そんな危惧を抱いてしまうほど、彼女の視線は鋭い。何時まで経っても、シェリーはゼスから目線を外さない。と思えば、彼女は何かを言う訳でもなく、ただ沈黙している。
特にまだ何も違和感を感じていないゼスにとって、それは不審に思わせた。
「どうした。急に荷馬車を止めるとは何があったんだ?」
そう言いつつ、ゼスはシェリーの隣に並ぶ。
既に森林に入っており、もはや弓による狙撃を心配しなくても良い距離だ。そんな位置で彼女が荷馬車を止めるということは何かあると思ったのだが、特に不審な場所が見当たらない。
だが、シェリーの手が腰に差す剣にかかった瞬間、ゼスは彼女の思惑を理解し、意識を周辺の気配を探る事に集中する。
すると確かに感じたのだ。彼女が抱いているだろう違和感。
自分は集中しないと感じられない事が、彼女には無意識で感じて先んじたらしい。あの談笑の中で、だ。
「……成程。俺も気付いた。どうやら、来たようだな」
「―――ええ。気を付けて」
シェリーは呟くように、ゼスに注意を促す。
困惑のまま状況を理解できない御者は、物々しい雰囲気の二人の騎士に思わず問う。
「い、一体何がある―――」
その時、荒野の方角から複数の馬の啼き声が響き渡った―――。
:ゼスとシェリーは「ピーオエード」を受け取った!
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