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プロローグ

本作は残酷な描写、暴力や下品な言葉遣い、セクシャルを含む場合があります。R-15として指定していますので、十五歳以上の方だけ続きをお読みください。


※読みにくい場合は、感想か作者の活動報告にコメントを頂ければ対応いたします。

 平野に降りしきる雨。天を覆う暗雲は、時折鋭い雷を落とす。

 その光だけに頼る薄暗い世界に、建築用の資材が散乱している。それらは全て人が住まえる広さと高さを持っていた。ここはつまり、一つの集落だった場所だ。

 今は人が住んでいる気配がなく、全て破壊尽くされ廃墟と化している。その傷跡は様々で、なにか巨大な物に押し潰されたものや、壁そのものを鋭利なもので根こそぎ抉られたような痕まである。

 その1ケアオリュ(※この世界の言葉で、Kmという意味です)先にある場所では元々荒野だったのか、デコボコな地面へと一変し、一部は雨の水が吸収しきれずに水溜りを作りだしていた。


 その一つに片足が着地し、水が飛び跳ねた。その華奢な片足は直ぐに後ろへ飛び跳ねるように、水溜りから離れる。


「―――くっ!」


 同時、凛とした女の声が水溜りに届いた直後。

 鼓膜に響くような破砕音と共に、大きな赤黒い武器が水溜りごと大地を大きく抉った。

 絶大な圧力と風圧が、まるで爆発したかのような錯覚を起こすほどの破壊力を生じさせた。しかし、それは錯覚でも幻でも無い。実際、周囲にある廃墟の傷跡も、地面がクレーターのように抉られているのも、その大きな赤黒い武器の破壊力が起こしたものだ。


 その破壊に巻き込まれないように後退し続ける女には、その武器より二周り以上も小さい剣が握られている。

 剣は既にボロボロに刃こぼれを起こしており、汚れていた。名匠によって造り上げられた剣も、まるで長年の闘いの後のように壊れかけている。だが、彼女が持つそれは、本来造り立てなのにも関わらず剣としての体がこんなにも早く崩壊する筈が無いはずだった。

 女は剣以外にも、白い盾、蒼い衣、白銀の甲冑を身に付け、彼女が伸ばす長い黒髪は荒れている。黒髪の先を集めるように括った青白いリボンは解けかけ、絡まっている感が否めない。小麦色の綺麗な肌も土で汚れており、頬からは紅い血が流れ落ちる。

 荒い息をし、破壊から難を逃れた女は、剣を構え直し―――


「っ―――ふぁっ!」


 右足で地面を蹴り、疾走する女。

 目指す先は、先ほど地面を抉った赤黒い大きな剣。それは身の丈程の大きさであり、形は何かを斬る体を成しておらず、それどころか鈍器ですらない。例えるなら、工具のようなモノだ。しかし、それはまごう事なき剣であった。

 眼を瞬きすれば肉薄している女の速力によって、流石の赤黒い武器も防戦に回らざるを得ない。


 振り回されることを封じ込め、まるで疾風怒濤のように細い剣を振う黒髪の女は一切の隙も、妥協も見せない。

 例え対峙する赤黒い武器を持つ人間を相手にしても、手加減など全く無い。

 もし手を抜けば、女の身体は、先ほど地面が消えたその瞬間へ辿る運命に至るだろうからだ。

 触れたものを(ことごと)く削り取る嵐のような女の剣技は、その追随を許さない。眼に留まることの無い、幾重もの銀閃が赤黒い武器、ひいてはその主に襲う。


 しかし、相手はかなりの手練れだったのか、赤黒い武器の僅かな動きだけで、疾風の剣を凌ぎ切る。女の剣をただ一瞬たりとも赤黒い武器の後ろに通らせる事も無く、弾く。

 遂には女に疲労を蓄積させて、僅かに鈍った剣を弾き返した赤黒い武器はさらなる大きな追撃の一振りで吹き飛ばす。


「っ―――かはっ!?」


 一瞬で白い盾を前に出して事なきを得た女だったが、衝撃を殺しきれずに地面に転がり、うつ伏せに倒れる。その衝撃で辛うじて髪の先を束ねていた青白いリボンが解けて地に落ち、長い黒髪が広がった。

 激しい剣戟音と破砕音も止み、ただ雨音と女の息遣い、そして赤黒い剣を持つ主の足音が響き渡る。


「くっ……ううっ」


 腕を振るわせ、女は起き上がろうとする。しかし、今までの戦闘による損耗がここにきて体中を巡り、意識を刈り取ろうとしていた。歯を食いしばって訴える痛みに耐え、決して倒れないようにと身体を起こす。

 改めて女は、赤黒い大きな武器を地面に擦りながら迫る、相手の姿を認識する。


 雨で張り付いているのか、汚れた明るい髪が眼を覆って表情を窺う事は出来ない。服装全体も汚れ果て、もはやそれは纏っているとしか言いようがない。口元を切っており、滴る血が顎まで伝っている。白い歯を剥き出しにして、今にも咬み付かんばかりだ。

 その彼(・・・)が赤黒い武器の持ち主。歯から漏れる息と唸り声も含めるなら、その姿は例えると、獣。人の姿をした獣であった。


 女は変わり果てた姿をした男に、心が乱れる。苦悶の表情を見せ、どうしてこうなってしまったのか、と自問する。


「―――それが、―――が望んだ事なの……? 強さを求めた先にあった答えは、その姿なの?」


 荒れた息と共に、女の声が雨の隙間を通る。しかし激しい雨音で、彼女の言葉が塗りつぶされそうな勢いだ。

 どうしてこうなってしまったのか、いや問うまでもない。それは自身の所為なのだ。あの時留めていたら―――少しでも彼を認めていたら、違った結果になったかもしれない。彼を、独りにしなければ――――。

 だが、それより上回るのは、ふ抜けた彼の姿への怒りと悲しみだ。

 眼に映るものを破壊し、拒絶し、殺し尽くす鬼神の如き彼の強さは、誰にも手に負えないだろう。しかしそうではなかったはずだ。彼が目指したのはこのような独りよがりの強さではなかったはずなのだ。

 もし、そうでなければ―――。


「……―――が―――になろうとしたのは、そういう事じゃなかったの? ―――は、護りたいものがあったから―――になろうとしたんじゃないの?」


 女が顔を上げ、凛とした眼差しを男に突き刺す。

 剣の柄を握る手の圧力を強くして、上段に構える。


「誤った答えで―――を辞めるなんてこと、そんなのは絶対に許さないッ―――!」


 疾走再び。

 女は剣を確実に男を貫く勢いで構え、一秒後には肉薄する。



 その女の姿を余所に、男は剥き出した歯の隙間から雄叫びをあげる。




「―――ジ……リィイイイイ……ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」
















対なる剣~光と闇の狭間で何を見るか?~















 ―――この地、エクスぺリア。蒼き天より女神見守りし魔の大地


其なるは地を持ち上げる血の脈動

其なるは空を輝かす黄金の明滅


あらゆる輪廻転生と共に 血で定められる運命

いざ無よ いざ立てよ いざ貫けよ


それでよは繰り返される

それがエクスぺリアの避けられぬ 女神の啓示―――


聖騎士の遺言より抜粋













 時は古の時代。

 人は魔働(まどう)という女神より与えられた不思議な力によって繁栄を極めていた。

 それによって照明を灯し、物を冷やし、あるいはそれが燃料になって動かしたりできた。その力を攻撃手段として、術者に備わった魔力を放出することで、魔力の塊を相手にぶつける魔働術というのも実現された。

 人はそれらの力を使い、富を得、名声を得、人を護り、あるいは人を殺した。彼らは争いの最中、魔働術を物理的な武具に付加する手段も身につけ、戦士達はさらなる力をつけていき、さらなる繁栄と平和を甘受しながら、世界は発展を遂げていく。

 しかし、それは唐突に終焉を迎える―――。


 その名は鬼神。

 鬼神はその場に居た、世界を絶望していた人間に魔剣を与えて走狗とした。


 人の欲を利用し、魔剣使いと共に圧倒的な破壊を撒き散らして、国を次々と滅ぼした。

 絶望を抱く人間たちで、希望を捨て切れなかった一部の者たちは捨て身で魔剣を調査し、女神に救済を求め、その時を待ちながら徐々に鬼神と魔剣使いによってその数を減らしていく。


 遂に一つだけの国家が生き残り、鬼神がそこを滅ぼすことで無に還り、世界は支配されるという時、かくして希望は降臨した。

 その王国内で根強く信仰されている女神の威光である、蒼い光を放つ剣と盾を持つ一人の聖騎士が現れ、迫りくる鬼神の軍勢を蹴散らし、破壊の化身である魔剣使いを無効化せしめたのである。

 鬼神は怯み、撤退を余儀なくされるがしかし、聖騎士が追いすがる。既に度重なる激戦と魔剣との戦いで瀕死の状態だった聖騎士は、捨て身の突進で魔剣を打ち破ったその聖剣を鬼神の身体に突きたてた。直後、彼らから強い光が発せられ、聖騎士と鬼神は光と共に消え去った。

 その光景を見た多くの人々は光の中で女神の姿を見たと言われ、世界は静寂に包まれたのであった―――。


 以後、それから鬼神は現れることなく、健在であった王国は約千年という長い時の中で古の歴史と伝統、そして魔働の血を持つ聖王国として名を馳せた。


 ―――後に“魔鬼戦争”と呼ばれたその出来事から約千年後、様々な国家が再建、あるいは新たに興国し、再び世界は繁栄を見せ始めていた。

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