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プロローグ、クーラーさえ壊れなければ…

『7月31日。木曜日。本日は、晴れ。最高気温は今年一番のものになるでしょう。日射病に気を―――』

ピッ


「そんな事はもう分かってる…。こっちは既に実感してんだ…」


 テレビの電源を切り、居間で大の字になりながらこの世の終わりのようなうめき声で、天気予報のおねーさんに突っ込みを入れた。だってそうだろ?その彼女はクーラーの効いた涼しいスタジオできっと収録してるんだ。あんなに化粧を塗りたくって砂糖菓子みたいに笑ってもらっても、こっちは全く涼しくならないんだよ。着ていた真っ赤なスーツが良い証拠だ。清涼感の欠片もない。せめても薄いブルーの薄手のスーツでやってくれ。

「いや、もういっそ脱いでくれても構わない。それだったら視聴率も上がるだろう」

 僕は、一通り至高の嗜好な思考を巡らせてから一回寝返りを打ってみたが、この夏の暑さが涼しくなる事はなく、太陽は僕の今まで当たっていなかった体の部分を丁寧に照らし始めた。僕は昼寝を諦めてダルい体を起こしてキッチンに向かった。



 そもそもは先日来た友人の悪ふざけが原因だった。親が旅行に出かけているから泊り掛けでウチで遊ぶ事になったわけだ。そこまでは良かった。問題は遊び半分でアルコールに手を出した事。酔った勢いで彼が部屋のクーラーを叩き壊してしまったのだ。ホントにいい加減にしてもらいたい。

 


 外ではセミとコンクリート工事の騒音が喧嘩するように怒鳴りあっていた。ひどい音だ。頭が痛い。もし奴らが仲直りして外が静かになったら、きっと夏はもっと過ごしやすくなる。大体この都会のど真ん中でどうやってセミが生活するんだろか。山に帰ってもいいんだよ?ついでにドリルやロードローラーも一緒に持っていってくれ。

 冷蔵庫から麦茶を出して喉を潤すと、少しだけ頭で冴えた。その冴えた頭で考えても結論は変わらなかった。

「怒られるだろうなぁ…」

 ガックリ肩を落としてため息を付いても、状況は何も変わらなかった。

 僕だって高校生だ、午前中は一通り今の現状に焦りもしたさ。その友達に怒りの電話も5回ほどぶつけた。親が旅行から帰ってくる残りの日数も200回くらい確認したし、そりゃあ切羽詰った3時間を送った。

 だけどもう、その後は、あれだ。…虚無感しかない。

 午後は、美術の宿題の静物画を「クーラーとその破片」にしようかと構図まで考えたけど、馬鹿馬鹿しくて辞めた。そして不貞寝をしながらテレビを付けてボーっとしていると、お天気お姉さんがニュースに出てきて突っ込みを入れる今に至ったわけだ。

 落ち着いている理由はもう一つある。その「虚無タイム」で幾つか解決案が出てきたからだ。

1、お姉ちゃんにお金を借りて同じクーラーを買う。

2、友達に弁償させる。

3、バイトして買う。

 1、はマッハで否決された。と言うより状況は悪くなった。

 電話したら散々笑われた挙句「黙っててやるから5千円寄こしな」と言われたのだ。鬼のような姉だ。自分は大学生でバイトもして一人暮らしをしてるのに、可愛い弟から無い金を毟り取ろうなんて血も涙も無い。…いつか天誅を食らわしてやる。

 2、は気が引けた。彼が壊したといっても自分も一緒になって騒いだ訳だ。家に招いたのも自分。終いには土下座した写メールまで送ってきて、怒りは冷めた。ってか萎えた。

 残るは3、だ。消去法により決定。まぁ、そんな気がしたけどね。

 高校生にもなってある程度の勤労意欲も沸いてきた。遊ぶ金欲しさというのもあるが、やっぱり「バイト」というのはワクワクする響きがある。

 夏休みのバイト。先輩に怒られながらも一生懸命働き、同時期に入ったちょっと可愛い女の子と働いているうちに良い雰囲気に。花火を見たり、バイト代で海に遊びに行ったりとアバンギャルドなサマーバケーション!良い!

 そんな事を考えていると段々気持ちも乗ってきて、長官に挟まっていた一枚の求人広告を広げた。

 


 そう、これが僕とこの物語を結びつける事となった。



「高自給!!初心者歓迎(手取り足取り教えちゃいますッ☆)私たちと働きませんか?

                                    喫茶アポロ」


 僕はさっきまでのダルさも吹き飛び、スイッチが入ったように受話器を手に取って番号を回した。広告にはそのフレーズと電話番号だけだったけど、僕のアバンギャルドな妄想にピッタリだったから。

 電話に出たのはやはり女性だった。僕は妄想と現実を行ったり来たりさせながら、その魅力的な声と会話を一時楽しんでから、急いで履歴書を買って今までで一番気合を入れて記入し始めた。次の日、面接をしに言われた住所に心を躍らせながら向かった。

「あぁ、君ね!?待ってたわよ」

 その背の高い女性は昨日の声の持ち主だ。力強い声とはっきりした発音は心地よく、人をまっすぐ見るその瞳が彼女の気の強そうな雰囲気を少し演出していたけれど整った顔の美人な女性。まっすぐ腰まで伸びた髪を勢い良く大きく掻き揚げるとシトラスの香りがした。その周りに居た可愛いメイド姿の女の子たちが、こっちを見てクスクス笑っていた。

(俺は勝ち組だぁ!!!!)

「私はここの給仕長!まぁ、店長補佐みたいなものをやってる、牧野リサ!よろしくね」


 

 

 今思うと後悔している。コンビニとか薬局とかそういった平凡で一般的に稼げるものにすべきだった。僕はこれからとんでもない出来事に巻き込まれる事になる。僕の名前は須々木田一郎。世界でもっとも暑くて熱いこの8月をファンタジーに過ごす事になる少年だ。

はじめまして!

作品はライトノベルのような感じでサクサク進めればいいと思います!初めての投稿なので上手くいくか分かりませんが、やって行きたいと思いますのでヨロシクお願いします!

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