第4話
午前の時間、みんなで遊ぶ時間だった。
教室の中は、少しだけ騒がしかった。
笑い声や、走る音や、誰かの泣き声が混ざっている。
僕はその中にいた。
でも、
少しだけ外にいるみたいな感じがしていた。
何をしていいのか、よくわからなかった。
とりあえず、
近くにあったおもちゃを触っていた。
そのとき、
先生が近づいてきた。
「どうしたの?」
少しだけかがんで、僕の顔を覗き込んだ。
僕は何も言えなかった。
言うことが思いつかなかった。
先生は少しだけ笑って、
僕の頭に手を置いた。
「いい子だね」
やわらかい声だった。
手も、やわらかかった。
少しだけ、温かかった。
その瞬間、
胸の奥が少しだけ軽くなった。
昨日からあった重さが、
ほんの少しだけ、ほどけた気がした。
――ああ、
こういうのが、いいんだ。
そう思った。
でも、
それはすぐに終わった。
先生の手は、すぐに離れた。
「先生ー!」
少し離れたところで、声がした。
別の子が、先生の方に走ってきた。
その子はそのまま、
先生に抱きついた。
先生は笑って、その子を抱き返した。
そのまま、少しだけ揺らしていた。
その光景を、僕は見ていた。
さっきの感覚が、
少しだけ残っていた。
でも、
それとは違う何かが、胸の奥に広がっていった。
さっきの「いい子だね」が、
急に軽くなった気がした。
あの子には、抱きしめる。
僕には、撫でるだけ。
違いがある気がした。
理由はわからなかった。
でも、
そういうものなんだと思った。
胸の奥が、じわっと痛んだ。
どうすればいいのか、わからなかった。
考えようとしても、うまくいかなかった。
そのとき、
体が先に動いた。
近くにいたその子の腕を、引っ張った。
強く。
思ったよりも強く。
その子の体が傾いて、
そのまま床に落ちた。
一瞬だけ、音が止まった気がした。
それから、
泣き声が出た。
先生がすぐに駆け寄る。
「どうしたの?」
その子を抱き起こして、背中をさする。
さっきと同じように。
僕は、その場に立っていた。
何も言えなかった。
何を言えばいいのか、わからなかった。
先生が僕を見る。
少しだけ困った顔だった。
「どうしてこんなことしたの?」
理由は、わからなかった。
本当に、わからなかった。
でも、
何か言わないといけない気がした。
「……わかんない」
そう言った。
声は、少しだけ小さかった。
先生は少しだけ黙って、
それから、
「だめだよ」と言った。
怒っているというより、
困っている感じだった。
それだけだった。
僕は、何も言わなかった。
そのまま、少しだけ離れた。
胸の奥が、ざわざわしていた。
怖かった。
何かがずれている感じがした。
でも、
それだけじゃなかった。
さっきまであった痛みが、
少しだけ、弱くなっていた。
完全に消えたわけじゃない。
でも、
少しだけ静かになっていた。
それに気づいたとき、
少しだけ、息がしやすくなった。
僕は、そのまま何も言わずにいた。




