第1話
夜の食卓でテレビが流れていた。
明るい声が、部屋に響いていた。
「子供はみんな、親に愛されて生まれてくるんです」
画面の中の母親は、子供を抱きしめていた。
その顔は、とても嬉しそうだった。
僕は、それを見ていた。
ご飯を食べる手が止まっていた。
少しだけ、真似してみたくなった。
「ねぇ、お父さん」
声をかけると、父は箸を止めずに「ん?」とだけ返した。
少し迷ってから、聞いた。
「僕も望まれて生まれてきたの?」
父は、少しだけ間を置いた。
テレビの音だけが流れていた。
「お前は本当は作る予定じゃなかった。ミスっちまったんだ。」
その声は、いつもと同じだった。
僕は、少しだけ待った。
でも、何も続かなかった。
父はそのまま、ご飯を食べ始めた。
兄はこっちを見て、少しだけ笑っていた。
母は何も言わなかった。
テレビはまだ、幸せそうな家族を映していた。
「……え」
何を言われたのか、わからなかった。
言葉の意味は、わかるはずなのに、
うまく形にならなかった。
何かが、ずれていた。
少しだけ待った。
誰かが違うと言ってくれる気がした。
でも、誰も何も言わなかった。
そのまま時間が進んでいった。
色が抜けた。
匂いが消えた。
音だけが遠くに残った。
僕は、何かを間違えたんだと思った。
急いでご飯を口に運んだ。
味は、よくわからなかった。
「ごちそうさまでした」
椅子から降りる。
食器を持つ。
流し台に置く。
手が勝手に動いていた。
何も考えないようにした。
誰も来ない部屋に入って、ソファの影に座った。
暗くて、少しだけ安心した。
でも、止まらなかった。
気のせいだ。
聞き間違いだ。
――本当は違うって、わかってるくせに。
手が震えていた。
足も震えていた。
声が出そうになって、慌てて口を押さえた。
泣いたらいけない気がした。
音を殺して泣いた。
涙が止まらなかった。
少しずつ、言葉の意味が形になっていった。
――いらない。
それだけが残った。
僕のことだと思った。
そう思った瞬間、
胸の奥が、きゅっと縮んだ。
息がしにくくなった。
それでも、声は出さなかった。
しばらくして、
少しだけ落ち着いた。
考えた。
どうすればいいのか。
答えは、すぐに出た。
迷惑をかけないようにすればいい。
それなら、
これ以上、悪くならない気がした。
僕は、それを守ろうと思った。




