3話
「とーじ」
呼ばれた瞬間、董士の両脇を通り背後から腕が伸びてきた。
いつの間にか泡だらけの手で、あろうことか裕已が董士の股の間へ手を滑り込ませた。
「ここ、ちゃんと洗ってないよ?」
「っ…!」
振り返る余裕もない董士はにゅるりとすべる手の感覚に驚いて固まる。
て、手が、あの裕已の綺麗な手が…
慌ててその腕をつかむ。
「っ…、裕已…」
「ただ、洗っているだけだよ…?」
…うう…ゆい、へんたいみたい…
なんてことないように裕已は言うが、董士は騙されない。
「自分でするから……」
「じゃあ…はい」
思いの外あっさりと引かれて董士は拍子抜けしたが、ほっと息をついた。
しかし裕已はまだ肩にあごをのせて背中に密着したままだ。
くっつかれるのは嬉しい、けど今じゃない……。
「あの、裕已見ないで…」
「何で?」
「裕已今日なんでばっか…いつもの裕已に戻って」
「いつもの僕って何?」
「いつもはこんな事しない…」
「イヤ…?」
「…――裕已だって嫌でしょ?」
「僕は構わないよ?董士、洗いっこしよっか?」
「…する……!」
「あ、でも洗っちゃったし…」
また今度ね、と裕已が言うと董士の見えない尻尾がだらりと下がった。
結局、見られながら洗うというある意味修行のような羞恥をやってのけた。
湯船に浸かり淵に頭を預ける董士は、いいもの見られた、とか何とかご機嫌な裕已をチラリと見上げた。
董士の視線に、「ん?」と首を傾げて微笑む裕已に、ドキリとして思わず顔をお湯に沈めた。
ぶくぶくと湯の中でずるい、と言葉を吐き出した董士は甘く痛む胸を抑えた。
最近、一緒にいると顔が熱くなったりドキドキする、時々胸が痛むのは何処かわるいんだろうか…
風呂から上がると、裕已がドライヤーで髪を乾かしてくれた。仕上げにオイルを髪に付けられる。
「いい匂い…これ、裕已と同じ?」
「ふふ、そうだよ」
嬉しそうにはにかむ董士に裕已は笑いかける。首元に光るお揃いのそれは、やはり自分と同じものとは思えない。
少しだけ眠くなってきた董士が瞬きを繰り返しながら、ぼんやりそんな事を思っていると、いつの間にか裕已が「付けるね」と董士の首に同じ光を纏わせた。
タオルケットを董士に持たせて、裕已は手を引くと「お昼寝しよう」と脱衣所を後にした。
日当たりのいい縁側で、規則正しい寝息をたてる董士。
「疲れちゃったかな…」
自分も少しだけ横になろうか、と裕已は董士の隣に静かに寝転んだ。
髪を撫でようとしたが、起こしてしまいそうで、触れようとした手を下げた。
日向のぽかぽかとした陽気が眠りを誘う。僅かに光りを纏う董士の横顔を裕已は眺める。
時折震えるまつ毛は意外と長い、つんと小ぶりな鼻に、控えめに散ったそばかす、上気した頬。いつも"裕已"と名前を呼ぶやや薄い唇。
すやすやと眠るあどげない姿も可愛い、と裕已は思う。
「董士」
無意識に名前を呼んでいた。
「ん…、ゆい……」
起こしてしまったか、と思ったが、また静かに寝息をもらす董士に裕已はほっと胸を撫で下ろした。
無防備に晒された首元に、鎖骨を流れるおそろいのネックレス。開いた胸元が酷く目に毒で、裕已はそこから意識を逸らした。




