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逃歩  作者: name
1/1

何かが違う夜

夜の雰囲気が好きなので何となくかいてみました。

ただ、なんとなく一一夜が好きになっていた。

皆が寝静まった頃、いつものように静かにドアを開ける。

引っ越してアパート暮らしになってから、扉をそっと閉める癖がついた。

「今日はどこへ行こうか」

家を出た瞬間、俺の好きな世界が広がっている。

でも、ここはもう見慣れてしまっているからか、心が少しざわついていた。

少しだけ歩いて思ったーーよし、走ろう。

部活生だから、体力にはそれなりに自信がある。

ただ気持ちのままに走っていたら、いつの間にか隣の駅を越えていた。

見慣れない建物、違う色の街灯、空気のにおいーーここはまだ、知らないことがたくさんある場所だ。

ふと立ち止まって考える。んー.....今日は、どこまで行こうかな。

神社......いや、あそこはちょっと怖い。

駅.....なんだかつまらなそうだ。

思ったよりもすぐに結論が出てしまって、しばらく立ち止まる。

そのとき、ふと目に入ったのは、一本のまっすぐな路地だった。

見たことのない道。

少し不気味だけど、それ以上に心を惹かれる。

知らない道の奥には、なぜだか秘密が潜んでいる気がした。

夜の静けさと、路地の持つ独特な空気、それに押されるようにして一一俺は、一歩、足を踏み入れた。

路地はどうやらかなり入り組んでいた。ここら辺は盆地だから傾斜もあって、それが少し楽しかった。

心もとない街灯に身を寄せながら、1歩1歩慎重に踏み出していく。

野良猫やたぬきが出てこないだろうか?夜は些細なことでも心臓に響いて、不安になる。

だが、それ以上に、この空間がどこか心地よい。

ふと、向こうから人の気配を感じた。はっきりとした人影が見える。

昼間なら、なんてことなくただすれ違うだろう。

だが、残念ながら今は違う。

些細なことでもぐるぐる考えてしまう。

相手が自分に危害を加えるのではないか。

いや、あるいは夜の魅惑に誘われて、話しかけてくるのではないか。

そんな時、俺は変な声を上げずに会話ができるだろうか。

もういっそ、この明るいランニングシューズで駆け抜けてしまおうか。

そんなことを考えているうちに、すれ違っていた。ある違和感を残して。


空気が、凍ったように冷たくなったのだ。

息を吸い込んだら、肺の中が一瞬だけ氷で満たされたような感覚がした。

気のせいではない。俺の腕の産毛がぶわっと逆立つのが分かった。

すれ違った相手――ただの人間に見えたけれど、その瞬間だけ、冬の冷気にでも触れたような異質さがあった。

思わず振り返ったけど、もう誰もいなかった。角を曲がったのか、それとも最初からいなかったのか。

耳鳴りが少しだけしていた。喉が詰まったような感覚。心臓の音だけが妙に大きく聞こえる。


…振り返った先には、もう誰もいなかった。

でも、確かにすれ違った。冷たい空気。静かな凍りつき。

「何だったんだ、あれ」って思考よりも先に、足が動いていた。

追いかけたくなった。怖いはずなのに。怖かったのに。


理由はない。ただ、置いていかれた感じがした。

このまま帰ってしまったら、何か大事なものを取りこぼすような、そんな気がしたんだ。


路地を戻る。走りはしない。いや、走れなかった。

走ったら壊れてしまいそうな夜の空気がそこにあった。


角を曲がる。

暗がりに目を凝らす。

音がしない。足音も、風も。なのに、誰かがいた「気配」は確かに続いている。

それはまるで、夜の奥へ奥へと自分を誘うようだった。


そして、見えた。

今さっきすれ違った人影が、ほんの少し先に立ち止まっていた。

背中を向けたまま、こっちに気づいているのか、いないのか。

立ち尽くすその姿に、また冷気が押し寄せる。

思わず一歩踏み出すと、その人影はすっと、左の小道へ入っていった。

まるで俺を導くように。

まるで、ずっと前からそこにいたように。

俺は小道へと入った。


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