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本当の気持ちを教えて

 ガクショウの開始の声で、決闘は始まる。マミーザは両手を背中にまわし、地面を蹴り高く跳び上がると同時に回した両手で剣を魔法で生成する。さらに風魔法で高度を上げ、ハーパーの頭上から急降下する。これは彼女が戦闘試験でしていた得意技であり、日光がマミーザを隠すことで攻撃のタイミングをずらす目的があった。しかし、


「試験と同じ方法が僕に通用するとでも?」


ハーパーは彼女が空中から斬りかかろうと剣を右肩に乗せた瞬間、魔法でナイフを発射した。


「覚えおくといい、空中では自由が効かない」

「……ビレイさんから聞いたんですか?」

「……彼女が世話になったね」

「お熱いですね」

「きっちり恩返ししてあげるよ」


そのまま落下すればナイフによって串刺しになるのは目に見えていた。マミーザはとっさに小石を生成し、それを蹴りつけナイフの軌道から外れ、自身にわざと重力魔法をかけ高速で着地する。


「私の手の内筒抜けなのずるくないですか!」


砂箱が舞う中からマミーザはハーパーの懐に突っ込む。


「王族の戦いは情報戦からもう始まってるんだ」


ハーパー、光を発生させる。マミーザは一時的に周りが見えなくなるが「慌てるな、まだ近くにいる」と剣を振り抜こうとする。しかし、ハーパーに視覚的有利を取られている状況に嫌な予感がした彼女は剣で防御姿勢を取る。その剣に強い衝撃が走る。ハーパーが大剣を振り下ろしていたのだ。仕留め損なったハーパーは軽く舌打ちをする。


「そんな大きな武器使わなくてもいいじゃないですか」

「そのふざけた脳内を見てみたくてねぇ!」


マミーザは大剣の勢いを受け流し、後ろに下がる。大剣が地面を割り、砂埃が起こる。砂埃が収まると、マミーザがその場からいなくなっていた。ハーパーが一瞬周りを見渡していると頭上から風を切る音が聞こえてくる。見上げるとマミーザがライダーキックをしようとしていた。


「こっちも平民の戦い方見せてあげますよ」


咄嗟に左手で盾を生み出すが重力魔法で落下スピードが上がったマミーザを受け止めるほどの盾を生成できず、キックを喰らってしまう。ハーパーなんとか致命傷を避けるようにしたが、左腕があらぬ方向に曲がってしまい使い物にならなくなっていた。


「剣を捨てるとは野蛮な」

「脳天割ろうとしたあなたに言われたくないです」


マミーザは新しく剣を生成し、今度こそハーパーを切り裂く。しかし、刀身の長さ見えてしまい、ハーパーは左腕を切り裂かれるだけで済んだ。左腕からはドロっと血が流れている。しかし、ハーパーは痛がる様子もなく、その左腕を投げつける。するとその左腕はマミーザの目の前で爆発する。


・・・


 白熱した決闘に観客のボルテージも上がっていく。ガクショウも待っていましたと言わんばかりにニマニマと観戦していた。弟2人は久々のハーパーの本気を見られて少しだけノスタルジーに浸っていた。


「左腕生贄にして魔力量抑えて戦うの兄さんらしいね」

「長期戦想定が染み付いてるなこりゃ、魔力量の差を埋めようとしてるんだろうけど」

「それに対してあの子の戦い方は結構……激しいね」

「試験の時も思ったが自衛手段で身につけたんじゃないか?判断力バカ高いし」

「兄さん結構本気だよね」

「あそこまで本気で殺しにいくのは初めてだな」

「みんな盛り上がってるけど普通はあんな感じになるよね?」

「ああ……」


2人はれいらの方を見る。周りからしたら少し過激なエンタメのように見えるが、れいらにとってはあまりに刺激が強すぎたようでハーパーが大剣振り下ろした辺りから木の後ろに隠れて縮こまっていた。そんな彼女をトーブンが介抱する。


「大丈夫ですか!?」

「……無理かも、袋ほしい」


トーブンは魔法でエチケット袋を生み出し、れいらに渡す。れいらはそこに嘔吐した。


「……吐いてごめんなさい」

「あの、気分が悪いのでしたら医務室にでも」


その発言に危険性を感じたゲージュが遮った。


「やめとけ、ソンス見て余計に吐くだけだ」


その発言にジミーも強く頷いた。


「ですが!」

「大丈夫、わたしはここにいなきゃいけないから……わたしがここにいるせいでこうなってるから」

「それは……」


3人はなにも言い返せなかった。確かにビレイがれいらと入れ替わることがなければここまで面倒なことにはならなかったのかもしれない。れいらがもっとビレイに近い性格ならハーパーがここまで拗らせなかったのかもしれないと思ってしまったからだ。


 

 そんなお通夜のような雰囲気になっているところに2人の女が入ってきた。


「あ、ここにいましたか」

「テエテエよ。今回もボクの言う通りだったね。神の導き、ボクは神の使者なのさ」

「チユニ氏、そう言いながら真反対の方向歩いてましたよね?」

「そうとも言えるし、そうでもないとも言えるね」

「そうとしか言えないですよ」


れいらは彼女たちの声を聞き、必死に思い返す。


「あ、すごく不思議なこと言う人とどこかに運ばれた人だ」

「あ、そう覚えてるんだ……初めまして、私はガチオタ・テエテエと申します」

「ボクの名は『漆黒の獣チュウニビョウ』」

「この人はナカジ・チユニと言います」

「あ」


2人が自己紹介してきたのでれいらも立ち上がり、


「初めまして、わたしはれいらです。6歳です。よろしくお願いします」


と、お辞儀した。それに合わせて2人も礼をした。そんな様子を見ていた男たちは、なぜここに来たのか疑問を持ち、質問していく。身分が上の者たちの質問にテエテエは緊張しながら答えていく。


「お2人とも、どうしてここに?」

「少しばかりれいら氏とお話をしたいと思いまして……」

「お前ら、あいつの応援しねーのか?」

「それよりも……優先しないといけないことなので……」

「そんなに大切な話って……れいらちゃんとどんな話するの?」

「それは……()()()()()()()についてです」


テエテエはそう言うと、れいらの方を向き、こう質問する。


「れいら氏、あなたはこの戦いをどう思っていますか?」


・・・


 一方、左腕を爆発させたハーパーは左腕に回復魔法をかけて左腕を生成していく。その間もいつマミーザからの攻撃が来てもいいようにいつでも動ける体勢を整え、爆風によって舞い上がった土埃が収まるのを待っていた。


「絶対に彼女はビレイさ!君やみんなはそのことを馬鹿にするけど彼女は絶対にビレイなんだ!分かってくれないか?彼女は大人たちに壊されて『極悪令嬢』などという蔑称までつけられた!そんな彼女がようやく正気に戻ったんだ……きっと、それが大人にバレないようにカモフラージュしてるだけなんだ!」


そう1人虚しく叫んでいると、マミーザの声がどこからともなく聞こえてくる。


「……寂しくないですか?それ」

「は?」

「本当は分かってますよね?()()()()()()()()()()()って」

「ふざけるな……ふざけるな!」


ハーパーの頭に血管が浮き出てくる。彼は怒りに任せ、風を巻き起こし、砂埃を吹き飛ばしてしまう。しかし、そこにはマミーザの姿はなかった。ハーパーは血眼になってマミーザを探す。


「君もそうか!僕を愚弄する!文句だけで実際にはなにもしない!ビレイのことを君は理解しているのか!?僕たちの仲をとやかく言えるほど君は、僕やビレイのことを知っているのか!?」


そんな彼を嘲笑うかのようにマミーザは語る。


「そんな仲だったようには見えませんが?」

「知ったような口を!」

「では、彼女の本当の気持ちを分かっていますか?」

「それは……」


ハーパーは言葉に詰まる。所々地面から煙が立ち上る。マミーザは深く深呼吸している。


「上辺しか見てなかったんじゃないですか?対話もせずに……自分しか見てないんですよ。あなたは」

「……うるさい!隠れてないで出てこい!」

「分かりました」


ハーパー下に引き摺り込まれる感覚を感じ、足元に目を向けると、地面を割ってマミーザの腕が左足を掴んでいた。さらに周辺に目を向けると、謎の穴が点々と開いて、そこから灰色の煙が立ち上っていた。


「この短時間で地下を……化け物が!」


大地を割ってマミーザの姿が姿を現す。


「上辺しか見ていないから今こんなことになっているんじゃないですか!」


そう言うと、大地が揺れ始め地面に亀裂が走り、崩れ落ちていく。そこには深さ10メートルはあろう大穴が出来上がっていた。そして、その底には地獄の炎が広がっていたのだった。


・・・


 場所は変わって、れいらを見ると、ただ黙って2人の決闘を見届けていた。彼女にはこの決闘をどう思っているのか言葉にすることができなかった。そんな後ろ姿を周りの人間は見守っていた。


「彼女に答えを求めるのは酷ではないですか?」

「ボクもそう言ったんだけど、彼女は聞く耳を持ってくれなくてね」

「……僕はちょっと分かるかな。みんな彼女の話聞かなかったし」

「そうだな。言い方は悪いが、この戦いはただの自己満足だ」


テエテエは後方で話している内容を聞きながら、れいらの横に立つ。


「今、ハーパー様はもちろん、マミーザ氏も考えだけが先走って冷静ではありません……この戦い、このままいけばどちらかは必ず犠牲になります。最悪、どちらも助からないかもしれないです」


れいらはテエテエの顔を見て頷く。


「ですが、もしかしたら、れいら氏ならあの2人の頭を冷やすことができるかもしれません」

「……わたしなら、止められるかもしれないってこと?」

「そうです。お2人ともあなたに執着しています。執着しすぎて周りが見えていない。れいら氏の存在が彼らの原動力になっているのです。なので、れいら氏の本心が伝われば、この戦いも終わる可能性があるかもしれません……そのためにもあなたがこの戦いをどう思っているのか教えてほしいです」


れいらは決闘をしている2人を少し眺めて、再びまっすぐな瞳でテエテエを見つめる。


「最初はね、ちょっと楽しかった。ずっとベッドの上で動けなかったし、思い通りに体を動かせて、こんな綺麗な格好になって、わたしをめぐって2人の王子様が争ったりして……絵本のお姫様みたいで楽しかった。でも……」


れいらは俯き、強く瞼を閉じる。拳に力が入り、肩を振るわせる。テエテエはそんな彼女を優しく撫でる。れいらは


「怖かった。わたしのせいでおかしくなっていくのが怖かった。何もできないまま、悪い方に向かっていくのが分かって……わたしのせいなのに……何もできないまま……また、みんなが悲しい顔すると思うと怖くて……」


そう、肩を震わせていた。テエテエは彼女の頬を伝う涙をそっと拭き取り、優しい声で、


「あなたは悪くないですよ」

「でも……わたしのせいでみんな不幸に……」

「そう思うのはまだ早いです。まだ、()()()()()()()

「終わって……ない?」


れいらは顔を上げる。テエテエは彼女と一緒に決闘の様子を眺める。


「れいら氏はこの戦いが嫌なんですね?」


れいらは深く頷いた。テエテエは彼女の肩を掴み、向き合う。


「なら大丈夫です。本当の気持ちを伝えて、この戦いを終わらせる()()()になりましょう」

「うん……難しい話はわかんないけど、わたしの気持ちを伝えればいいのかな?」

「難しいことは私たちが考えます。れいら氏は正直に思っていることを伝えてください」

「……分かった!」


 れいらは恐る恐る決闘の地に足を踏み入れる。そして少し深呼吸をした後、胸にいっぱいの勇気と空気を吸い込む。そして大きな声で叫んだ。


「喧嘩はもうやめてーーーーーーー!!!!!!」


しかし、その声は2人のもとに届くことはなかった。


「危ない!」


ジミーがそう叫んだその時、大地が揺れてれいらは体勢を崩してしまう。そして地面が裂けて大穴が開こうとする。彼女を助けようにも揺れが強すぎて動けなかった。しかし、


「掴まれ!」


トーブンが魔法で生み出した空飛ぶ絨毯に乗ったゲージュが手を伸ばす。れいらは必死になって彼を手を取る。そして急いで元に場所に戻った。


 森に戻り、草原の方を見ると、そこは跡形もなくなり、大穴が開いているだけだった。想像以上の展開に高らかに笑っているガクショウを除いて、観客全員、その光景にただただ唖然とするしかなかった。チユニはその場にへたり込み、トーブンは魔力の使いすぎで息を切らしていた。


「兄さんは、とんでもない人と戦っているのかもしれないね」

「ああ……こりゃ、死ぬかもな」

「なにが『お話したい』ですか……あなたも大概人のこと言えないじゃないですか!」


テエテエはれいらの決意があの馬鹿2人に届かなかったことに怒りを滲ませていた。一方で、れいらはどこか冷静にそれでいて熱い決意を滲ませながら戦場を眺める。


「れいら氏、すみません。私が迂闊でした」

「魔法って私も使えるの?」

「……え?」


テエテエのみならず他の全員が彼女の発言に戸惑いを隠さないでいると、


「ビレイちゃんも魔法使えるよね」


と、れいらは尋ねた。その問いにトーブンが息を切らせながら答える。


「多少は……得意ではないはずですが……」

「なら、使えるかもしれないよね」

「実際に使ってみないことには……前例がないので」


すると、チユニが足をガクつかせながら立ち上がり、表情だけは澄ました顔で、こう聞いてきた。


「君は……戦いを終わらせる救世主にでもなるつもりかい?」

「うん。救世主かどうかはわかんないけど、この喧嘩を終わらせたい」

「なるほど……魔法、それは想像力と解像度の高さから成り立つ。夢見る少女の想像力ならもしかしたら」

「できるの?」

「かもしれないね。それどころか君は救世主になれるかもしれない」


れいらはその言葉を聞いた瞬間、チユニの胸元に飛び込む。チユニは「ひゃ!」と可愛い声をあげてその場に倒れ込んでしまう。れいらはまっすぐキラキラとした瞳を向けてこう言った。


「教えて!私に魔法を!」

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