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意味ある決闘

 入学式終了後、ハーパーが絶賛闇堕ちしている一方で、1-Bは「本当にやりやがった……!」と騒然としていた。クラスメイトの、それも平民のマミーザがあろうことが次期国王に決闘を申し込んでしまったのは低級貴族が大半を占めるこのクラスには衝撃的な出来事であった。もはや、平民とはいえ、ここまで身の程を弁えていないと清々しい気分になるほどだった。それはそれとしてマミーザからは一定のソーシャルディスタンスを保っている。


 そんなことは気にも止めず、マミーザはチユニと宣戦布告がうまくいったことを祝してハイタッチする。


「イェーイ!」

「「イェーイ!」じゃないですって!お2人とも!これからどうするのですか!?」


急に水を差してきたテエテエに、マミーザはけろっとした表情で、


「勝つよ」


と宣うので、周囲は「マジか……」とさらに彼女から距離を置いた。テエテエは王族に喧嘩を売るのみならず、「この人は国家転覆でも狙っているのではないか?」と邪推し、頭を抱える。一方でチユニはマミーザの肩に手を置き、


「お世辞抜きに可能だろうね」


と、どこか自慢げに言った。


 チユニとテエテエは同じ寮の友人なのもあり、彼女の実力ならできてしまうことを知っていたのだ。ただでさえ身体能力が化け物なのに、魔法の範囲やその殺意は凄まじいものだったのだ。彼女が本気になれば死体すら残さず完膚なきまでに叩きのめすことが可能だった。それが分かっているからこそ、テエテエは彼女が本気を出してしまうことを恐れていた。


「まさか……本気でやるつもりですか?」

「ん?本気でやらない理由がどこにあるの?」

「次期国王殺すつもりですか?」

「うん」

「うーん不敬罪!革命でも起こすつもりですか!?」


マミーザは手を振って苦笑いしながら、


「そんなことしないよ。目的はれいらちゃんを取り戻すため」


と、あっけらかんと喋った。テエテエは「なぜそこまで?」と聞こうとしたが、どうせ「お姉ちゃんだから」と言う答えになっていない答えが返ってくると思ったのでグッと胸の中に押し留めた。チユニはそんなテエテエそっと手を置き、囁く。


「心を鎮めると幸せになれるようだね」

「私の幸せは尊みを摂取することだけです」

「チユニちゃん、今のどういう意味?」

「すまない。ボクにも理解不能だ」

「お2人も大概ですからね……」


この問題児2人が結託すると本当に面倒臭いということをテエテエは再認識した。


「冗談はこのくらいにして」


 マミーザが仕切り直すように真剣な面持ちになる。


「本気でいかないと負ける相手なので」


と、れいらが連れていかれた時のことを思い返しながら言った。あの時にマミーザは取り乱してたとはいえ完全にハーパーに出し抜かれていた。あの殺意も長年培ってきた固有の能力だと言うことも認識していた。単純な能力差のゴリ押しでは簡単にいかないということを彼女は理解していた。


「それでも勝つのは君だろう?」

「もちろん。お姉ちゃんは負けないから!」


チユニの分かって聞いたような問いに自信を持って答える。テエテエもそんな彼女を見て、呆れながらも、一応忠告する。


「言っても無駄だと思いますが、後でどうなっても知りませんよ。私も友人としてやれることはしますが」


マミーザはその言葉を聞き、テエテエに抱きついた。テエテエはマミーザの温もりに鼻血を出してしまう。


「ありがとうテエテエちゃん!大好き!」

「だっ、だいしゅき!?」


テエテエはマミーザに包まれる温もりよって昇天してしまう。そんなことは気にせずマミーザは冷たくなったテエテエを抱きしめ続けた。そんな様子を見ていたチユニはある存在に気がついた。


 チユニは教室の物陰から様子を伺っているトーブンを見つけた。


「糖尿病の民よ。主君から離れて何の用だい?」

「まだ予備軍です!」


と、思わず大声を出してしまい、全員から気づかれてしまう。仕方なく前に出てくる彼は、マミーザに礼をする。


「饅頭、もう食べ切ってしまうほど美味でした。ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ……え?あれ30個入り2箱でしたけど?」

「……1箱と半分いただきました」

「だから糖尿病なるんですよ!?」

「予備軍ですって!」


あまりの甘党にマミーザも軽く引いている。トーブンはそんな様子に恥ずかしさを覚えながら、わざとらしく咳をする。


「……そんなことはどうでもいいのです。僭越ながら、私からお願いがあってここに参りました」


先程までの情け無い様子から打って変わって、真剣な面持ちになる。その様子にマミーザたちの気も引き締まり、テエテエも自力で生き返る。


「今、ビレイ様はれいら様という少女になり、その人格は失われてしまいました。ハーパー様は完全に現実を受け止められておらず、完全閉じこもっている状態です……お願いします。ハーパー様とビレイ様を救ってください。」

「それは……できかねます」


トーブンはマミーザの発言を静かに受けた。そして、心の中で「彼女から見ればお2人の印象は最悪そのものなのだから仕方ない」と納得させようとした。しかし、幼い頃から仲良かった2人と遊んでいた彼にとってその事実は受け入れ難いものであった。


「そうですよね。出過ぎた真似を、失礼します」


そう言って静かに立ち去ろうとしたその時、テエテエがマミーザに


「さすがに、非情すぎませんか?」


と悲しい瞳を向けた。今朝の2人を見て、ハーパーの昔のビレイを追う姿に多少なりとも同情していたのだ。チユニはそんな彼女を宥める。


「冷静になってくれ、マミーザはビレイと因縁がある。それに加えてハーパーとの出会いも最悪だ」

「確かにマミーザ氏からの心象は最悪かもしれません。ただ、ハーパー様とビレイ様も頑張っていた……その結末がこんなのはあんまりですよ!」


その言葉を受けて、マミーザは少し考え、己の本心を話す。


「私の本心は「原因は私にあるから助けたい」という気持ちと「感情的に助けたくない」という気持ちの半々ってところ……でもそれ以上にれいらちゃんの気持ちを第一に考えてる」

「れいら氏の気持ち?」

「そう、あの子とお話したいの。私たちはあの子のことをそんなに知らないの。答えの先送りになっちゃうけど、あの子のことをあの子の気持ちを知った上で判断するべきだと思ってる」

「もし、彼女が嫌がったらどうするつもりですか?」

「その時は別の方法を探すよ」


その発言に?が浮かぶ。先ほどまでは「できかねる」と言っていたのにも関わらず、助ける方法を探していることが矛盾しているように見えたからだ。


「え、「できかねます」ってさっき」

「あ、それは「今すぐは難しい」って意味」


この場にいた全員が「紛らわし!」と思った。マミーザは周りの様子を見て、「ごめん、言い方悪かったね」と平謝りをして、トーブンを見つめる。


「だから、責任取ってみんな助けるつもりです」


トーブンはマミーザの発言に微かな希望を見出した。その希望は彼女に日が差したこともあり、輝いて見えた。


「そういう意味もあってまずはあの王子にれいらちゃんを認めさせないといけない。そのためにもこの決闘は勝たないといけないの」


そうマミーザは決闘の地へ歩み始めた。


「お姉ちゃん、頑張るからね」

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