説教や!アホども!
様々なことが終わり、ようやくマミーザたちは寮に帰った。しかし、この寮にも安寧はなかった。
「「「「「「乾杯ー!」」」」」」
マミーザたちが過ごすミカゲ寮では宴が繰り広げられていた。本来なら男子禁制なのだが、ハーパー、ゲージュ、ジミー、トーブンもここに揃っていた。
「はーい、みんなー。歓迎会なんだから、たくさん食べて」
そう、寮母のミカゲはドンドン大皿料理を運んでいく。その料理を各々がバイキング形式で小皿に取り寄せ、食べている。
「どう?口に合うかしら?」
ミカゲは目を輝かせてムシャムシャと美味しそうに食べているれいらに尋ねると、
「おいしー!」
と元気いっぱいに答えた。そんな光景を見ていたテエテエとチユニは調理場に向かって、
「良かったですね料理長」
「料理長、女神に認められたね」
「嬉しいなぁ、そんなに美味しいって言ってもらえるのは料理長冥利に尽きる……って、なんでやねん!あたしゃ寮長や!」
話に流されるまま調理場で料理をしていた寮長ナンデ・ツーコミがスポンジの焼き加減を確認しながらツッコむ。そして、料理を手伝っているミカゲにも注意を入れる。
「ちゅーか、ミカゲさん。勝手に寮に男入れたらあかんやないですか!しかも王族!」
こんなことが起こるなんて彼女にとっては寝耳に水だった。あまりにいきなりマミーザが「この人たちと夕飯食べます」と言い出して、王族を連れてきたので、もはや緊張を通り越して、マミーザに怒りを覚えていた。そんな怒りとは反対にミカゲはスポンジにクリームを塗りながら、
「マミーザちゃんから許可貰ったよ〜2時間前に」
「マミーザァ!もっと余裕持てって再三ゆーとるやろーが!」
そうツーコミが叫ぶが、当のマミーザは無言でハーパーと唐揚げの大食い対決をしており、届いていなかった。ツーコミは調理場を離れ、マミーザの耳を引っ張る。
「人の話を聞けぇ!」
「痛い痛い痛い!ツーコミさん、なんですか!?」
「「なんですか?」じゃないねん!事後報告やめろって言っとるよな!?今日も寝坊しかけたったし、決闘やらなんやら色々起こしたやろ!そしてその喧嘩相手とその身内呼んで宴?おかしいやろ!なんで脊髄反射で行動するん?」
「でもそれは、みんなと相談して「今後のこと話し合うならミカゲ寮が人少ないしちょうどいい」って結論になって」
「それで10分くらいで、ビレイの姫様の姿で美味そうに食べてるれいらちゃん……やっけ?その子をミカゲ寮に住まわせることになったと」
「はい。王宮だと派閥争いに巻き込まれるし、何しろこの男が……」
そうハーパーの方を見る。ハーパーは「なにか文句ある?」と言わんばかりの冷たい視線を送る。マミーザは苦い顔をしながら、
「れいらちゃんの教育上よろしくないと判断して」
「失礼だな君は!」
「みんなそれに同意してたでしょ!」
「ならしゃーないか」
「ちょっと!?」
ハーパーが何か言いたげな反応を見せるが、ツーコミはそれを無視して、「でもなぁ……」と腕組みをする。
「責任重いわ!国家機密に関わるのは寮長のあたしにゃ重過ぎる!別にええけど!あたしが背負えるのはせいぜい恋愛相談!」
「彼氏いないくせに……」
「やかましいわっ!」
マミーザが説教されている様をハーパーは鼻で笑っていた。すると、ツーコミの怒りが彼にも飛び火した。
「あんたもやからな!」
「え僕も?」
「当たり前やろ!王子も平民も関係あらへん!アホなことは誰がやってもアホなんや!」
「でも」
「「でも」もへったくれもあらへん!あの決闘でどんだけ周りに迷惑かけたんか分かっとんのか!」
ハーパーはひどく落ち込んだ。れいらの説教からやらかした自覚はあったし、ここまで一方的に怒られると何も言い返せなくなるのだ。そんな彼をマミーザは笑いながら煽った。
「やーい、怒られてるー」
「うるさい!元はと言えば君が」
「喧嘩すんなら両成敗や!そこに正座!」
「「……はい」」
2人はシオシオになり、正座してツーコミの説教を甘んじて受けた。
そんな2人の様子をテエテエ、チユニ、ゲージュ、ジミーは「あー怒られてるー」と笑いながら他人事のように眺めていた。
「あの人怖いね……」
「なんだかんだで優しいですよ。叱るのもある種の優しさと言えますし」
「でも第一王子にあそこまで怒鳴れるの才能だろ」
「彼女は鬼神そのものとも言えるね」
「鬼神か……あいつを描いたらいい絵が出来そうだな」
「世界で最も恐ろしい名画になるかもしれないね」
そんな風に雑談していると、自身の悪口を聞き分けてツーコミがチユニとゲージュを指差す。
「おい、そこの煽り野郎ども、あんたたちも正座」
「「え?」」
「当たり前やろ!さっさと来い!」
そう2人ツーコミに引きずられていった。そんな様子をテエテエとジミーは苦笑いしながら眺めていた。
「このケーキ甘いですね」
「甘いの嫌いかしら?」
「いえ、むしろ大好きです」
一方その頃、トーブンは調理場でケーキの味見をしていた。無論、彼も「饅頭ごときに釣られてんじゃねぇ!」と、説教に巻き込まれることになるのだが、そうなるとはつゆ知らず、彼は美味しそうケーキを頬張っていた。
取り残されたジミーとテエテエは困っていた。この2人だと会話がつながらないのだ。ただ黙って料理を食べるだけ、それが続けば続くほど、よりしんどさは増していく。あまりにしんどいので2人はれいらに無言で色んな料理を食べさせることで時間を潰していた。
「いつまで怒られてるのかな?」
「相当やらかしましたからね」
「だいぶ長引くと思うよ」
続いてもこの程度である。そんな状況を打破すべくジミーが話題を振る。
「あ、あのさ」
「は、はい」
「この寮の住人ってここにいる人で全員?」
「いえ、もう1人います」
「……どんな人?」
「というと?」
「いや、もしかするとその人かられいらちゃんの色んなこと流出しちゃうんじゃないかなって思っただけで……」
「あ、たぶん大丈夫だと思います。あの人、基本的に引きこもっているので……」
そうテエテエは微妙な顔をする。そんな表情にジミーは「余計なことを聞いたのかもしれない」と慌てて謝罪する。
「あ、ごめん。変なこと聞いちゃったね」
「あ、学園には行ってます。でも……」
「テエテエ殿〜この小説どこに返せばいいでござるか〜?」
と、ボサボサの髪とやっぼったい丸メガネをかけた女性が階段を駆け降りてくる。しかし、なぜか王族が寮長に説教されている状況に彼女は思考を停止する。テエテエは焦った様子で、彼女に駆け寄り、ペコペコと頭を下げながらジェスチャーを交えて小声で何かを話している。ひと通り話終わると女性は顔を真っ赤にして、
「し、失礼しました〜!」
と、階段を駆け上っていった。テエテエは頭を抱えながら、ジミーの元へ戻る。ジミーは見てはいけないものを見てしまった気分になる。
「あの人は?」
「ヒキ・コモリさん。私の一つ上の先輩です」
「なんか……ごめん」
テエテエとジミーは再び黙ってしまう。そのことなど気にも止めず、ツーコミは説教を、れいらは食事を続けていた。
ツーコミの説教はこのあと30分くらい続き、お腹いっぱいになったれいらが「もう大丈夫だと思うよ。みんなも反省したよね?」と言うまで続いた。その時の説教されていた5人はれいらに感謝の土下座を行った。そして全員でケーキを食べた。
「マミーザァ!ハーパーと張り合って早食い競争すんな!トーブンは食い過ぎだアホ!ジミーとテエテエはれいらちゃんケーキあげすぎ!ゲージュ!ケーキを青くすんな!食欲無くすわ!チユニは食い終わったからってリコーダーを吹くな!近所迷惑だろ!」
その時もツーコミがケーキ奉行を務めていた。
・・・
ケーキを食べ終わり、男たちは帰路に着く。星明かりが夜道を照らしている。
「みんな大丈夫?」
「大丈夫だと思うか?」
「まだ足が痺れてますね……」
「また負けた……」
「お前、マミーザに勝負挑むのやめとけよ」
「負けっぱなしは嫌なんだよ……って笑うな!」
「悪い悪い、あまりに男の子すぎて」
「うるさい!」
「好きな子にちょっかいかける男の子だったね」
「誰があんなやつ好きになるか!」
「確かに子供でしたね」
「舌がお子ちゃまな君には言われたくないね!」
男4人は、どうでもいい雑談をしながら、この日常のありがたさを痛感していた。王宮の門が近づいてくる。ここは我が家のはずなのに常に気を使わなければならない。貴族として、王族として、権力争いの中に身を置かなければならない。気が休まる時など一瞬もない。そんな中にれいらを置くくらいなら、拳を交えた彼女たちに任せた方がマシだった。
「さあ……行くか」
彼らは元の世界への一歩目を踏み出した。
・・・
れいらは後片付けをしていた。知らない世界に来ても彼女は自分ができることを探し、見つけ、行動してきた。元気な体を借りている今、「もっと頑張らないと」と、己を鼓舞してお皿を運ぶ。
後片付けが終わり、れいらはツーコミに呼び出された。テーブルを介して向き合う初対面の2人には独特の緊張感が流れていた。れいらはいきなり押しかけた身として彼女に怒られることを覚悟していた。一方でツーコミはそんなつもりなど毛頭なく、一寮長として彼女と会話したいだけであった。
「れいらちゃん……やっけ?」
「はい」
「6歳なんよな?」
「はい」
ツーコミは自分が6歳だった頃を思い返す。その頃は彼女みたいにしっかりしていなかった。どこかわがままで空気を読むなんて行為ができなかった。どこまでも自分中心で周りのことなど考えていなかった。そう考えると、どれだけ彼女がすごいか伝わってくる。
「……あんたすごいなぁ」
「そうかな」
「すごいよ。6歳なんてまだまだ子供。わがままで当たり前。それなのに知らない世界に来てもずっとみんなに気を配っている」
「だってみんな大変だから、わたしのせいで大変な思いをしてる。だから、わたしはみんなのためになることをしたいの。今までだってずっと……」
れいらは胸に両手を添える。
「わたしは、みんなのおかげで生きてこれたの」
そうれいらが自分に言い聞かせるように言っているのを見て、ツーコミは「立派やなぁ」と笑った。そして、れいらの頭を撫でて、優しい声で語りかける。
「でもな、ちょっとはわがまま言ってええよ。人間はわがまま言ってなんぼや!それにな、れいらはあたしらが全力で守るさかい、もっと自由に生きな」
「わがまま……」
「なーに、無理に考えなくてええ、わがままは勝手思いつくもんやからな!」
そうツーコミは高らかに笑った。それにつられてれいらも笑顔になった。
・・・
今夜はれいらの警護の都合でマミーザの部屋にテエテエとチユニも泊まることになった。チユニは夜空を見ながら微妙な絵を描いている。それを尻目にテエテエはマミーザに抱きつく。その様子にマミーザはタジタジになっている。
「馬鹿じゃないですか」
「いや、ごめんって」
「死んだらどうするんです?」
「死なないって私は」
「でも危なかったですよね」
「……」
「私、嫌ですからね、友人を無くすのは」
「……ごめん。2度としない。だから元気出して」
そう言ってマミーザはテエテエを抱きしめた。しかし、テエテエは元気になることはない。それを見かねたチユニは、
「そういえばれいらが助けた拍子にハーパー第一王子と唇を交わしたように見えたよ」
と爆弾発言をする。するとテエテエはみるみるうちに元気を取り戻し、目を輝かせた。
「なんですかそれ!詳しく!」
「いや違うの!あれは事故」
「事故チューってことですか!?」
「ねえ、チユニ!この子怖い!」
「ボクには手に負えないね」
「見捨てないで!?」
テエテエが興奮気味に詰め寄ってくることにタジタジにになっていると、れいらが入ってくる。
「なにしてるの?」
「あ、ほられいらちゃん!一緒に寝よう!」
「逃げないでください!ほら、れいら氏も恋バナしましょう。夜はまだ長いですよ……」
「ひいぃぃ……」
「なんか怖いよ……」
テエテエの勢いに2人が気押されている様をチユニは微妙な描いていた。
「夜を楽しみましょう……」
「「助けてーーーーーー!!!!!!!!」」




