面談記録:初回面談
書式:初回面談報告書
実施日:星歴1302年 土精の季 1月17日
時間:10:30~12:00
構成:紡ぎ手と詠星の対面面談
使用部屋:8時の塔 823面談室
詠星登録番号:E2060
──────────────────────
本面談の目的:詠星に対しアル・レイスの理を伝えること、紡ぎ手と詠星の概念と関係を伝えることを通して現状の理解を促す。また、現在詠星が把握している自身の情報をアセスメントし、詠星の理解に役立て、今後の支援方針に繋げる。他、当支援に対する秘密保持に関するインフォームドコンセントを行ない、集団守秘義務の形をとり紡ぎ手間で情報を共有することについて了解を得ることを目的とする。
入室時の様子:そわそわした様子で部屋を見渡す。席に座るよう促すと、奥の長ソファに座った。緊張があるのか、普段の眠そうな目ではない。体もソファにすべて預けるのではなく、しっかりと座っている。
──────────────────────
【以下、逐語録】
※紡ぎ手をW、詠星をSと表記する
(部屋に入室する)
S:ここは、何の部屋なんだい?
W:面談に使われる部屋だな。この部屋は防音などもされているから、話しにくいことも話しやすくなっている。ここでは、詠星の命題でもある、『自身に込められた言葉の意味』について、考えを深め、整理していくことになる。
S:意味?
W:あぁ。そのあたりも今一度説明した方がよいのかもしれないな。Sは、この前話したことは覚えているか? この、アル・レイスの世界について。
S:うーん……なんだったっけ?
W:まぁ、頭もショートしていたもんな……そしたら復習だ。改めて、この世界はアル・レイスという名前だ。時に、人は誰かに言葉を届けたくても、届けられないということがある。Sは……まだ誕生したばかりで、そういった経験もこれからしていくことになるだろうな。
S:そだねぇ。届けたくても届けられない、というのもわからないし。言いたいことがあるなら、言えばいいのにって思うよぉ。
W:そうだな。それができたらきっと理想なんだろう。ただ、悲しいことに世界には、誰かに伝えたい言葉があっても色々な理由な考えがあって伝えられないことがある。さて、問題だ。そうした伝えられなかった言葉はどこにいくと思う?
S:どこって、どこにも行かないんじゃないかい? だって、口にもしてないし。
W:Sの言う通り、と言いたいが、どうやら実情は違うようでな。言葉というのは、一度は誰かに届けようとされる。その時、一度とある世界を経由して伝えられるんだ。例えば誰かが誰かに『愛している』と伝えるとする。その時、一度とある世界を通ってからようやく『愛している』と伝えられることになる。そのとある世界というのがアル・レイスだ。
S:あー……もう頭がいっぱいになりそうだよぉ……どうしてわざわざこの世界を経由するんだい?
W:そこが残念なことにわかっていない。今話したことも、有力視されている仮説のひとつなんだ。ただ、この仮説に則らないと説明できないこともあってな、結果論的にこういった仮説が現在適用されている。
S:うーん……
W:話を続けようか。言葉というのは適切に届くものについてはただこの世界を通過するだけだ。何の問題もない。ただ、この世界を通過しきれないものもある。さて、Sに再度問題だ。なんだと思う?
S:ボクに頭を使わせるねぇ……んーと、誰かに届けたかった、でも、届けられなかった言葉、かい?
W:大正解だ。そういった言葉はこの世界を通過することができないこともままある。言葉に込めた重みに耐えきれず、この世界に墜落してしまうんだ。その墜落した言葉が形を持ったのが君たち、詠星だとされている。所謂、言葉の擬人化というやつだな。
S:擬人化……そんな言葉、きいたような気がするねぇ。
W:お、思い出してくれたか。その調子で詠星の特徴についても思い出せるか?
S:えっと……そうだ、詠星は、自分の名前以外の記憶がないんだっけ。
W:その通りだ。そして、これが最大の問題となっている。
S:(首を傾げる)
W:あの時は言わなかったが、詠星にはもうひとつ、大きな特徴があるんだ。そして、それが最初に話した言葉の意味にも関係しているんだ。
S:それってなんなんだい?
W:その特徴というのが、『詠星は意識的・無意識的に自身を構成する言葉を、届けるべき相手に届けようとする』というものだ。
S:(口を閉じて何かを考えるように俯く)
W:……ここまできいて、何か感じたことなどはあるか?
S:どう、なんだろう。わからない、よくわからないけど、なんだかモヤモヤするねぇ。
W:その感覚は大事だ。恐らくそれは、詠星自身が抱えている言葉を誰に伝えれば良いのかわからないが為に生じている感覚だ。とある詠星はこう話していた。『早く誰かに何かを伝えたい、なのに誰に何を伝えたいのかがわからない』と。
S:それ、なんだかしっくりくるかも。
W:それは良かった。今の感覚を言葉で表現できるだけでも、気持ちは少し和らぐかもしれない。ただ、いくら言葉で表現できたとしても、根本を解決したいというのは詠星すべての欲求とされている。そのために詠星は活動を始めていくことになるんだが、大きな問題点がひとつあるんだ。
S:問題点って?
W:というのも、恐らく詠星単独ではなしえることはできないということだ。基本的に、詠星単独で自身の名前にこめられた言葉の意味を思い出すことはできず、また、誰にその言葉を届ければよいのかという理解に至ることはできないとされている。
S:そーなのかい? 確かに思い出すのは難しいかもしれないけど、時間をかければ自然に思い出すこともできそうだけどねぇ。
W:そうだな。それは俺を含めすべての紡ぎ手や詠星が潜在的に感じている期待だ。だが、どうやらそううまくはいかないようなんだ。
S:それは、どうしてだい?
W:ひとつは、詠星を生み出す存在、即ち想い人からの阻害があげられる。もともと、詠星がこの世界に墜ちるのはどうしてだった?
S:えっと、誰かが誰かに届けたかった言葉を届けることができなくて?
W:その通り。想い主にとっては、詠星の元となった言葉というのは抑圧され、諦めの中に沈み、仕方のないことだと妥協され、認められないと現実を否認したりする。この心に仕舞いに仕舞った言葉を届けられるとは思ってないし、届けたいと思う裏腹に届けたくないという葛藤も混じってしまっている。だからこそ、この世界に墜ちた詠星が届けたい誰かにその言葉や思いを届けてしまわないよう、名前以外の一切の記憶を失わせているという仮説もあるわけだが、それと同じで、詠星は単独で自身の言葉の意味について考えようとすると、不快感や不安、恐怖、苦痛を強く感じやすい。想い人の感情が投影されてしまっているわけだ。思い出してしまうと、届いてしまうから。届けたい思いではある。だが、届けられない理由があるからこの世界に墜ちてくる。そして届いてしまわないように詠星を阻害する。それでも詠星として言葉が形を持つあたり、本当はその言葉を届けたいのだという気持ちが伝わってくるな。
S:……そのあたりはボク、難しくてわかんないや。でも、じゃあ、どうやってボクたちは自分の名前の意味を思い出したり、その、誰かに言葉を届けるんだい?
W:良いところを質問してくれたな。そこで俺たち、紡ぎ手と呼ばれる存在が登場することになる。詠星に込められた言葉を只紡ぐ者、というのが語源なんだが、その名の通り紡ぎ手は詠星に対して、『適切な過程を通して自身の名前が持つ言葉を意味を考察し、みつめ、知覚し、思い出し、届けるべき相手に届けられるよう支援する』ことを役割としている。
S:……ふぅん? どうやってそんなことをするんだい?
W:ある程度の技法や基本は確かに存在しているが、正直なところケースバイケースという言葉につきるな。ただ、紡ぎ手が介入することで詠星が適切に自身に込められた言葉の意味に気づく確率が上がっているのは確かだ。
S:そーなんだねぇ。そーいえば、さっきから、適切って言葉が使われているけど、何だか適切じゃない気づきもあるみたいじゃないかい。
W:鋭いな。ただ……それは、話すと長くなる。また別の機会にしよう。というわけで、これが紡ぎ手と詠星の関係になる。
S:うーん。なんとなくわかったような……情報が多くてパンクしそうだよぉ。でも、よくわからないっていうのはひとつあるんだけど。どうして紡ぎ手というのは詠星にそんなことをしてくれるんだい?
W:慈善の気持ち、と言うと中々夢物語になってしまうな。勿論理由はある。いくつかあるが、大きな理由のひとつとしては、詠星の持つ技術や知識、概念などの恩恵が期待できるからだ。
S:そーなのかい?
W:そうなのだとも。前にも話したように、詠星というのは様々な世界の想い主によって誕生する。その中にはこの世界より進んだ文明の知識や技術を持つ詠星もいれば、考えもつかないような概念を常識のひとつとして備えている詠星もいる。また、詠星が持っている顕能もこの世界には本来ないものだな。
S:顕能。ボクが使った不思議な力のこと、だったかい?
W:ああ。さっきからかもしれない論調で話すのが申し訳なくなるが、顕能は想い主の言葉の抽象的な表現方法としてとらえられている。例えば、『不屈』という言葉の意味を持った詠星がいるが、その詠星の顕能はどのような傷がつこうと瞬時に回復する超回復の能力だ。不屈という意味を抽象的に傷の回復として表現した、というものだな。
S:じゃあ、ボクの顕能も何かの言葉の表現ってことかい?
W:その可能性が高い。俺としては睡眠系の言葉の意味があるのではと踏んでいるんだが、いかんせん情報も少なくてな。そのあたりについては今後ゆっくり一緒に考えていければと思っている。そんなわけで、この世界には本来ない顕能もこの世界の文明の発展には重要な要素だ。俺たちはそういったものを教えてもらったり研究させてもらうことでこの世界の文明はより発達し、豊かになることができている。詠星は自身の言葉の意味がわかる、紡ぎ手、というかこの世界の人間は詠星を助けることで得ができる、とWinWinな関係を構築しているわけだ。
S:なんだろうね、すごく俗っぽくて変な感じ。こういうのって無私の施しみたいなものだと思ってたよぉ。
W:そのような関係の方がよいのでは、という意見もあるな。試験的にそういった形式で支援したこともあったが、結構問題もあったらしい。色々問題はあったが、結局赤裸々に言った方がお互い気苦労が少ないという結果に落ち着いたみたいだ。
S:そだねぇ、ボクもそう思うよぉ。だって、そんなに無欲だったら、なんだか怖くなりそうだし。
W:確かにそうかもしれないな。Sにも今の紡ぎ手と詠星の関係に理解を示してもらえて何よりだ。さて、今までの話をSに当てはめると、Sにも担当として紡ぎ手が介入することになる。基本的には詠星の保護者が担当になる、つまり俺だな。ただ、相性が合わない、何かしら担当となることに問題を感じているなどがある場合は別の紡ぎ手が担当することもできる。ということで、この時点で何か思うことがあるようならきいておきたい。勿論どのような気持ちであっても尊重する。
S:うーん……その前に、ボクは、絶対に紡ぎ手の支援を受けなくちゃいけないのかい?
W:そこについては……正直強制するものが何もないというのが事実だ。嫌だとはっきり言われればそこまでだし、何がなんでも自分でやっていくというのであれば送り出す以外のことしかできない。
S:そーなんだ。そしたら、嫌だって言う人もいっぱいいるんじゃないかい? ボクだって、色々と面倒な気がするし、未来のこととか何も考えないで過ごしたいし。
W:そういった意見は確かにある。俺も了解できる。ただ……支援を受けないということは、ほぼ裸で旅にでるのと同じになるんだ。
S:じゃあ、支援を受けない、と言ったら、さよなら~、ってことかい?
W:言い方に棘を感じるが、極端に言えばそうなるな。しかし、流石にそのまま放り出してもアル・レイスの社会もわからないままでは何もやっていけない。しばらくは管轄する施設で衣食住は整え、アル・レイスの社会と生き方を教えたうえで送り出すことになる。
S:そっかぁ。なんだか安心したよぉ。紡ぎ手って、外には冷たいのかぁって思ったから。
W:まぁ、これもやむを得ない事情もあってな。昔、たとえどんな選択をとった詠星であっても、等しく手を差し伸べるべきではないかという話があって、支援を拒否した詠星に対しても、求められれば衣食住の世話をすることがあった。ただ、そうした結果、都合の悪い時だけ頼り、少し持ち直したらまた好きに動く、ということを繰り返す詠星が増えてきてな。結局支援を拒否した詠星に手を伸ばしても一向に自身の名前が持つ言葉を思い出すことはできなかったし、むしろ悪化することが確認されてしまったために、今のような体制になったんだ。
S:あー……そだねぇ、確かにボクも好きなだけ寝て、ご飯がほしくなったら頼ればいいかな、って思っちゃってたよぉ。
W:そうなってしまうと詠星は助けてもらって当然、という考えになり、主体的に活動することをやめてしまうんだ。ついでに言ってしまえば……ああ、いや、これはやめておこう。というわけで、俺たちが支援に入ることについての決定権は詠星に託されている。どうしたいかは自分の胸に問いかけてみてくれ。
S:(20秒ほど沈黙し、俯く)……ううん、だいじょぶだよぉ。ボク、受けるよ。それに紡ぎ手なら、安心かな。さっきの女の人とかだったら、嫌だったかも……
W:あー、うん、そりゃあそうだよな。あいつもいつもはそんなでもないんだが……まぁ、俺で大丈夫であるなら良かった。それに支援を受けてもらえたのもな。これからどれくらいのかかわりになるかは未知数だが、よろしく頼む。
S:うん、よろしく~。
W:っと、そうだ、これも了解してもらう必要があったな。
S:なんだい?
W:これから先、俺はSが自身の言葉の意味を思い出せるように支援していくことになるんだが、それに際してやりとりや面談の記録をとって、それを基に考察や見立ての材料としたいと思っている。そういったわけでここで話したことについても記録をとらせてもらいたいんだ。
S:それは……誰かにみせるのかい?
W:当然の疑問だな。これらの記録については、原則星見手という、上司みたいな相手に提出が必要となる。また、今後の方針としては大まかな部分は星見手が指示するが、細かい部分は紡ぎ手が担当することになる。その時々の方針の検討する時に俺一人で考えると、主観が混じってSを無意識に誘導しようとしてしまうかもしれない。それを防ぐためにも他の紡ぎ手に共有して意見をもらうことはあるのではないかと考えている。勿論、むやみやたらに吹聴することはないから、そこは安心してほしい。
S:うん……うん、多分だいじょぶだと思うよぉ。もしかしたら、途中で違うこというかもしれないけど。
W:あぁ。自身のことを理解していくうちに誰にも共有したくないものもでてくるだろうし、俺ならともかく他には知らせたくないということもあるかもしれない。その時は言ってほしい。今後どうしていくか相談しよう。
S:はーい。
W:よし。これでようやく最初の段階は終わったというわけだが。
S:えぇ……これで最初なのかい? ボク、もう頭使いすぎてくたくただよぉ。この後は何も考えないでごろごろしよーよぉ。
W:なに、好きな態勢になってもらって構わない。自然体の姿がみられるのが一番だ。それに、ここからはこちらから説明することはなくてな、むしろSについて色々と教えてもらいたいと思っているんだ。
S:(ソファで横になる)ボクのことかい? でも、ボク、名前以外何もわからないよ?
W:それでもいい。今のSが自身についてどれくらい把握しているかが知りたいんだからな。答えられる範囲で答えてもらえれば大丈夫だ。こちらからは決して無理強いすることはない。
S:そこは心配してないけど……例えばどんなことを言えばいいんだい?
W:ありがとう。なら早速。そうだな……Sは好きな食べ物はあるか?
S:食べ物? 突然だね。うーん……よくわかんないや。でも、さっき食堂で食べたのは、普通だったかな。
W:まずいわけではないのは良かった。食べ物についても今後色々と食べることで好みがみつかってくるといいな。と、こんな感じでSのことを教えてもらおうと思っている。
S:うん、これくらいならいいけど……好きな食べ物とか、きいて何か意味はあるのかい?
W:案外、どうでもいいような情報が解決の鍵になることもしばしばでな。Sの理解を深めるにも役立つ。Sのことをひとつまた知れたのは嬉しく思っているよ。
S:えへへ……そう言われると照れるなぁ。
W:理解といえば推測できるものもあるな。Sは好きなことというのはあるか?
S:紡ぎ手の考えてるのと同じだと思うよ?
W:改めて、だな。よかったらSの口から直接ききたい。
S:いいけど、ボクは眠るのが好きだと思うなぁ。
W:俺の考えと同じで良かった。ちなみに、眠るのはどうして好きなんだ?
S:んーと、どうして……眠ると気持ち良いんだよね。安心する? みたいな感じで。
W:安心できるというのは大切だな。逆に、起きている時は安心できない感覚はあったりするのか?
S:ううん、不安とかはないよぉ。でも、起きてると疲れるんだよねぇ。できれば何も考えたくないや。
W:ドクターからの健康診断の結果にもあったが、脳の構造的に疲れをため込みやすいのかもしれないな。考え事という点では、こうして起きている時は常に頭で考え事をしている、とかはあるのか?
S:それもないかなぁ。頭使うと疲れるし、言われてから考える事の方が多いかも。
W:ある意味では負担のかからない対処法なのかもしれないな。そんな答えをきいた後で質問するのもどうかと思うが、今は何か頭の片隅でも考えていることや悩み、不安みたいなのは何かあるか?
S:どーなんだろ。何もわからないっていうのは不安かもしれないし、ボクはこれからどうなっていくのかもわからないし。うーん、考えてもよくわからないから、考えるくらいなら寝てるかなぁ。
W:わからないというのは最もな気持ちだな。それを寝ることで対処するというのはなんと答えるべきなのか言葉がみつからないが……なんだか、Sらしいと感じるな。
S:ふふーん。
W:そこでどや顔になるのか……まぁ、心地よく感じてくれたなら何よりだ。他にもきいておきたいというのはあってな――
(中略)
W:っと、今日はそろそろ時間にしたほうがよさそうだな。
S:疲れたぁ。ボク、こんなに話したの初めてだよぉ。
W:ありがとうな。俺もSがここまで話してくれたのは驚いた。よく眠らずにいてくれたな。
S:まぁねー。ボクだってちゃらんぽらんってわけじゃないしぃ、こういう時はシャキッとするさぁ。
W:その切り替えは是非大事にしてくれ。今後もたまにこうして部屋を借りて話すことができたらと思ってるからな。
S:うへぇ……余計なこといっちゃったなぁ。
W:そう悪いことばかりでもないさ。さ、今日はお疲れ様。この後は好きに過ごしてくれ。寮で休んでもいいし、エンプティ・タワー内を探検するのも楽しいかもしれないな。
S:うーん、気になる感じもあるけど、先に寝たいかなぁ。探検とかは、またあとにするよ。
W:そうだな。よし、じゃあ部屋をでるか。
S:(ソファで横になっていたSが無言で、徐に手をWに伸ばす)
W:S?
S:おんぶ。
W:それは……そろそろどうにかならないか?
S:無理だねぇ。眠くて、体が動かないんだもの。
W:それなら、Sの場合は仕方のないところもあるかもしれないが……(WがSの近くで背を向けてしゃがむと、Sは背中をよじ登り首に腕を回した)
W:今更だが、男である俺におんぶしてもらうのは嫌じゃないのか?
S:んー……誰でもいいってわけじゃあないかなぁ。紡ぎ手はだいじょぶだよぉ。
W:どのような考えでそのように思ったのかは気になるところだが、それはまた今度だな。じゃあ、一旦寮に向かうぞ。
S:はーい。
終