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詠星の紡ぎ手  作者: 雨草 綴
序章 詠星の保護▶支援の開始
25/27

自己紹介と合同活動

 合同での浄化活動日。

 アルクはいつも通りの姿で集合場所に到着した。隣にはトゥルーも同伴している。

 集合場所には既に全員が揃っていた。その中の内、フェイが一足先に気づき、アルクに手を振る。

 アルクは手を振り返しながら合流する。


「すまない、遅くなったな」

「そうだそうだー、女の子を待たせるのはいけないんだぞー」

「い、いえ、時間はぴったり5分前ですので」


 これみよがしにからかおうとするフェイの一方でエリシアは慌てたようにアルクを擁護する。

 そしてアルクへと振り返り―—目が点となる。

 フレミシッテもまたアルクをみる。アルクもまた、フレミシッテの姿を見るのはこれが初めてとなる。

 燃えるような赤髪がくせっ毛でありつつも腰まで伸びている。その目は意志の強さを感じさせ、値踏みするようにアルクを見つめていた。


「……あなたが、スゥファリィの紡ぎ手ね。初めまして。あたしはフレミシッテ」

「初めまして、フレミシッテ。既に知っていると思うが、スゥファリィの担当をしている、アルクだ。よろしく」

「既に知ってるのはあなたもでしょ? 私の紡ぎ手の指導もしてるってきいてるし」

「あまりかかわれてはないがな。中々こちらもスゥファリィの支援があるもので、顔を出せなかったのはすまないと思っている」

「別に謝ることじゃないわ。あたしだって、あたしを優先してスゥファリィの支援をないがしろにしてもほしくないし。だけど、あー……」


 そこで、フレミシッテは口を閉ざす。


「もうきいてもいいかしら?」

「ん? 何をだ?」


 質問の意図が分からずアルクが尋ね返すと、フレミシッテ意味ありげな視線をアルクと、アルクの顔の隣に向けた。


「なんで、スゥファリィを負ぶってるの?」


 アルクはいつもの姿だった。スゥファリィを背負った、浄化活動での基本装備である。アルクにとってはもう慣れたものだが、フレミシッテにはあまりに異様な姿に見えたのかもしれない。

 エリシアもまた同じ気持ちであるのか、フレミシッテの言葉に頷く。


「わ、私も気になるというか……」

「それはですね、紡ぎ手さんが変態だからなのですよ」


 突然横合いからトゥルーが誤解しか生まない発言をする。


「変態? っていうか、あなた、誰?」

「初めましてなのです。トゥルーはトゥルーなのですよ。紡ぎ手さんの支援を受けていた詠星のひとりなのです」

「あ、そうだったの。よろしく。……それで、変態って?」

「よくぞ聞いてくれたのです。何を隠そう、紡ぎ手さんは小さい女の子が好きなのですよ。トゥルーを見ての通り、こうして小さい子を侍らせて――」

「君が聞かせたんだろうが!」


 意気揚々と嘘を語ろうとするトゥルーの頭にアルクは拳骨を落とす。

「いった!?」と頭を抑えるトゥルーを後目にアルクは盛大にため息をつく。


「冗談、冗談なのですよ! なのに、拳骨なんて暴力的なのですよ。紡ぎ手さんってそんなにすぐ手が出る人だったのです?」

「最近の君はやけに言動が軽いんだわ……」


 第一、こういう時に限って自分の体型の小ささを取りざたするのは卑怯だろうとアルクは思う。

 なまじ、客観的事実として幼女に見紛うごとき少女たちを侍らせているように見えるのは事実なもので。フレミシッテの視線が懐疑的なものへと変わる。


「……ねぇ、スゥファリィ。本当にこの紡ぎ手で大丈夫? あたし、心配になってきたんだけど」

「だいじょぶさぁ。別に紡ぎ手の趣味ってわけじゃないよぉ」

「じゃあ、なんであなたはおぶられてるの?」

「これは、ボクの特性というか、ボク、長時間の移動はできないんだぁ。だからいつもは紡ぎ手に背負ってもらってるのさぁ。そうしないと浄化活動の前に疲れちゃうからねぇ」

「えぇ……」


 フレミシッテが複雑な顔でスゥファリィと、そしてアルクをみる。


「まぁ、言いたいことは分かる。ただ、実際スゥファリィの体は、というか体力については、恐らくすべての詠星の中でもトップクラスに低い。一応日々改善のためにできることは増やしているんだが……この状態から卒業するには、まだまだ時間がかかりそうだな」

「ボクはずっとこのままでもいいんだけどねぇ」


 ぎゅっと、スゥファリィが首にまわす腕の力を強める。

 それをみて、フレミシッテはますますなんといってよいのかわからない顔をしていた。


「そういうもの、なのかしら……」

「年頃の女の子にはそのあたり敏感になっちゃうよねー」


 とは、フェイの言葉だ。


「でも、大丈夫! こいつ、ちゃんと紡ぎ手としての腕前はピカいちだから! 今日は合同で浄化活動をするけど、スゥファリィとアルクのやりとりから何か気づけることもあるかもしれないねー」

「こんなとは失礼だな」


 しかし、アルクの文句は華麗にスルーされた。


「はい! じゃあここでしゃべっていたら日が暮れそうだし、歩きながら行きましょー!」


 そんなフェイの号令に従って、一行は森の中へと歩き始めた。


 ・

 ・


 東の森、B2地区。

 ここは比較的詠星が落ちやすい地区であるためか、墜星時の衝撃で広場のようになっている場所が多い。

 フレミシッテの顕能を考え、戦闘の拠点はその広場のうちの一つを使うこととした。


「フ、フレミシッテ、体調はどう?」

「大丈夫よ、いつも通り」


 準備体操をしながら、エリシアとフレミシッテがやりとりしている。

 仲はそれほど悪いようではないようだ。


「スゥファリィもトゥルーもいいか?」


 スゥファリィは相も変わらず気の抜けた顔で「だいじょぶだよぉ」と、トゥルーは「はいなのですよ!」と元気に言葉を返す。

「さて」とアルクはエリシアたちをみた。


「いつもどうやって屑想をみつけているんだ?」

「き、基本的にはフレミシッテに少し顕能をだしてもらって、おびき寄せてます」


 ちらりとエリシアがフレミシッテをみると、彼女は「こんな感じ」と手を見せる。火の玉が生成されているわけではなく、彼女自身の手が燃えていた。しかし、彼女は苦しそうではない。

 煌々とした赤色だ。


「なるほど。が、折角の合同活動であるし、今回はこっちで引き受けよう。といっても、トゥルーに頼むことになってしまうんだが」

「良いのですよ! 先輩として手助けは惜しまぬ所存なのです!」


 と、即座にトゥルーは森の中へと掛けていく。

「少なくていいからな!」と声を張り上げる頃にはトゥルーの姿は見えなくなっていた。


「わお。トゥルー、やっぱり速いねぇ」

「速すぎて声が届いたかが怪しいがな……」


 そのまましばらく待つとガサガサと音を立ててトゥルーが姿を現した。

 そしてその後ろに屑想が一体。尋常な数にアルクはほっと息をつく。そして、その後ろから更に何体もの屑想が現れるのを見て咳き込む。


「大漁なのですよ!」

「少なくていいって言ったよな!?」


 瞬時に全員が戦闘態勢をとる。

 アルクの元まで全速力で戻ったトゥルーはそのまま反転。手に持った光の槍を屑想の足下に投擲する。それによって屑想の動きが数瞬鈍った。トゥルーが言っていたように手伝いをメインには考えてくれているらしい。


「フ、フレミシッテ、お願い!」

「いいわ、これくらいいた方があたしにはちょうど良いくらいよ!」


 フレミシッテが両手をかざすと、顕能の高まりを感じる。それに伴い周辺の気温が上昇していくのを感じる。


「悶えなさい!」


 フレミシッテが叫ぶのと同時に、あたりを炎が舐めまわす。空気が気化し、爆発することで更に炎が勢いを増す。

 なるほど、これは爆発的な顕能だ。

 直撃を受けた屑想のうち、数体はその身を焼かれ倒れていく。しかし、運良く炎が当たらなかった屑想が突っ込んできた。


「スゥファリィ」

「わかってるさぁ」


 スゥファリィが手をかざせば、屑想はかくかくと動きを弱め、ついには片膝を着く。その横にはいつの間にはトゥルーがおり、屑想の首を無造作に跳ねる。そのまま振りの体勢に入ったトゥルーは遠くの屑想に向けて光の槍を投擲する。回避しようとした屑想だったが、不自然に遅いからだの動きに避けきれず、その体を槍が穿つ。


「おかわりがくるのですよ!」


 終わったと言わせる間もなく、トゥルーが声高らかに言う。

 見れば奥からさらに数体、屑想がかけてきた。


「この!」


 フレミシッテが炎を操る。蛇のようにとぐろを巻きつつ、炎が屑想を覆う。しかし、拡散性はあるものの、密度はそう高くないのだろう。屑想の走る速度もあって大した怪我もなく屑想は抜け出す。

「あ」とフレミシッテが目の前の脅威に声を漏らし――その前に数体の屑想が胴に穴を開け、一体は完全に脱力してその場に崩れ落ちる。


「これで全部だな?」


 アルクが確認を行えば「はいなのですよ!」とトゥルーの声が返ってくる。


「スゥファリィもよく調整したな」

「えへへ、まぁねぇ」


 アルクが褒めると、スゥファリィは嬉しそうに声を明るくした。


「それと、フレミシッテ」


 ぴくりとフレミシッテの肩が震える。


「な、なに」

「驚いた。まだ2週間だというのにかなり調整できてるじゃないか」

「……え?」


 怒られるとでも思ったのだろうか、フレミシッテは目を瞬かせていた。


「ん? 何故にそんな顔をするんだ?」

「だ、だって、私、あんなに敵を逃したし……」


 それに対し、アルクはかかっ、と笑って見せた。


「別に顕能というのは屑想を倒すためにある訳じゃない。肝心なのは如何に顕能を扱えているかだ。屑想の浄化はたまたま顕能の訓練に効果的だから導入されているに過ぎない。だから、もう一度言わせてもらうが、よく、2週間のうちにそれだけ制御して見せたな」


 そう言うと、フレミシッテは何と返せば良いか分からない顔でもにょもにょと俯いた。

「異論はあるか?」と周りを見れば、フェイは「ありませーん」と腕でバツをつくり、エリシアはブンブンと首を振る。


「しかし、驚いた。かなりの拡散性があるな。しかも、森に延焼していない。細かな所まで制御が届いている証拠だ」

「それはフレミシッテがそれはもう頑張ってくれました!」


「ねー!」とフェイがエリシアをみれば、彼女は口を綻ばせて「そうですね」という。


「フ、フレミシッテは、この最近はずっと顕能を磨いていたんです。心の内は努力の仕方もわからないけど、顕能は努力の仕方もわかるから、って」

「努力家なんだな」


 アルクはもう一度あたりを見渡す。

 ちりちりと空気が焼ける匂いはするが、どこも燃えている様子はない。屑想はすでに虹色の塵となって消えているが、一度焼いたものへの持続性は中々あるのかもしれない。


「とはいえ、顕能の影響が相手にでる前に抜けられてしまうと振り切られてしまうというのはあるのか」

「そうよ。本当はもっと密度を強くしたいんだけど、なんでかうまくいかなくて……」


 フレミシッテが悔しそうにいう。


「い、一応、これからはその密度のコントロールをしてみようか、という話もしていたんです」

「そうだったのか。確かに、密度のコントロールができれば色んなことに応用できそうだな」


 ただ、そう言うアルクは「ふむ」と顎をさする。


「ちなみに、あそこにまだ形を保った屑想がいるわけだが」


 と、スゥファリィの顕能によって脱力して倒れている屑想を指さす。


「あの屑想を取り囲むように炎の竜巻をだすことはできるか?」


 問われたフレミシッテは「えっ」と声をあげた後、悩むように唸る。


「……やってみる」


 そうして手をかざす。拡散する炎が初めは揺らぐものの徐々に形を持ち始め、やがて屑想ごと炎の竜巻で包み込み始めた。

 少しして顕能が解除されれば、屑想はすでに虹の塵と化して消えていた。


「うん、密度をあげる他にも影響力を高めることでも似たような効果を得られるかもしれないな。竜巻状にしたことで、顕能の影響をうける回数が劇的に増えた。こういった形もひとつのやり方と思うが、フレミシッテとしてはどう思う?」

「……そう、ね。正直、こっちの方がぴんときたというか、しっくりきたわ」


 しかし、フレミシッテは複雑な顔でアルクをみる。


「でも、なんでわかったの?」

「別にわかってないさ。もしかしたらという提案をしてみただけだ。それが少しでも何かの気づきになればと思ったんだが、フレミシッテはしっかりと形にしてくれた上、感覚も掴んでくれた。素晴らしい感性だ」


 アルクが思ったことをそのまま口にすると、フレミシッテは何かに悶えるように身をよじった。

 そして、エリシアとフェイへと目を向ける。


「こ、この人の言葉、なんかむずむずする!」

「ははーん? フレミシッテ、さては照れてるな~」


 茶化すようにフェイがにやにやと言うと、フレミシッテは赤い顔で「そんなことないわよ!」と叫ぶ。

 そうしてやいのやいの言い始める二人。

 その間にエリシアがアルクのもとへと近づいた。


「や、やっぱり褒めるのお上手なんですね」

「思ったことを口にしているだけなんだがな。ただ、紡ぎ手としてやっていくには、こういった言葉かけはできるようになっておくのが望ましいだろうな」


 最も良くないのはその人の言動に対して何もコメントができないこと、次点で素っ頓狂なコメントをしてしまうこと。それを避けるためには細かなことに良点を見出し指摘することだ。

 アルクとしては紡ぎ手の初歩をしただけに過ぎないと息をつく。


「さて、あれやこれやと話していたがまだ浄化活動は始まったばかりだ気を引き締めていこう」

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