表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
詠星の紡ぎ手  作者: 時鳴り
2章 紅蓮の縋る先
PR
13/31

捜索と行方不明

 朝からぶっ続けで始まった捜索は昼になっても終わりを見せなかった。途中からは本格的な捜索チームも編成されて合流したのだが、詠星は発見できず。それどころか足跡ひとつも無ければ変異した屑想の姿もない。

 この時点でいくつかの仮説が立てられた。

 一つ目は、詠星はそもそも墜ちていないというもの。しかしこれについてはすぐに取り下げられた。というのも、その仮説の通りだとすると、じゃあ何が落ちたのかという話になってしまうためである。隕石だったのではないかと言う者もいたが、クレーターもなければ隕石の破片も見つからない。ただの光の玉が落ちる訳でもないし、あの時空気中に漂っていたのは間違いなく詠星の気配だった。複数人が目視していることからも幻覚の線は薄いだろう。

 二つ目は、屑想に取り込まれてしまったというもの。ただ、これについても否定的な意見が多い。もし詠星が屑想に取り込まれたと言うなら屑想の足跡がなくてはいけない。しかしないのだ。加えて力を得た屑想は更なる力を求めてより攻撃的になると言われている。ただ、これだけ多くの詠星と紡ぎ手がいるにも関わらず屑想は気配すら見せていない。逃げたのではないかという意見もあったが事実はともかく現状把握している限りでは、屑想に自我はなく、また本能も破壊衝動しか持ち合わせていない。そういった点もあり、こちらも取り下げられた。

 三つ目は、詠星は誕生時点で即座にその場を離れたというもの。足跡も何も無い点は空を飛ぶ顕能を持っていたのではないかと考えられた。それならその場に居ないことの説明はつくが、代わりに活動範囲の問題が出てくる。

 通常誕生してすぐの詠星はその顕能を十分に発揮することは出来ない。無論生まれた傍から自在に顕能を操る詠星もいなくはなかったがレアケースだ。可能性のひとつとしては考えられるが断定はできない。翼を持った詠星であり、生物的機能を用いてその場を移動したのではないかという意見もあったが、誕生したての詠星は体調も万全とは言えない。移動するにしても詠星と紡ぎ手が全力で探して手がかりゼロというのは異常だし、そこまで遠くに移動できる体力はないはずだ。

 そのため、次の仮説が現在のところ最も有力視されている。

 即ち。


「詠星が誘拐されたというものだ」


 カン、とペンが置かれる音が響く。

 中央塔4階にある会議室。そこに詠星、紡ぎ手が20名程、ロの時で机を囲んでいた。全員が詠星捜索で力を奮ったもの達だ。

 前方のホワイトボードにはこれまでの仮説が書かれては罫線をひかれている。

 ホワイトボードの前に立つのは渋い顔つきの小男。といっても猫背であるためにそう見えているのだろう。やけに似合うベレー帽を被ったその男はうっすらと生える髭を撫でながら机を囲む参加者を見る。


「現状この可能性がイラつくが一番高ぇ」

「そうは言いますが、一体何を目的に?」


 ひとりの紡ぎ手の女が手を挙げる。


「色々ある。イラつく話だが、詠星っていうのは便利だ。たとえそれがどんなやつだったとしても、顕能は何かの役に立つ。つまり売ったら金になる」

「奴隷、として?」

「どうだろうな。だが、小国じゃあ戦争も珍しくねぇし、貴族サマが趣味で囲いたいって線もある」


 そこに別の男の紡ぎ手の声があがる。


「いやいや、目的を考え始めたらキリがない。その前に本当に誘拐されたのかを検討すべきだ。実際できるのか?︎︎資料にもあるが、周りには最近の足跡もなければ目撃のひとつもない。……ん︎︎?いや、顕能の痕跡が確認された……?」

「ああ。俺が誘拐と考えるのもそれが理由のひとつだ。先に言っとくが、この顕能は誕生した詠星のものじゃねぇ。確認場所は沢だ」

「と、なると、相手は詠星、それも水に関する顕能の詠星か……」


 ここにきてアルクの傍に座るスゥファリィがチョンチョンとアルクの膝をつつき、小声で聞く。


「ボクは知らないんだけど、詠星が同じ詠星を誘拐するってよくあることなのかい?」

「いや、ほとんどない。少なくとも俺たちの支援によって言葉の意味を思い出した詠星は、そのようなことをすることはない、というよりもする必要がない」

「……なんだか、含みのある言い方だねぇ?」

「それは……いや、話を聞いていればわかる」


 アルクたちがやり取りをしているあいだにも小男の話は続いている。


「念のため『感涙』、『悲しさ』、『汗水』、『循環』、『流通』の詠星には聴取を行っているが、怪しいところはなかった。他にも現在支援が入っている真言不明の詠星も当たってみたが同じくだ。そういった訳で内部犯の可能性は低いと考えている」

「そうすると……」

「ああ、これが人間でもできそうな状況だったら選択肢も広がるが、今回は詠星の実行犯が可能性が高い。ってなるとだ。イラつくが非認定機関の介入が考えられる」

「非認定機関?」


 堪らずスゥファリィが、こてんと首を傾げる。


「ああ、お前はまだ誕生して1ヶ月じゃあ知らねぇのも無理はねぇ」

「その非認定機関っていうのはなんなんだい?」


 スゥファリィの問いに小男が髭をなぞる。


「そうだなぁ……簡単に言っちまえばラプラスみてぇなもんが他にもあるってこった。つっても、やり方はこことはまったく違ぇけどな。んだが、五文国家的にはラプラス以外の機関を正当な詠星の支援機関として認めていねぇんだ。その理由ってのも……なぁ、これ、詠星の俺が言うもんなのか?」


 小男の言葉は支援対象である詠星が支援者である紡ぎ手達のことを説明するのは如何なものなのか、という意味合いだろう。

 その言葉を引き継ぎ、アルクが続きを述べる。


「他の機関は支援方針が大きく異なるんだ。基本紡ぎ手というのは詠星の言葉の意味そのものに介入することはない。どのような意味で、どのような解釈だとしても、それを決定する権利と義務は詠星にあると考える。一方で他機関は詠星の言葉の意味そのものに介入する」

「そうすると、何がどう変わるんだい?」


 スゥファリィの言葉にアルクが苦い顔で答える。


「つまり、詠星によってはその機関に都合の良い言葉の意味を与えられたり、主観に基づく解釈に導かれるということもある」

「それは……なんだか、モヤモヤするねぇ。きっと詠星にとっては楽なんだろうけど」

「そうだな。ただ、自分の名前以外に覚えているものがない詠星にとっては、その地で出会った存在を頼るしかない。その時点では楽も何も無いだろうな」

「だけど、その非認定機関っていうのは、なんでこんなことをしたんだい?︎︎ただ支援をしたいってだけの可能性はーー」

「それはねぇ。なんせこの地は非認定機関の侵入は禁止している。詠星を動物に例えるなら、密猟ってことになる」


 つまり、わざわさ立ち入り禁止の土地にまできて詠星をさらうには何がしかの理由があるはずだと小男は語る。


「てなわけでだ。現在有力説としては誕生したばかりの詠星を狙った非認定機関の介入だ。まずはこの線で操作を行う。んでだ。ここに集まってもらってわざわざ説明受けてる以上分かってんだろうが、イラつくが星見手からの通知だ。初期捜査に当たった紡ぎ手、詠星をチームとして編成し、問題解決に尽力するようにとの事。その間、デイリーは免除する。また、支援対象の詠星とその紡ぎ手は手伝い程度で構わねぇ。現在の支援に支障がない程度にしてくれとのことだ」


 一部の紡ぎ手からは気合を入れるものもいれば短く息を吐く者もいた。

 どちらかといえばアルクは前者。紡ぎ手としてやる気を出さないわけにはいかない。


「んで、チームリーダーはイラつくだろうが俺、ゲトヴァリィが務めることになった。すまねぇが耐えてくれ。今日のところはそれぞれの担当を決めちまいてぇ。その後は定期的に報告会を兼ねたミーティングを行う。異論は?」


 無言。


「よし。んじゃあまずはレネーとヘレンからだ。お前らにはA1地区をーー」


 そのまま捜索の担当者が割り振られ、「お前らの働きがすべてだ。任せた」というゲトヴァリィの言葉を最後にその場は解散となった。

 ざわざわと雑然とする会議室。早速捜索にあたる者もいれば、他の紡ぎ手や詠星とコミュニケーションをとる者もいる。

 アルクの隣ではふんすと気合をいれたトゥルーがいた。


「これは是が非にでも手伝わなければなのですよ! と、いいたいところですが……」

「ご推察の通り、俺とスゥファリィは現在の支援が最優先で、捜索は次点だ。が、トゥルーが望むなら他の紡ぎ手に渡しをつけることはできるが」

「うーん、それも考えたのですけど、下手に慣れない人と組んでも足を引っ張っちゃうのは目が見えているのですよ。ここはおとなしく紡ぎ手さんたちに合わせるとするのです」


 トゥルーがアルクを見て言う。

 その言葉にスゥファリィが「でも」と口にする。


「そんなにボクの支援に影響はでるのかい?」

「状況次第、という何ともあいまいな答えになってしまうな。スゥファリィは今回の捜索についてはどう思っている?」


 スゥファリィはやや、考えるように無言になったあと頷く。


「ボクは、しっかり手伝いたいって思ってるよぉ。だって、もしかしたら、その詠星は今、危険なことになっているかもしれないのに、ボクのことを優先する、というのは……嫌な気持ちになるねぇ」

「……そうか」


 その言葉に意外そうに目を開いたアルクは、すぐに目を閉じるとスゥファリィの言葉に返した。


「それなら、星見手からは無理せず、と言われているが、俺たちはまず今回の件に全力で当たるとしよう」

「その方針ならトゥルーも嬉しいのですよ!」

「うん、ボクも頑張るよぉ」


 トゥルーが腕を振り上げ、スゥファリィも珍しいことを言う。

 だから、あえてアルクはこの言葉を伝えることにした。


「今回は珍しいな」

「うん? 何がだい?」

「こうして、やる気を見せている姿が。スゥファリィが他者を思いやれないと思ったことはないが、少しくらい睡眠のために渋ることはあるのかと思っていた」

「それは……」


 言われてスゥファリィも自身の言動に気づいたようで、椅子に座る彼女は目を丸くしていた。


「確かに、どうしてなんだろうね。なんだか、ボクらしくないや」

「ただ、そうして他者の為に頑張れるというのは良いらしくなさだ。よく、やる気になってくれたな」

「うん……ボクも、どうしてそう思ったのかはわからないけど、でも、しなくちゃいけないって、そんな気がしたのかもしれないねぇ」

「そこについてはよかったらおいおい見つめ直してみよう。今のスゥファリィの言葉をきいただけでも、その気持ちは何か大切なことにひっかかっているような気がする」


 スゥファリィが頷いたところで話がまとまる。

「早速トゥルーたちも捜索するのですよ!」と先導するトゥルーの後を追い、背中にスゥファリィを乗せたアルクがついていく。

 その道すがら、胸の内に生じた思いを口の中で転がした。


(……また、スゥファリィの一面が発見されたが……はてさて、またわからないことが増えてきたな)


 目指すは東の森B2地区。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ