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ポメラニアン
逃げ道なのかな。
言い訳なのかな。
人間では、人間の姿では、どうしても、思いっきり甘えられないから。
ポメラニアンだから。そんな大義名分があるから。
甘えられる。
人間だったら思いっきり甘えられないなんて。
そんなの、寂しいと思う?
それとも、
「あれ、俺」
乙葉は目を丸くした。
どんどんどんどん力が抜けて行くと思ったら、いつの間にか、ポメラニアンから人間の姿に戻っていたのだ。
運命の相手である雅也は感謝の言葉を述べてのち、ただじっと、乙葉を見つめていただけなのに。
「あれ?」
「グビ」
地面に仰向けになっていた身体を起こした乙葉は丸くした目のまま、顔を下に向けた。
ポメラニアンが、居たのだ。
雅也が着ていた濃い藍色の作務衣を身に着けた、ポメラニアンが。
(2024.7.9)