第1章 神の遺産と子守唄 その1
【01.とある神と大神の血縁者】
桜丘学園高等部2年1組出席番号1番、佐倉蓮は普通の生徒とは違う任務があった。
彼女の存在自体、この世界では歪な存在で存で、居てはならない存在だった。
この世界には、天使が統べる天界、魔王や悪魔が総べる魔界、そして海斗たちが生きる何も力を持たない人間界がある。
そして天界・魔界・人間界以外に、世界の全てにおいて影響を与えると言われている、神が総べる神界という世界がある。
人間界に住む人間以外の者達は、他の世界の事を気にして生きている。
だが、人間だけは他の世界があるとは思っていない。
人間にとって、天使や悪魔や神といった存在は想像の者である。と思っているものが大半である。
だが、人間の中でも時々、神から生まれた者といった位置づけをされて崇められている者も居るのは確かであるが、それが本当なのかは分からない。
まあ、そういった人間がいるのは確かであるが。
佐倉蓮という存在は、元々神界で一番偉い大神と呼ばれた者の付き人だった。
そう言う事で、蓮は神である。
神と言っても、世界を動かすような力は無く、何もしなければ普通の人間と変わらない。
ただ、神界に生まれて、天使よりも少し大きな純白の翼が本来の姿にはあるというだけである。
人間と違うと言えば、怪我を治す力があったするぐらいであるだろう。
生まれた場所が神界だったから、神であるだけだ。
そんな神である彼女が人間界で生きる理由がある。
「神の遺産を持つ、神の力を持つ人間は何処にいる?」
蓮はそっと両手を大空に向かって付き伸ばした。
空は近くにある様で、全く手の届かない位置にある。
伸ばしても届かない場所から蓮は来た。
彼女の役目は、1年前に死んでしまった大神の次に大神になる存在を探している。
以前まで大神候補の神の遺産を持つ、大神の血を引いたまだ無垢な少女がいた。
だが、次の大神に成るべく、神の遺産を手に入れようとする神や天使、悪魔などが、その無垢な少女が持つ神の遺産を狙って、攻撃を仕掛けてきたのだ。
そしてその攻撃によって、その無垢な少女は死んでしまった。
蓮はその無垢な少女を守る騎士だった。
だけど、守る事が出来ずにその無垢な少女を自分の力で死なせてしまった。
「ごめんなさい、姫さま」
擦れるような声で蓮は顔を上げて空に向かって呟いた。
「姫さまの居る場所に届かない」
蓮は右手を一生懸命大空に向かって伸ばした。
その瞳には、大粒の涙が溜まっていて、今すぐに零れてしまいそうだった。
神の遺産。
それは、大神が持つ武器である。
その武器は大神の証であり、その武器を手に入れ使いこなすことができれば、世界を動かすことができるようになる。
そしてその昔。
2代目の大神は結婚をして、1人の娘が出来た。
その娘は次の大神候補として大神とその妻に愛情を持って育てられた。
だけど大きくなったその大神の娘は、何も言わずに人間界へ家出をしてしまった。
ただ一言、『この神界は穢れてしまって居られない』と言って……。
そしてその娘は、人間界の男と一緒になり、この人間界に2人の子供を作って死んでしまった。
蓮は大神が死んでから、その娘の子供を探しに人間界に来ていた。
次の大神になる者を探しに……。
だけどその娘から生まれた大神の血を継ぐ無垢な少女は死んでしまった。
大神の血縁以外の者に決して神の遺産を渡してはいけない。
渡しては、世界の理を失ってしまう。
失えば世界は歪み、崩壊してしまうだろう。
だけど今、蓮は神の遺産の行方すら分からない。
閑話では無理でしたので1章にします。