神の遺産と子守唄 その2
時間は過ぎてゆく。
1時間の授業なんていつの間にか終わっていた。
海斗はただ、呆然と時間を過ごして先生の言った事など殆ど聞けずにいた。
今海斗には授業なんて関係ない。
ただ、窓から空を見上げて自分の周りで何かが変わり始めている事についてずっと考えていた。
放課後になった今も海斗は教室の窓から空を見ている。
いつもなら、もうバイトの時間だったが、体調不良という事にして休むとメールも入れたので何の問題も無い。
いや、休んだ事自体に問題があるが、今の状態でバイトに行っても迷惑をかけてしまう。
それぐらい海斗にも分かっていた。
「何考えているのだろな、オレは」
首に下げている、右端に大きな古傷の入ったロケットペンダントを首から外して机の上に置く。
それは太陽の光が反射してキラキラと輝いた。
「ん?何かの石か?」
海斗は何か発見したらしくそのロケットペンダントの中央部分を触った。
触ると確かに何かがあるのが分かった。
「それは、太陽石っていう石でしね」
そう一言声がした。
海斗は後ろを振り返ってその声をした者を見た。
「これは太陽石って言うのか?」
久々に見たぬこは最初逢った日から何も変わっていなかった。
いつものように猫耳を隠すための帽子を被り、最初逢った日と同じような表情をしていた。
「名前は知らない、ただぬこがそういう風に呼んでいるだけでし」
「そうか」
それから海斗もぬこもそれから何も言わずに、そのロケットペンダントを見るだけだった。
2人共とても優しそうな目。
そして悲しそうな目をしながら。
時は過ぎるのは早くて、何も喋っていないうち時間は刻々と過ぎてゆく。
空も時間と共に動き、ゆっくりと空の色も変わっていた。
ぬこは時計をちらっと見て時間を確認していた。
現在の時刻は午後5時5分すぎぐらいだった。
冬に変わろうとするこの時期は暗くなるのも早く、空は少し闇色に染まっていた。
やがてぬこは教室のドアの方に歩きだそうとした。
「今までごめん」
それを見て海斗はぬこに聞こえるか分からないぐらい小さな声で呟いた。
ドアノブに手をかけたぬこは、ただ海斗に微笑み、嬉しそうな顔をしてドアを閉めた。
「ありがとう」
その言葉は海斗の耳に届いたのはぬこがドアを閉めた瞬間だった。
すごく小さな声で、きちんとそう言っていたのが分かった。
教室から出たぬこは鎖で首に下げている1つのロケットペンダントを見つめた。
それは海斗が持っているのよりも少し新しく、ピカピカに輝く。
だけど全く同じモノ。
同じ場所に大きな古傷があり、中央部分にはぬこが太陽石と呼ぶ石もある。
「何を意味しているのでしか?」
ぬこはロケットペンダントを開けた。
そこには海斗によく似た20代ぐらいの1人の青年がいた。
その隣には、オレンジ色の髪に少し茶色が混ざったような髪色をした、ぬこが被る帽子と同じような帽子を被っている女性とその女性がいる。
そして、女性と青年の子供らしき3歳ぐらいのまだ幼い少女が女性が抱きかかえられていた。
3人は嬉しそうな表情をしながら青い花が沢山咲く花畑をバックに写っていた。
「ぬこにはもう先はないでしか?」
ただ必死に涙を堪えながらぬこは大空に手を伸ばす。
「これは運命でしか?」
こんなにも近くにある様で、手が届かない。
いくら手を伸ばしてももう手に入らないもの。
それが一体何なのかをぬこは知っている。
自分の運命を知っていてもなお、抗うことをしない。
してはいけない。
自分だけが生きたいなど言ってはいけない。
言えば、今まで立てた計画が全て意味を失くしてしまう。
これから始まる全てが終わってしまえば、ただ消えていくだけ。
「海斗さん」
小さく紡ぎ出された言葉は闇の中に消えていった。
全てを解放するために死ぬ事になっても、その運命を歩む。
「ごめんなさい、ぬこは消えたくないでし」
表情を曇らせたぬこは、ただ小さくそのロケットペンダントを首に下げた。
「やっぱり消えたくないでし!」
必死にぬこは叫んだ。
誰かに助けて欲しくて、ただ必死に叫んさ。
『約束』
「えっ!何でしか?」
その瞬間、何かの声がしてぬこは目の前が真っ白になって倒れた。
とりあえず02終了。
今の予定では、1章には01~05まで書くつもりです。
次の話から【03絶望の唄が響く時に】をスタートしますよー♪
文章はとりあえず1章が終わるまで訂正はせずに書き進めます。
何か誤字などや、アドバイスがありましたら報告してください!
宮燈がすごく喜びます。