神の遺産と子守唄 その2
(別にぬこを嫌っているわけじゃない)
現在の時刻は午後3時20分過ぎだった。
海斗たち1組の人以外のクラスに在籍する人は皆放課後で、部活やバイトをしている時間だろう。
だけど1組だけは、そうはいかない。
あと1時間だけ授業がある。
「なあ、次の授業何だったけ?」
そう後ろを振り返った隼人が言う。
そして海斗の目の前で、鉛筆の先がとがっていない方で肩をつついた。
だけど海斗はまるで死んでいるような目で呆然と黒板を見続けるだけで、何も反応しない。
「おーい、生きて居ますか?」
隼人が海斗の目の前で右手を振る。
だけど全く反応を示さない。
そんな海斗の反応に呆れた隼人は、近くにあった教科書を右手で持ち立ち上がった。
「お前がそんなんだから!」
そう言って、海斗の耳元に近づいてその教科書を丸めて耳元に近づけた。
そして一度深呼吸した隼人は、腹から大きな声を出す。
「海斗!」
その大きな声に反応してか、海斗はびくりと立ち上がった。
「うわ!」
「うわ!じゃねぇー」
隼人は、海斗のそんな反応を見て一度溜息をつくと、持っている丸めた教科書を元の形に戻した。
何かが来る。そう海斗は感じたのか、一歩ずつ後ろに下がるがすぐ後ろが真後ろは壁なので意味がなかった。
「叩くなよ!」
海斗は手を前に出して、一生懸命隼人を自分の方に来ないようにする。
だが隼人はそんなのを気にせず、一歩一歩海斗の方に近づく。
「いや、一発叩かないとダメだ」
「なんでだよ」
「まあ、猫又さんがお前について困っているからな」
そう一言言うと、隼人は全力で海斗の方に走って教科書で頭を叩く。
「本気で叩くなよ」
海斗は叩かれた部分を両手で押さえて隼人を睨み付けた。
だけど隼人は何も言わずに海斗を一度見た後、どこかに去って行った。
そんな隼人を海斗は見れず、ただ下を向いたまま、首に掛けている瑠奈の写真が入ったロケットペンダントを開けた。
「嫌なんだよ……なぜか嫌なんだよ、ぬこが」
ただ一言海斗はそう呟いた。
何かが、ぬこと重なってしまう。
嫌だから思い出せない、閉じ込めた記憶の向こうにいる誰か。
海斗はロケットペンダントの後ろを見る。
そこには英語でFerrierと書かれている。
「母さん」
海斗はその文字をなぞりながらそう呟いた。
その頃ぬこは蓮と2人で教室を抜け出していた。
「この本に書かれている事は本当なのか?」
蓮は茶色の表紙の本をぬこに渡した。
ぬこはそれを受け取ると持っている学生鞄の中にそれを入れた。
「そうでし、大神様が最後に書き残したものでしから本当でし」
「そうか」
蓮はそう言うと、ぬこの頭を撫ぜた。
ぬこは嬉しそうな顔をして耳をぴくぴくさせた。
「流石ネコだな」
「うるさいでし!」
ぬこは触られていた蓮の手を払い除け、学生鞄を抱きしめて嫌そうな顔をした。
そんなぬこを見て蓮はニコニコ笑う。
「ちゃんと真剣に考えてくださいでし」
「分かっている」
それから2人は悲しそうな顔をしてオレンジ色に染まる空を見上げているのだった。
何も言い出せず、ただ悲しそうに空を見上げる。
始まりを告げる鐘はもう直ぐなり始める。
帰ってきました!とりあえず今回から鬱って感じです。
1章のその2が終わるのは後少し