神の遺産と子守唄 その2
【その2.全ての始まり】
海斗が生まれて直ぐの頃、海斗の母親がいつも楽しそうに歌っていた子守唄があった。
とても不思議な歌で、当時赤ん坊だった海斗はその歌声ですぐに泣きやんだ。
そんな古い記憶の中にある歌を、今でも海斗は覚えている。
すごくはっきり覚えていて、その自分の記憶力を疑ってしまうほどだ。
これほどの記憶力があったならば、もう少しぐらい英語が出来るはずなのに。そう海斗はいつも思う。
だけど違う。
覚えている理由は、海斗の記憶力とは関係ない。
そう、全く関係ないのだ。
この時まだ、海斗は何も知らなかった。
自分の存在、そして瑠奈が死んだ原因、世界で起こっている事全て。
そしてぬこが海斗の前に現れた理由も、なにもかも全て知らない。
音楽の授業は、気が付けば終わっていた。
海斗は何が起こったのか理解するのに、何度か頭の中で物事を整理しながら頭を摩る。
どうやら、自分の理解の範囲を超えた事が起こっているらしい。そう海斗は理解した。
「海斗さん、大丈夫でしか?」
「そうだよ!ずっとぼっーとして大丈夫か?」
廊下を歩く3つの陰、海斗の前で海斗を心配そうに見る2人。
隼人に心配されるのは分かるが、何故海斗の悩み事の種であるぬこに心配されなきゃならない。
海斗はもうなんだか泣きたくなって、何度も大きなため息をついた。
「そういえば、海斗と猫又さんは友達なんだよな?」
「はい、そうでしよ」
2人が海斗の事について話し出した。
いつの間にかこの2人は、仲良くなったらしく隣で一緒に歩いていた。
走れば早いぬこだが、普通に歩けばただの女子より少し歩く速さが遅くなるらしい。
そんなぬこに隼人は歩くスピードを落とし、ちゃんとレディーファーストというやつをしているらしい。
まあ、そんな事は置いておき、海斗は何時ぬこと友達になったのか分からないし、友達になった覚えもない。
「隼人、オレはこいつとは友達でも何でもねぇー」
「そんな訳ないだろ!」
2人にちゃんと否定した海斗だったが、直ぐに隼人によって肯定にされる。
「ぬこは海斗さんと友達でし」
そしてぬこは隼人に海斗と友達だと言い切った。
そこまで言い切らなくてもいいのに。そう海斗は思う。
(何がなんだかわからねぇー!!)
はぁ、とため息をつくと、妹に言われた言葉を思い出す。
『お兄ちゃん、ため息すると幸せが逃げるよ!』
本当に、今日ほどため息を付いた日はない。
ため息をつけば、つくほど幸せが逃げている気がする。
いや、幸せではない・・・・・・平穏な生活が逃げていく気がする。
(返せ!オレの平穏な日々)
2人が仲良くしている最中、海斗はそういうことばかり考えていた。
また気が付けば、海斗は自分の部屋の前に着いていた。
ぬこはキョロキョロしながら、自分の部屋が何処なのかを隼人に聞く。
どうやら隼人はぬこが住む部屋の場所を知っているらしく丁寧に場所を教えているようだった。
さすが理事長の孫息子だと思う。
隼人がぬこを連れて部屋を案内した後、再び2人は戻ってきてぼーっとする海斗の肩をポンと叩いた。
「海斗さん、悩むとハゲルでしよ」
「確かにハゲルから悩むなよ!」
面白おかしく2人がそう海斗に言った。
誰のせいだよ!とツッコミたくなった海斗だったが、これを言うとまた話は長くなりそうだったので、軽く受け流すことにした。
「あれ?ツッコミは入れないのか!」
そう隼人に一言言われた。
これはツッコんだ方がいいらしい。
海斗は幸せが、静穏な生活が逃げるのを分かって大きなため息をついた後、一度深呼吸をして隼人の耳元で叫ぶ。
「オレはハゲないし、ぬことは友達じゃない!!!」
なんだかスッキリした海斗はその後、直ぐに部屋のドアを開けて部屋に入った。
もう反論は聞きたくないし、ぬこの顔も見たくない。
本当にため息ばかりつく。
明日から時間が長く感じそうだ。
長い1章始まります。
まだファンタジー要素は少なめです!
訂正:隼人さん、悩みと…の部分が間違っていました。
海斗さんの間違いです。