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     神の遺産と子守唄 その1

時は静かに流れる。

授業を終えた佐倉蓮は一人学園の外に来ていた。

ゆっくりとゆっくりと、学園の外にある住宅街を抜けてとある場所を目指す。

「風が冷たい」

空は段々暗くなり、秋の風は冷たくなる。

蓮が今着ているブレザーだけでは肌寒く、あらかじめ学生鞄の中に入れていたコートを取り出して、ブレザーの上から着た。

コートを着て、温かくなった蓮はとっさに走り出し住宅街にひっそりとある黒い屋根の花屋の前で立ち止まった。

「すいません、いつものいいですか?」

蓮は店の前で、中に居る店主に向かって声をかけた。

店主は『なんだい、いつものお嬢ちゃんか』と言ってその後に『あれだよね』と付け加えて、店の奥の方に消えていった。

それから数分、店主は戻ってくる気配が無く、蓮は暇そうに店に並ぶ花を見ていた。

一番最初に目に止まったのが、真っ赤な薔薇だった。

「姫さまが大好きだった薔薇の色……でも枯れそう」

そうつぶやいて、蓮は薔薇に手を翳す。

「蘇れ」

一言、蓮がその萎れている薔薇の花に向かって言った。

そうすると、その萎れている薔薇の花のが眩く輝きだし、また元気になって生き生きとしだした。

その薔薇を中心に、他の花たちも元気を取り戻したように、綺麗に花を咲かす。

「よかった」

そう蓮は呟いたあと、少し疲れたらしくしゃがみ込んだ。

今さっき使ったのは、モノを元気にする神の力。

神の力と言っても、それほど大きな力ではない。

神界に居る者なら誰でも使える初歩的な力である。

だけど本来の姿ではない今の蓮にとっては、その初歩的な力を使うだけでも精一杯だった。

「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」

しゃがんでいる蓮を心配して、走って店の店主が出てきた。

蓮が顔を見上げると、目の前にはエプロンを着た大柄のおっさんで、髪はピンクに染めてツインテールにした、女言葉を使う優しそうな人が居た。

彼がこの花屋の店主である本命後桜真(ござくらまこと)、偽名後桜マリルン。

通称、オカマのマリルンと呼ばれている人物である。

「蓮ちゃんが来るといつも花が元気になるわ、ありがとう」

「そんなことないからお礼は言わなくていいよ」

そう蓮は言ったが、マリルンは何も言わずに蓮に1輪のラッピングされた薄ピンクの薔薇の花を渡して、料金は要らないと言った。

だけど蓮はお財布を鞄の中から取り出し、お金を払おうとした。

「今回のは高かったでしょ?」

「いいのよ、蓮ちゃんのおかげで儲かるようになったから今日のはいいのよ」

そうマリルンは言って、蓮からお金を受け取らずに店の中に入っていった。

蓮はその後を呆然と見たあと、ありがとうと呟いて歩き出した。

今日、蓮が買った花は薔薇だ。

だけど特別注文をして取り寄せて貰った特別な薔薇だ。

種類はダイアナ プリンセス オブ ウェールズという名前で、系統ハイブリットティで、花色クリーム地にピンク覆輪の薔薇だ。

大神の血縁者の無垢な少女が最後に綺麗だと言った薔薇の花である。

その花をその無垢な少女に見せるために、蓮はわざわざ花屋の仕事で忙しいマリルンに頼んで取り寄せて貰ったのだ。

(ん?誰か私の後をつけているのか?)

「まあいいか……さて、早く持っていくか!」

蓮はそう薔薇の花に向かって呟いて、夕日が沈む方向に住宅街を抜けていった。

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