クセ
「あつっ……あつっつつつつ!!!」
「はわわわ!!すみませぇん!!!」
目を開けて気づいた。まさか、こんな事がおこりえるとは、女性を避け続けた人生だったために目を閉じた。そこを狙う悪魔がいようとは、目の状態を確認する。
「私ったら、わざとじゃないんです、でも」
わざとじゃない?いや、目を開けた瞬間、この美しい悪魔は口角をにんまりと押し上げて笑っていたじゃないか。いや、見間違いか、あるいはそうかも。それであるならばいい。死後の世界にたどり着いてもなお、こんな事はあってはならない。
ふと、熱を冷ましながら、先ほど緊張したせいで予備魔力を循環させていたために、体が無事で会ったことを確認すると、窓の外に目をやった。子供の声と、それを指導する女の声がする。凛々しくも、優しい声だ。子供もまた、鍛練に励んでいるようだった。
「剣術の指導か?」
ふと、そんな気がした。だが目線の先にはただ、よく整理された庭や、死後の世界にふさわしい花畑があるだけだった。
「ところでここは……」
そういいながら振り返ると、メルクは今度はコップを手に、こちらに差し向けている。
「はい、あーん」
「あ、いや……結構です」
「恥ずかしがらずに~」
「いや、その、本当に」
というか、今の状況を見ていなかったのか?イガルは椅子をたちあがろうとした。その瞬間だった。
《ジュバアッ!!!》
メイドは水を思い切りイガルにぶちまけた。メレクは背中の痛みに自分があおむけに倒れていることに気づいた。そして、その上で声がする。
「す、すみませぇん~私ったら本当に、グズで、ノロマで」
メレクは、柔らかい感触におどろいた。自分の手が、メレクの胸を掴んでいることにきづいて、咄嗟にそれをどけた。
「ハヒッ!!大丈夫です!!」
「許してくれますかあ?」
「大丈夫、大丈夫です、むしろ僕が今、足をころんだので、ホラ、僕のせいですよ」
イガルは女性を相手にするとき、いつもそういう対応をしてしまう。つまりは甘すぎるのだ。
しかし、いい匂いがする。妙な意味ではなく、女性の一部から……そう、彼女の身に着けている花柄のアクセサリーから。なんだろう?何か記憶にあるようなにおいのような気がするが。
「朝から、本当下品ね……」
「ヒィッ」
目を扉に向けると、そこに別のメイドがたっていた。黒髪ロング、サイドに髪をたらし、ポニーテール。クールな目鼻立ち、青い瞳、涙ボクロ。スラリとした顔に、並みのふくらみ。首には鱗が重なったような灼熱の赤のブレスレッド、腰にさげた剣が、もっとも異様だった。
「チッ」
「え?」
《ツカツカツカ》
メイドはイガルの元に歩いてくると彼のアゴを引いていった。
「いい事?ここは《デスブレスハリケーン》の中、あらゆる秩序があべこべな世界よ、覚えておくことね」
「!?!??☆」