表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

メルク

「お、お、お客さまあ~」

 やわらかな丸い顔をゆがませながら、メイドは奇妙な声をあげて、ふとももをよけた。ニッコリと笑うメイドは、優しく体を起こす事を手伝ってくれたが、その目は、時折深淵に赤い、化け物じみた輝きを放っている気がした。

「突然のことで、びっくりしてしまいました、けれど目を覚まされたのですね」

 そして、ボソボソとイガルに聞こえない声でつぶやく。

(私は、どうでもよかったのですが)

「何て?」

「あ、いえ、こちらの話です、今お食事の用意をしますね」

 傍にあった綺麗に洗濯されてある自分の服をみつけて、袖を通す。丁度着替え終わったころにメイドは再び現れた。


「お客さま、お食事は何になさいますか?」

「へ?何にって、それじゃあ」

 立ち上がり、メイドの用意した配膳ワゴンに目をやると、その上には色とりどりのおかずが乗っていた。オムライス、さかなの煮つけ、マヨネーズサラダ。シチューや肉料理。

「ふむ……そうか」

 ぼーっとした頭をかいて、そして考える。

「せっかくだから、全部いただこうかな?」

「へえ?これ全部ですかぁ?」

「ああ、他に食べる人がいないのなら、頂きたい」

 そういった瞬間、メイドは突然イガルにだきついてきた。そのふくよかな二つの弾力のあるものをおしつけてくる。

「ちょ、ちょっと、天使さん」

「メルク、感激ですぅ~~ドジっていわれたり、極端っていわれたり、でもあなたは、全部食べてくれるって、初めて、神様みたいな人に出会いましたー」


 窓際からその時、イガルは人の気配を感じた。暗い黒髪のメイドの影が見えた気がして、そのメイドが何か毒づいたようだった。

「このブタが、遠慮もしらぬとは」


 なんとかしてメイドを引きはがすと、食事用の席についた。メレクというメイドは、綺麗に配膳をおえると、自分の直ぐ傍に座った。

「へ?」

「あなた様は、大事な客人故に丁重に扱えと、メイド長からのご指示がありましたので」

「はあ……しかし、私のような死人に」

「何をいっているのです、あなたはまだ元気じゃないですか」


(どういう事だろう?ここは死後の世界では?だからことの運ぶままに身を任せていたのだが)

 メイドはいつのまにか、スプーンをてにとり、スープを掬うと、イガルの口元にそれをさしだした。

「はい、あーん♡」

「え?」

「まだ、傷がいえていないのですから、長旅だったのでしょう?体中傷だらけで」

「い、いやあ、それほどでも」

「いいですから、あなたは私にすべてをまかせて」

 その言葉と、柑橘系の香水に雰囲気をやられて、身に任せることにした。しかしイガルはこういうことに慣れておらず、口をがくがく震わせながらあんぐりとあけた。

(もう、死んでもいい)

 そうかんがえた時、彼は目に何かが流れ込んでくる感覚と、遅れてくる熱を感じた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ