第2話「ちゃんと、」
“本多さんはこの施設に慣れたかな?”
…慣れるわけないだろ。アホか。大体僕は行きたくなかったんだ…でも、この施設の居心地は思ってるほど悪くはない。それに、僕の夢を語ったときにみんな拍手してくれたのがとてもよかった。夢というか何なのかはわからないが…今は小説家になりたいという気持ちがある。
元々僕は小説家志望だった。昔から本を読むのが好きで…空想することも文字を書くことも好きだった。でもこれを理解してくれる人なんて誰もいなかった。話した相手みんな笑ってた。特に高校時代はこれで一気に陰キャとなってしまった。
“本多さん、こんにちは”
君は…前の席の…ごめん、忘れちゃったみたいだ。でも…みんなの人気者ってわけではなさそうだし…というかどうしてこんな仲良くするんだ?
“私です。野村です。あなたの夢ってとっても素敵だと思って話しかけたんですけど…”
あぁ、野村さんね。長い髪と清楚な雰囲気から…学級委員長をやってそうな…そんな風貌がする…というか滅茶苦茶仁さんじゃないですか…どうしてここに?
“本多さん、その小説見せてください”
…これそんなに大したものじゃないよ…だって僕が書いたしがない小説だから…
“へぇ…この作品のここってどうなのですか?”
…どこって…あぁ、勇者はこの後仲間を忘れて一人で旅立って…
“それでそれで?”
…でも勇者は苦戦するはずなのになぜか倒せてしまう。結局それはいないはずの仲間が戦っててね…
“うん。結構面白そうな小説じゃないですか。22歳でこのアイデアと文章力は完璧ですよ”
…ありがとう。こんなこと言ってくれる人は初めてだよ。
昔の友人に同じことをすれば…“またこんなの書いてる!”“ダサいね!みんなも見てよ!”…こうやってみんなに広まってからかわれるんだよね。でもどうして野村さんはこんなしょうもない小説に執着するんだろうか…
“私の夢は…またいつか話しましょう”
考え事をしているとふと思い出したことがある。そういえばこうして友達と話したのは久しぶりだった。特に高校時代は友達なんてできず、ただ一人で小説を書いては…思い出したくない。
“待って、野村さん…僕の書いた小説をほめてくれてありがとう!”
これを口に出せたらどれだけ楽だったのか…でもこれで引かれたり怒られたりしないかな…と思っていたが、そんなことを考えているうちに僕の部屋に戻ることになった。
“早く学校に行きなさい”“何サボってるんだ、車に乗りなさい!”
…そう押し込まれて行った地元の学校、もっとちゃんとみんなと話せたらよかったのに…みんなが憎い、みんなが…羨ましい…僕には…何ができたのかな…
気が付けば4月ももうすぐ終わり、みんな誰かしらと一緒にいる中、僕は一人でいることが多かった。それでも野村さんは一生懸命話しかけてきたが…ちゃんと返せていない気がしたんだ…
“ちゃんと言わないと…でも…どうすれば…”