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激闘

 星獣の襲撃があったことを知り村を救うために星獣を打つことを決めた二人は、聖獣が出現した森の中を駆ける。

 大まかな場所しか聞くことができなかったが、星獣の群れは森の奥深くにいるはずだと森の奥へと踏み込んだフレンとノエルは、途中戦闘があったと思しき場所を見つけた。

 詳しいことは分からないが星獣との戦いの壮絶さを物語るように、地面は砕け木々はなぎ倒されている。


「随分と激しい戦いだったみたいだな」

「はい。ですが遺体が残っていませんね」


 いくつもの血溜まりや、誰のものとも分からぬ肉片は残っていても遺体が何一つ残っていない。


 ⚔⚔⚔


 ようやく猿の群れを見つける。


「あいつらかアレンたちを襲った猿は」

「見たところ、元はウッドエイプあたりでしょうか」

「あぁ、あの樹を操る魔獣か。厄介だろ」


 星獣は元となった魔獣の能力を使う事が出来る。

 つまりこの森は奴らにとって有利な場所、加えて二人にとってこの場所は全くと言っていいほど土地勘が無い。


「アウェーな戦いは覚悟していたが、こいつは無茶が過ぎる」

「それでも、行くと決めたのですよね」

「あぁ、済まんな。こんなことに付き合わせて」


 振り返りながらノエルに声をかけたフレンだったが、そのノエルの後ろから何が現れるのを見えた。


「──ッ!ノエル!!」

「えっ、はっ!?」


 フレンの声に振り返ったノエルの側にあった樹の中から、複数の眼を持った猿が現れる。魔獣の能力によって樹と同化していたのか、木の幹その身体を表した猿が木の棍棒を振り上げる。

 間合いが近すぎるせいで


「シッ! 」


 棍棒が振り下ろされるよりも早く抜き放たれたフレンの刀の一閃が猿の首をはねる。

 猿の首が宙を舞うと猿の身体を覆っていた星獣の泥がバシャッと地面に零れ落ちる。


「構えろノエル、すでに囲まれてる」

「はいっ!」


 遅れて抜き放たれたノエルのレイピアの切っ先が次に蠢いた木の幹に突き立てられる。

 すると遅れて木の幹から黒い泥が零れ落ち、遅れてレイピアに頭を突き刺された猿の亡骸が地面に倒れる。


「面倒だ、ノエル。猿の親玉がどこにいるか分かるか?」

「魔力の強さからして、あの剣を持った個体だと思われます」

「そうか……なら、さっさとぶっ殺すぞ!」

「了解です!」


 サルの群れに切り込むフレンとノエル、しかし敵の数と猿たちの持つ形成が能力の差により形成が不利なことは変わらない。

 一匹と戦おうとしても周りの木々が蠢き、槍のように伸びた木々の枝樹や地面からせり上がってきた木の根が二人を絡めとろうと伸びるが、そうはさせまいと振るわれたフレンの剣がそれを切り裂くと、木の中から抜け出してきた猿の頭部をレイピアの一閃が貫く。

 断末魔を上げてこと切れる猿の弔いか、複数体の猿が襲い来る。

 一匹の猿が棍棒を振り上げて飛びかかると、フレンが刀を一閃し上半身と下半身が分かれて地面に落ちると、続けざまに襲ってきた猿が棍棒を振り下ろした。

 よけるのは間に合わないとフレンが即座に刀を頭上に構えて棍棒を受け止めると、手足に凄まじい衝撃が伝わってくる。


「ぐっ、ラァッ!!」


 力を込めて棍棒をはじき返すと体勢を崩し倒れようとする猿の頭上から刀を振り下ろした。

 縦に切り裂かれた猿が左右に分かれたところで、追撃を警戒しながらノエルと背を合わせながらあたりの警戒に入る。


「今ので何匹殺った?」

「十匹ほど、まだまだいますね」


 わらわらと現れ続ける猿の大群に辟易しながらもフレンとノエルは立ち向かっていく。

 このまま戦い続けていればやられると思いながらも、二人は戦うことを止めない。この先に人里がある事を知っている猿どもは、ここを抜けたらすぐにでも襲いに行くはずだ。

 死んでもここは通さないと、握りしめる剣に力を籠める二人は猿どもに向かって斬りかかろうとしたその時、二人の背後から声が投げかけられる。


「二人とも、左右によけろ!」


 背後から投げかけられた声に従った二人が同時に左右に飛ぶと、二人の合間を縫うように放たれたいくつもの矢が猿たちの眉間に突き刺さった。


「矢で星獣を倒しやがった」

「正確に眉間を射抜いていますね」


 驚きの声を上げながら矢の飛来した方へと振り返った二人は、次の矢をつがえ構えたシエルと両腰に下げられた剣へと手を掛けながら走り込むアレンの姿であった。


 フレンたちを追って村を出たアレンとシエル、日が暮れようとしている森の中を駆け抜ける二人が向かう場所は決まっている。

 昼間にアレンたちが猿の星獣と交戦した場所、あそこの付近にフレン達が居るはずだとあたりを付けていた。走りながらシエルは先行するアレンに向かって問いかけた。


「アレン、今更確認なんだけど本当にこの先にいるのかしら?」

「そんなの僕にわかるか!」

「分からないって、でたらめに走ってるってわけ!?」

「でも、なんでか分からないけどフレンがこの先にいるような、そんな感じがするんだ」


 言葉にして説明しろと言われればうまく説明できないような、本当に感覚的に感じるような感のようなものなのだがアレンにはフレンがこの先にいるような気がしていた。

 アレンが必死に説明した話を聞いて何とも言えない表情を取ったシエルは、心なしか少しペースを緩めて物理的にアレンとの距離を取った。


「えっ。なにそれ怖い」

「ガチトーンでツッコむのやめろ!僕だって初めての感覚で怖いんだから!」


 シエルにツッコミ返すアレンは自分にこんな力があるとは思わなかった。しかし、確信の何もいないこの状況ではこの不思議な感覚を頼りにして進むしかないと思った矢先、かすかにではあったが二人の耳が戦闘の音を聞きつける。


 どうやらアレンの感が当たったのだと思ったシエルは、心の中で後でちゃんと謝ろうと考えながら矢ずつから複数本抜くと、走りながや矢を二本弓につがえる。

 走りながらシエルの眼が戦い続けるフレンとノエルを発見する。


「二人が居たぞ!」

「ついでに猿ども見つけたわ。すごい数!」


 足を止めたシエルは矢をつがえた弓を構えると、猿たちに向かって斬りかかろうとしていたフレンとノエルに向かって叫んだ。


「二人とも、左右によけろ!」


 つがえた矢に炎の魔力を込めたシエルは二人が左右に同時に飛ぶと、それに合わせて引き絞った矢弓を放したシエル。放たれた二本の矢が真っ直ぐ猿に引き寄せられるように眉間に突き刺さった。

 これだけでは終わらないとシエルはつがえずに持っていた次の矢を弓につがえて引き絞る。


「アレン!次撃つから接近して叩き斬りなさいッ!」

「了解!」


 走りながら左右の腰に下げられた新しい剣の柄を握りしめる。


 ───この剣ならばあの星獣を倒せる。


 両親のあの言葉はきっと真実だろうが、受け取ったばかりで試振りもしていないこの剣で、今まで通りの戦いが出来るかもわからない。

 しかしそんな事を言っている暇もないアレンは、握りしめた剣を抜き放った。


「───ッ!?」


 日の光の中で初めて抜き放たれた二本の長剣は、木々の合間を縫って注がれる日の光が照らし上げる。

 右手に握られた燃え盛る炎のような揺らめく波紋を持った深紅の剣が、左手に握られるははるか上空に青々と広がった蒼穹のごとき紺碧の剣。握りしめられし新たな二振りの剣の切っ先を地面に向けて構えると、全身と武器に闘気を纏わせる。


「行くぞ」


 短い言葉を残しアレンがゆっくりと前に歩み出し、そして強く地面をけると一瞬でフレンとノエルの側にまで距離を詰めると、二人の背後から襲い来ようとしていた猿の一匹に向かって剣を振り抜く。

 肩に担ぐように構えられた深紅の剣を猿の左肩から斜めに斬り付けようとしたその時、真紅の剣から焔が溢れ出す。焔の宿った刃が星獣の肌へと触れた瞬間、猿の退避を覆っていた泥が剣から溢れ出した焔によって焼かれながら猿の身体を両断した。


「ぎぃぎゃあああああああ!?」


 斜めに切り裂かれた猿の断末魔が消え、崩れ落ちる猿の身体に炎が燃える。


「炎が……魔法剣かあれ?」

「あんな剣を持っていたんですね」

「持ってたっていうか、貰ったばかりだけどな」


 アレンの剣の性能に驚いていた二人、その側にまで近づいていたシエルはあの剣について説明した。

 壊されてしまったアレンの剣の代わりに送られた新しい魔法剣、その性能は使い手であるアレンさえも把握していない未知の剣、それに魔法剣が深紅の剣だけでとは限らない。

 もう一本の紺碧の剣にも何らかの力が隠されているのではないかとシエルは考察する中、ようやく猿たちが我に返ったのかシエルたちを取り囲む。


 ⚔⚔⚔


 メラメラと燃え盛る猿の死体を前に仲間の猿たちはたじろぐ中、振り抜いた状態で固まっていたアレンはフルフルと小刻みに震えたかと思うと、引きつった笑みを浮かべながら小さくつぶやいた。


「父さんめ、魔法剣なんてどうやって用意したんだよ!」


 魔法剣を作るにはポーションと同じように今の世の中では入手することが難しい魔獣の魔石が必要となる。

 さらに今アレンの手の中にあるこの剣には属性が宿っている。

 通常の魔石はただ魔力を有しているだけ、属性の力を宿した魔石はさらに高価な物だとアイザックから教わった事があった。


 そん物を用意した両親に感謝しながら剣を構えなおしたアレンは、自分を取り囲んでいる猿たちの事を見据えながら深紅の剣の切っ先を猿たちの方へと向けようとしたその時、背後からなにが近づいてくる気配に感じ振り返ったアレンは、いつの間にか接近していたフレンが刀で突きだした樹の枝を切り裂く。

 ゴトリと落ちた不自然に鋭く尖った木の枝が地面に落ちると、枝が伸びた木に向かってフレンが刀を突き立てる。

 すると木の幹と同化していた猿が現れ倒れた。


「木から猿が出てきた!?」

「気を付けろ、あいつは樹と同化して操れる!」

「なんだそりゃ!?」


 二人の元に襲い来る木の枝を斬り伏せると、次は木の葉が弓のように降り注ぐと刀を構えたフレンが切り落そうとしたその時、アレンがフレンを押しのけ真紅の剣を振るう。

 すると深紅の剣から炎の渦が溢れ出し、振るわれた剣からほとばしった炎が木の葉を焼き尽くした。


「おい、やりすぎて森を焼くじゃねぇぞ!」

「言われんでもわかっとるわ!」


 炎の嵐が止んだのを見て駆け出したフレンの言葉に帰したアレンだったが、深紅の剣の刀身を見つめてからいつものように構えなおす。


「まだ慣れないけど、だいぶこの剣の使い方が分かってきたな」


 猿たちに切っ先を向けるアレンは再び身体に闘気と纏わせ、襲ってくる猿たちに向かって駆ける。

 飛び上がった猿に向かって左の剣を振るい胴体を二つに切り裂き、続いて襲いかかる猿の棍棒を右の剣で弾き返した所を左右の剣で同時に斬りつけた。次々襲い来る猿を斬りつけながら、アレンはこの魔法剣の使い方についてもう一度頭に入れなおす。


 普通に振るう分にはよく切れるすごい剣、しかしこの剣の本領は魔力を持たないただの人間であるアレンにも、魔法に似たような力が使えるようになるという点だ。

 だが闘気しか使ったことの無いアレンにとって、たとえ魔法剣だとしても魔法を使う事は容易ではなかった。

 考えながらアレンは猿の攻撃をかわしていると、背後から何か気配を感じ取ると身体を傾けながら後ろへと飛ぶと、今までアレンが立っていた場所に無数の木の槍が突き刺さった。

 猿の同化能力からくる力、これほど厄介なのかと思いながらアレンは後ろからくる猿を蹴り飛ばし、続けてやってくる木の槍を斬り飛ばすと、今度は木の根がアレンの動きを止めるべく手足を拘束される。


「ヤバいな」


 手足を締め上げられたアレンは深紅の剣の炎で木の根の拘束を焼き払おうといたその時、トンッとシエルの矢が木の幹に突き刺さると木の根の拘束が緩まり、矢の突き刺さった木の幹からズズズッと同化していた猿が抜け出してくる。

 拘束が緩まったと同時に闘気での強化を施した両腕で木の根を引きちぎると、逆手に握りなおした深紅の剣を投擲した。

 投げられた深紅剣は刀身に炎を宿し深々と猿の胸に突き刺さり絶命させる。


「サンキュー、シエル!」

「油断しない!」

「してない……でも、あの攻撃は厄介だよな」


 投げた深紅の剣を回収したアレンは次の攻撃を警戒しながら紺碧の剣に意識を向ける。

 以前シエルに聞いた話では、魔法はイメージが大切だと言っていた。どんなに魔法の呪文を覚えた所で、結局のところ必要になるのは魔法のイメージで、呪文も魔法使いが魔法をイメージしやすくするための方法だと言いった。

 つまり魔法剣もそれと同じでどんな力を使いたいかと考え力を使いたいかと考えることで、まるでこの剣自身がアレンの身体の一部のように使う事が出来る。

 この剣の色がそのまま魔法の属性の色に関わっているのだとすれば、深紅の剣は今まで使っている通り炎の魔石を使って撃たれた魔法剣で、予想が正しいとすれば紺碧の剣は水の魔石を使って撃たれた魔法剣となる。


「これが本当に水の魔石なら、出来るはずだけど……やってみるしか、無いよな」


 確証はない。だけどなぜかできるという確信があったアレンは背後から襲い来る猿の攻撃をかわし、その場で回転しながら首を切り落すと深紅の剣から炎を出し、自分の周りに火をはなった。

 不可解なアレンの行動に次の矢で猿に狙いを定めていたシエルが問いかけた。


「アレン、何やってんの!?自殺!?」

「なわけあるかッ!ちょっと試したい事があるんだよッ!」


 炎の燃え盛る結界の中、アレンは紺碧の剣に意識を向ける。

 この魔法剣が本当にアレンの考える通り水を生み出す力を持つこの魔法剣なら水に関する力が使える。

 水もな石は派生して氷を生み出したりすることも可能なのは一般的に知られている。それがこの剣でも可能なら氷を、いいや何かを凍らせるような魔法も可能なのではないか?。そんな考えからアレンは剣の力を使った。

 剣の刀身にうっすらと水が現れたかと思うと、剣の刀身に集まった水が凍り剣の周りに霜が集まり出す。思った通りだと、心の中でつぶやいたアレンは、深紅の剣を振るい炎の結界をかき消すと同時にみんなに聞こえるように叫んだ。


「みんな、そこを動くな!!」


 何をするのかと誰しもが思う中、アレンは冷気を纏った紺碧の剣をわきに抱えるように構える。


「凍てつき、凍れ!」


 その場で回転しながら紺碧の剣に合わせるように現れた氷の斬撃。放たれた斬撃はフレンやシエルたちをよけて森の木々を凍てつかせる。

 自分たちを通り抜け木々を凍てつかせた魔法剣の力、これがいったい何になるのかと考えていると、突然凍り付いた木々の氷が砕けたかと思うと木の氷が砕け、中から猿が倒れるように抜け出す。

 どさりと地面に倒れた星獣たちは死んでいるのかと思たが、ピクピクと身体が微かに動いている様子からまだかろうじて生きているようだ。


「星獣を凍り付いてるのか?」


 星獣の元は生き物、ならば身体を凍らせればこうして動けなくなるのは当たり前かとフレンが思った。


「みんな!倒れた星獣を先に片付けるぞ!」


 アレンの言葉にハッとしたフレン達は目の前に倒れる星獣の首をお落とし、遅れてノエルのレイピアが猿の頭を貫き遅れてナイフを抜いたシエルも魔力で刃を強化し首に突き立てる。

 魔法剣の力で凍り付いた木々に同化することのできない猿たちは、一斉にアレンたちへと向かって襲いかかてくる。

 アレンとフレンが剣を振るい猿たちを倒すと、後ろに控えていたシエルとノエルも二人の側にやってきた。


「まだいるね」

「はい。ですが数は減りました。このまま押し切れば」


 勝てるとノエルが呟いたその時、抑揚のないアレンの声が聞こえてくる。


「シエル……あれ、あの奥にいる猿が持ってるあの剣、見て」

「えっ?……あっ…………そんな、うそ……?」


 唖然とするアレンとシエルに対して、二人はあの剣にいったい何があるのかと思っている。


「シエル、あの剣に何があるのですか?」

「あれ、おじいちゃんの剣……なんで、あいつが持ってるの!」


 行方不明になったアイザックの剣を持つあの星獣、その意味を察したアレンたちの怒りは凄まじく今にも斬りかかろうする。

 剣を握る猿に殺気のこもった視線を向けるシエル、そんな中ゆっくりと前に歩き出したアレンをフレンが止める。


「おいアレン、なにしてる?」

「なにって、決まってるだろフレン……あの猿を殺す」

「バカッ!待てアレン!!」


 止める間もなく剣を持った猿の方へと向かって走っていくアレンは、紺碧の剣に再び氷を纏わせて振り抜くと猿たちを凍らせる。空いた道を賭け抜けたアレンは左右の剣を肩に担ぐように構え、剣を握る猿に向かって振り下ろした。

 キィーンッとぶつかり合ったアレンと猿の剣、三振りの剣が火花を散らしあう中、アレンは真紅の剣に炎を纏わせる。するとビクッと炎に震えた猿が即座にアレンを蹴り飛ばす。


「きぃききぃいい―――――――ッ!!」


 猿の声が森の中に響くと森の奥から猿たちがぞろぞろと現れた。

 まだこんなに潜んでいたのかとフレンたちが思う中、剣を持った猿が逃げ出そうとする。


「逃がすかっ!」


 アレンがアイザックの剣を持つ猿を追うべく走り出そうとしたその時、背後からシエルの声が響いた。


「逃がすわけないでしょ!!──アース・ウォール!!」


 地面に手をつくと同時にシエルの魔力が大地に流れると、地面がせり上がり森の木々の高さをゆうに超える巨大な壁を作り出した。


「魔法、それもあんな広範囲に!?シエル、あなた何者です?」

「そんなの後!今は猿を!!」


 広範囲の魔法を使い猿を閉じ込めたシエルは、弓を構えなおそうとしたがふらっ身体を傾けて倒れかけると、ノエルが慌てって支えた。


「シエル、あなた魔力切れを起こしているのでは?」

「へっ、平気……それよりも、猿を」


 追撃を行なおうとしたシエルが震える手で弓を握ろうとしたその時、ノエルがシエルの肩に手を当ててそのまま座らせる。


「シエル、少し休んでいてください」

「えっ、ノエル?」


 どうするのかと、シエルがノエルの事を不安そうに見ていると、ノエルの側にフレンが並び立った。


「フレン、使います」

「俺に聴かずやれ、ノエル」

「はい」


 返事を聞いたフレンはノエルの準備が出来るまでの時間を稼ぐために猿の群れへと向かっていく。


「行きます」


 小さくノエルが呟くとノエルの身体から魔力が溢れ出した。

 何が起こるのかとシエルがジッとノエルの事を見ていると、ノエルの周りに金色の魔力が集まったかと思うと黒くきめ細かい髪が金色に輝き、それに合わせて耳が長く尖るように伸びる。


「ノエル……その姿、あなたエルフだったの?」


 エルフとはこの世界に住む種族の一つで、別名森人とも呼ばれる種族で数多いる人族の中で精霊族と並んで膨大な魔力、そして不死にも近いほどの長寿を有するとされる種族だったが、星降りの夜以降はその魔力量のせいで星獣によって同化されほとんどが命を落としたと聞いていた。

 シエル自身も人から聞いただけで実際にあったことは無いのだが、今のノエルの容姿は聞いたエルフという種族の特徴にとても酷似していた。


「残念ですが、私はエルフではありません。四分の一、エルフの血を引いているにすぎません」

「じゃあ、その姿は?」

「魔力を高めると一時的に肉体がエルフに近い容姿へと変化するんです。この姿が一番魔力を運用するのに適していますから」


 何だか納得いかないような気もしたが、獣人もある一定の条件下で肉体を変化させることもあるなんて話を聞いた事があったので、それと同じような物なのだと無理やり自分を納得させるシエルだった。


「どうするつもりなの?」

「どうするもなにも、まずはあの猿を片付けます」


 全身から魔力を放出したノエルは、自分を起点に無数の魔方陣が展開される。

 それを見たシエルは今度こそ本当に驚いた。


「魔法の多重構築を同時に……すごいわノエル」

「エルフの血を使った反則技で、あまり使いたくはありませんがね」


 展開した魔方陣を発動させるべく、猿と戦っているフレンに向かって叫んだ。


「行きますよ、フレン!──ジャッジメント・レイ!!」


 発動された魔方陣から現れた光の剣が猿に向かて一斉に放たれる。

 この魔法は太陽の光にも含まれる聖属性で構成されるこの魔法の光は、猿どもにとっては力を奪う破滅の光でしかない。

 打ち出された光の剣は逃げ惑う猿たちを追い、その胸元に突き刺さると光の剣が猿どもの体内から突き刺し絶命させる。

 猿どもが一斉に倒れたのを確認したノエルはあたりに猿がいない事を確認すると、フレンに向かって叫んだ。


「フレン!残り一匹です!」

「分かってる!」


 ノエルの言葉に返すように叫んだフレンが剣を握ったの星獣と戦うアレンの元に駆けるのを見送ったノエルは、ゆっくりと身体から力が抜け倒れる。

 全身から魔力が抜け尖ったエルフの耳が短くなり、金色の髪も元の黒髪へと戻った。


「ノエル。元に戻ったのね」

「あの姿は………魔力を多く使うので、あまり使いたくないんです」


 顔色の悪いノエルを見て本当に魔力の消費が激しいのだと思ったシエルは、後はあの二人がどうにかしてくれると信じてみ見守っていたのだが、事態は急変した。

 突如フレンがアレンを殴り飛ばし、戦いの場にふさわしくない喧嘩を始めてしまったではないか。


「何やってんの!あのバカ二人は!!」

「本当に、バカみたいですね」


 なぜフレンがアレンを殴ったのか、その理由は何となくだが理解できる。そして、そんなアレンを救えるのはきっと、ノエルの側で怒りを露わにする少女しかいないのだろう。


「……シエル、手を出してください」

「えっ?あっ、うん」


 差し出すノエルの手を取ったシエルは、自分の中にノエルの魔力が流れてくるのを感じる。

 今まで感じていた倦怠感が抜け、立ち上がれるまでに回復したシエルは蒼い顔をして地面に座り込むノエルに訊ねた。


「なんで、魔力をくれたのよ?」

「今のあなたにとって、魔力は必要でしょ?」

「えぇ、必要ね。あのバカは、一発殴らなきゃ気が済まないから」

「では早く行って、あの二人を止めてきてください。それで、星獣を倒してくださいね」

「えぇ……ありがとう、行ってくるわ」


 弓を握りなおしたシエルがアレンとフレンの戦う場所に向かってかけていくのだった。


 ⚔⚔⚔


 アイザックの剣を握る猿と戦うアレンの動きはいつにもまして荒々しく、普段を知っている誰かが見たら口をそろえて冷静さを欠いている、そう言われてもおかしくない。


「逃げるなッ!!」


 木々の合間を縫って逃げ隠れしながら戦いを避け続ける星獣、その後を追い続けるアレンは加速し背後を取った猿の首に向かって剣を振るったが、剣が星獣の首に触れるよりも早く身をかがめかわす。

 振り抜かれた剣が木の幹に食い込み、追撃が封じられた。


「キキィッ!」

「クッ!?」


 この隙を見逃さずに斬りかかろうと向かってくる星獣、対するアレンは剣を捨てて紺碧の剣で星獣を迎え撃つことは考えない。


「燃え上がれッ!」


 抜けなくなった深紅の剣に炎を込め力任せに剣を振るい食い込んだ木を切り倒すと、回転しながら深紅の剣から溢れ出した炎で星獣を後退させる。


「キィッ!?」

「ゥオアアアァァァ―――――ッ!!」


 逃げた星獣を追うように地面を蹴り紺碧の剣を振り下ろすが、星獣の握る剣が下からアレンの剣をはじき返した。


「クソッ!!」


 剣を弾かれたアレンが忌々しそうに声を荒げると、星獣は剣を頭上に構え振るおうとした。しかしアレンは引くのではなくあえて前に出て振り下ろされようとした剣に向かい紺碧の剣を振り抜いた。


「ウォオオオオオォォォッ!!」


 剣が弾かれた星獣が大きく吹き飛ぶと、駆け出したアレンの蹴りが起き上がった星獣の胴体を蹴り飛ばした。


「ギギャギャ!?」

「まだまだッ!」


 後ろに下がった星獣に対して、ここで攻撃をやめるわけにはいかないアレンは前に踏み込んだ。

 振り上げられた左右の剣を同時に振るい空を切ると、深紅の剣の炎と紺碧の剣の水を刃のようにして星獣目掛けて放ったが、猿の身軽さから難なくかわした星獣はアレンの方へとに向かって来る。

 相手が来るならとアレンも迎え撃つべく駆けると、初激は真紅の剣と星獣の剣が重なり合ったが、星獣の振るう剣の重さに剣が弾かれてしまった。


「させるかッ!」


 だがアレンの剣はまだもう一本ある。

 続けざまに紺碧の剣を振るおうとしたアレンだったが、それよりも早く星獣の剣が振るわれる。とっさに紺碧の剣を掲げて防いだアレンだったが、二振りの剣は火花を散らして重なりありゆっくりと、だが確実にアレンの方へと押されていった。


「クッ……グッ!」

「キキキッ!」


 苦悶の表情を浮かべるアレンと、それを笑ってみている星獣。

 猿の魔獣をベースにしている星獣の力は、人間のアレンを簡単に抑えつける力を持つ。押し返そうと力を籠めるアレンだったが、星獣は更なる力で剣を押し戻しついに片膝をついてしまったアレンは、このままでは不味い。


「グッ……このッ!?」


 そう考えながら少しでも注意がそれてくれるならと真紅の剣に炎を纏わせ、闘気で筋力を強化し星獣の剣を押し返すと斜め下から真紅の剣を振り上げる。

 しかし振り抜こうとしたアレンだったが、それよりも早く猿の足がアレンの手首をがっしりと掴み取った。


「なっ!?」

「ききぃー!」


 まるでさせないよとっとでも言っているかのように笑った星獣だったが、それでも関係ないとアレンが炎を放とうとしたその時、猿によって掴まれた手首がミシッと音を立てて軋み、鋭い痛みがアレンの全身を貫いた。


「クッ、これは!?」


 不味いと思った時には遅かった。

 締め上げられ剣を握る手から力が抜け乾いた音と共に深紅の剣が地面に落ちたが、星獣は止まらない。握りしめられた腕に込める力がさらに強まる。

 このままでは本当に折られると思ったアレンは、紺碧の剣に氷の冷気を纏わせて振り抜こうとしたが、星獣はそれを許さない。

 猿の腕力からなる強力な一閃によって紺碧の剣が弾き飛ばされる。

 カランッと音を立てながら遠くに飛ばされてしまった紺碧の剣、これはいよいよ不味いと思ったアレンの目の前で星獣がイヤらしく口元を釣り上げて笑っていた。


「クソッ!?」


 目の前に立ちはだかり笑みを浮かべる星獣、その手に握りしめられた剣を頭上高く振り上げられたアレンの表情はこわばった。

 今この状態で剣を振り下ろされれもしたら確実に死ぬ。

 どうにかする方法はないのかと心の中で思いながら振り下ろされそうになる剣を睨みつけたその時だった。


「動くなよ、アレンッ!」


 ザンッと鋭い風切り音と共に振るわれた剣が星獣の足を斬ろ落とす。

 腕を絞めつけられるちからがぬけた、そう思ったとすぐ後に星獣の足を斬った誰かに肩を掴まれたアレンは後ろへと投げ飛ばされた。


「うわっ!?」


 地面を転がったアレンは腕の痛みに顔をしかめながらも、どうにか身体を起こし自分を投げ飛ばした誰かを確認するべく顔を上げる。


「このっ、いったい誰がって───フレンか?」


 顔を上げたアレンの視線の先にいたのは刀を構えたフレンの姿があった。

 一瞬フレンと視線があったと思ったアレンだったが、次の瞬間にフレンは片足を失った痛みで暴れまわる猿を蹴って強制的に引き離した。

 蹴り飛ばされた猿がシエルの作り出した壁にまで吹き飛ぶと、猿の鳴き声を背にしたフレンは落ちていた真紅と紺碧の剣を拾い上げると、地面に倒れたままでいたアレンの目の前に二振りの剣を突きさした。


「ったく頭に血が上って、ひとりで突っ走ってやられそうになってるんじゃねえ、このバカが」

「……フレン」


 言い返す言葉が無かったアレンは腕に残された猿の足を無理やり引きはがして投げ捨て、剣を掴もうとしたが右手に力が入れらずにうまく握れなかった。

 腕に痛みはあったが折れている居た身とは違う。

 一次的な物だろうが右手が使えないのはまずいと思ったアレンに、背を向けて猿を睨みつけていたフレンが問いかけた。


「折れたか?」

「いや、大丈夫」


 これでは戦えないと思ったアレンは仕方がないと服の袖を破くと、力の入らない手に剣を握らせ零れ落ちないようにしっかりと縛った。

 それを見ていたフレンはアレンに問いかけた。


「お前、その怪我でまだやる気か?」

「当たり前だ。あいつは僕が殺す……ザクじいの仇だ」


 アレンが猿の星獣を睨みつける目にはどす黒い殺意が見える。

 それは憎しみであることが理解できるフレンは、ギリッと奥歯を強く噛みしめる。


「おいアレン……ちょっとこちっち向け」

「なんだ?」


 フレンに呼ばれて振り返ったアレンだったが、次の瞬間鋭い痛みが左頬を走りそのまま地面に倒れていた。

 いったい何があったのか、そんなのフレンに殴られたせいのほかなかった。


「テメェ、何しやがるッ!」


 どうして殴られたのか、その理由が分からないアレンは怒りを込めた目で自分の事を見下ろすフレンを睨みつける。、

 その視線の意味を理解していたフレンはアレンの胸ぐらを掴むと自分の方へと引き寄せた。


「何で殴られたか分からないって顔をしてるな?」

「当たり前だろ!」

「なにって、死に急ぎそうなバカを止めるために殴ってやったに決まってんだろうが!」

「死に急いでる?僕が?」

「冷静になれ、でねぇと敵を討つ云々の前にテメェがやられるだけだぞ!」

「冷静って……なれるわけないだろ!」


 胸ぐらを掴んでいたフレンの手を払いのけたアレンは左手でフレンの顔を殴りつける。


「ザクじいは、僕にとって家族だったんだ……家族を殺されて、仇を前に冷静になんてなれるか!」

「仇を取るためにテメェが死ぬ気かッ!」

「死んだっていいさ。それで奴を殺せるなら、僕は喜んでこの命をくれてやる」

「それで、テメェが死んでどれだけの奴が悲しむか、それを分かってんのか!」


 フレンとフレアが言い合いをしているその時、地面が揺れ土がせり上がった。


「ッ、なんだ!?」


 揺れる地面を見つめながらフレンが叫んだ瞬間、地面を割って飛び出してきた巨大な根っこが二人を持ち上げる。

 せり上がってきた巨大な根が蠢き、その上にいた二人を勢いよく空へと投げ飛ばされた。


「ぅわああぁぁぁぁぁっ!?」

「ゥぉおおおぉおおおっ!?」


 空中へと放り投げられた歳に感じた浮遊感から叫び声をあげた二人は、空中で身体をひねりながら真下へと視線を向けるとフレンに足を切り落された星獣が木に手をつきこちらを睨んでいた。


「あの野郎ッ!」


 空中に放り投げられた二人が体勢を整えようとしたが、それよりも早く星獣が動いた。

 地面が割れ更木巨大な根が現れる二人を殺すべく迫りくる。


「ふざけんなッ!」


 足場のない空中、剣を振るうことも難しいこの場所ではアレンたちは簡単に嬲り殺されるだけだ。


「おい、アレンッ!」

「なんだよ、フレン!」


 名前を呼ばれたアレンがフレンの方へと顔を向けたその瞬間、フレンは剣を構えていたアレンの手を掴んだ。


「───ッ!?お前、何をッ!?」

「テメェが殺るんだろ!」


 闘気で地面を蹴ったフレンは掴んだアレンを投げ飛ばした。


「うわっ!?」


 ぶぉんッと風を切る音と共に投げ飛ばされたアレンは、無数の根の暴力がフレンの元に迫りくるのを見てアレンは声を上げて叫んだ。


「───ッフレン!!」


 投げ飛ばされたアレンの眼には木の根に押しつぶされるフレンの姿が映ったのだった。

 

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