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いつもの日常

 ガルシア家に居候がやってきてから一夜明け、昨日のハードな畑仕事の疲れのせいでいつもより少し遅めに起き出したアレンは、静かな家の中で朝食を食べていた。

 両親は朝早くにフレンを連れて何処かへ出掛けてしまったので、一人の残り物を食べながら今日は何をしようか考えていた。

 畑仕事も昨日のうちに出来ることは終わらせたため、しばらくは水やりを忘れなければ大丈夫。家の方もこれと言ってやることはないので、今日は一日好きに使って良いのだ。

 何をしようかと考えながら最後のひと口を飲み込んだアレンは、食器を片付けようとしたところで玄関の扉が開き誰かが家の中に入ってくる。

 初めは両親のどちらかが帰ってきたのかかと思い声をかけようとしたのだが、続いて聞こえてきた声にアレンの表情は一転した。


「おぉ~い、アレェ~ン。起きてる~?」

「うげっシエル!?朝から何しに来たんだよ!?」

「何よその言い方は!せっかくかわいい幼馴染が遊びに来たっていうのに」

「ハイハイ、すみませんね」


 謝りながら集めた食器を片手に玄関に出たアレンはげんなりとした表情でシエルを出迎えたが、すぐに表情が一変した。

 なぜなら玄関の外にいたシエルは珍しくワンピースなんて着ている。

 普段とは違うシエルの姿を見て、アレンは素直な感想を述べた。


「シエル、ワンピース似合ってないな」

「ねぇアレン。自殺願望があるんなら先に言いなさいよ。待ってて、今短剣取ってくるから」

「やめろっての!冗談にいちいち物騒だな!?」


 シエルなら殺りかねないので、アレンが必死に叫ぶがシエルの目は冷酷なまでに冷めきっていた。


「何がやめろよ、あんたが変なこと言うからでしょ?なにさ、あなただって毎日似たような服ばっかり着てるくせに!」

「僕の服は関係ないだろ!?それと僕が言いたいのは、いつものほうが似合ってるってことだ!」


 アレンが似合っているというシエルの服装は、ショートパンツに麻のシャツが普通だ。ちなみにアレンは灰色や黒などの色の暗い服をよく好んでいる。

 それはそうとて、女の子であるシエルからするとやはり女の子らしいスカート姿を馬鹿にされているのにほかならない。


「なんか、褒められてるはずのに褒められた気がしないんだけど?」

「褒めてる褒めてる。それに、なんだかんだでアクティブなシエルにスカートは似合わないって」

「あっ、今の言葉は流石に許せないわね。やっぱ殺す」


 今のアレンの言葉でプッツンきたシエルの目が妖しく光ると、揺れる炎のようにユラリとアレンに接近し背後を取ったシエルは、ジャンプしてヘッドロックでアレンの首を締める。

 しかし、いくら首を絞めたところで女の子の腕力、そう簡単に締まるはずもないだろうと高をくくったアレンだったが、次の瞬間思いもよらない力で首を絞められる。


「ぐげっ、シエ……ル、やめ、死ぬッ!?」

「死にたいみたいだからきっちり殺してあげるわ。女の子をバカにした報いをうけなさい」


 グギギッとその細腕からは考えられないほどの力でアレンの首を締め上げる。


「なっ、なん……でっ!?」


 なんでこんなに力が強いのかと、締めれながら考えたアレンだったが即座に魔法で腕力を上げているんだと思い浮かぶが、このままでは本当に死ぬ。

 速くなんとかしなければと思いながらも、食器を片手に持っているのと後ろに重心を持ってかれているせいで反撃ができない。


「あっ、やば……いし、き……とぶ」


 っと本当に意識が飛びそうになったところで、自分も闘気で首周りを固くして守ればいいのだということを思いついた。

 それを思いついたアレンは早速闘気と使うと、一瞬だがアレンの身体からオーラが溢れ出す。

 闘気このオーラのことで魔力とは別の力だ。

 魔力を媒介として現象を引き起こす魔法と違い闘気は体内で巡らせ身体能力を向上させたり、物体に纏うことで強度を上げたりする事ができ、魔力と同じで限られた人だけが持つ力でもあった。

 首元に力を込めながら闘気でさらに硬質化させると、締めても力が入らないことを感じたシエルが忌々しそうにアレンのことを睨みつけた。


「チッ、闘気で首硬くしたわね」

「まだ死にたくないからな。んで、いい加減手を離せ。そんで、朝っぱらから何しに来たのかも教えてくれ」


 まだアレンのことを恨めしそうに睨みつけたシエルだったが、これ以上は何をしても無駄だと思い手を話したがこのまま終わるのも癪なので最後にアレンの脛を蹴った。

 思いっきり脛を蹴られたアレンは器用に食器を持った手を上げながら蹲る。


「シエル……めっちゃ、痛いんだけど」

「次にあんなこと言ったら本当に殺すからね」

「ハイハイ、それより上がんなよ。すぐにお茶入れるからさ」


 シエルを軽くあしらい中へと招くと持っていた食器を水の入ったタライに入れ、今度は飲水の入った瓶からポットに水を入れる。

 そこまでしてからシエルの方にアレンが向き直った。


「いつもの薬草茶でいいか?」

「えぇ。おばさんの薬草茶、美味しいから私好きよ」


 暖炉に火を付け水の入ったポットに火をかける。

 その間にシエルが好んだ薬草茶をティーポットに入れて待っている間、アレンは自分の食べた食器を洗いながらお湯が沸くまで待っている。


「それで、何しに来たんだよ?」

「暇だったから、お母さんも朝から出掛けちゃったから遊びに来たのよ」

「ふぅ~ん……あっ、そういえばシエルの家にも誰か来た?」

「あぁ。うん。ノエルって娘、黒髪で結構な美人さんだったわよ」

「美人さんねぇ。あっ、じゃあ昨日のクルトが言ってたのってそのノエルってこの娘とか」


 昨日の夕方のことを思い出したアレンが呟くと、またしてもシエルの目が怪しく光った。


「ふぅ~ん。可愛い幼馴染より、よそから来た美人な娘の方がいいの。やっぱりアレンも男の子なのね」

「だから違げぇっていってんだろ!」

「どうだか……それで、アレンの家も誰か泊まってるんでしょ?」

「あぁ。フレンって名前なんだけど」

「どんな子なの?」

「さぁ、昨日ちょっと話をしただけなんだけど、僕らとあんま変わらない感じだったな。あとは、なんでかわからないけど四六時中仮面で顔を隠してる」

「なにそれ、変わってるわね」


 正直な感想を述べているシエルにアレンも同意していると、火に掛けていたポットから音がなったので一度席を立ちお茶を淹れてからカップをシエルの前に置く。


「はい、どうぞ」

「待ってました~」

「あっ、待って。確か野いちごのジャムがあったと思う」


 棚の中を漁って目的のジャムを見つけたアレンは、小皿にジャムを取り分けてシエルに渡した。


「ありがと、それじゃあいただきます」


 ジャムを一匙掬いお茶の中に入れたシエルは、少し冷ましてから一口お茶を飲んだ。

 数種類の薬草とハーブからなるこのお茶は、清涼感があって好きだ。そこに野いちごの酸っぱさも加わり、そのまま飲むのと違った美味しさがあってこれはこれで良いものだとシエルは思った。


「しっかし、フレンとノエルね。なんか僕らと名前似てるよな」

「それ思った。でね、ノエルに聞いたら私の名前と由来が一緒だったのよ」

「シエルに名前って確か………創世神の一人で慈愛の女神ノシュエールだったか………?」


 創世神、この世界を作り出したという神の話は子どものときによく聞かされた物だ。

 そんなお伽噺を思い出しながらアレンが問いかけると、シエルは肯定するように首を縦に振った。


「そうそう。それでノエルもノシュエール様が名前の由来だそうよ」

「へぇ~、そういえば僕の名前って、由来とか聞いたことなかったな」


 お茶を飲みながらしばらく話していた二人だったが、お茶しながらおしゃべりしていてもすぐにネタが尽きてしまった。

 このままダラダラと家にいるのももったいないということになり、二人で出かけることにした。


「それでどこに行く?」

「そうね。私、教会に行きたいんだけど」

「構わないけど、なにシスターにさっき僕の首絞めたこと懺悔でもするのか?」

「違うわよ。前にシスターに頼まれごとされてたの思い出したのよ」

「そう。いいよ。暇だし」


 そんなわけで、二人で教会まで歩いていく道すがら昨日までは見かけなかった若い子が何人か村の人の仕事を手伝っていた。

 あれが噂のフレンたちの旅の仲間かと思う一方で、全員が成人前か成人を過ぎた年頃でなぜ旅をしているのか、なんの目的で旅をしているのか、そんな疑問が浮かんだが聞いたところでアレンには関係ないことだ。

 どうせ、そのうちに彼らは出ていく。深く問い詰めところで出ていかれてはそれで終わりだ。


 それに、なんだか彼らの周りの大人たちの視線がおかしいような気がしたアレンは、何かあったのかと少し気になっていると、後ろから襟を掴まれた。


「うげっ!?なにすんだよ!」

「なにすんだじゃないわよ。あんたどこいくきよ?」


 呆れたように腰に手を当てたシエルが指差す方を向くと、そちらに教会が見えた。


「こっちでしょ」

「あっ、悪い。ちょっと考え事してた」

「まぁそんなことだと思ったわよ」


 何を考えていたかは聞かないシエルだったが、代わりにこんな質問を投げかけた。


「ところで、今更だけどなんで剣なんて持ってきたのよ」


 今更ではあったがアレンの両腰には剣が下げられており、教会に行くにはふさわしくない。


「剣もってるのはいつものことだろ。気にすんなって」

「そんなんだから毎回シスターに怒られるって、あんた自覚してるの?」

「気にしない、気にしない」


 教会へと続く道を歩いていくと、ようやく小さな教会が見えてきた。

 この地で信仰されるされている宗教は創世教と言われ、世界を創生した五人の女神と主神イグレシアスを信仰する。

 ちなみにアレンもシエルもそこの信者というわけではないが、この宗教はあまり細かいことを気にしないというよりも、創造神を信仰する関係か信者でなくても受け入れてくれる。


「教会、久しぶりに来たな」

「あんたが来ないのは、シスターに怒られるのが嫌だからでしょ」


 図星を言い当てられたアレンが言い淀む。

 小さい頃は年の近い子達と一緒に文字を教えてもらったり、色々迷惑をかけたこともあった。

 そんな思い出のある教会へと足を運んだ二人は、中から聞こえてくる子供たちの声が聞こえてくる。

 誰か知らなかにいるのを確認したアレンが、教会の中へと入ろうとした扉に手を伸ばした矢先、教会の扉が開いてアレンの顔面を直撃した。


「へっ───ぐへっ!?」

「えっ!?あぁ!?ごめんなさい!?」

「うわぁ~痛そ………じゃなかった!アレン平気!?」


 思いっきり鼻を強打して地面を転げ回るアレンを心配そうにしているシエルだった。

 心配そう、ではなく面白いものを見るように笑ったシエルは、アレンにこんな事をした張本人である年の若い修道女を見ると、先程までの慌てた様子から一転、驚いた顔をしていた。


「あらアレン。それにシエル。どうしたの?」

「やっほーミカ姉。前に頼まれたお手伝いに来たわよ」

「あら!ありがとうシエル、さぁさぁ中に入ってくる」


 シエルからミカ姉と呼ばれた修道女は、顔面を抑えてうずくまっているアレンのことをきれいに無視すると、シエルを中へと招き入れようとした。

 しかしその時、痛みから回復したアレンが叫ぶ。


「待て待て待てッ!二人して僕を無視するよ!」

「あっ、起きた」

「全くなんでそんなところで寝ているの。風引くわよ?」

「寝たくて寝れねぇよ!ってか、そもそもミカ姉のせいだろ!」

「あらそうだったわね。それじゃあ───ヒール」


 短い詠唱と共にミカと呼ばれた修道女も手に魔法陣が展開される。

 魔法、魔力と引き換えに超常の力を発揮する力で、魔法の他に魔導や魔術なども存在するがシエル含めて数人この村には魔法使いがいるのだが、魔法以外の術は知らないそうだ。

 ミカが使ったのは治癒魔法でその名の通り打ち身や切り傷などを治療するときによく使われる術だ。

 魔法の輝きが消えると痛みは引いた。


「もう大丈夫でしょ?さぁ、中へ入って」

「いや先に謝れよ!人としてさ!」

「そうだったわ。ごめんねアレン。これでいい?」

「なんか雑いけど、もういいやツッコムの疲れた」


 諦めに入ったアレンはどうでも良くなったので二人の後を追って中へ入る。

 教会の中では村の子どもたちがもう一人の修道女から本の読み聞かせをしてもらっているところだった。

 修道女はアレンたちのことに気づくと、読んでいた本を静かに閉じた。


「みんな。今日はここまでよ」

「「「はぁーい!」」」

「それではさようなら」

「「「さようなら〜!」」」


 修道女へ挨拶をして教会を出ていく子供たち、途中アレンたちに気づいた子どもたちが遊ぼうと寄って来たが、シエルがシスターに用事があると言うとみんなは諦めて帰っていった。


「よく来てくれましたねシエル。それにアレンも、相変わらず元気がいいみたいですね」


 壮年に差し掛かったような妙齢の修道女はにこやかにアレンのことを見て微笑みかける。

 しかしアレンはまるでイタズラが見つかった子供のように、バツの悪そうな顔をしてなら口を開いた。


「シスターそれじゃあ僕が暴れん坊みたいじゃん」

「合っているでしょうに、昨日も村で暴れ回っていたそうではありませんか?」

「あれはシエルが………もうやめましょうこの話」

「そうですね。ところでシスター・ミカエラ。あなた往診の時間ではありませんか?」


 ミカエラとはミカの本名なのだが、妙齢の修道女からそう尋ねられたミカエラは、あっと声を上げて慌ててお辞儀をする。


「シスター・レジーナ!こより往診に向かいます!」

「はい。行ってらっしゃい」


 脱兎のごとく走り去っていくミカエラ、あの時外に出たのはそういう理由だったのかと思った。

 一応言っておくと、この教会では治療院のようなこともやっており、時折シスターの誰かが──とはいえ二人しかいないが──村の人達の家を回って治療を施すのだ。

 さて妙齢の修道女改シスター・レジーナは、二人の方へと向き直った。


「さてアレンはその剣の事を言いたいですが、まずはシエル。せっかく来ていただいたのですが申し訳ありません。あなたに頼もうと思っていたことは、すでに別の子に頼んでしまいまして」

「そうなんですか」

「はい。しかし、アレン。あなたは少し手伝いなさい」

「うへっ、なんで僕だけ!?」

「言いつけを破り剣を持ち込んだ罰です」

「だから言ったじゃん」


 今から剣を外して外においても遅いだろうと思いながらも、甘んじてその罰を受けようと決めたアレンは小さく頷くとレジーナの指示の下、作業を始めるのだった。


 ⚔⚔⚔


 カンカンカンッとリズムよく打ち付けられる金槌、アレンは今シスター・レジーナの指示で壊れた教会の屋根の修理をしていた。


「まさか、君もいるとは思わなかったよフレン」


 金槌で板を打ち付けていたアレンは別の場所を直しているフレンに声をかける。


「一応村に厄介になってる身だ、仕事があるならやるさ」

「いい子だね、僕だったら絶対に怠けるな」

「うるせぇ。喋ってねぇで手を動かせ」

「はいはい。あっ、フレンそこの釘取ってくれ」

「ん?あぁ……ほれ」

「うん。サンキュー」


 カンカンカンッと釘を打つ音だけが木霊するなか、教会の中ではシエルとノエル、それにノエルの旅の仲間である女の子二人が作業場でレジーナの指示で村で使う常備薬などを作っていた。


「まさかノエルもいたなんてね」

「厄介になってる身ですし、食料もいくらか分けていただきますから」

「働き者だねぇ~。ところでそっちに二人はなんてお名前なの?」


 女の子二人はどうも双子のようで、赤毛と茶髪の髪をそれぞれの左右で縛っている。


「私はリルア」

「私はリリア」

「双子、なんだよね?何歳なの?」

「「十二歳です」」

「あら。息ぴったり。でも十二歳か、旅は大変じゃなかった?」

「平気です」

「ちゃんと鍛えてますから」


 十二歳の子供がこんな事を言うとは、本当にこの子たちはどこから来たのだろうかと考えたが、あまり聞かないほうがいいだろうと思いシエルは作業に戻る。

 しばらくしてレジーナがシエルたちの様子を見に来た。


「みなさん、作業は順調ですか?」

「はい。目標の量はすでに終わってます」

「流石にこの人数では早いですね。それにシエルもありがとう、結局手伝ってもらって」

「良いですよこれくらい。それに元は私が手伝う予定だったことですし」

「それは助かります。さてみなさんそろそろミカエラも戻る頃です。お茶でも入れて休憩しましょう」

「じゃあ、私アレンを呼んでくるわ」


 パタパタッと小走りで外へ向かっていくシエル。その途中、なにか激しい打ち合いをするようなそんな音が聞こえてきた。


「この音、絶対に修理してる音じゃないわよね?」


 呆れ顔になりながらシエルは駆け足で外に出ると、屋根の修理をしていたはずのアレンと見知らぬ黒髪の少年が県を打ち合わせていた。

 一瞬誰だろうと思ったシエルだったが、少年の顔に仮面が付けられているのを見つけ、あれが先程アレンから聞いたフレンなのだろうと思った。


「あの二人、仕事せずに遊んで………にしても、あのフレンって子、アレンとまともに打ち合えるのね」


 剣は専門外なシエルであったが幼い頃よりアレンのことを見ていたため、ある程度その実力は知っている。村の守り手であるアイザックの指導の元、アレンの剣の腕は子供ながらに大人を圧倒する。

 それは決して才能ではない。幼い頃のある事件のあとからアレン自身が血の滲むような特訓の末、身につけた成果であり努力の結晶だ。

 それと平然と打ち合っているフレンとは何者なのだろうかと、そんな疑問をいだいたシエルだったがすぐにどうでもいいかと思った。


「今日くらいは大目に見ますか………あんな楽しそうなアレン、久しぶりに見るし」


 教会の階段に腰を下ろしたシエルは微笑みを浮かべながら楽しそうに剣を撃ち合うアレンの姿を見守るのであった。


 ⚔⚔⚔


 時間は少し遡りシエルが来る前、予定よりも速く修理が終わった二人は道具の片付けと掃除を終わらせた。


「うぅ~ん。意外と速く終わったな」

「二人でやったからな……ところで、その剣はお前のか?」


 フレンは立て掛けてあった二振りの剣を指さしながら尋ねる。


「あぁ。そうだよ。これでも僕、有事の際の戦闘要員だからな」

「ってことは、腕はかなりのもんってことか?」

「それなりにはね。ためしてみるか?」

「おもしれぇ………っと言いたいところだがあいにく得物が手元にねぇんだ」

「僕ので良ければ一本貸すぜ」


 差し出された剣を見てフレンは口元を小さく釣り上げると、差し出された剣を受け取った。


「相手してやるのはいいが、良いのか?」

「そっちも自分の獲物じゃないんだ。これでイーブンだろ?」

「だったら、負けても文句は言うんじゃねぇぞ」


 スチャッと両手で握りしめられた剣を構えたフレン、対するアレンは地面に落ちていた小石を拾い上げる。


「開始の合図はこれでいいか?」

「任せる」

「じゃあこの石が地面に落ちたら開始で。あっ、そういえば、フレンって闘気か魔力どっちかもってるの?」

「闘気だが」

「あっ同じだ。けど、今回はなしで行くか」

「それで構わねぇぞ」


 ルールを決めたアレンは少し後ろに下がると、フレンの方へと振り返り片手に持った小石を空高く放り投げると、身体を半身で構える握りしめた剣を片手で持ち上げる。

 投げられた小石が地面に落ちたと同時にアレンは地面を蹴ってフレンの元へと接近する。

 片手に持ち直された剣を左下へと切っ先を向けたアレンは、自分の剣の間合いに入ったと同時に剣を振り抜くとフレンの剣がそれを正面から打ち付ける。


「速ッ!」

「重ッ!」


 一撃の速さと重さを求めた一撃をフレンは容易に合わせてきたどころか、完全に奇襲になったと思った一撃を合わせてくるフレンの剣の速さに驚くアレン。

 たいするフレンも開始と同時に踏み込んできたアレンの脚力、そしてただの振り上げだと思った一閃を受け止めた腕が痺れるほどの衝撃に驚いたフレン。

 たった一合の打ち合わせ、だが二人はお互いこれだけで確信できた。

 こいつは強いと二人が思うと同時に、ニッと口元を釣り上げると二人は同時に打ち付けた剣を振り抜くと、アレンよりも速く振り下ろされた剣を振り上げるが、後ろへと飛びのいて距離を取ったアレンは助走をつけて斬りかかる。

 突撃と同時に切りかかったアレンだったが、フレンへと振るわれる剣はことごとく打ち返される。

 頭上に掲げられた剣を振り下ろしたアレンだったが、フレンは頭上で水平に掲げて剣で受け止めるとそのまま力を逃がすように剣を傾けていなした。

 前のめりになって倒れそうになったアレンに向けて、横へ動いたフレンが剣の切っ先を突き立てようとするがアレンはわざと地面に倒れると、フレンの脚を狙って剣を振るう。

 脚を払われそうになったフレンは攻撃の大勢を解いて真上へと飛ぶと、空中から全体重を乗せた振り下ろしを放った。しかし、アレンは地面を転がって剣をかわした。

 振り下ろされたフレンの剣は地面を激しく打ち付ると、地面を斬りつけながら地面を転がったアレンを追って剣を振り上げると、体勢を整えれなかったアレンは振り抜かれそうな剣を前に片手で地面を強く叩き、空中へと身体を持ち上げる。

 身体を浮かしたアレンは身体を捻って下から振り上げられたフレンの剣を受け止める。

 空中に浮かんだことと斬りつけられた反動を活かして後ろへと下がったアレンは、剣を軽く振って構え直した。


「随分とやるじゃねぇか」

「そっちこそ、なかなか容赦ない攻撃してくるじゃん!」


 楽しいと二人が思いながら、もう少し力を出してもいいかと思い全身から闘気のオーラが立ち上ったその時、バシャンっと頭の上から水がかけられた。


「うっわ、冷たッ!?」

「何だこの水?誰がッ!?」


 頭から水を被った二人はこんなことをやった人物を探すべくあたりを見回すと、呆れ顔で立っているノエルと居心地の悪そうに顔を背けるシエルの姿があった。


「いったい何をしているんですかフレン」

「ノエル。お前か、この水は?」

「そうですが何か?」

「いや、なにも」


 いたずらがバレた子供のように顔を背けるフレンをみて、何だこれはっと思っているアレンだった。


「ん?ノエルってことは、あの娘がシエルの家に居候か」

「えぇ。そうよ」

「あっ、シエル。なんで気まずそうな顔してんの?」

「ちょっと色々あって……それより、濡れた服乾かすわね───フレア・エア」


 魔法の詠唱をしたシエル、掲げられた掌に魔法陣が描かれたかと思うと温かい熱風が濡れたアレンに吹き荒れる。


「おっ、乾いた。サンキュー」

「いいわよ。それより中入ってお茶にしようって」

「やった」


 喜ぶアレンは横目でノエルに怒られるフレンの姿を見てから、終わったら勝手に来るだろうと教会の中に入っていく。


 結局二人が中に入ってきたのは往診から戻ってきたミカエラがやってきてからであった。

 シスター・レジーナとお茶をした後、別の仕事を探すために村長宅に向かった二人と別れたあとも、アレンとシエルは教会で読書をして時間を過ごした。

 教会を出たのは日が暮れた頃だった。


「ん~、なんか、結局今日も働いたな」

「普通はこんな物よ……ところでアレン、明日の予定は?」

「明日?そういえば、薪割り頼まれてたっけ」

「じゃあその後は暇よね、その後ちょっと手伝って」

「いいけど、何をだよ?」

「冬に備えてじゃがいも植えるから、整地場所の下見に──って逃げるなッ!」


 逃げ去るアレンを追っていくシエルは、走り去るアレンの後ろ姿を見ながら叫んだ。


「待ちなさいアレン!こらッ!!」

「勝手に僕を巻き込むな!今ので十分だろ!」

「ちゃんとおじさんたちの許しはもらってるのよ!」


 それならもうダメかと諦めたアレンは、大人しく立ち止まる。


「分かった。付き合う、付き合いますよ」

「よろしい……ところでアレン。今日は楽しかった?」

「えっ?……あぁ、うん。久しぶりに、本当に楽しかった」


 一緒に剣を打ち合わせる人がいるのは面白い、まるであのときに戻ったようだと思ったアレンは、ふと隣でこちらを見ていたシエルの視線に気づいた。


「なんだよ、どうかしたのか?」

「いい顔してるなって思っただけよ」

「何だよそれ?あっ、ちょっとシエル!?」

「なんでもないわよ」


 走り去っていくシエルとそれを追うアレン。

 日の暮れる村の中を、二人に声がこだまするのであった。

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