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初任務と貴族の少女

 訓練を終え正式に衛士隊へと配属が決まったアレンとシエルは、副隊長のソニアより任務を仰せつかることになった。


「それではこれよりあなたたちへ受けてもらう任務の説明を始めるわ。まずは二人とも、ここ資料を読んでもらえるかしら」


 隊舎の会議室に通された二人は、この場にいるキラとソニアの姿を順に眺めてから置かれていた資料を手に取って中身を確認する。

 資料に書かれているのはとある貴族の調査資料だった。

 名前はセレスティナ・ヴァル・ウェストラング、歳はアレンたちの一つ下で十四歳。七年前、ウェストラング当主である両親が事故に巻き込まれて亡くなり、弱冠七歳で当主就任。

 彼女が当主を継いだウェストラング家は、今のこの国を立て直した国王と旧国からの家臣であった四大公爵家の一つであり、現在は西区画の統治を行っている。

 しかし、現当主は成人前の未成年のため貴族としての執務を行うことが難しく、現在は王宮から委託された北の公爵家がかわりに統治を行っている。


「今回、あなたたち二人にはウェストラング家へ派遣することになりました」

「派遣って、僕らはいったい何をさせる気なの?」

「変なことはさせねぇよ。お前達の任務は当主セレスティナ嬢の護衛だ」

「それ、新人の私たちがついていい任務じゃないでしょ。いったい何があるの?」


 シエルの指摘通り、新人である二人がつけるはずのない任務だ。加えて、貴族の護衛と言うなら警邏や都市警護などが主任務の衛士隊ではなく、王室や国家守衛の騎士団員へ要請があるはずだ。

 だというのに衛士団のそれも新人が選ばれたということは、護衛対象であるウェストラング家に関するあの噂が関係しているのかと二人は考える。


「お前達が考えている通りだ。ウェストラング家は現在、取り潰しの危機に陥っている」

「じゃああの噂は本当だったってことか、国庫を食い物にする悪徳令嬢の噂って」


 衛士団を志願するにあたり二人はこの国のあり方について今一度勉強し直した。

 大災害後、この国は旧大陸時代にあった国家間の生き残りが集まってできたのが現在のセントレシア公国だ。

 未だに続く星獣被害の観点から領土は思うように広げられず、災害後十年以上をかけて王宮を中心に国土を少しずつ広げていき、今では大陸各地にわずかながら人の過ごすことができる地域を取り戻していった。

 こんな事になって未だに貴族社会を貫く辺り過去の風習が根強いと思うが、各地で領土を取り戻し始めている現状ではその統治を任される人材確保は必須だ。

 ちなみにアレンやシエルの故郷はこの国に属しているものの、どこかの領土に属していない。首都からも遠く離れ、めぼしい資源があるわけでもないやけだが、公国から見放されているわけではない。

 現状は公国が保有する領土として確立しているわけでもないが、このまま復興が続いけばいつかはどこかの貴族の領地として数えられることになるはずだ。


 話は逸れたが現状、各地の領土を束ねる地方貴族が十数名、そして首都を拠点として周辺地域を統治している貴族が七名、そして首都の四区画を統治する四大公爵家が現在、この国を統治する貴族の内訳だ。

 国の収入源は各領地の税収で補われている。

 噂のセレスティナ嬢は貴族の執務を行わず、国からの支援金で日夜遊び回っている。

 まだ成人前だというのに、毎夜男を漁って交わりを繰り返す淫婦。

 すでにその腹には誰ともわからぬ子を宿しているなど、挙げればきりがないほどの噂が流れている。


「聞いた噂が全部事実だとは思ってないけど、そのセレスティナだっけ?その子、いったい何をやらかしたの?」

「貴族を守護する騎士団が動かないって尋常じゃないだろ」

「今から説明する。ソニア、あれを頼む」

「えぇ」


 ソニアは二人の前に古いファイルを渡してきた。


「それは七年前、前ウェストラング公爵が巻き込まれた事故の調査資料よ。当時、前公爵はある領地の視察のために首都郊外を移動中、事故に遭われたわ」

「七年前って、未だ星獣被害が多発していた時期よね」

「あぁ。前公爵夫妻もその被害に遭われた」


 星獣がこの世界に現れて十五年、当時は今よりも星獣に対する知識もなく一度星獣と遭遇すれば、死を覚悟するしかなかった。


「だが、事件から数年後、別件で捕縛された容疑者からこんな供述があった。自分は事故死した公爵夫妻の本当の死因を知っているってな」

「その後、衛士隊は調書をもとに公爵夫妻の事故を再調査した結果、おかしな点がいくつも判明したわ」


 渡された資料に記載された調査内容は、事故当時に公爵夫妻が乗っていたとされる馬車の再調査だった。

 馬車は事故後、事故究明のためにと衛士団が保管していた者を改めて精査した結果、馬車の装飾品に偽装された無数の魔石が隠されていた。

 馬車には様々な乗る人の為を考えた工夫がなされる。それが貴族の馬車ならば尚のこと、魔法や魔道具と言った物を使っていることもある。

 そのため当初はそういった魔道具の残骸だろうと考えられていた魔石の欠片は、人為的に星獣をおびき寄せるための餌として配置されたのではないかと判断された。

 結果、衛士団は事件から数年の期間を空けて公爵家夫妻の事故の調査が再開された。


「しかし、再開されたはずの調査はその後一ヶ月も経たずに中止となった」

「中止になったってことは、事件性がなかったって判断されたの?」

「いいや。上からの指示でこれ以上の調査を禁止されたんだ、何の説明もなく突然な」


 当時事件の調査をの担当した衛士は上司へ理由の説明を求めるも詳しい説明はされず、それどころか数日後には僻地へと左遷が言い渡されたそうだ。


「ちなみにその頃からね、ウェストラング嬢に対する黒い噂が流れ出したのは」

「状況からしてもあまりにも出来過ぎてるって。それと、一応確認しとくけど噂は全部嘘なんだろ?」

「そうだな。男を誑かしたとかのところなんかは、まったくの白、っというよりそんなことをする余裕はないんだ」

「どういう意味?」

「前公爵、亡き後。ウェストラング嬢の後見人に名乗りを上げたのは国王夫妻なんだよ」


 なぜ国王がと疑問に思えたが、ウェストラング家は災害後に公国を作り上げるために尽力した四大公爵の一角、そのことを考えると正しい判断なのかもしれない。


「国王夫妻に引き取られてから、ウェストラング嬢は成人後、公爵家を継ぐための教育を受けるため昨年まで王宮で過ごされていたわ。その間、スケジュールは管理され外出時も護衛がつけられていたわ」

「そんなガッチリと固められたら、密会なんてできるはずもないわね」


 そもそも王宮に男を連れ込むなど、やった時点で物理的に首がとんでしまう事態だ。


「噂の件は王宮も把握しているが、その時にはすでに止められない規模で広がってしまってな」

「王宮側が手を尽くせば噂を払拭することは出来たけど、王家はそれをしなかった」


 ソニアの言葉にシエルはなぜと問いかけようとしたが、それを遮るようにアレンが口を開いた。


「権力を使ってしまえば、王家が必死で消そうとしていると思われて噂は真実味を増し、民衆に対しての不信感を煽るってか?考えた奴、かなり性格ネジ曲がってんな」

「そうだな。それが分かっているからこそ、王家も他の公爵家もこの噂をとめることはしなかったが、それが完全に悪手となった訳だ」


 一度広まった噂は一人歩きして噂はより酷いものとなって国中に広がっていき、ついにはある貴族の進言によってウェストラング嬢は爵位を失うことになった。

 その貴族というのは、災害前ウェストラング家と敵対関係にあった侯爵家だった。

 今からちょうど一年前、ウェストラング嬢が当主教育のほとんどを終えようとしいた頃、侯爵と侯爵家の徒弟を務める複数家による嘆願書が王宮に提出された。

 曰く、ウェストラング家は貴族としての責務も務められず、民衆へはその醜態が広く広まってしまっている。

 これ以上は国を統治する立場にいる貴族として恥ずかしい限り、速やかに爵位を返上させてはいかがか。要約すればそんな内容だ。


「まるで見計らっていたようなタイミングね」

「実際見計らってはいたんだろう。嘆願書には半数以上の貴族がその案に賛成、王家はその訴えを飲まざるを得なくなりちょうど三ヶ月後、ウェストラング嬢が成人すると共に公爵位の返還が決まったってわけだ」


 公爵家の返上の後、ウェストラング嬢は貴族籍を剥奪され、その後は平民として市井で暮らすことになるそうだが、元貴族のお嬢さまがちゃんと暮らせるのか疑問があった。


「返還後、そのお嬢さまってどうなるんですか?」

「市井へ降ったあとは、いち文官として王宮に仕えることになるそうよ。すでに資格も取られていると聞くわ」

「へぇ~、意外とまともなお嬢さんなんッスね」

「とても優秀よ。実際、文官の採用試験は実力がすべて、十四歳の少女が受かるなんてまずはないわ。王宮での教育をしっかりと受けてきた証拠ね」


 そんなに優秀なら、市井への降格まではいかず下の位へ降格させればいいのではとも考えたが、それが出来なかったのだとすぐに悟った。

 いくら事実無根の噂と言っても、その噂は国中に広まりすぎている。ならば、爵位を下げたところで民衆からは不満の声が上がり、より悪意ある噂がながれでるかもしれない。

 今さら噂を消し去ることはすでに不可能なため、国としてもウェストラング嬢を平民にしなければならなかったのかもしれない。


「噂の真相とか、騎士団が動けない理由もわかった。だけど、結局のところなんで僕らが護衛につかなきゃならないんだ?」

「簡単だ。今ウェストラング嬢は、命を狙われている」


 さらりと答えりキラに、黙って話を聞いていた二人はそろって眉をひそめる。


「狙われてるって、王宮にいるんじゃないのか?」

「現在、ウェストラング嬢は王宮を出て、生家に戻っているわ。退位後は屋敷を引き払うからその片付けのためにね」

「屋敷に戻ったのは今から一週間前、その間計五回ほど、襲撃を受けている」

「おいおい、それって」

「目的はウェストラング嬢の殺害、でも間違いないと思うわ」


 ソニアにしては珍しく言い切らないセリフに二人が揃って首を傾げた。


「襲撃者は王宮の護衛が捕縛したが、いまだに犯人についての目星はついていない」

「口を割らないってこと?あんな噂が流れてるんだし、そういう目的で侵入したゴロツキじゃないの?」

「いいや。捕縛された襲撃者は全員死亡。もちろん護衛が誤って殺害したわけじゃねぇ。服毒死だ」


 追加で渡された資料には拘束された襲撃者たちの詳細が書かれていた

 捕縛した襲撃者は残らず死亡、身元が分かるようなものは所持しておらず犯人に繋がるようなものは何もない。それどころか、襲撃者たちの顔すら分からないと書かれていた。


「身につけていたのは簡易な服と使い古されたナイフ一本、襲撃者の顔は皮が剥がされて鼻や耳が削がれていたため判別不明、さらには心体的な特徴も喪失、それと……キラ兄、これって間違ってね?」

「悪いが正式に作成された書類だ。偽造もなにもない事実だ」

「こんなの、ホントは冗談でしたって言ってもらいたいわ……」

「オレもそう言えたらどんなに楽か……だが、そこに書かれていることがすべてだ」


 目を伏せながら告げるキラもまたどこか納得がいっていないようだ。

 アレンとシエルは報告書に視線を戻し、底に書かれたある一文を読みながら怒りに震える。

 そこには、襲撃者の首にはある魔術が施されていた形跡があり、解析の結果、隷属の魔術であった可能性が高い。つまり襲撃に使われたのは違法に使役された()()である。


「今回の件、違法奴隷を使役した犯行であるのは間違いない。加えて、オレたちは以前その調査を行なっていた、この意味わかるか?」

「以前、僕達が関わった冒険者。その雇い主が今回の主犯である可能性があるってことか」

「正解だ」

「そう言えば、アレから何も聞けなかったわね。あの冒険者達はどうなったの?」

「死んだわ。全員ね」


 ソニアから聞かされた事実に再び顔をしかめることになった二人は、そのことについても説明を求めた。


「あの後、予定通り尋問を行うはずだったが、翌日全員が変死していた。検視の結果、自死呪いがかけられていたことが分かった」

「魔術師ってやつね。厄介そう」

「かなり危険な任務になるけど、改めてになるがお願いできるか?」

「やるよ。任務の拒否権なんてないだろ」

「もちろん私もよ」

「助かる」


 それからアレンたちは護衛任務の詳細について細かいところを詰めていく。


「──それじゃあ、これで進める。何か聞いておくことはあるか?」

「いいえ……あっ、そう言えばなんでこの仕事、私達なの?」


 そう言えば結局そのところを聞きそびれていた。

 新人であるアレンとシエルがこんな重要な仕事を割り与えられたわけは知っておきたかった。


「理由か。俺たちが冒険者の件を担当してたからなその流れで仕事が回ってきたんだ。後はお前達がお嬢さんと歳が近いからだな」

「えっ、そんだけ?」

「向こうの要望なんだ。じゃなきゃ新人には頼まねぇって」

「まぁそうよね」

「後は、団長からの推薦もあったからな」


 団長の名前を聞いてアレンはゲッと表情を歪めると、キラから笑い声が聞こえて来た。


「お前、団長のこと苦手だよな」

「うるせぇ!初対面であんだけボコられたら誰だって苦手になるっての!」


 件の団長というのはアレンは入団試験の際に試験官を務めていた衛士だった。

 それを知ったのは入団式で顔を合わせた時、その時はアレンを含めて数人同じような表情を取っていたのをよく覚えている。


「あの人の試験、オレも受けたけどマジで容赦ねぇもんな」

「試験の時、団長にボコられて入院してたものね」

「僕よりヒデェ」

「良かったわね。あれだけで済んで」


 ホントにそうだと思ったアレンは、嫌な人に目をつけられた物だと一人愚痴るのであった。


 翌日、アレンとシエルは予定通りウェストラング嬢の護衛につくことになった。

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