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配置と歓迎会

 今回の試験で新しく衛士になったのは二十五人、その中にはもちろんアレンたちの名前も入っている。

 衛士隊へと入隊が決まった次の日から、アレンたちはすぐに宿を引き払い入隊式の時に指定された場所に向かった。そこは六枚目の城壁、街の最も外れにある開拓現場に作られた新人衛士用の訓練施設だった。

 その施設でアレンたちは三ヶ月の間、共同生活を送ることになった。


「諸君らにはこれから三ヶ月!この地で衛士として必要な最低限の体力と技術、基礎的な業務を身に着けてもらう!──まずは装備一式を身に付けた状態で外壁を十週だ!」


 こうして始まった訓練の日々は初日からなかなかにハードなものであった。

 いくら体力に自信があるものでも、慣れない鎧姿で走破できるものは居らず、全員が途中で倒れながらもどうにか十週を終わらせる事が出来た。

 ランニングが終わると、今度は座学が行われる。

 基礎的な業務の仕組みや戦術訓練、他国の文字の読み書きなどランニングで疲弊しきったところでの座学は誰もが嫌がり、途中で居眠りでもしよう物なら容赦なくペナルティが与えられた。


 それを数週間ほど続けるとだんだんと走破できるものも現れ、一ヶ月を過ぎた頃には全員が走り切ることができるようになった。

 訓練も二ヶ月が過ぎる頃にはランニングと座学の他にも、新人同士での戦闘訓練が行われた。

 基本的な剣の振り方から盾を使った戦闘方法、体術や捕縛術にサバイバル訓練、など広く行われ、あるときには訓練教官との模擬戦などが追加されていった。

 そしてこの頃になると、半月に一度の休日に申請次第では訓練施設以外の街への外出許可が下りるようになった。

 もちろん新人衛士として、いろいろと制約が多く門限が定められる上に飲酒は完全に禁止されていた。

 ただし、それでも訓練施設以外への外出は疲弊した身体を休めるのにはちょうどよかったが、それでも訓練に耐えきれずに去っていくものも少なく無かった。

 そして三ヶ月が経った頃、二十五人いた新人衛士は半分の十五人にまで減ってしまった。

 最後の訓練を終えたアレンたちはその日、衛士として部隊への編入されることになった。


 ⚔⚔⚔


 最後の訓練が終わり夕刻、アレンたちは訓練教官によばれて訓練場に整列していた。隣同士に並んだアレンとシエルは、最初にここに来たときと変わったことに少し寂しさを覚えた。


「最初に比べるとずいぶん減ったわね」

「僕らもよく耐えきったよな……マジでさぁ」


 この三ヶ月の訓練は本当に地獄だった。実際にレンが何度脱走しようとして、教官につかまって仲がいいからという理由でアレンも連帯責任で罰則を受けた。


「ほんっと、レンの野郎殺すようなことがなくて良かった」

「あんたらいつかまじで殺し合いに発展しそうなくらい険悪になったかと思えば、次の日には一緒にバカやってたから、男ってよくわからないわね」

「男同士の友情なんてそんなもんだ………それより静かにしたほうがいいぞ」


 アレンの言葉に振り返ったシエルは、訓練施設に近づいてくる教官と見慣れない衛士たちがやってくるのをみて押し黙る。

 周りから声が聞こえなくなり、静寂に包まれる中教官は整列するアレンたちの前に立つと話を始める。


「諸君!三ヶ月の訓練も本日をもって終了とする!これより、隊服の支給と所属部隊の発表を行う。部隊名と名前を呼ばれた者は前に出ろ!」

「「「「ハッ!」」」」


 教官が部隊名と隊士の名前を次々に読み上げられ、隊服を受け取っていきレンとリンもまたその名前を呼ばれることになる。

 レンは第十六部隊へ、リンは第二十七部隊へと所属が決まった。


 すでに新人衛士の半分以上が呼ばれている中で、アレンとシエルは中々名前が呼ばれない。

 遅いな、そう思いながら待っているとついにアレンたちの名前が呼ばれることになった。


「第三十八部隊 アレン・ガルシア並びにシエル・ラミレス!」

「「ハッ!」」


 返事をして前に出たアレンとシエルは、教官の前に立つといつものように厳しい表情の教官と目が合った。


「ガルシア、ラミレス、正直残念に思っているよ」


 険しい表情はそのままに、教官の口から出てきた言葉に二人は内心で驚愕していた。

 あの厳しいばかりで優しい言葉の一つも無いあの鬼教官が残念に思うなど、明日は嵐か天変地異かと二人は不敬にもそんなことを考えていた。


「貴様ら、特にガルシア。貴様は問題行動が多々目立って入らない」


 名指で小言を言われがアレンだったが、村の畑仕事ならばいざ知らずここに来てからサボりはない。問題を起こしていたのは同室のレンでアレンは連座で罰を受けていただけだ。

 とても心外だと思いながらも、アレンは決して口答えはしなかった。


「しかし、それを差し引いても貴様らの武芸の腕は抜きん出たものがあった。お前たちが望めば大部隊への配属も可能なのだぞ?」


 教官からここまで腕を買われていたとは思わなかった二人は、この三ヶ月の訓練を思い返してみる。

 所々で他の同期よりも厳しい訓練を課されていた気が、レンの懲罰のついでだとばかり思っていたのでてっきり他意は無いものと思っていた。

 だが、せっかく腕を買ってもらったと言ってもアレンたちの答えは決まっていた。


「お断りします」

「同じく」

「貴様らならそう答えるだろうな。隊服を受け取って早く戻れ」

「「ハッ!」」


 教官に敬礼してから渡された隊服を受け取った二人は列に戻る。

 しばらくして最後の一人の名前が呼ばれる。


「──以上十五名の配属を任命する。明日より貴様らは正規の衛士となる!ここでの訓練を忘れず、人と国を守るべく尽力するように!」

「「「「ハッ!」」」」


 式が終わり解散を告げると、教官が退出した後一緒にこの場にやってきた先輩衛士が前に出て名前を呼び始める。

 全員、教官と一緒に来ていた時点でなんとなく察していたが、配属先の先輩なのだろうと思っているとアレンたちの番が回ってきた。


「アレン・ガルシア!シエル・ラミレス!こちらへ!」

「「ハッ!」」


 返事を返して名前を呼んだ衛士の前に歩み寄った二人は、自分たちを見下ろすほどの巨漢の姿をみあげて驚いていた。

 目の前に佇む衛士はそれなりに背が高いはずのアレンよりも頭二つ分ほど高く、服の上からでも分かるほど鍛え抜かれた筋肉はまさに芸術の域だ。


「入隊おめでとう。第三十八部隊からきたサリエル・ウォーレッド、今日からお前たちの先輩だ。よろしく」


 手を差しのと同時に聞こえてきた声は若干ハスキーなものだが、気にせずにアレンとシエルはその手を握った。


「アレン・ガルシアです」

「シエル・ラミレスです。よろしくお願いします」


 二人が名乗ると無前に来た先輩衛士サリエルがニヤリと笑みを浮かべる。


「お前たちのことは隊長から聞いている」

「……聞きたくないッスけど、何聞いてるんですか?」

「手のかかる弟分と小生意気な妹分だと聞いてる」


 キラの口からサリエルたち第三十三部隊の面々に語られたという、自分たちについて話の内容を知り二人の表情は険しいものになった。

 あのクソ兄貴、後でぶん殴る。

 二人は心のなかで同じことを考え、自然と顔を見合わせ同じことを考えていたのか、二人はそろってコクリと頷きあった。


「よし、それじゃあそろそろ隊舎の方に案内するが、その前に夕飯の買い出しをする。付いてこい」

「買い出しって……この格好で?」


 二人とも隊舎へと移動するために荷物や武器を持ったまま、サリエルに関しては衛士隊の隊服姿だ。何かと問題があるのではないかと思っていた。


「構わんさ。我々以外にも着の身、着のままで買い出ししてる奴らもいるからな。早く行くぞ」

「りょーかいです」


 そういうことならとアレンたちはサリエルの後に続いて訓練施設を出ようとしたが、途中サリエルが足を止めて二人の方へと振り返った。


「お前たち、同期の奴らに別れの挨拶の一つでもしておかなくてもいいのか?」

「挨拶……必要ないかな。みんな、会おうと思えば会えるんだし」

「私も集まる前にお別れはいいましたから」


 そう言いながら二人は訓練施設に残った同期の姿を見る。すでに半分くらいはこの場を去り、この街へと一緒にやってきたレンとリンも一足先にこの場を去ってしまった。


 二人は部屋も同室だったので、昨夜も今朝の最後の訓練の時も一緒に過ごしていたが、結局別れの挨拶をするようなことはしなかった。

 他にも親しい同期はいたが、どうせ衛士のほとんどはこの街で仕事をする。部隊が違っても街中でバッタリ合うこともあるだろう。


「お前たち、あとになって後悔しても知らないぞ」

「後悔って……なんで?」

「分からないのなら別にいい──それより、今日はお前たちの歓迎パーティーだ。大量に買い込むから途中でへばるんじゃないぞ」


 先を歩いていくサリエルの後を追っていくアレンとシエルは振り返ることなくその場を去っていく。


 このときの二人は、サリエルの語っていた言葉の意味を理解できていなかった。

 どうせまた、いつでも会えるから大丈夫だろう。アレンもシエルも、この時のこの言葉を強く後悔することになるとは、その時は思ってもみなかった。


 ⚔⚔⚔


 夕暮れの街中を歩くアレンは両手で抱えるほどいっぱいに買い込んだ食料を持って隊舎へと向かう中、同じような荷物を持つサリエルに尋ねた。


「サリエル先輩。さすがにこれは、買い過ぎじゃないッスかね?」


 アレンだけでなくシエルの両手にも同じくらいの食料が抱えられている。

 サリエルに至っては身体が大きい分、二人よりも幾分か多い。アレンが持っているだけでも四五人分くらいはありるだろう。


「三十三部隊って、こんなに大所帯なんですか?」

「いいや、新人のお前ら合わせて丁度七人の小さな小隊だ。前に顔合わせてるだろ」


 前にということは、以前この街に来る前に滞在したレンとリンの村でのこと、あのときはキラに再会と同時に斬りつけられ、その後もちゃんと挨拶することもなかった。

 あのときはキラとソニア意外と素顔で顔を合わせたことすらなかった。

 二人とも、そう言えばキラとソニア以外に三人くらいいたなと思い、あのとき身体の大きな衛士が一人いたなと言うくらいしか覚えがない。


「そういえば、あのときはちゃんと挨拶してなかったから、覚えてないよな」

「まぁ、キラに──キラ隊長のせいですからね」

「兄貴呼びでいいぞ。我々も隊長のこと、基本呼び捨てだからな」


 部隊の隊長としてそれでいいのかあの人は、ッとアレンとシエルは心のなかで同じ感想を洩らしていた。

 キラの性格からするとそれでいいのかと思ってしまった。


「っと、ここだ」


 案内されたその場所はこの街に来てすぐに遊びに来た場所であった。


「さぁ、入れ。今日からお前たちが暮らす場所だ」


 サリエルに招かれ中に入ると、中にいるキラたちに聞こえるような声で叫んだ。


「おぉーい、二人を連れてきたぞ!」


 声が響き渡ると、すぐにドタドタと奥の方から忙しない足音が聞こえてきたかと思うと、二階へと続く階段の奥からキラが顔を出した。


「おぉ!やっと来たかお前ら!待ってたぜッ!」


 顔を出したキラはアレンとシエルの顔を見ると、ニカッと顔を笑みを浮かべてこちらへ降りてくる。


「久しぶり、キラ兄」

「相変わらず騒がしいわね」


 階段から降りて近づいてきたキラが二人の肩を叩きながら笑いかけてくる。


「さぁ入れ入れ!今日はお前らの歓迎会だからな!」


 さぁさぁと部屋の奥へと誘うキラだったが、アレンとシエルは荷物を持ったままキラに押されて中に入ると、食堂に案内されれる。

 二人は両手に持っていた食料をテーブルの上に置いた。


「よし、後の配膳はこっちでやっとくから先に荷物置いてこい。サリエル、部屋まで案内してやんな」

「わかった。ついて来な」


 背嚢を背負い直したアレンたちは上の階へと上がっていく途中、案内役のサリエルから隊舎の説明を受けた。


「ついでだからこの隊舎について説明しておく。一階は食堂と共有スペース、二階から三階は空き部屋になってる」

「前にソニアさんから聞きました。緊急時の避難場所になってるんですよね」

「あぁ。だから週に一度はハウスクリーニングを入れてる。見られたくないもんなんか、ちゃんと隠しとけよ」


 誰がそんな物を持っているのやら、なんて考えているとシエルから冷たい眼差しを向けられた。


「いや、持ってねぇから」

「どうだか」


 信じてもらえないようだが、別にどうでもいいかとスレイはそれ以上追及はしないことにした。


「そんで、我々の自室は四階と五階だ。上が女子部屋になってるから、許可なく入ったらソニア副隊長の手で半殺しにされるから気をつけるように」


 今の一言でこの隊の上下関係がよくわかったところで、アレンたちは4階へと上がった。


「各自の部屋の扉にネームプレートが貼ってあるからすぐに分かるだろう。何か質問はあるか?」

「大丈夫です」

「僕も無いです」

「よし、飯の準備ができるまでは自由だ。ゆっくり休んでくれ」


 そう言ってサリエルはもと来た階段を降りていく。残された二人は短く挨拶をしてから、シエルは上の階へアレンは自分の部屋へと向かった。


「っと、ここか」


 自分の名前が書かれた扉を見つけたアレンは、扉を開けて中に入る。

 部屋の中はタンスにクローゼットと机、それにベットと生活に必要化簡素なものだった。

 部屋の扉を閉めたアレンは背負っていた背嚢を下ろし、ベルトの下げられた剣をベッドの上に置くと着ていたコートを脱いで受け取ったばかりの隊服と一緒にクローゼットの中にしまった。


「荷解きは後でいいか……後、剣はあそこで良いのか」


 剣帯に収まったままの剣を拾い上げたアレンは、壁際に備え付けられたラックに剣を収める。

 緋色と紺碧の剣を収め残ったアイザックの剣を眺めていたアレンは、鞘から剣を抜き輝きを失って久しいその刀身を眺めながら語りかけた。


「ザクじい、僕正式に衛士になったよ」


 あの日からまだそれほどの時間が経っていないはずなのに、長い年月が過ぎてしまったような不思議な感覚を感じたアレンは目を閉じ、そっと剣を鞘に収める。


「ここが終わりじゃない、まだ始まりだ。そこで見ててくれ」


 誰に言うでもなく小さく語りかけたアレンは、形見の剣をラックに収めると遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた。

 もう食事の時間かと思い部屋を出て扉を閉めようとしたその時、一瞬形見の剣が光ったように思えた。


「まさかな」


 見間違いか、それとも外に光が反射したのか、どちらにしろ死んだ剣が答えるなどありはしないのだと、ゆっくりと部屋の扉を閉めてみんなの待つ食堂に向かうのだった。


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