表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/27

結果発表

 アレンの試験が開始しと同時に行った奇襲からわずか数分で一人の衛士を行動不能にし、続けざまに大剣使いの剣を一本破壊した。

 状況だけ見れば不利な状況がイーブンになった、とはいえ戦い方を見ればあまりにも常識外れたその戦い方に、観覧席にいた誰しもが物申したい気持ちになった。


「ちょっとキラ………あの子、あなたの弟なんて乱暴な闘い方をするのよ。滅茶苦茶じゃない」


 そう期限を呈したのはアレンの兄貴分であるキラが率いる部隊の副隊長であるソニアだった。仮にも剣士が自身の得物を投げ捨てるだけでなく、拳を使って倒すなど無茶苦茶だと思った。

 呆れ顔のソニアの横では、同じように観戦をしていたキラが笑い声を上げていた。


「でもよぉソニア、あんな無茶苦茶な闘い方をしていても、アイツはちゃんと一人倒すだけじゃなく、武器も破壊してるぜ」

「えぇ。それが余計にマズイわよ。なにせ相手は()()()なんだもの」


 険しい表情で答えるソニアの視線の先では、アレンと試験官である大剣使いの衛士が映っている。


「試験だからってあえて不得手な二刀流だったのに、あの子は武器を削ったと思っているかもしれないけど結果は逆よ。眠っていた魔獣を目覚めさせたわ」

「まぁ、あのおっさんも馬鹿じゃないんだ。試験ってのは分かってるし、下手な真似はしねぇだろ」


 会場を見据えるキラの目はどこか嬉しそうに、まさしくあのとき任務先のあの村でアレンたちと再会したときのような高揚感が見て取れた。


「……キラ、あなたとても嬉しそうね?」

「そうか?」

「えぇ。まるでお気に入りのおもちゃに出会ったような、そんな顔に見えるわ」

「そうだな………なにせ、オレの弟分の活躍がここにいる全員に見られるんだ、兄貴分としちゃ、嬉しいだろ」


 あの小さな村でくすぶっていたアレンの実力がここにいる全員に知れ渡るのだとキラが喜ぶ中、ソニアは少しだけ冷めた目を向けながらこう告げた。


「喜んでいるところ申し訳ないのだけど、あの子をうちに入れたいのならそれはマズイんじゃないかしら?」

「はっ?なんでだよ?」

「だって、あの人相手に善戦したら第一辺りから引き抜きがあるんじゃないかしらね」

「あっ!そうだった!?」


 素で忘れていたのか、頭を抱えながら叫ぶキラを横目にソニアは呆れて息を吐いた。

 そうは言ってみた物の今年は部隊長から新人を入れるように命を受けている、ならば大部隊よりも先に指名権が回ってくるはずだ。

 多少揉めるであろうが、それでもどうにかなるはずだとソニアが思っているが、その事をすっかり忘れているキラの慌てふためく姿をもう少し見ていこうと黙っていることにした。


 ⚔⚔⚔


 仕切り直しを受けたアレンは剣を構え直し、再開の合図と共に地面を蹴った。

 指しの勝負で奇襲の心配もない、元から守りを捨てて短期決着をつけようとしていたアレンは距離を詰め、先に剣を当てて終わらせる。

 そう考えるなか衛士もまた地面を蹴って距離を詰める。


「ォオオオオオォォォォ――――――ッ!!」


 空気を震わせるほどの方向とともに掛ける衛士は、大剣を上段で大きく振りかぶっている。

 このまま振り下ろされる前にがら空きの胴へ斬りかかろう、そう決めたアレンが剣を後ろへと引いたその瞬間、アレンの直感が激しい警鐘を鳴らした。


「───ッ!!」


 何かがまずいと思ったアレンは後ろへひこうとした剣を戻して守りの構えを取った瞬間、衛士の剣がありえない速度で振り下ろされた。


「ゥオゥラァアアアアアァァァァァ―――――ッ!!」


 烈火の如き咆哮と共に振り下ろされた大剣の一撃をアレンは完全にかわしたはずだった。しかし、振り下ろされた大剣の剣圧はアレンの身体が吹き飛ぶ。


「うっ」


 吹き荒れた剣風を受けて身体が吹き飛ばされたアレンは地面を転がり、力強く手をつき身体を起こして立ち上がると同時に剣を構える。

 こちらをジッと見据える大剣使いを警戒しながら小さく息を吐いたアレンは、距離が離れた護衛目的である的の方を見る。

 離れたと言ってもフィールド自体がそこまで大きくない、強化された足なら一足で戻れる距離だ。ただしそれはもちろん相手側も同じだ。


「ふぅ……」


 息を整えながら視線をそっと後ろに向けると、何かを感じたのか大剣使いの衛士が的の方を見てからアレンの方を見た。

 不味い、そう思ったアレンが距離を詰めようとしたその瞬間、大剣使いの衛士がニヤリと笑みを浮かべながら的の方へと駆け出した。


「クソッ、させるかッ!!」


 ロープはないが仕方ないと考えながら、走る衛士の注意を引くためにアレンは左で握る剣を投擲する。

 当たれ、そう思いながらアレンが剣を投げると大剣使いは後ろを見ずに投げられた剣をかわし、さらに的へと接近する。


「ったく、ちょっとは止まれよなッ!」


 身体強化を施したアレンは剣を垂直に構えて身体を引き絞る。

 突きは苦手なんだがッと呟きながらアレンが駆け抜けると、大剣を持った衛士が急激に足を止めて踵を返した。

 読み違えた、そう思ったときにはもう遅い。


「残念だったな、小僧ッ!」


 両手で柄を握った大剣の衛士は接近するアレンに、タイミングを合わせて大剣を真横から振り抜いた。

 完全に合わせられたその一閃は、アレンの胴へと吸い込まれるように振り抜かれる。


「クソッ!?」


 これは無理だと思いながらも、アレンは動いた。

 大剣がアレンの身体へと振り抜かれようとしたその瞬間、引き絞っていた剣を突き出すとアレンの剣と振り抜かれた大剣がぶつかり合う。

 ミシッと打ち合ったアレンの剣から悲鳴が聞こえる。


「くッ!?」


 持たない、そう考えたアレンは剣を手放すと振り抜かれようとする大剣の腹に手をつき、身体を持ち上げるようにしてから上へと飛び上がった。

 ブオンッと凄まじいスイングによって風が吹き荒れる。


「はっ、身軽なやつだな!」


 空中に逃れたアレンを真下から睨みつける大剣使いは、振り抜いた大剣を垂直に構えると落下するアレンを突き刺すべく突き上げる。

 空中への突き上げられた大剣がましたから迫る中、アレンは自分で投げ飛ばして弾かれた剣を掴み取ると、一瞬だけ闘気で身体を浮かせながら足に強化を施した。


「これで終わりだぞ、小僧ッ!」

「簡単に終われるかよッ!」


 身を翻して突き上げられた大剣をかわしたアレンは、自分の直ぐ側を通った刃を目にしながらその蹴りを放った。

 ゴンッと蹴り抜かれた大剣の刀身は弾かれ地面を叩いた。


「ハァッ!!」


 地面に降りると同時に駆け出したアレンが剣を振り抜こうとしたその瞬間、大剣使いの拳が握りしめられた拳でアレンの方を横顔を殴り飛ばした。


「ぐあっ!?」


 殴り飛ばされたアレンは思わず剣を手放してしまった。

 カランッと転がっていった剣の方へと駆け寄ろうとしたアレンだったが、その前に大剣が投げられ進路が塞がれる。やられた、そう思い振り返ったアレンの目の前に拳を握りしめた大剣使いが接近する。


「オラッ!まだやれるだろッ!」

「グハッ!?」


 両手をクロスさせ顔面を守ったアレンだったが、衛士の拳はガードをすり抜けてその腹部を打ちつける。

 続く連打をもろにボディに受けながらもアレンは踏ん張り殴り返したが、一撃返したら二倍三倍になって返ってくる。手も足も出ないとはこのことか、ただされるがまま殴られる。


「ぐっ、このッ……ふざ、けんなッ!」

「どうした小僧ッ!そんなんで終わりかッ!」


 ボコボコッとアレンを殴り続ける度に激痛が走り、防ごうとしてもガードを抜けて殴られる。

 口の中が切れたのか血の味が口の中に広がり意識が遠のきそうになったその時、アレンは自分の中で何かが切れる音が聞こえ、熱く燃えたぎるよしな何かが全身から溢れ出した。


「おっ?」


 パシッと顔面を狙って放たれた拳をアレンは受け止めた

 ならばと衛士が反対の手を振り上げたその時、アレンの周りから闘気に似た何かが渦巻いていることに気がついた。


「何だこれは?」


 アレンの周りから溢れ出したオーラが掴み上げた衛士の腕を包み込んだ瞬間、おぞましい何かに掴まれたそんな幻想が見えた。

 ゆっくりと顔が上がり、衛士を睨みつけたアレンの瞳が妖しく光った。


「おい……おっさん。いい加減にしろよ」


 睨みつけるアレンの目が怪しく光ると共に殺気が放た。

 これは不味いと衛士が後ろに下がろうとしたが、掴まれた拳が引き戻せない。それどころかミシッと不吉な音を立てている。


「小僧ッ、テメェッ!?」


 このままでは拳が握り潰されると感じた衛士が拳を振り上げようとしたその時だった。


「終了ッ!そこまでッ!」


 会場中に中止の声が響き渡ると、アレンはハッと我に返る。

 それと同時に渦巻いていた不吉なオーラが掻き消えアレンは掴んでいた腕を離して後ろに下がると、殴られたダメージから膝をついてしまった。

 すぐに審判をしていた衛士が駆け寄ってきた。


「君、大丈夫か?」

「あぁ、平気」


 審判の衛士の手を借りて立ち上がったアレンは、口の端から流れ出た血を袖で乱暴に拭った。

 手加減されていたのだろうと思いながらも、痛いものは痛い。早くシエルに治療を頼もうとそばに落ちていた剣を拾って会場を去ろうとしたアレンだったが、その寸前に大剣使いの衛士が声をかけてきた。


「おい小僧、ちょっと待て」

「なに?」

「最後のアレはなんだ?」

「何の話?」


 何を言っているのかと小首を傾げたアレン、それをみて首を横に振った衛士は続けざまにこういった。


「勘違いだな。もう良いぞ、後やりすぎてすまんな。治癒師を待機させてるから治してもらえ」

「良いよ。連れに治してもらうから」

「そうかい」


 何だったんだろうと思いながらアレンは観客席へと戻ると、その背中を見送っていた衛士は隊服の袖をめくり、最後に掴まれていた自分の右腕を見つめる。


「はっ、今年はおもしれぇやつがいるみたいだな」


 袖から覗いた腕には何かに掴まれたような跡がくっきりと残っていた。


 ⚔⚔⚔


 観客席に戻ったアレンは服を脱いでシエルから治癒魔法を受けていた。


「ッて……シエル、もうちょい優しく」

「十二分に優しくしてるわ。ってか、あんたボコられすぎよ」

「あのおっさんが悪いんだっての」


 その通りだろうと思いながらシエルはアレンの身体に残った痣を見ながら、これは時間をかけて治療したほうがよさそうだと思った。


「顔は冷やしたほうが良いわね、リン。私のカバンから手拭い出してちょうだい」

「ちょっと待って……これでいい?」

「ありがと、そのまま端を持って広げてて」


 言われた通り手拭いを広げて持っていると、シエルがその上に手をかざし魔法陣を展開、するとゴロゴロと小石程の大きさの氷塊が落ちてきた。


「それを包んでアレンに渡して、氷嚢の代わりよ」


 シエルに言われた通り、リンは手拭いを結んでから出来上がったそれをアレンに渡した。


「あんがと……あぁ~沁みる」


 痛そうに顔を歪めるアレンをみたリンは、ふと下の方へと視線を向ける。

 普段見ることのない同年代の異性の裸、自分と違いゴツゴツと筋肉質な上半身は同い年である兄妹のレンとは全く違い、無駄な無い身体だった。

 なんとなく、目に入ってしまったリンはいたたまれない気持ちで視線を上げると、同じタイミングで振り返ったアレンと目があってしまった。


「なに、どうかした?」

「なっ、なんでもない」


 バッと視線を外したリンの顔は真っ赤に火照っていた。

 熱でもあるのだろうかと、アレンが考えているとパシンッとシエルが叩いた。


「いってぇ!?なにすんだよ!?」

「うっさいわね。治療終わったわよ。早く服着なさい」

「口で言えよ!叩くことないだろ!?」

「こっちはあなたの治療で疲れてんの!口答えばっかだと顔、治療しないわよ!」


 シエルの言葉に息を呑んだアレンは表情が固まった。

 あれだけ殴られたのだここで治してもらえなければ、明日にはこの痣は腫れるだろう。そんな顔で町中を歩けば確実に怪しまれる。


「すみません。お願いします」

「よろしい」


 素直に謝ったアレンはシエルから治療を続けてもらえたが、結局シエルの魔力が切れたのと実技試験が終わったことで途中となってしまった。


 開始と同じ試験会場に戻ったアレンたちは、今回の試験を担当した衛士から説明を受けた。


「本日は試験ご苦労さまです。今回の試験結果は一週間後この場所で発表されます。それでは解散!」


 その声とともに受験者たちが立ち去っていき、アレンも宿に帰ろうしたその時だった。


「よっしゃ!お前ら飲みに行くぞ!」

「いかねぇよ」

「いかないわ」

「いかないわよ」


 アレンたちから拒否されたレンはひとり悲しく夜の街に消えていくのであった。


 ⚔⚔⚔


 試験が終わり会場を後にするアレンたちその後姿を観ていたキラにソニアが声をかけた。


「声、かけないの?」

「なんでだよ。掛ける必要ないだろ」


 いつも通り平然としているキラの横顔を見ながらソニアは険しい表情で問いかけた。


「ねぇ、あの子のあれって、なんだったの?」

「俺にもわからんが、アレをみたのはこれで二度目だ」

「傍から見ていたらただの闘気のようだが、アレは異質な何かだ」

「だとしても、力は十二分に示しましたからね。他の隊も彼を欲しがりますよ」

「わかってるが、そうはさせねぇよ」


 アレンたちの姿が見えなくなったところでキラは自分の隊舎へと戻ろうとする。


「戻るぞソニア、これから忙しくなる」

「キラ……何をする気なの?」

「決まってるだろ。アレンとシエルはうちで取る。手を貸してくれ」


 いつになく真剣な表情を受けてソニアは口元を吊り上げる。

 合否の発表から部隊間での新人受け入れの会議は三日後、いくら優先権が与えられているとは言え本気を出してきた大部隊の力は強大だ。

 今から根回しをしたとして間に合うのか、そこまで考えたソニアはフッと息を吐いた。


「惚れた弱みね……手伝うわ」


 並んで歩くキラとソニアはその日から忙しなく衛士隊内を駆けずり回ることになるのであった。


 それから一週間後、アレンたちは全員が無事に衛士隊に入隊することになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ