実技試験 2
衛士隊入隊試験が続く中、先に試験を終えたリンと共に会場の外に出たシエルは、黙々と矢を射っていた。
的に定めた木の幹を狙って弓を引くシエルは、引き絞られた弦を話すと解き放たれた矢が真っ直ぐ飛んでいき、コーンッと甲高い音と共に命中した。
「ふぅ……こんなところかしらね」
構えを解いて息を吐いたシエルは使った矢を拾いに行こうとしたその時、背後からパチパチと手を叩く音が耳に届いた。
音のする方に視線を向けると、芝生の上に腰を下ろしていたリンが目を丸くしながら拍手を送っていた。
真顔で拍手を送るリンを見て恥ずかしいとまでは言わないが、シエルは何だか妙な気恥ずかしさを覚えながら、リンに背を向けて矢が落ちている場所へ向かった。
「いや、すごいわ。ホント、なんでそんなに当たるの?」
「ただ的に当てるなら、言うほど難しくないわよ。弓の癖を理解すれば、後は良く狙って、距離に届くだけの力で弓を引けさえすればね」
リンに説明しながら落ちている矢を全て拾ったシエルは、いい頃合いだと思いながら会場の方を見たがさすがに、ここでは声が届かない。
今試験がどうなるか分からないので、そろそろ戻ったほうが良いだろうと言ってリンと共に中へと入った。
試験会場に戻るとアレンの方から声がかけられた。
「おうシエル。遅いぞ」
「うっさいわね。順番、まだ先なんでしょ?」
「後二組くらいだな。したで待ってたほうが良いぞ」
「言われなくてもわかってるわ。行ってくるわね」
頑張れと声をかけながらアレンがパタパタと手を振りながらシエルのことを送り出すと、それに応えるように拳を掲げたシエルが背を向けて歩いていった。
立ち去っていくシエルの後ろ姿を見送りながら席についたリンは、ジッと試験を見ているアレンの方へと声を掛ける。
「ねぇアレン。シエル、本当に弓矢で試験を受けるつもりなの?」
「そのつもりだろ、じゃなきゃ矢なんざ借りないって」
「大丈夫なのかしら。受けてみてわかったけどアタシじゃいつもの使ってもあの人達には勝てないわ。それを弓矢でなんて」
「シエルなら平気だから気にすんな」
どこからそんな根拠がでてくるのか、リンには理解できない。
「さっき、シエルの弓の腕は見たんだろ?」
「見たわ。でも、それがなんなも?」
「小さい頃の話なんだけど、シエルと勝負して一回も勝ったことがないんだ」
どういうこと?そうリンが問いかけると、アレンはリンと未だに氷漬けにされているレンにも聞かせるように、その根拠について話し始めるのであった。
⚔⚔⚔
二組前の試験が終わり名前を呼ばれたシエルが会場の中に入ると、審判の衛士に借りた短剣と矢筒の中、それに自前の弓を確認され最後に防具などが確認された。
「はい、弓矢と防具の確認が終わりましたが本当にそれだけでいいんですか?」
「えぇ。問題ありません。それとも弓矢じゃ試験は受けられないのかしら」
「いいえ、そんなことはありません。それでは、しばらくそこで待っていて下さい」
審判が下がるとシエルは矢筒から布の巻かれた矢を取り出して弓に掛け正面を見据える。
今回、シエルの相手をする試験官はリンの相手をしていた衛士と同じく、剣と盾を持った衛士が一人、もう一人は長槍と円形の盾を構えていた。
「槍の相手はちょっとめんどいわね」
作戦を考え終わったところで各試験場で準備が出来たのか、審判たちが一斉に手を挙げるのを見てシエルは矢をつがえた弓を持ち上げて狙いを定める。
「時間になりました!それでは───始めッ!」
審判が手を振り下ろした瞬間、シエルは矢をつがえた弦を勢いよく引き絞って矢を放った。
ピュッと音を流して放たれた矢は真っ直ぐ剣を握った衛士の眉間を狙って射られたが、打ち出された矢は衛士の剣によって難なく撃ち落とされる。
「狙いは良いが、単調だな」
剣を握り衛士がシエルに向けてそう評価するが、そんな言葉を気にすることのないシエルが弓に次の矢を番えようとしたその時、槍を持った衛士が盾を構えながら駆け出す。
「急所を隠しながら向かってくるわけね。いいわよ」
上半身を盾で守りながら向かってくる衛士に向かってシエルは矢を射ると、案の定、矢は盾にとって弾かれる。だが、シエルはそこで止まらない。
「止まらないわね……なら───アース・ウォールッ!」
今回の試験、殺傷用の攻撃魔法外の魔法は使用が禁止されてはいない。
ドンッとシエルが地面を足で踏みしめると、シエルの足元に魔法陣が展開され向かってくる槍使いと剣使いの行く道を防ぐように土の壁を作り出した。
だが、衛士の動きが土の壁ごときで止められるわけはなかった。
闘気と纏った衛士の剣と槍がシエルの作り出した壁を破壊する。
「残念だが、我々はこんなものでは止められないよ」
「言われなくてもわかってるわよ」
そうシエルが答えると同時に、衛士二人に向かってシエルは矢を放った。
舞い上がる土煙を吹き飛ばしながら射られた矢はまず剣使いの衛士を射抜くが、射られた矢は届くことなく剣によって撃ち落とされる。
続いて槍使いの衛士はというとさきほどと同じように盾で受ける構えを取った。同じ矢だ、これで受けられると踏んだ衛士の盾が矢を防いだその時だった。
「うぉっ!?」
ガンっと言う音と共に手に伝わってきた衝撃に衛士は目を見開いて驚いた。
明らかに一射目よりも重く、押し負けてしまったことが信じられないと思っていると、槍使いのすぐ横をビュンッと力強い音とともに矢が通り過ぎていった。
「っと、アブね」
あんな物が当たったらひとたまりもない、槍使いの男は岩の壁に作った穴を抜けるとシエルを狙って近づいていく。
いくら狙いが正確で威力があるといってもそれは遠距離からの攻撃でしかない。距離をつけてしまえばそれでおしまいだと意気込んだ槍使いの男が駆け抜ける。
だがその時、もう一つの壁の奥から出てきた剣使いの衛士が叫んだ。
「待て、下手に動くなッ!」
「はっ?何いってんだ?」
これだけ接近出来たのだ、このまま押し切れば終わりだと確信した槍使いの男が一歩前に踏み出したその時、コンッと頭上から何かが頭を打ち付けた。
「そこまで!衛士側一人死亡により会場を出てください」
審判が頭を打ち抜かれた衛士を退場させるが、当の本人は全く理解が追いついていないらしく困惑していた。
「はっ、いやなにいまの!?」
「だから下手に動くなって言っただろ」
頭を撃ち抜かれた槍使いの男が納得がいかないと言いながら去っていくのを観ていた剣使いの男は、自身の足元に転がっている矢をみながら小さく息を吐き盾を構えるのだった。
⚔⚔⚔
槍使いの衛士を倒したことで仕切り直しになったシエルの試験、ここからどうなるのかとアレンがジッと闘技場を観ていると、左右から怒号の声が響いた。
「ちょっとアレン!何よアレ!どうなってるのよ!!」
「今の何だよアレ!シエルの奴、何やったんだよ!?」
左右からかけられるレンとリンの声に耳を押さえるアレンは、二人を睨みながら答える。
「だから言っただろ、シエルなら大丈夫だって」
「いや大丈夫ってレベルじゃねぇって!なんだよアレ、どうやったんだ!?」
あぁその事かと思いながらアレンは試験会場へと視線を戻す。
二人とはかれこれ一ヶ月程の仲だが、シエルが実際に弓を引いている姿をみる機会も少ない。
「シエルがやったこと、一応は説明出来るけど聞くか?」
「うん。聞かせて」
真剣な表情の二人を見てアレンはコクリと頷いた。
「レン。前に一緒に狩りに行ったことあっただろ」
「あぁ。あったな」
「その時、シエルが飛んでる鳥を撃ったと思うが、アレと同じだ」
「どこがだよ!」
「だからさシエルは、相手の動きを予測して矢を射ってるんだよ」
理解できないという二人にアレンは続けて説明をする。
シエルは最初からあの槍使いの獅子に狙いを定めていた。だから何度か射った矢であの槍使いの動きを把握し、魔法を使っった壁で相手の動きを誘導し、場所を限定、さらにあの二射を囮にして最後に仕掛けておいた矢で仕留めた。
シエルの行った作戦を聞いて二人は身を震わせる。
「じゃあ何か?最後のアレを含めて全部シエルの想像通りだったってわけか?」
「そうだろうな。槍使いは直上型、剣使いは慎重型、それを理解した上でシエルは自分の得意な土俵に誘導して仕留めたんだよ」
「でも、じゃあ最後のアレはなんだったの?」
「そうそう、上から射ったやつは予測でどうにかなるもんじゃねぇだろ!」
二人いう最後のアレとは槍使いの頭を射った最後の一射だろうが、あれは説明が簡単だ。
「アレは単にシエルが魔力で誘導したんだよ」
「はぁ?」
「魔力?」
「あの槍使いが走り出す前に射ったアレ、魔力を纏ってそれを利用したんだ」
良くやられた手だと呟いたアレンは、二人分かりやすいように説明する。
留めに使われたあの矢は牽制ように使われた矢をそのまま利用した。一度はあの槍使いの真横を通過した矢を魔力で操って背後から追って仕留めた。
「でもよう、それならもう一人のやつが、あいつ自信が気づかねぇのか?」
「いや、わからないようの工夫してたぞ。なにせ、剣使いの方がちゃんと注意をそらしてたからな」
シエルが岩壁を作り出したと同時に真上に矢を撃ち、剣使いがあの壁を突破すると予測した場所のすぐ前に落ちるように矢を射った。
そして狙い通りに剣使いが叫んだところで、シエルの仕込みは完了したというわけだ。
「はぁ~、シエルすげぇ」
「アタシからすると、アレだけ見てそこまで理解できるアレンが凄いわ」
「何度同じ手で捕らえられたと思ってんだよ」
実際にやられた経験からくるものだと理解した二人は、アレンに憐れみと侮蔑に似た感情を向けるのであった。
曰く、お前どれだけシエルを怒らせてきたんだという眼であった。
「おっ、話してる間にシエルが決めにかかったぞ」
アレンに言われて視線を戻した二人はシエルと剣使いの戦いをみる。
距離を詰めさせたくないシエルの連射は剣使いの盾と剣技によって弾かれる。そして最後、剣使いが横から剣を振り抜いたその瞬間、射られた矢が剣を交わして衛士の額を打ち抜いた。
それを受けて審判が試合の終了を告げた。
試験会場から戻ってきたシエルを二人が出迎えると同時に質問攻めにした。
曰く最後のはどうやったのか、なぜあんなことができたのかなどなど、なぜ急に二人から質問攻めにされるのか理解できないシエルが目を白黒させる。
しばらくして満足した二人からようやく解放されたシエルはアレンの背中を小突いた。
「あなたねぇ、少しは助けようとしなさいよ」
「嫌だよ。こっちは静かに観戦したいんだっての」
「はぁ………もうすぐあなたの試験よ。無様なところ見せんじゃないわよ」
「おう。期待しないで見ててくれ」
軽口をたたきながらそろそろ行くかと立ち上がったアレンは、シエルに三振りの剣を預ける。剣を預かったシエルは向かおうとする背中を叩いて喝を入れる。
「がんばって」
「おう」
短く帰したアレンはシエルの方へは振り返らずに会場へと向かっていった。
観客席を離れて下に降りたアレンは、貸出の剣を二本とついでにあるものを借りて名前が呼ばれるのを待っている。
しばらくして名前が呼ばれて会場の中に入ったアレンは、審判の衛士に武器と防具を確認してもらい相手が来るのを待っている。
「うげっ」
試験官の姿を見たアレンは一気に顔が顰められた。
出てきたのは、上からみたあの巨大な剣を二刀流で操っていたあの衛士と、もう一人は槍を持った衛士のペアであった。
「マジかよ……アレが相手って、めんどくせぇ」
あんなの相手にすることになるとは完全に予想外だったアレンは、まぁなんとかなるかと思いながら剣にあるものを仕込んだ。
それが終わると審判の衛士が手を挙げる。
「時間になりました、両者構えて───始めッ!」
衛士が手を振り下ろしたと同時にアレンは握っていた剣を両方とも力のかぎり投擲した。
「なっ!?」
「ぅおっ!?」
開始早々に完全に虚を疲れた二人の衛士だったが、遅れてではあったがしっかりと投げられた剣を弾いて防いだが、二人の衛士の目は自分たちが弾き飛ばした剣に向けられている。
空中に弾かれた二振りの剣、その柄には荒縄が結ばれている。
「させるか!」
二刀の大剣を持った衛士の一閃が空中に浮かんだ剣を結ぶ縄を斬った。
木剣で斬れるのかと誰もが思う中、アレンは闘気で強化を施すと槍使いの指示の元へと距離を詰める。
「速いッ、だけどッ!」
直線的に向かってくるアレンに向けて槍を突き出す。
突き出された槍が胸を突きうがとうとしたその瞬間、アレンは身を翻すに交わしてさらに接近する。
「ハァッ!」
接近すると同時に拳を握り締めたアレンは、突き出された槍の柄を掴むと同時に拳を振り抜いた。
「ガハッ!?」
胸の殴りつけられた衛士が肺から息を吐き出すと、その一撃を受けた衛士が意識を手放して崩れ落ちる。審判が止めるまもなくアレンはつかんでいた槍を奪い取ると、大剣を持った衛士に投げつける。
「喰らえッ!」
「ぬぉッ!?」
投げられた槍を衛士は大剣の腹で受け止めるが、闘気を込められた槍を受け止めた大剣の腹にパキパキと不吉な音を立てる。
大剣の刀身に大きなヒビが走るなか、アレンが駆け抜ける。
「ぅぉおおおおぉぉぉぉぉ――――ッ!!」
駆け抜けたアレンは握り締めた拳を投げた槍の石突に突き出すと、殴りつけた槍もまた耐えきれずにヒビが走りついには両者が耐えきれずに砕ける。
粉々に砕け散った槍と大剣の欠片がパラパラッと宙を舞って落ちると、一歩前に踏み込んだアレンが拳を振り抜き、それに合わせて衛士が大剣を振り上げたその時、それに待ったの声がかけられた。
「止めっ!離れてッ!!」
審判の制止の声が響きアレンと大剣使いが足を止めると、審判は意識を失った衛士に駆け寄って脈を確認し軽く頬を叩いて起こそうとするが、完全に伸びてしまっていた。
「おい!誰かタンカー持って来い!」
審判の声を聞き傍に控えていた衛士が出てきて意識を失った衛士を運んでいく。
衛士たちが立ち去っていき試験再開がされるまでの間、元の位置に戻ろうとしたスレイに大剣使いの衛士が声をかけた。
「おい小僧、お前あの剣は使わないのか?」
大剣使いの衛士が指差す方にあるのはアレンが投げ捨てた木剣だった。
「使う気はないけど、それがなんですか」
「お前、拳闘士じゃねぇだろ。拾えよ」
「あぁ拾っていいんだ」
止められている間には拾わせてもらえないだろうと思ったが、意外と融通が効くんだと思いながらアレンは剣を拾って開始の位置にまで下がった。
向かい合ったアレンと大剣使いの衛士は審判が再開の合図を送るのを待つ。
「お待たせしました───試験、再開!」
審判が手を振り下ろしたと同時に二人は同時に地面を蹴って斬り結んだ。
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