再会と別れ
首都にたどりつき街の中に入れたのは日が暮れた頃だった。
積荷や関税の支払い、アレンたちがこの街で暮らすための手続きなどで時間がかかってしまった。街に着たら宿を取ろうとしたのだが、この時間では遅いと言われヴァルドの商会が運営している宿舎に泊まることになった。
次の日、朝早くに起きたアレンたちはお世話になったヴァルドたちにお礼を言って宿舎をあとにすることにした。
宿舎の管理人にお礼を言ってからヴァルドの商会に顔を出す旨を説明すると、ヴァルドから伝言を預かっていると言われた。ヴァルドの伝言というのはアレンたちの動きを見越したかのような伝言だった。なんでも次の巡業の準備があるとかで商会が保有する倉庫にいるとのことだった。
伝言と共に渡された地図を頼りに倉庫へと向かうことにした。途中レンが屋台の匂いに釣られていったり、アレンとリンが逸れ駆けたりと問題は有ったが、どうにかたどり着いた。
「おぉ~い、こっちの商品の在庫はこれだけかぁ~?」
「保存食の期限チェックしたに誰だ!」
「おい、誰か手が空いてるやつ!陶器類を梱包するから手伝ってくれ!」
倉庫の中は所狭しと商品が梱包された木箱が立ち並び、商人たちは木箱の中身の商品の確認をしたり数の確認を行っていた。
かなりの熱気に入るのをためらってしまっていると、荷物の梱包を終えた商人が倉庫の外へと出てきた。
「おぉ~!お前ら、こんなところで何してんだ?」
「そろそろ行きますのでヴァルドおじさんに挨拶に来たんですけど」
「そうか──商会長ぉ~!坊主たち来ましたよぉーッ!」
「おぉ~う!十分で行くからちょっとそこで待っててくれッ!」
っというわけで倉庫の前で待っていると、次々とキャラバンの旅で一緒をしていた商人の方々が入れ替わり立ち替わりでやってきて、処分するものだからと押し付けてきた。
「消費期限が近い干し肉に干し野菜、チーズ。こっちは再利用品の矢って、こんなもらっちゃっていいのか?」
「良いじゃない。これからは宿代なんかかかるんだから節約になるし」
もらった物をリュックに詰めながら干し肉を一つつまんで待っているアレンはみんなの方を見る。レンとリンも同じように色々もらっており、パンパンに膨れたリュックを地面においている。
ミカエラはこれから教会で暮らすために必要になりそうな乾燥の薬草や種などをもらったそうだ。
「おぉ~い、待たせて悪かったな」
「急に来たのこっちなんだから、それより色々もらったけどいいの?」
「ん?あぁ、処分するもんだからな。構わねぇよ、んで要件はなんだ」
「そろそろ行くよ、世話になったから礼を言いに来た」
「そうか。大丈夫だと思うが衛士隊の入隊試験落ちたらうちの護衛で雇ってやるからな」
「良かったわね、レン。就職先見つかって」
「リン、こらテメェ冗談言うんじゃねえよ!」
ツッコミを入れるレンをみんなで笑っていると、ヴァルドは懐から紙を取り出すとアレンに差し出した。
「なにこれ」
「おすすめの宿屋と武器屋、後キラの坊主が住んでる場所だ」
「キラ兄の?」
「おう、っと言っても部隊の宿舎らしいから顔出してやれ」
「そうするわ」
改めてヴァルドにお礼を言ってから倉庫を後にしたアレンたちは、歩きながらこれからどうするかを話し合っていた。
「先に宿を取るのか?」
「宿取りはお前らで頼む。僕とシエルは他に行く所あるし」
「んだよ、観光か?」
「ちげぇよ。ミカ姉を教会に送るんだよ」
ここに着た目的の一つがシスター修行に向かうミカエラの護衛であった。
事前にシスター・レジーナが大体の日付は伝えてあったが、馬車の遅延でそれを超えている。
「今日中に教会に行かないと、村の手紙が送られかねないから」
「そっか、ミカエラさんとはここでお別れなのね」
「教会にはいるから、いつでも遊びに来てね」
「はい」
宿屋の場所を書いた手紙を書き写したアレンたちは、教会の場所を聞きながら町中を歩いていく。
「ねぇ、キラ兄の宿舎どうする?ミカ姉、しばらく自由な時間ないでしょ」
「そうねぇ、今日行ってみてダメなら諦めるわ」
っというわけでアレンたちは目的地を変更しキラが率いる部隊の宿舎へと向かうのだった。
途中、何かしらの手土産にと屋台で焼き菓子を買っていくことにした。
⚔⚔⚔
手紙を頼りに宿舎の近くにまでやってきたアレンたちだったが、肝心の場所がわからずにいた。
「おかしいな、聞いた区画はこの辺のはずなんだけど」
「初めて来た場所なんだし、地図と住所を教えられてはいどうぞじゃ無理よね」
シエルのぐちにアレンもどうしているが、やはり地図だけではどうにもならなかったので人に聞こうとしたその時、背後から声がかけられた。
「そこのあなた達、ちょっといいかしら?」
「はい、なんですかってあなたは………確か、ソニアさん」
振り返った先にいた深い紺色の髪の美女はキラの部隊の副隊長であるソニアだった。ただ、あの村で会ったときとは違い、隊服ではなく私服で手には大きな紙袋を抱えていたが、腰には剣を刺しているあたり衛士隊と言ったところか。
「やはり、あなた達だったのね。いつこっちに?」
「昨日の夜に………それより今日はお休みですか」
「えぇ、そうよ。ところであなた達キラに会いに来たのでしょ?案内するわ」
ありがとう、と言ってソニアの後をついて歩いていくと、五分ほどで目的の場所についた。
他の家と地続きの繋がっている少し大きめな家を見ながら階段を上る。
「これ一軒丸々宿舎なんですか?」
「そうよ、各区画ごとに衛士団所有の建物が用意されていて、緊急時の避難場所にもなってるから部屋数は多いの」
本当にそんな事が起きたらひとたまりもないがと笑うソニアだったが、アレンたちは誰も笑えなかった。
「さぁ、入って」
お邪魔しますと言いながら家の中に入ると、部屋の奥から上半身裸のキラが出てきた。
「おぉ~おかえりぃ~って、お前らやっと来たのか!?」
「来たのか、じゃないわよ」
半裸のまま平然とアレンたちを迎えようとしたキラにソニアの鋭いツッコミが炸裂した。
「なんであなたは半裸なのよ?」
「シャワー浴びてたんだって、いいだと身内なんだから」
っと平然とそんな事を言うキラに対してソニアが疑いの眼差しを向ける中、同郷組はというと。
「あっ、大丈夫っす、キラ兄がズボラなのいつものことなんで」
「そうそう。ズボン履いてるだけまだマシよね」
「ひどい時は全裸だったときもあったわね」
半笑いのアレンと対照的に冷ややかな目を向けている女性陣を見ながら、ソニアは一つ気になることを聞いてみる。
「あなたたち、こんな時のキラをどうしてたの?」
「私は弓で射ってたわね」
「ひっぱたいてやりました」
「なるほど、良いですねそれは」
腰のベルトから剣を鞘ごと抜いたソニア、それを見て何かを察したキラはジリジリとソニアから距離を取った。
「ソニア、なんで殺気立ってんだ?」
「いえ、今度からこれで殴れば良いのかと思ってね」
「すみません以後気をつけます」
慌てて部屋に戻って服を着てきたキラは、改めてアレンたちを出迎え客室で話をすることになった。
気を利かせたのかお茶を淹れた後、ソニアは部屋を退出し四人は久々の再会に花を咲かせた。
「改めてよくきたなお前ら、でっかくなったな」
「そっちは相変わらず、変わってないね」
「へへへっ、うるせぇー」
カラカラと笑っているキラを見ながら、村にいた頃と変わらないと思っていた。
「しっかし、ミカエラもついにシスターの後を継ぐのか」
「えぇ。そのつもりよ」
「あのばあさん、元気か?」
「元気よ、あなたがでてってしばらくは張り合いがないって落ち込んでたけどね」
「ハッハッハッ、そりゃ悪い子としたな。じゃあアイザックのじいさんはどうしてるんだ?」
キラの口からアイザックの名前が瞬間、アレンたちの空気が変わった。
「なんだよ、なんかあったのか?」
「………死んだよ、数ヶ月前に」
「はぁ!?あのじいさんが、病気か?」
「違うわ。星獣に殺されたの」
アレンたちは数ヶ月前に村であったことを詳しく話し、現れた聖獣はアレンたちが討伐し遺された剣はアレンが形見として引き取ったのだと話した。
立てかけていたアイザックの剣をキラに差し出すと、キラは受け取った剣を抜いてボロボロの刀身を見つめた。
「あの爺さんが、死んだね………イマイチピンとこねぇな」
「ごめんね、手紙で知らせる事もできたんだけど」
「いいさ。いろいろあったんだろ?なにより、お前がここに来るような決心をしたんだからな、話せよお前の今の気持ち」
剣を鞘に納めたキラは真っ直ぐアレンの目を見ると、その問いに答えるように頷き返した。
「キラ兄。僕は星獣との戦いで無力だった。目の前で人が死んで怒りに任せて星獣の戦いを挑んだ。無様に負けて死にかけて、それでザクじいの死を知っていろいろ理由を見つけて戦っけど、結局は復讐と単なる八つ当たりだった」
「……アレン」
あの時の話をするアレンの表情は一層険しくなり、自然と膝の上に置かれていた手をギュッと強く握りしめていた。
いから強く握りしめられたアレンの手を見たシエルは、そっと自分の手を重ねるとアレンがそれに気づいて一瞬表情を和らげてから話を続けた。
「敵討ちなんかじゃない、ただ殺すために星獣と戦って……僕自身、あの時は敵を撃てるならここで死んでもいいって思って戦った。それをシエルは止めてくれた」
「おいおい、急にのろけるなよ?」
「そんなんじゃないよ………キラ兄、僕は自分一人じゃ何も守れないことを知った、父さんや母さん、シエルや多くの人に助けられて僕は生き延びることが出来た」
「そうか……それで、お前は結局何をしたい?」
「僕は衛士隊に入りたい。手の届く範囲も良い、一人でも助けられるような力が欲しい、一緒に戦ってくれる仲間が欲しい。そして何より僕はこの世界を知りたい」
アレンの話を聞いたキラは目の前に置かれたカップを持ち上げ一口飲んでからもう一度問いかけた。
「昔からお前はそうだったよな……お前は、世界を知った後どうする?」
「村に帰る。それで、今度は僕があの村を守る」
真っ直ぐと自分の答えを告げたアレンの目を見てキラは小さく笑みをこぼした。
「帰るねぇ、強くなって村を守るか……お前らしい。それじゃあシエルはなんでこいつについてきたんだ?」
「えっ、私?」
突然話を振られたシエルは一瞬困ったような顔をしたが、直ぐに目を伏せてから小さく笑った。
「理由はいくつもあるけど、一番はアレンが心配だからね、星獣との戦いでかなり危ないことしてたからね、このおバカ」
「その節は大変ご迷惑おかけしました」
「ホント、次あんな馬鹿な真似したらもうないからね」
「はい。わかりました」
反省しているように頭を下げているアレンだったが、シエルからすると疑わしいものを見ているような感覚であった。
「ほれほれ、お前らぁ~。仲が良いのはわかったから、痴話喧嘩なら後でしろ」
「「痴話喧嘩じゃない!」」
声を合わせて反論する二人を見ながらキラが笑っていると、部屋の扉がノックされる。
「なんだ?」
キラが声を掛けると扉が開きソニアが中にはいってきた。
「キラ、隊から緊急の呼び出しよ」
「はぁ~こっちは連勤明けの休暇だってのに……ソニア、急いで準備して出かけてる奴ら呼び戻せ」
「了解」
ソニアが退出したのを見て今度はアレンたちの方へと向き直ったキラは、申し訳無さそうに頭を下げた。
「すまん、急な仕事になっちまった」
「構わないわよ。それよりキラ兄、衛士隊の入隊試験ってどこで受けられるの?」
「おまっ、それ自分で調べろよな」
「良いじゃん。教えてよ」
「はぁ……衛士隊の隊舎で手続きをしろ。確か、試験は一ヶ月後だ。しっかり試験に備えろよ」
そういうキラにアレンたちは色々と話を聞きたかったが、これ以上引き止めるのも悪いと思いここで御暇することにした。
玄関まで見送り聞きたキラに改めて別れの挨拶をした。
「じゃあ、また遊びに来るよ」
「おう。ミカエラも休みもらったら遊びに来いよ。街案内するから」
「そんな時間があったらね。じゃあ行くわ」
少し遅くなったがこれから教会へと向かうためあるき出したアレンたちだったが、すぐにキラが何かを思い出したように声をかけた。
「シエル、ちょっとまってくれないか?」
「なによ?」
「嫌な、お前に聞きたいことがあったんだよ」
こっちに来いと言われたのシエルはなんだろうと思いながらキラに近づくと、キラは小さな声でシエルに語りかけた。
「シエル、アレンの奴が星獣と戦ったとき、何か異変はなかったか?」
「異変?例えばどんな?」
「その……闘気とは別の力とか、なんか変なことだよ」
「分かんないわね。あいつが変なのはいつものことじゃない?」
何をいまさらと思っていたシエルだったが、キラの表情からなにかいつもと違うような気がしたが、今はそれを問い詰めることはしなかった。
「何のことかわからないけど、話がそれだけならもう行くわよ?」
「おう。またな」
立ち去っていくアレンたちに手を振ってその背中を見送ったキラは、背後から扉が開き出てきたソニアを見ると手にはキラの剣と隊服があった。
「時間無いわよ、速く着替えて」
「はいはい───ところで、なにか聞きたそうな顔をしてるな」
「……さっきの話聞こえたわ。あのアレンって子に、何かあるの?」
ソニアの問に何かを考えるような素振りをしたキラは、少し間を開けてから話しだした。
「……昔、故郷の村で星獣に襲われた事があったって話したよな?」
「えぇ、覚えてるわ」
「その時、アレンもいたんだ。そんで、あいつがその星獣を倒した」
「バカを言わないで」
隊服を着て剣を受け取ろうとしたキラだったが、ソニアの声にビックリした。
「その話、確かあなたが十三か十四の時の話でしょ?ならあの子はいくつよ」
「十二になったばかりだったかな、俺だって信じられなかったさ。昼間で力が出ないとは言え、ガキ二人で対抗できるはずない星獣をあいつは殺してみせた。それもただの剣でだぜ?」
キラの言っている事を疑うつもりはなかったが、ただの子供がただの剣で星獣を殺した。そんな事あるはずがないのに、そう思いながらもソニアは聞かずにはいられなかった。
「いったいどうやって?」
「それは、俺にもわからねぇよ。でもあいつはあのとき、闘気でも魔力でもない不思議な力を使っていてな、死にかけた俺の妄想だったのか、気になって当時助けてくれたじいさんに聞いて確信したよ」
真面目な顔をしたキラの表情を見てソニアは問いかけを続けた。
「……キラ、あなたあの子をどうするつもり?」
「どうもこうもねぇよ、ただ気になっただけ。それより行くぞ」
剣を受け取ったキラがあるき出したのを見てソニアもその後を追っていく。
⚔⚔⚔
キラのいる宿舎からしばらく歩いて教会に向かったアレンたちは、ここでミカエラと別れることになる。
「お待ちしておりました、ミカエラさん。シスター・レジーナからお話は伺っています」
「お待たせして申し訳ありません」
「街の外は何かと物騒ですからね。それでは中へ」
「はい」
ミカエラが二人の方に向き直るとそっと二人のことを抱きしめた。
「アレン、シエル。ここまでありがとう」
「それはどういたしまして」
「ミカ姉、頑張ってね」
「うん。頑張るわ。たまには遊びに来てね」
二人から離れたミカエラは教会の中に入っていくのを見送ると、踵を返して教会から立ち去っていく。
もと来た道をなぞるように歩いていく二人は、静かに話しだした。
「ちょっと寂しいわね」
「いつでも会いに来てるよ。さて、宿屋にいって明日からのこと考えなきゃな」
「そうね。もらったお金じゃ一ヶ月なんて持たないし、仕事探さなきゃ」
それについては後で考えることにして、速く宿に行こうと歩いていくのであった。




