魔狼の巣と白き獣
魔狼の巣を探して森の中に足を踏み入れたアレンたちは、昨日狼に襲われた場所に戻りあの狼たちの足取りを調べようとしたが、手がかりが全く見つからなかった。
襲われた場所は比較的にすぐに見つけることが出来た。昨日、アレンの魔法剣によって凍りつけられた木々が溶けずに一部残っていたので、そこを中心に魔物の足取りを探っていたが見つけることはできなかった。
「足跡もなにも見つからねぇし、帰ろうぜ」
「リン、そいつぶん殴ってやって」
「オッケぇ~」
ドン!ゴン!ガンッ!っと打撲音とともに、バタンッと倒れたレンの頭には無数のたんこぶができていた。バカが一人静になったところで、もう一度足跡などを探してみるが、やはり見当たらない。
「ねぇリン。このあたりで魔狼が巣穴にできそうなところとかないかな?」
「巣穴ねぇ………そういえば、ここから先に行ったところに崖に大きな洞穴があったから、そこに行けばなにかしらの手がかりがあるかもしれないわ」
「可能性があるかもしれないし………行ってみようか」
シエルに問われてアレンがコクリとうなずくと、リンに殴り飛ばされて意識を失っていたレンの両頬を引っ叩いて目を覚まさせ、崖にまで案内させると確かに大きな空洞が見つかったがアレンたちは先に周りの様子をうかがった。
茂みや崖の近くで見つけた獣道に狼の足跡、ここが魔狼の巣であることは確定した。
「これから洞窟の中に入るけど、シエル。確か暗視の魔法が使えたよな。みんなにかけれるか?」
「使えるけど、魔法の効果は一時間くらいしかないわよ。それでもいいの?」
「構わないからそれをみんなの目にそれをかけて、それと洞窟の中じゃ長物の武器は使えないからリンは別の武器は持ってきているの?」
「盾とナイフは持ってきてるわよ」
背中にしょっている物の代わりにナイフを抜き放って構えたリン、それを見てアレンたちも各々の武器を抜き放ち準備を終えると、最後にシエルが暗視の魔法をみんなの目にかける。
魔法が目にかけられたのを感じ、みんながコクリと頷きあうと茂みの中から出て洞窟の中へと入っていく。洞窟の中に入るとアレンたちは揃って口元と鼻を抑える。
洞窟の奥から漂ってくる臭い、肉の腐った腐敗臭がアレンたちの鼻を刺激し顔をしかめる。
「うっげぇ、ひっでぇ臭い……マジでここかよ!?」
「同感だけど、行くしかないだろ」
少しでもマシになればと口元を布で覆って奥へと進んでいくが、奥に進むにつれて臭いはさらにキツくなっていく。長時間こんな場所にいてはまずいと思いながらも、魔狼を討伐するためにも進むのをやめはしない。
洞窟はかなり置くまで続いていき分かれ道に差し掛かったところでアレンたちは一度足を止める。
「どっちだ?」
「二手に分かれて探そう。見っけたらこれを割れ」
アレンは懐から取り出したものを一瞥してから、レンに向けて投げ渡した。投げられたものを受け取ったレンは、小さなガラス玉のようなそれを見ながら首を傾げた。
「何だよこれ?」
「共振の宝珠って言って、持っている宝珠を砕けば対となってる宝珠が砕けるってマジックアイテムだ。これが砕けたら反対だってわかるだろ」
「んじゃ、分け方どうする?俺とリンで行くか?」
「下手に分けても危険だからそうしよう」
結果アレントシエルは右にレンとリンは左の道に進んでいく。
選んだ道を進んで歩いていくアレンは、いつでも襲われていいように蒼白の剣を左手に握りながら進んでいく。その途中アレンは視界がぼやけてきた事に気がついた。
「悪いシエル、もう一度暗視魔法をかけてくれないか?」
「えっもうキレたの?──って、ごめん。あんたにかけるときみんなと同じようにかけちゃった」
ごめんと謝りながらシエルは再度魔法をかけ直す。ぼやけていた視界がクリアになり、魔法が正常にかけられたのを感じたアレンはシエルに礼を言ってから歩き出したその時だった。
『ゥオオオオオオォォォ――――――――ン!!』
洞窟中に響き渡った魔狼の咆哮と同時にアレンの持っていた魔法具"共振の宝珠"が音を立てて割れた。
一瞬二人の頭によぎった災厄の想像に全身の産毛が逆立つのを感じると、踵を返したアレンをシエルは同時に地面を蹴って駆ける。
急げ急げ、それだけを考えながら二人が駆ける。分かれ道に差し掛かりレンとリンが向かった先へに足を向けると、二人は闘気と魔法によって身体強化を行い加速した。
曲がりくねった道の先には、大きく開けた大空洞があった。
「ッ、明るっ!?」
「壁が光ってる、光苔か」
暗視魔法のせいで余計に明るく感じたアレンたちは、少しずつ目を慣らして中の様子をうかがうと、大洞窟の中には十数匹の魔狼が詰め寄り、そしてその奥には巨大な体躯を持った真っ白な犬型の魔狼が佇んでいた。
「おいおい、どこからあんな大きな魔獣が入り込んでんだよ!?」
「今そんなこと考えるな!それより、二人は!?」
アレントシエルがこちら威嚇している魔狼たちを警戒しながら、あたりを見回していると壁際に倒れる二人を発見した。
「リン!レン!」
シエルが二人の名前を呼びながら駆け寄ろうとすると、シエルの声に反応した一匹の魔狼が襲いかかる。焦ったシエルは短剣を抜いて魔狼を迎え撃とうとしたが、それよりも速くアレンが叫んだ。
「そのまま走れッ!」
アレンの声に反応したシエルは掴みかけた剣を手放し走り出すと、蒼白の剣を肩に担ぐように構えたアレンは、確固たるイメージを持って剣を振るった。
「凍てつけッ!」
振り下ろされた蒼白の剣か氷の息吹が吹き荒れシエルと魔狼の前に氷の壁を作り出す。
氷の壁が魔狼の進行を防ぎシエルが滑り込むように二人の側に駆け寄ると、防御魔法を使った。
「───ウインド・ウォールッ!」
展開された魔法陣から三人の周りを覆い隠すように現れた風の防壁、それを確認したアレンは氷の壁の前に立ち深紅の剣を引き抜いた。
深紅の剣に炎を宿し灼熱化させた切っ先を魔狼たちに向かって牽制する。
風の壁越しに外の様子を見ていたシエルは、アレンが魔狼たちの気を引いているうちに二人の安否を確認する。二人の首筋に手を当てて脈を確認し、二人が生きているのを確認したシエルは怪我などがないかを確認した。
外傷はないが頭を打っているかもしれないので治癒魔法で簡単に治療し、もらってきた薬の中から気付け薬を取り出し二人に嗅がせる。
「ウゲッ、ゲホゲホ!なんだこれ!?」
「ゥッ、ケホゴホッ!?」
二人が咳き込みながら起き上がると深く深呼吸を繰り返した。
「良かった。二人共、痛いところとかない?」
「あっ、あぁ………大丈夫だ」
「アタシも、平気よ」
二人共意識がはっきりしていること確認したシエルは外で魔狼を牽制しているアレンの姿を見る。アレンなら一人でも問題なく戦えるだろうと判断したシエルは、二人に問いかける。
「二人共、なにがあったの?」
「何って……あのデケェのに吹き飛ばされたんだよ」
「油断したわけじゃないんだけど、奥に行こうとしたときに突然現れたわ、なにもない場所から突然、色んなところから」
どういうことだとシエルが考える。
魔獣はそれぞれ特殊な力を持っているが、リンの言っていることはそういうことなのかもしれない。種類の判別ができないせいで魔狼と呼称しているあの狼達の正体が掴めそうだった。
「なんだろう、今の話でなにかわかりそうだったけど」
「今はそんなのどうでもいいだろ!」
「アレンを助けなきゃ」
そっと視線をアレンの方に向けるがまだ余裕そうだとシエルは思ったが、後で文句を言われても面倒だ。
「そうね、文句言われるのも癪だし助けましょうか」
「お前らホント変な関係だよな」
普通ならすぐに助けに行くだろうと思ってしまったレンだった。魔法が解かれる前にレンは腰の剣を引き抜くと、ついでリンも背負っていた武器を付き放った。
「リン、それなに?」
「珍しいでしょ、アタシの武器」
コクリと頷いたユフィが見るのはリンの武器、槍だと思っていたそれは巨大な大鎌だった。
はじめに見たときは槍にしては小さく横幅の広い物だとは思っていたが、まさか刃と持ち手が折りたたみ式の大鎌だとは思わなかった。
折りたたまれていた大鎌が組み上がる。
「アタシも準備できたわ」
「そう………使えるの?」
「当たり前よ。アタシ、レンよりも強いわ」
それは心強いと思いながらシエルは風の壁を解くと、弾き出されるようにレンとリンが飛び出していく。
一人で魔狼の相手をしているアレンは、向かって来る魔狼たちの動くに違和感を感じていた。
魔狼たちは連携してアレンの剣を交わし隙あれば、その鋭い爪と強靭な牙で攻撃をしようとしてくる。しかしある一点、氷の魔法剣の攻撃だけは自ら受けに行くようだった。
まるで後ろの何かを守るかのように。
「仕掛けるか?……いや、まだダメだ」
チラッと後ろを確認したアレンは仕掛けるとしたら、少なくともシエルがあの二人の治療を終えるまではここで踏ん張らなければと剣を構え直した。
その瞬間、意識がそれたのを見越した二匹の魔狼が襲い来る。
「クッ!?」
追撃は間に合うが、その後ろからさらに向かって来る魔狼の対処が遅れる。だが引くわけには行かないと覚悟を決めたアレンはまず牙で噛み砕こうと飛びかかってくる魔狼の頭を蒼白の剣の柄頭で殴りつける。
「キャキャンッ!?」
頭を殴られて昏倒する魔狼、続けて振り抜いた勢いを利用しその場で回転しながら、身をかがめるアレンは緋色の剣の切っ先で地面を切り裂きながら真上から飛びかかろうとする魔狼に狙いを定める。
振り上げながら剣の刃を返し剣の腹で魔狼を真横から打ち捨て、その影から狙ったように最後の一匹が姿を表した。
「まだだッ!───吹き荒れろッ!!」
身体を回転させながら振り上げられた蒼白の剣から放たれた氷の嵐が三匹目の魔狼を押しのけ壁に縫い付けた。
いまので約半数の魔狼をのしたアレンは剣の蒼白の剣、その鍔に埋め込まれた宝珠を見ると蒼く輝いていた宝珠の輝きは損なわれ、その殆どを黒く染めていた。
この宝珠は魔法剣に込められている魔力の残量を表しており、この輝きが消えれば魔力を注がなければ魔法は使えない。
「デカいの使えてあと三回ってところか……」
使い所を間違えないようにそう考えるアレンは、突如足元になにかの気配を感じる。
視線を下ろし足元を見ると、自分の影が歪み中からなにかが現れる。
影の中から現れた鋭い爪がアレンの両足を切り裂こうとしたが、直前でそれに気付いたアレンは大きく上に飛んで交わした。
「あっぶねぇッ!?」
今まで立っていた場所から少し離れた場所にアレンは着地した。だが、それを見越したかのように魔狼たちが襲いかかる。
しまったッ!?そう思いながらアレンは防ぐ手段を考えるが、その一瞬の迷いが判断を遅らせる。回避のために飛び退いたアレンだったが、一瞬で遅れたせいで左足を斬り裂かれた。
「───つッ!?」
足を鋭い爪た切り裂かれたアレンは痛みから膝をついてしまった。
そこを狙って影から出てきた二匹の魔狼が飛びかかる。このままでは殺られると覚悟したアレンは、使うつもりはなかったが緋色の剣で炎を出そうとした。
「ここは任せなッ!」
アレンが緋色の剣で炎を生み出そうとするよりも速く、左右から矢のように二つの影が飛び出すと飛びかかってきた魔狼を払い除けた。
アレンは自分の前に立つ二人の姿を見て、発動しかけていた緋色の剣の炎を消した。
「レンに、リン……ありがとう。助かった───ッ!?」
助けてくれた二人、レンとリンに礼を言いながら立ち上がったアレンだったが、斬り裂かれた足の痛みでよろけそうになったところをレンが支えた。
「どうってことねぇよ。それよりさっさと治療しろよ」
「僕は魔法を使えねぇっての。今はこれで」
懐から取り出した布を裂いて簡単な包帯を作ったアレンは、傷口に強く巻き付けて止血した。痛みはあるが、動くことは出来るのを確認したアレンは、立ち上がり二人の側で剣を構え直した。
二人の側で並び立ったところで、残りの魔狼の動きを警戒していたレンが問いかけてきた。
「おいアレン、なんであいつらを殺らなかった」
「相手が殺し聞きてなかったから、それだけだが?」
「そんな理由で殺さなかったの!?」
レンとリンの言葉は最もだった。アレンも生きるために生き物は殺すが、敵意を向けてきても殺意を向けていない相手を殺すのは違う気がした。
「あの魔狼、なにかがおかしい。敵意はあるが僕たちを殺すつもりはないようだ」
「殺意がないって、おかしいでしょ。現にあなた殺されかけてたのに」
大鎌を振るって魔狼を近づけさせないようにしていたリンがアレンの言葉に食って掛かので、そう感じている理由を説明した。
「影からの奇襲、もし殺すつもりなら首とか腹とか、殺せるところを狙うはずだ。それをしなかった理由は殺すよりもここから僕たちを遠ざけたいって思いがあるんじゃないか?」
「そんな、人みたいなこと獣が考えるはずないじゃない!?」
「魔獣は知能が高い。じゃなきゃあんな連携はしないだろ」
アレンの説明を聞いたリンは、どうしてか腑に落ちるところがあった。最初の奇襲のあと、気を失っていたせいで正確な時間はわからないが、決して短くない時間意識を失っていた。
未防備な二人を魔狼たちが襲わなかった理由も、本当はそこにあるのではないだろうか?っと思ったのだ。
「私もその意見には賛成よ」
「シエル、いつの間に?」
「そんなことどうでもいいわ。それで、なにか考えはあるの?」
シエルがジッとアレンの方を見つめながら問いかけると、それに対してアレンは自分の考えを伝えた。
「安易な考えだけど、氷の攻撃を防ごうとしたのを考えるにあの白い魔狼の背後が怪しい」
「リン。確か、二人もあの奥に行こうとして襲われたのよね?」
「えぇ。そうよ」
「じゃあ可能性はあるわね。あんたが奥に行って調べる、その間に私達が残りの狼とデカいの相手取るってことでいいかしら?」
「僕はそれで問題ない。けど、二人には負担をかけるが頼めるか?」
アレンとシエルがうなずき合っているのを見ていたリンは、何なのだと考えてしまった。追い返そうとしているなら逃げれば良いのに、なんで危険を犯してまでそんなことをするのかリンにはわからなかった。
「おい、お前らなんでそこまでするんだよ、逃げりゃあいいじゃねぇか!?」
リンの考えと同じようにレンもここは逃げるべきだと主張するが、アレンとシエルはそれを否定した。
「逃げるのは得策じゃない。それに、仮に逃げたとしてあいつ等がこのまま居座ったら村の危険は続く。違うか?」
「でもよぉ、今じゃねぇだろ!」
「今じゃなくても、もしもお前が村を出てすぐにあいつ等が襲ってきたら?村は全滅、そうなっても良いのか?」
そう問いかけるとレンは押し黙った。
「逃げるなら逃げても良いわよ。私たちでやるから」
「あなた達、なんでこんな事ができるの?」
「別に、友達助けるってのにあれこれ理由がいるのか?」
アレンの言葉にレンが照れくさそうにしていると、シエルがあたりの様子を見ながら声をかけた。
「二人とも、そろそろ決めてくれない?逃げるのか、逃げないのか」
レンとリンは生唾を飲んだ。
このまま戦えばアレンの言う通り魔狼を安全にこの地から排除することが出来るかもしれない、だけど失敗したら?そう考えて不安にかられてしまった。
「アタシやるわ。あんたらにばかり無茶はさせられないわ」
「レンはどうする?」
「やるよ。んで、なにすれば良い?」
「二人はシエルと一緒にでかいのを引き付けてくれ。僕は他のを叩いて、出来れば奥に入る」
左右の剣に氷の鞘をまとったアレンはそれだけを言い残すと、全身に闘気をまとって地面を蹴った。魔狼たちに接近した次々になぎ倒していく。
残されたシエルはいつもの弓を捨てると、腰にかけていた複合弓を握りしめるといつも使っている矢筒から矢を数本取り出すと、一本を弓に番えて構える。
「援護は私がやるから、二人は存分に暴れて気を引いて」
「無茶言うなよ!」
「いいから、やるわよ!」
シエルの指示に従ったレンとリンが走り出すと、シエルは白い魔狼に向けて矢を放った。
「グルッ!?」
矢が魔狼の身体をかすり壁に突き刺さった。
魔狼の目がシエルを射抜くと、レンとリンが左右から飛びかかった。
「こっち向けよッ!」
「ハァアアアアアァァァァ――――ッ!」
剣を垂直に構えて突き立てようとするレンと、頭上に構えた大鎌を振り下ろそうとするリン、二人の攻撃に対して魔狼の動きは速かった。
振り下ろすまでに時間のかかるリンに向かってその巨体をぶつけ、レンの付きを回避した。
「キャッ!?」
「リンッ!っこのッ!」
体当たりによって壁に叩きつけられたリンの名を叫んだレンは、壁を蹴って飛び上がると真上から魔狼を斬ろうとしたが、同じように体当たりでレンを薙ぎ払おうとした白い魔狼。
シュンッと、風を切る音が魔狼の耳に届く。身を後ろに引いた魔狼、その直ぐ側を矢がカーブを描くように天井を射抜いた。
弓であんなことが出来るとは、魔狼の目がシエルを見据え敵意を向ける中、攻撃の手を止めて感心するようにレンが小さくつぶやいた。
「シエルスゲェ」
「感心してないで、攻撃しなさいッ!」
レンを叱りつけたのは体当たりで吹き飛ばされたリンだった。大きく引き絞られた大鎌が白い魔狼の首めがけて振るわれるが、刃が首を落塗装とした瞬間、白い狼の巨体が消えた。
「えっ!?───おっと」
勢い余って前のめりに倒れたリンが一回転して振り返ると、さっきまで白い狼が経っていた場所に小さい狼が立っていた。
「あいつ、小さくなれんのか!?」
「そんなのありッ!?」
驚愕するレンとリンをよそに、シエルは冷静に弓を射って注意を引き付ける。
わざと狼の身体を掠めるように射ってこちらに惹きつけるのが自分の役割だと、移動しながら弓を射続ける。
「こっちに来なさいッ!」
「ウゥオオオオォォォォ――――ンッ!」
耳を突く白い魔狼の咆哮が空洞内に響き渡る。思わず耳をふさぎたくなるような音の反響の中で、シエルは弓を引き絞り狙いを定める。
射られた矢が魔狼の直ぐ側を通り過ぎ、ついにキレた魔狼がシエルに向かって突撃を敢行する。これを待っていたシエルは矢筒から矢を一本取り出し、もう一つ別の矢筒から、矢を一本取り出し弓に番える。
一射目は途中で失速し魔狼の足元を打ち砕いた。魔狼は一瞬だけその矢に気を取られるも、その一瞬の隙がそれを見逃していた。
「───グルッ!?」
魔狼の目と鼻の先、いつの間にか射られた矢がすぐそこまで迫る。正確に眉間を捉える矢、これを受けたらまずいと獣としての直感が激しい警鐘を鳴らした。
身体をこれ以上小さく出来ない魔狼は、ギリギリのところで身をよじり矢をかわしたが、かわしきれずに矢が身体をかすめたがそれだけだった。
次の矢を射る暇もなく、接近した魔狼が巨大化してその前足で押しつぶそうと振り上げる。
「オォオオオオ―――――――ンッ!」
吠えながら前脚を振り下ろそうとしたその時、魔狼の身体が突如身体を硬直させて倒れた。
巨体が倒れる地響きがシエルのもとにまで届いた。弓を畳んだシエルが短剣を抜いて警戒しながらも白い魔狼に近づいた。
「良かった生きてた」
「…………」
倒れた魔狼は忌々しそうにシエルを睨みつける。
「おい、殺したのか?」
「人聞き悪いわね、ちょっと強力な麻痺毒使っただけよ。念の為に持ってきたんだけど、役に立ったわ」
「なんでそんなの持ってきてるのよ。っというか、どうして持ってるのよ……」
呆れ顔のリンが問いかけると、シエルはあっけカランとした表情で答える。
「そんなのアレンのお仕置きに使った残りよ」
お前は一体何をしたんだと、リンだけでなくレンも同じことを思っていると当の本人が声をかけてきた。
「よう、みんな無事そうだな」
呑気に声をかけてきたアレンに二人のジト目が突き刺さる。
「なに、その目?」
「気にしなくていいわ。それより、全部倒したのよね?」
「もちろん」
振り向くことなく後ろを指差すと、通常の大きさの魔狼たちが全員地に伏せていた。半数は倒していたとはいえ、よく一人で残りを倒せたものだと二人が感心していた。
「んじゃまぁ、奥を確認させてもらおうか」
念の為、奥への入口にレンとリンを立たせて二人で奥に入る。
奥に行くほど腐敗臭が強くなり、顔を布で覆いながら奥へと進んでいく二人はそこで見たものに目を疑った。
腐敗し蝿がたかっている無数の獣の亡骸と、後ろ足に大きな傷を負いた入れた真っ白な子狼の姿であった。




