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魔狼の巣

 村へと戻ったアレンたちは即座に村長とヴァルドに森で出会ったあの狼の事を話した。

 すぐに村の一大事として集会が開かれたが、アレンはその参加を断り一緒に遭遇したシエルたちに説明を任せると、一人でミカエラのところにやってきていた。

 狼に喰い折られた腕の治療のために提供された家にやってきたアレンは、のんびりと本を読んでいたミカエラに事情を説明して治療を頼んだ。


「いたっ、いたたたッ!?痛いって!?ミカ姉、もっと優しくッ!?いってぇえええええ――――――ッ!?」


 治癒魔法で治療を受けるとき、極稀に痛みを引き起こすことがある。

 例えば切断された手足を繋げるときは、切り離された神経や組織がつながる際に痛みを引き起こすことがあるが、骨折の治療でここまで泣き叫ぶことなどあり得るはずがない。


「大人しくしなさい!砕けた骨が散らばって大事な神経を傷つけかけてるの。一つずつ丁寧に治さなきゃ、一生腕が動かなくなっちゃうわよ!」

「だからって、いたたたたッ!?」


 痛みに叫びながら腕の治療を受け、しばらく治療を受けてようやく終わった頃にはアレンはぐったりと力なく倒れる。


「痛い、痛すぎるっての………」

「治ったんだからいいでしょ?手の感覚とかちゃんとある?」


 治療を終えた腕を何度か握りしめて手首をぐるぐると回してみたアレンは、僅かに痛みが残っているものの腕はちゃんと動くので問題はなさそうだ。


「感覚もあるし動かせるけど、痛みは残ってるよ」

「砕けた骨を魔法で繋ぎ合わせているだけだからね。時間をかけて治癒魔法をかけておけば痛みも取れるようになるわ」

「今すぐに治せないの?」

「簡単な骨折すぐに直せるけど、複雑に折れたあんたの腕を治そうと思ったら時間がかかるのよ」


 ミカエラが包帯と添え木で手首と一緒に固定すると、布で腕を首から吊るした。

 いささか大げさな処置ではないかと思ったアレンがそのことを問うと、ミカエラが大真面目な顔をしながら答えた。


「さっきも言ったけど、骨を魔力で繋いだだけなのよ。固定しておかないとすぐにゆがんで折ってからもう一度繋ぎ治さないけないのよ。ちゃんと大人しくしてるの?わかった!?」

「……へいへい、大人しくしてます」


 あんな痛い思いをもう一度するくらいならと、大人しく受け入れるたアレンは立ち上がって置かれていた剣をベルトに差し直すと、最後に着ていたコートを手に取ろうとした。

 しかし、それよりも速くミカエラが置かれていたコートを奪い去った。


「あっ、ミカ姉なにするんだよ。返してよ!?」

「ちょっと見せて……凄いわね。あなたの腕は砕かれたのに全く破れていないわ。なにで出来てるの、この服?」

「知らね。多分、魔獣の素材で編まれてるんじゃないか」


 確認して満足したのかミカエラがコートを返すと、アレンはマントを羽織るように肩にかける。


「あんまり無茶しないでね。ただでさえシエルも無茶するんだから、少しくらいお姉ちゃんを安心させなさい」

「残念だけど、もう少し心配かけることになると思う。だめな弟でごめん」


 はぁ~ッと大きなため息を一つ付いたミカエラはさっさと行けと言うように、手であっち行けとやっていた。

 もう一度ミカエラにお礼を言ってから部屋を出たアレンは、村の集会所の方へ行くとシエルとリンが外で待っていた。


「よぉ、二人とも。こんなところでなにしてんの?」

「アレン……その、腕はどうなの?」

「見事に砕かれてたから、仮で繋いでもらった。ミカ姉に怒られたし凄げぇ痛かった」

「全く、心配させないでよ、このバカ」


 瞳を潤ませながらこちらを見ているシエル、なんだか調子が狂うと思いながらリンの方へと視線を向ける。


「なぁ、リン。レンの野郎はどこ?」

「集会所で説明してるわ。討伐隊をどうにかできないか掛け合ってるけど、正直無理かもしれないわ」

「だろうね。商会の護衛は魔獣との戦いを経験してても、今回みたいなケースはまず想定していないだろう。街で冒険者を雇うことになるんじゃないか?」

「こんな小さな村に来てくれるはずないわよ」


 リンが悔しそうに呟くと二人は険しい表情で顔をしかめていると、集会所の扉が開いて中から村の老人たちが出てくる。少し離れて最後に出てきたレンとヴァルドに声を掛ける。


「おっちゃん、レン。どうなったの?」

「アレン……残念だが俺らは手を貸せない。村で冒険者を雇って討伐する」

「お金は?どうするつもりなの」

「かき集めてなんとかするってじっちゃん達が言ってたぜ……それで雇えるかは微妙だけどな」


 雇う金の問題はどこでも一緒かと思いながらアレンはヴァルドの方へと向き直った。


「冒険者を雇うならさっさとしたほうがいいんじゃないの?」

「あぁ。うちの馬車で村長連れて俺と何人か先に街に戻って冒険者を雇うつもりだが、正直に言ってのぞみは薄いだろうな」


 正直な話、この村に街の冒険者を雇うような余裕はあるとは思えない。

 魔獣の巣の調査に討伐、いったいどれだけの金額を要求されるかはわからないが、あいつらは金がなければ雇われることなどありえない。


「準備ができ次第出発する。あとの連中はここに残して村を守らせることにする。以上だ」

「やっぱり、そう判断するよな……確認だけどキャラバンの護衛で魔獣の討伐はしないんだよね」

「あぁ。あいつ等は平野で戦うのはお手の物だが、森に入って狩人の真似事なんざできねぇよ。下手に被害者を増やすわけにはいかねぇだろ」


 そうだなっとアレンが呟く。

 しかし街の冒険者が雇えるかどうか、それはわからない現状でなにかできることはないものかとアレンは考える。出立の準備をするためにと立ち去っていくヴァルドだったが、ふと立ち止まってアレンたちの方へと話しかけた。


「そうだそうだ。おいてく馬車の中に売れ残りの薬品や武具があるんだがな、買い手もないから戻ったら処分するつもりだったんで無くなっても問題はないんだ」

「ん?なに言ってるんだ、あのおっさん?」

「それに、護衛の大半はおいてくから二人くらい森に狩りに行っても誰も文句言わねぇだろうぜ」


 レンはヴァルドの言っている意味がよくわからないようだったが、アレンたちはヴァルドの伝えたい意味を理解した。


「行こうぜシエル、準備をしよう」

「えぇ。そうね」


 歩いてそのばを立ち去ろうとしているアレンとシエル、そんな二人のことをレンは呼び止める。


「お前らどこに行く気だよ!ってか、さっきのおっちゃん、なに言ってたんだよ!?」

「………村の金じゃ冒険者は雇えない可能性が高い。だから、僕たちでやれってことだ。少しは察しろよ」


 あまりのことにボサッと呆けているレンをおいていく二人、その後を追いながらリンが話しかける。


「待って二人共、アタシも一緒に行くわ」

「一緒に行くって、危険よ?」

「問題ないわ。レンと一緒になんども狩りには出てた。それに、アタシあいつよりも強いわよ」


 リンの話を聞いてアレンたちが揃ってレンを見ると、二人の視線から気まずそうに視線をそらした。


「そりゃ大歓迎」


 空を見上げていたシエルは二人を見ながら言葉を発した。


「時期に日が暮れるし出発は明日の早朝かな」

「分かったわ。ほらレン!帰って準備するわよ!」

「まっ、待てよリン!」


 それぞれの準備のために別れたアレンたちだった。


 ⚔⚔⚔


 宿舎に戻ったアレンはミカエラに無理を言って腕の治療をしてもらった。

 急激に治すのはよくないと言われたばかりだというのに、腕を治せと言われれば誰だってキレるのは当たり前だ。


「全くさぁ、ホントは数日、じっくりと時間をかけて治すところだってのに、明日の朝までに完全に治せなんて無茶を言ってくれるわね」

「小言はさっきから飽きるほど聞いたよ………ところで、あとどれくらいで完治できるんだ?」

「少しずつ治してるからね、二時間くらいは覚悟しなさい」


 それは僥倖とミカエラの治療を続けるアレンは、部屋の扉が開いて入ってきたシエルに視線を向けた。


「お帰り、首尾は?」

「上々よ。おじさん、出発前に色々と伝えておいてくれたみたいで、たくさんもらえたわよ」


 宿舎に戻ってきてすぐシエルはヴァルドが言っていた馬車に行った。そこで矢の補充や新しい防具に治療薬などを見繕ってきたのだ。

 借りてきたのか背嚢を背負って戻ってきた。


「本当にたくさん貰ってきたんだな………」

「馬車に行ったら押し付けられたのよ」


 靴を脱いで腰を下ろしたシエルは、背嚢の中に入れたったものを次々に取り出してアレンに見せる。

 まずはシエルの矢筒が数本に新しいブーツとグローブにアームガード、それにブーツに合わせて膝から足首までの位置を覆う脚甲だった。


「おいおい、もらいすぎだろ」

「全部いらないんだってさ。だから、遠慮なくもらってきただけよ。それに、いろいろと新しくしたかったからちょうどよかったわ」


 出発した時点でシエルの使っていた物はもう何年も使い続けていた物で、そろそろ新しいものを作らなければならないと考えていたタイミングだった。


「グローブとかはわかるが、ブーツっては着慣れないもので森に入ると足を痛めるぞ」

「言われなくてもわかってるわよ。後でちょっと歩いてくるわ………それと、アレンの分ももらってきたからみて」


 腕の治療をされていて動けないアレンの前に貰ってきたという防具を並べていく。シエルが選んできたのは腕を守る手甲に新しいブーツ、それにグローブと簡易的なものであった。

 その他にもシエルは細く短いナイフを十本を手元においた。


「投げナイフか、それも僕に?」

「そうよ。使えたわよね」

「最近はあんまりやってないから、腕に自身はないけどな」

「これを気に、ちょっとは真面目にやってみなさいよ」

「そうだなぁ~」


 魔法が使えないアレンにとって遠距離の攻撃手段は今までになかった。今は魔法剣があるとはいっても炎の剣を振るえば容易に森を焼き、氷の剣も一度剣を震えば森を凍らせることは可能なほど強力な剣だ。

 一つくらい持っていた方が良いと思ったアレンは、投げナイフを一本手にとって刃を見ていた。


「これ、結構良い素材使ってるな………ホントに良いのかな?」

「素材のせいで売れなかったんだってさ。なくす前提の投げナイフに二万五千シルだって」

「ってことは、これ全部で二十五万………恐ろしくてもらえねぇんだが?」

「私もそう言ったんだけど、高すぎて売れないし護衛の人たちも一向に使おうとしないから邪魔なんですって」


 理由がひどすぎる不要在庫だと思いながら、投げナイフを受け取ったアレンはなんとも微妙な顔をしながらナイフを見ていると、治療を行っていたミカエラがその手を止めた。


「終わったの?」

「なわけ無いでしょ………ちょっと休憩。流石に魔力が足りないわ」

「まぁ、アレンだから仕方ないわね」


 流石に疲れたと言いながらパタパタと手をうちわにして仰いでいるミカエラ、それに合わせるようにシエルも賛同する。ひどい言われようだと思いながらも、シエルの言い分も最もなのでアレンはなにも言い返さない。

 軽く腕を動かしたアレンは、今の治療でかなり治ったのか痛みも取れて完全に治ったように思えた。


「剣を振れる程度には繋いだけど、完全じゃないんだから無茶しないでよ」

「わかってます。ミカ姉の魔力が回復するまで外で装備の確認してくるから」

「私も行くわね」

「行ってらっしゃい」


 ミカエラに見送られ外に出た二人は、早速もらってきた物を身に着けていく。アレンはブーツやグローブなど自分で選んでないので、サイズが心配だったがすべて問題なく身につけられた。

 すべてを身に着けて感心したようにしていると、シエルがニヤリと勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。


「ニッヒヒッ、どうよ。私の見立ては?」

「お見逸れしました。流石だよ。せんぶぴったりで怖いくらいだ」

「あんたの服とかよく、直してたからね。サイズなら知り尽くしてるわよ」


 今回ばかりは素直にお礼を行っておこうと思ったアレンが、シエルに御礼の言葉を贈った。


「しっかし、このブーツつま先と踵になんか仕込んでないか?ちょっと重いんだけど」

「その通り鉄が仕込んであるのよ。蹴ってもいいし噛まれても安全。でも比較的硬度があるものを使うから重量が嵩んで、あまり売れなかったんだって」

「まさか、この手甲とグローブも曰く付きか?」

「曰く付きっちゃ曰く付きね。手甲は中古品、グローブも売れ残りって言ってたわ」


 曰くと言ってもそこまでのものではなかったので安心したアレン、するとその横で見慣れない弓を取り出したシエルを見て問いかける。


「その弓、初めて見たけどそれももらったのか?」

「複合弓よ。私のよりも威力があるの」

「それも余り物かよ」

「複合弓って扱いが難しいのよ。威力も高い分、なれるのに時間が掛かるし壊れたときも素材がないと直せないから、あまり使いたくないんだけどね」


 そう言って弓を引いてみるシエルは難しい顔をしながら弓を見ていた。


「前より重いけど、行けそうね」


 シエルは少し離れたところに土魔法で的を作り出すと、矢筒から矢を一本取り出して弓につがえる。弓を構えてつがえた矢を引き絞ると、弓の両端が大きく撓った。

 狙いを定め矢を離すと、シエルの手から放たれた矢は的の中央を大きくそれ的の端を撃ち抜いた。それを見たシエルは矢筒から新しい矢を取り出して同じようにつがえそして矢を放った。

 二度目は大きく的を外れて背後の木へ、三度目は的には届かず手前で落ち、四度目は的の下側を撃ち抜いた。そして五度目にして矢はようやく的の中央を付近へと当たった。


「やっぱり難しいわね」

「シエルが弓で苦戦してるの初めて見たな」

「力の加減が全く違うからね。もう少し練習は必要だけど、取り敢えずは掴んだわ」


 最後に撃ち出された一投が的の中央を射抜いた。

 カシャッと弓を前後に大きく振ると、弓はコンパクトに折りたたまれて腰のベルトに下げると、シエルは矢を回収し始める。


「アレンも練習する?」

「頼む」


 シエルは土魔法で新しく的を用意するとそこに向けてアレンはナイフを投げ始めるが、全く当たらずにあらぬ方向へと飛んでいく。

 これはしばらく練習が必要だと思いながら、アレンは黙々とナイフを投げ続けるのだった。


 一時間くらいして魔力の回復したミカエラが呼びに来るまで、ナイフを投げ続けたアレンはどうにか的に当たるまでには腕を取りもした。


 ⚔⚔⚔


 次の日の朝、アレンとシエルは日の出前に村の入口にやって来た。

 そこにはまだ誰もおらず二人が来るまでそこで待っていることにした。


「悪い。遅くなった」

「ごめんね、レンを起こすのに手間取ったわ」


 やってきたレンとリンはおそろいのマントと最低限の防具を身にまとっていた。


「ったく、時間くらいちゃんと把握しとけよなレン」

「遅れたら置いてくところだったわよ」


 呆れている二人に対して申し訳無さシウにしているレンだった。全員揃ったところでアレンたちは街道を使って、森へと向かっていく歩いていく。


「どこに行く気だ?」

「昨日、あの狼と戦った場所に行く。あそこから奴らの巣を探す」

「………ねぇ、あなた達はなんでアタシたちのことを助けてくれるの?」


 唐突にリンから問いかけられたアレントシエルはどう答えていいか考える。


「私は止めてもらっているお礼」

「僕は一匹、気になる狼がいたから……まぁ、結局は自分がやりたいからってこと、だから気にすんな」


 そう答えてアレントシエルは歩き出す。呆気にとられたリンだったが、ポンッとレンがその肩を叩いて歩き出した。

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