双子と共に
日が暮れた頃、一緒に手合わせしていたアレンとレンは商人たちが帰ってきたのを見て揃って剣をおろした。
戻ってきた商人たちの中から、キャラバンのリーダーであるヴァルドが護衛隊の隊長から話を聞きつけ、問題を起こしたレンに話を聞きに来た。
「おい坊主、そいつがお前さんとやり合ったって坊主か?」
「ヴァルドのおっちゃん。うん、そう、なにも考えずに僕に剣を向けた正真正銘のバカ」
「テメェ、喧嘩売ってんなら買ってやるぞアレン!」
拳を握りしめファイティングポーズを取ったレンだが、今言ったことは本当のことなのでアレンはその言葉を無視してヴァルドと話を続ける。
「護衛隊のおっさんから聞いてると思うけど、こいつもキャラバンに乗りたいんだって………そういえばなんで乗りたいのか聞いてなかったな」
剣を打ち合ったアレンにはレンは商人になりたいからキャラバンに乗りたい、なんてことはあの性格上なさそうだ。
ならばアレンたちと同じように首都か、あるいは他のどこかにいきたい。あるいはキャラバンの護衛になりたいからとか、大方そんなところではないかと考えていた。
「俺は首都で冒険者になりてぇんだ!だからそこまで乗っけてってくれ!」
「冒険者ねぇ、やめとけやめとけ、坊主にも言ったが今の冒険者ギルドは腐りきっててろくなもんじゃねぇぞ」
「だとしても俺は冒険者になる!だから頼むよ!護衛でも下働きでも何でもするから、頼む!俺も一緒に連れて行ってくれッ!」
必死に懇願するレンを見てアレンはヴァルドの方を見るが、ヴァルドは腕を組みながらうねっている。
「この村を抜ければあと十日もすれば首都だから、一人二人くらいなら増えても問題ねぇんだが、お前さん。家族や村長からの了承はもらって来てんのか?」
「もらってねぇ。だけど俺はもう大人だ。自分のことは自分で決めるんだよ!」
「アホなこと言ってんじゃねぇ。村のやつになんの了承もなくお前をキャラバンに乗せて行っちまったら、俺たちは間違いなく商人じゃなく、ただの人攫いになっちまうだろ!」
確かにそうだと、横で話を聞いていたアレンも思わず頷いている。
「説得はできねぇがついていってはやる。お前が家族を説得しろ、それができなきゃ俺のキャラバンには乗せられねぇな」
「何でだよ!良いじゃねぇかよ」
「ダメだ。というわけで俺と坊主でこいつの家まで行ってくるから、夕食残しておいてくれよ」
「えっ、なんで僕まで行かなきゃならないんだよ!?」
先程までずっとレンと一緒に訓練をしていてクタクタなアレンは、少しでも早く夕飯にあるときたかったがヴァルドはそれを許さなかった。
「護衛が雇い主を一人にするんじゃない。それに散歩にでかけたって嬢ちゃんたちがまだ帰ってきてねぇんだ。迎えに行ってやったほうが男としてのポイントが上がるぜ?」
「うぅ~、シエルはともかくミカ姉は探しに行かないとまずいよな」
「いや坊主……お前、嬢ちゃんのことも少しは心配してやれよ」
「シエルを心配してもねぇ、あれを襲おうとしたら逆に弓矢を持って追い回されて最後は脳天射抜かれて殺されるよ」
酷い言われようだと思ったヴァルドは、これを後でシエルに言ったらその説明通りのことがアレンに起こりそうだ。
「そんなこと言ってやらずに迎えに行ってやれ。シエル嬢ちゃんのこと大切だと思ってるんだったらな」
なにも言い換えせなかったアレンはヴァルドの護衛を引き受ける。村の中で危険はないかと思ったが、護衛だからと言う理由で蒼白の剣だけを腰に刺していく。
日が暮れてきたのでカンテラを用意してレンの家へと向かっていくアレンたち、その途中でアレンはシエルとミカエラのことを探したがどこにも見当たらなかった。
駐在している場所まではこの一本道しかないので、行き違いになったということはまずない。いったい二人はこんな時間までどこでなにをしているのだろうか。
「シエルとミカ姉、どこいったんだ?」
「おやおやぁ~、さっきは心配いらないとか言ってたのにやっぱり心配なんじゃねぇか」
「おっちゃん。うざい」
バッサリとヴァルドを言葉で切り捨てたアレン。しかしヴァルドのいったこともあながち間違っているわけではなかった。
本心から言えばシエルのことを心配していない訳では無いが、それでもシエルのことを信頼しているアレンは万が一のことは起こらないだろうという自信があった。
「おい見えたぜ、あそこが俺ん家だ」
見えてきたのは少し広めの菜園のある小さな家だった。
家からは明かりが漏れているので、レンの家族がいるのだろうと思い近づくとなんだか段々と聞き覚えのある話し声がアレンたちの耳に届く。
まさかと思いながらレンのあとに続くようにアレンたちの中に入る。
「ばっちゃん。リン。帰ったぞぉ~」
その声の駆け方はどうなのかと思いながら一緒に家の中に入ったアレンとヴァルドは、入った家の中にいた意外な人物を見て驚きの声を上げた。
「シエルにミカ姉、こんなところにいたのかよ!?」
家の中にはレンの似た少女と楽しく談笑を交わしているシエルとミカエラの姿があった。そして入ってきたアレンとヴァルドの姿を見てシエルも驚きの声を上げた。
「アレンにおじさん!?えっ、あっ!もしかしてリンが言ってた兄弟ってレンだったの!?」
アレンとシエルが全く別の理由で驚き合っていると、奥の部屋から誰かが出てきた。
「おやおや、にぎやかだと思ったら、また増えているねぇ」
「おっ、ばっちゃん。今帰ったぜ」
杖を突きながら出てきた老婆はレンの祖母だったらしく、帰ってきた孫を優しく迎え入れる。
「お帰りレン。それで、そちらのお二人は、レンのお友達………ではなさそうねぇ」
「こんばんわ。私はキャラバン責任者のヴァルドと申します。今晩は、お宅のレンくんのことでお話がありまして、つきましては少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
「レンのこと?えぇ。わかりました」
老婆とヴァルド、それにレンが奥の部屋へと消えていき残されたアレンはシエルとミカエラの方を見る。
「二人とも、なかなか帰ってこないと思ったらこんなところにいたのかよ」
「ごめんなさい。こっちで話が弾んじゃって、時間を忘れてたわ」
「たっく、シエルがいるから大丈夫だとは思ってたけど、女二人があまり遅くなるなよ」
面目ないと頭を下げるシエルとミカエラ、アレンは続いて彼女たちと話していた少女リンの方へと向き直った。
「えっと、あなたがリンさんで良いんだよね、レンの妹の」
「はい。そうです」
「よかった。初めましてアレンと言います」
「あなたがアレンさん。お話は二人から聞いてます、その………色々がんばってくださいね」
初対面の女の子から何故か顔をそらされてしまったアレンは二人の方へと視線を向けると、二人は同時に明後日の方へと視線を向けてしまった。
「ねぇ、いったいどんな事を話したんだよ」
「まぁ……普通のことよ。うん。気にしないで」
気になるよと思ったアレンは、問い詰めたところではぐらかされて終わりだろうから忘れようと決めた。
アレンは横目で三人が入っていった部屋の扉を見ている。何を話しているかはわからないが暫くの間は出てくる気配はないので、一度家の外に出ていることにした。
「僕は家の外でまたせてもらう」
「えっ?そんな遠慮しなくて良いですよ。今お茶淹れますし」
「いや、遠慮とかそう言うんじゃなくて単純に女の子ばっかりの場所に一人で居たくない」
男女比が圧倒的に偏っている空間に長居することなど自分には出来ないと正直に答えたアレン。すると何を勘ぐったのかシエルがニヤニヤッと笑みを浮かべながらやってきた。
「ちょっとちょっと、何よアレン。あなたまさかリンに照れちゃってるのぉ~?」
「えっ、あっ、アタシ!?」
急に名前を挙げられたリンが困惑している。
「いや、単に僕がいないほうが話しやすいんじゃないかと思って、あとここにいてシエルのおもちゃにされるのはごめんこうむる」
「なによ。わかってるじゃない」
「何年幼馴染やってると思ってるんだよ。どうせ僕が村でなにしたとか、言いまくるつもりだったんだろ」
「そうねぇ、さっき話していたのだと五年くらい前に私や姉さんたちの水浴びを除いて、全員から吊るし上げられた話とかかしらね」
「あれは僕も被害者だったろ!?」
シエルに遊ばれていることに気づかずに反論するアレン。言い合いはヒートアップし、まるで口喧嘩をしているようになって行く。
そんな二人のやり取りを見ていたリンは、同じように見守っているミカエラに問いかける。
「ミカエラさん。あの二人っていつもあんな風なんですか?」
「えぇ。あの二人はあれでいつも通りよ。だから気にしないであげてね」
「わかってます。でも、良いですねあの二人仲が良さそうで」
「そうよね。速くくっつけば良いのにって村のみんなが思ってたわね」
ミカエラの言葉に同調するようにリンも笑っていると、ガチャリと部屋の扉が空いてヴァルドが出てきた。アレンとシエルは言い合いをやめて出てきたヴァルドの方を見る。
「おう、アレン。話は終わったから帰るぞ」
「話し合いはどうなったの?」
「あぁ。こいつをキャラバンに乗せることになった。ついでにそこの嬢ちゃんもな」
声をかけられたリンは、そんな話は聞いていないと言わんばかりに固まると、遅れて部屋の中から出てきたレンとお祖母さんに問いかけた。
「ばっちゃん!どう言うことよ!なんでアタシまで村を出ることになってるの!?」
「リン。わかってるでしょ。この村に未来はないの。若いあなたは外の世界で生きるのがいいのよ」
話に聞いたことがあったが、村民の高齢化によって村が滅んでいくこともあると。この村もその未来を辿ろうとしている。
レンが出て言ってしまえばリンがたった一人残されてしまう。そうならないように家族としての提案のようだが、その心遣いが裏目に出てしまった。
「出ていくのはレンだけでしょ!アタシはここに残るの!」
「だっ、だけどねリン」
「────ッ!」
お祖母さんの言葉から逃げるように立ち去っていくリン、シエルがそんなリンの後を追っていこうとしたがミカエラによって止められた。
「やめときなさい。これは家族の問題よ。他人が関わることじゃないわ」
「うっ……うん。そうよね」
「あらら、シエルが大人しく引き下がった。明日は雨かな?」
「アレン。ブッ殺すわよ」
ナイフを引き抜いて脅してくるシエルにそうそうに土下座をして許しを請うアレンだった。
「ったく、次やったらホントに殺すからね」
「誠に、申し訳ありませんでした」
生きて帰れたことに涙を流しているアレン。一連のやり取りを見ていたレンは、白けた目をむけながらアレンに問いかける。
「お前、マジでシエルに尻に敷かれてんのな」
「剣の師から女の子が刃を抜いたら土下座で謝れって言われてっからね。シエルが剣を抜いたら土下座一択だな」
男としての最低ラインとして、自分で決めていることでありアイザックとの約束だ。
大切な家族との約束を違えないと決めているアレンは、レンの方を見ながら問いかける。
「お前はいいのか、どこかに行ってしまった家族を追わなくて」
「良いんだよ。あいつは、気分が落ち込んだら適当に走って泣いてスッキリしたら返ってくるよ」
「だけどな、家族だったらちゃんと話し合ってやれ。でなきゃ彼女も納得できないんだよ」
確かにとレンはアレンの言葉に納得したかのようにうなずく。
「ばっちゃん。リンとこ行ってくる」
「あぁ。気をつけてね」
レンが家を出ていくのを見送ったアレンたちは、いつまでもお邪魔していてはあれだったのでお暇させてもらうことにした。
そのとき、お祖母さんはアレンとシエルを呼び止める。
「あなたたち、歳はおいくつかしら?」
「僕も彼女も十五です」
「そうなの、あの子達と同じ歳なのね………あなたたちもキャラバンに乗って旅をしているのよね」
「そうだよ。私はこいつのお目付け役なの」
「ちょっと待ってくれよシエル。その説明だと、僕は手のつけられない子供ってことになってないか?」
「あら?実際にその通りじゃないの。いつまで経っても目が離せない時点で小さい子供と変わらないわよ」
シエルの言葉にぐうの音も出ないアレンは、悔しそうに頭を抱えている。
「あなたたちとっても仲がいいのね………あの子たちも見習ってほしいわ」
「お祖母さん……心配しなくてもレンたちはレンたちで、ちゃんとわかり合ってると思いますよ」
「だと、良いのだけど」
「大丈夫だよ。リンもレンのことを大事にしてるって分かったから」
双子だから近すぎるせいで逆に想いが伝わらない、だけどあの二人はしっかりと繋がっている。
出会ってまだ半日ではあったが、あの二人がお互いを家族としての大切に思っていることはしっかり伝わった。後はお互いが素直になればそれでいいのだ。
⚔⚔⚔
家を飛び出したリンを追ったレンは、村の外れにある小さな祠にまでやってきた。ここは昔からリンがなにか嫌なことがあったときに来ていた場所だ。
きっとリンはここに居ると踏んでやってきたレンは、祠の側で膝を抱えて座っているリンの姿を見つけて安堵した。
「リン。やっぱりここにいたか」
「……何よ、レン。やっぱりって」
「お前、ガキの時からなにかあるとすぐにここに逃げてきてたろ。だから分かんだよ」
膝に顔を埋めるリン、その横に腰を下ろしたレンはすぐさま寝転がり満天の星空を眺める。
「なぁリン。下ばっか見てねぇで上見ろよ。すっげぇキレイだぞ」
「うっさい。話しかけんな」
「怒ってんのか。ばっちゃんが内緒で頼んだこと」
「当たり前じゃない。アタシのことなのに、みんなアタシに黙って決めて……アタシの気持ちは関係ないの!?」
嗚咽の混じったリンの言葉を聞いたレンは、地面から起き上がるとそっと手を伸ばしてリンの頭を撫でようとした。が、その寸前で手を戻した。
「でもリン、ホントはお前も外に出たがってただろ」
「あれは、小さいときの話じゃない!」
「小さいときのことでも、お前はこの村を出るべきだ。分かってるだろ、ばっちゃんの気持ち」
「…………」
この村に若い人はレンとリンのみ、他は老人だけだ。この村はあと十年もすれば、自然になくなってしまうのだと二人はわかっていた。
村の老人たちはことある如き二人を村の外に出そうとしており、レンはその想いに応えるように村を出る。だけどリンはこの村に残って老人たちの最後を見届けるつもりだった。
「ばっちゃんは、お前の時間を無駄にさせたくないんだよ」
「でも、それはアタシの勝手よ」
「そう言ってやんな。ばっちゃんもばっちゃんなりにお前のことを思ってのことなんだからさ」
ガバッと起き上がったレンは、目尻に涙を浮かべているリンの頭を乱暴に撫でる。
「先帰るぞ。あんまり遅くなるなよ」
「うん」
立ち上がりゆっくりと立ち去っていくレンはふと後ろを振り返る。一瞬、祠の中でなにかが光ったように見えたが、きっと気の所為だとレンはすぐにそのばから立ち去るのだった。




