旅立ちと家族の想い
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アレンが村を出る決意を固めてから二月がたった。
村を出ることを両親に話したところ、アレンが自分で考えて決めたことならばと止めることはなかった。しかし、そんな両親とは別に、アレンの旅立ちを止めようとする人たちがいた。
それはこの村の一部の大人たちだった。
星獣に無謀な戦いを挑み死にかけたアレンを助けるためにアイザックが死に、この村を守る人がいなくなった。アイザックを殺したお前はその責任を取って一生この村を守れと言う、村の大人たちの言い分はわからないことではなかった。
アイザックを死なせてしまった一因をアレンが担っているのは事実だったから、それでもアレンには旅立ちをやめるという選択肢は存在しなかった。
どれだけ説得しても折れることのないアレンに、ついに村の大人たちの方が切れてしまった。
「あぁそうかい!あんたが出ていって、この村がまた星獣に襲われたら、それはあんたのせいだ!あんたがあたしらを殺すんだ!この人殺しがッ!」
切れてアレンを突き飛ばして去っていった村人は、星獣被害があった際にフレンたちが消えたときにも色々言っていた大人たちだ、このことを変に広めなければいいがと、アレンが一人思っていると一人声をかけてくる人がいた。
「あのおばさん、随分と言ってくれるわね。村を出るだけで人殺しなら、この村は一体何人人殺しを呼び出してるのって言ってやりたいわね」
口調の端々に怒りをにじましている少女シエルは、そんな彼女を下から見下ろす形になっていたアレンは白けた目を向けながらこう答えた。
「シエル………おの口ぶりだと始めっから見てたんだろ、なんで止めに入ってくれないんだよ?」
「嫌よ。だって私、あのおばさんキライだし、それにあのおばさんのぼんくら息子、前にすれ違いざまに私のおしり触ってきたのよ?近づきたくないわよ」
あの大人たち、この村でも有名な一家で様々な問題を起こしては騒ぎ立てて相手が全て悪いと、典型的な自己中心的な一家である。
シエルの尻を触ったというぼんくら息子は、今年で四十後半に差し掛かるはずなのに畑仕事の一つもしずに飲んで騒いでを繰り返しているので有名だ。
仕事をしていないのも問題だが、親子ほど年の離れたシエルにちょっかいを掛けている時点でかなりヤバい。
それにちょっと癇癪を起こしては村人に暴行を加えたり、女の人を襲おうとしては周りの大人たちやアイザックに止められていたこともあるほどだ。
「しっかし、あのおっさん。いい加減にしないとまずいんじゃないか?」
「前に村長が言ってたんだけど、次に問題を起こしたらあの親子共々村を追放するってさ」
「なにそれ、すごい笑えてくるんだけど」
実際そこまで我慢した結果なのだろうが、そうなる前に何とかするか追い出すかをすればいいのにッとアレンは思っていたが、今の話をすれば追い出されるのではないだろうかと思った。
「しかしシエルの尻を触るなんて、あのおっさん結構物好きなんだな」
「あぁん?あんた今なんて言った?」
ボソッと呟くようなアレンの言葉に反応したシエルの顔は怒りに染まり、まるで教会でシスターが読み聞かせてくれた本に出てくる悪魔のようだ。
一瞬にして怒りの形相に変化したシエルは、コンコンッとアレンに詰め寄った。
「なんでッ!私のおしりをッ!触ったらッ!もの好きになるのよッ!えぇッ!説明しなさいよッ!」
怒りを爆発させたシエルがアレンに詰め寄りながらツンツンと突いてくる。
これはいらんことを言ってしまったと思ったアレンだが、今更時間を巻き戻せるわけでも発言を撤回できるわけでもないので、仕方がなく理由を自白することにした。
「シエルって足腰をかなり鍛えてたはずだから、なんか硬そうだなって思っただけだよッ!別に他意はないッ!」
「そこまで鍛えてないわよッ!なに?そんなに言うなら触って確かめてみたらッ!」
「嫌だよッ!触って確かめたら、あとから絶対に魔法でぶっ飛ばされる未来しか見えねぇよッ!」
「分かってるじゃないのッ!さぁ、触って死ぬか、触らずに死ぬか、どっちでの好きな死に方を選びなさいッ!」
「どっちも嫌だわッ!ってかどっちを選んでも死んでんじゃねぇかッ!」
ちなみに前者ならばセクハラの罪で、後者ならシエルを侮辱した罪でどちらも死刑執行は確実、どちらを選んだとしてもアレンに明日はないのだ。
ならばとアレンが第三の選択肢として逃走を選択しようとしたその時だった。
「あなた達、こんなところでなんて話をしているの?」
そう声をかけながら現れたのは畑仕事にでかけたはずのアレンの母ミアであった。
「母さん。畑に行ったんじゃなかったの?」
「してたわよ。そしたらムホネンさんたちからお宅はどんな教育をしているのかって言われてね」
げっそりとしたミアが嘆いているのを見てアレンはシエルに問いかける。
「なぁムホネンさんって誰だっけ?」
「さっきのおばさんたちの家名でしょうが」
「あぁそっか。それでその人たちどうなったの?」
「お父さんがなだめて帰ってもらったわ………ねぇアレン、なにも言われなかった?」
「大丈夫、あの人達がおかしいのはいつものことだし、気にしてないよ」
あのおばさんたちの話を聞いているミアはアレンが傷ついているのではないかと思い訪ねたが、等のアレンもこれ以上は心配をかけまいと笑顔で答えた。
しかしそれが逆にミアの不安を掻き立てたが、ここは言葉を飲み込むべきとその言葉を胸の奥にしまった。
「ならいいのだけど………あぁそうだ、アレン。村長からの伝言で三日後あたりにキャラバンが来るそうよ」
「そっか。分かった。準備は終わってるから」
「………なら良かったわ。私は畑仕事に戻るからシエルちゃんに変なことしないようにね」
「しないよッ!」
再び畑に戻っていくミアを見送ったアレンは、あのおばさんたちのせいで中断していた作業の続きをするべく部屋に戻ろうとしたが、そこをシエルに止められる。
「ちょっとアレン。せっかく来てあげた幼馴染を放置するつもり?」
「はいはい。お茶淹れるから上がっていいよ」
「よろしい」
シエルを家の中へと招き入れたアレンは、ポットに水を入れてお湯を沸かし始める。
「荷造り終わったのね」
「あぁ。と言っても、持ってく物なんてそんな無いからほとんど食料くらいだからなな」
キャラバンで行くとはいえ、そこでの食事などは自分で用意しなければならない。当たり前だがアレンはキャラバンに無理を言て乗せてもらう形になるのだ。
そのため、キャラバンでの雑用や戦闘になった際は前に出て戦わなければならないし、余剰な食料などあるわけがないので自分で持ち込み、足りなくなればその場で確保しなければならないのだ。
「あとは剣さえ忘れなければ問題なし」
「取られちゃダメよ。ただでさえ魔法剣は貴重なんだから」
「わかってるよ、ってかあんなの乱用してたら剣が死ぬっての」
魔法剣は魔石によって作られた剣、それ故に元となった魔石に蓄積された魔力を元の魔法を発動する。しかし、人と同じように魔力にもかぎりがある。
剣の魔力を回復させるには大気中に存在する魔力による自然回復の他、魔法使いからの魔力供給が必要になるが急速な魔力供給は剣も寿命を縮め、限界が来れば砕けてしまうのだ。
「それに、シエルがいなきゃ魔力供給もままならないからな。普段遣いには向かないよ」
「せっかくもらったのに、使わなきゃ用意してくれたおばさんたち泣くわよ?」
「使わないとは言ってない………けど、僕に魔法は合わないってだけだよ」
確かにあの剣がなければ星獣を倒すことはできなかったが、剣の力に頼るような戦い方はどうにも性に合わない。だからアレンはこの剣を使い続けることがあまり乗り気ではなかった。
「ところで、ただ茶を飲みに来たわけじゃないんだろ?」
「あぁ。実はね───」
シエルが何かを言おうとしたその時、アレンの背後からピューッとポットのお湯が湧いた音が響いた。
「ヤッベ、ごめんシエルちょっとまってて」
「あっ、うん」
そう答えたシエルは、今話そうとしたことはまぁ良いかと思っていると、アレンはお茶を淹れたカップを目の前に置いた。
「ごめんごめん、はい。お茶」
「ありがと」
受け取ったカップからお茶を一口飲んで一息ついたシエル。
「んで、話なんだった?」
「あぁ~、良いわ。なんでも無いことだから」
「そっか」
話の内容は気になったがアレンはそれ以上の追求をやめて、自分のカップからお茶を一口呑むとなにかお茶請けになりそうなものはなかったかと戸棚を漁るのだった。
その姿を眺めていたシエルは薄っすらと笑みを浮かべているのだった。
⚔⚔⚔
あの日から三日がたったその日、村長の話通り商人たちのキャラバンが村にやってきた。
キャラバンが来た日は誰もが商品を買ったり、逆に自分たちが育てた野菜や作った物を収めたりする。
そんなキャラバンのリーダーは何年も前からアレンたちの村に来ているため、大抵の村人とは顔見知りであった。アレンは村長と共にキャラバンのリーダーの元へと向かった。
「済まないが少し話があるんじゃが」
「はい。何でしょうかって、村長さん。それに坊主か!久しぶりだな、元気してたか?」
「久しぶり、ヴァルドのおっちゃん」
「これアレン!」
「いいって村長さん。坊主にゃ昔助けられた恩がっかんな」
商人のヴァルドはニカッと笑いながらアレンの頭を強引に撫で回した。
ヴァルドの言っている恩とは、数年前たまたまキャラバンが来る前日にアイザックたちと狩りを出ていた。その時に偶然、予定より速くこちらに来たキャラバンが狼の群れに襲われそれを助けたことがあった。
「んで、話ってのはなんですかい?」
「すまんが村の者をお前さんたちのキャラバンで預かって欲しい」
「あぁ。もうそんな歳かい………なるほど、だから爺さんはあんなのを」
「なんのこと?」
「こっちのことだ。………しっかし、そうか。坊主も大人か!んで、どこまで乗ってくんだ?なんなら、俺のキャラバンで護衛でもやるか?」
バンバンっと背中を叩き出すヴァルドに苦い顔をしたアレンは、その手を止めて話を続ける。
「それは遠慮する。首都まで行ければいいんだ」
「首都ってことは冒険者になるつもりか?辞めとけ辞めとけ、首都のギルドの治安はかなり悪いぞ?地方でなった方がいい」
「いや、冒険者じゃなくて衛士団に入りたいんだ」
そうアレンが答えるとヴァルドが目を丸くして驚いていた。
「衛士団って、お前さんはそっちの道に進むのか」
ヴァルドの言葉にアレンはそっと頷いた。
「冒険者もいいけどさ、自由にやってそれで守れないんじゃ意味ないから」
「なんかあったか?」
「少し前にいろいろね」
「そうか───よし、村長さん。こいつはうちで預かる。ただし、扱いは客としてでなくキャラバンの護衛として扱う。もちろんその分の金も出す」
「えっ、いいの?」
乗せてもらうのでもしものときは戦う覚悟があったアレンだが、まさか護衛として雇ってもらえるとは思わずについ聞き返すとヴァルドは快く返事を返した。
「あぁ!その代わり、もしものときは頼むぜ」
「うん。分かった」
「出発は明後日の早朝だ。遅れるなよ?」
「分かった。一度帰るよ、じゃあまたッ!」
駆け出していったアレンを見送ったヴァルドと村長の二人は、アレンが見えなくなったところで話しだした。
「なぁ村長さん。なにがあった?」
「数ヶ月前、村が星獣に襲われてな。そのとき、ディアスとアイザックが死んだ」
「あの二人がッ!?いや、だからか」
あの二人の実力はヴァルドも知っている。そんな二人が死んだという事実が、アレンがあれほどまでに変わった切っ掛けとなったのだろうと用意に想像がついた。
「なぁ村長さん。実は爺さんからあるもんを頼まれててな、代金はもらってる。あんたから渡してやってくれないか?」
「構わんが、誰にじゃね?」
「多分、坊主と嬢ちゃんにだろうな」
ヴァルドが持ってきたものを見て村長も納得したように顔をほころばせるのであった。
⚔⚔⚔
約束の日、まだ夜が明けて間もない頃アレンは家を出る準備を整え部屋を出た。
荷物の大半は持っていけないため部屋に残していく、この家に暮らして十五年。自分の部屋を与えられてからずっと寝起きをしてきた自分の部屋をもう一度眺めてから、そっと扉を締めて下へと降りていく。
下に降りたアレンはそこで待っていた両親の顔を見て驚いた。
「父さん、母さん………おはよう」
「おはようアレン………もう行くんだね」
「うん」
昨日の夜、見送りはいらないと伝えておいたのに、こうして起きてきた両親にどことなく気恥ずかしさがあった。
色々と話したいことがあったアレンだが、どうしても言葉が出てこなかった。
「もう行くね───二人とも、元気でね」
「待ちなさいアレン」
ミアに呼び止められたアレンはビクッと身体を大きく震わせ立ち止まり振り返る。するとミアはなにも言わずにアレンのことを抱きしめていた。
突然の行動に驚いたアレンは、自分を抱きしめる母を見下ろしながら問いかける。
「かっ、母さん?どうしたの?」
「アレン………ごめんね、あのとき何も言ってあげられなくて」
あのときとは、成人の儀のときのことだろうと想像がついたアレンは少し困った顔をした。
「気にしてないよ………それに謝るのは僕の方だ。ごめん、ずっと何をいえばいいのか分からなくて、ぎこちなくなってた」
「そんなこと無い!私があのとき………のとき………ッ」
涙を流しだした母ミアを見てカシウスに助けを求めたが、カシウスはなにも言わずただ首を横に振っただけだった。
つまり自分でなんとかしろということかと察したアレンは、ゆっくりと口を開いた。
「ねぇ母さん。母さんにとって僕は何?血の繋がらないただの他人?」
「違うわッ!あなたは、私の息子!例え血の繋がりがなくても、私の息子のアレンよッ!」
「ならそれでいいんだ。僕は母さんと父さんの子供のただのアレンだ。それ以外の何物でもないよ」
しがみつくミアを強く抱きしめ返したアレンは、そっと手を離して両親の姿をもう一度目に焼き付ける。
「父さん。母さん。僕を拾ってくれてありがとう。僕を育ててくれてありがとう。僕を二人の子供にしてくれてありがとう。いつになるかわからないけど今よりも強くなって帰ってくる」
「あぁ。行ってらっしゃいアレン」
「気をつけて、元気でね」
「うん。行ってきます」
二人の声に答えるように頷いたアレンは、最後に自分が過ごした我が家を目に焼き付けてから村の中央へと向かっていく。
⚔⚔⚔
村の中央へと向かったアレンはヴァルドたちの待つ馬車の停留地へと向かって歩いていく。
「おい、こっちだ坊主!」
「ヴァルドのおっちゃん、おはよう」
「おはようさん。さてお前ら、あと二人来る予定だから待ってろよ」
「「「「へいッ!」」」」
馬車の準備をしていた商人たちが声を上げる。
あと二人とは、いったい誰のことだろうとアレンが考えてヴァルドに問いかけようとした。
「ねぇおっちゃん。あと二人って誰がくんの?」
「あぁ?何いってんだお前?そんなの嬢ちゃんに決まってるだろ?」
「ん?シエル?なぜに?」
「はっ?」
「えっ?」
アレンとヴァルドの二人が揃って小首をかしげている。
何やら二人の間で話が噛み合っていないのはいったいなぜだろうと疑問を覚えていると、背後から誰かが近づいてくる気配を感じ取った。
「ヴァルドのおじさん、遅くなりました」
「おはようございますヴァルドさん」
その場に現れたのは真新しい衣装に身を包んだシエルとシスター見習いのミカエラ、それにシスター・レジーナがいた。
「シスターたちもいるの?」
「なんとも失礼ですね。私はあなた達の見送りです」
「いや、だから何故!?それにシエルもミカ姉もその荷物はなに!?」
「何って私たちも首都に行くのよ」
「はぁ!?なんで!?」
わけがわからないと言いたげなアレンにシエルは答える。
「ミカ姉は大きな教会でシスターの資格を取りに行くの。それで私はあなたについていくわ」
「だからどうして!?」
「私も見たくなったのよ。あんたが憧れる外の世界をね。それに首都に行けばノエルたちに会えるんでしょ?」
彼らの旅の先、それはこの国の首都。何を目的として何を思ってあの場所を目指しているのかはわからない、それでももう一度彼らと会うことをシエルは臨んだ。
「会えるかどうかはわからないけど、友達に会いに行っちゃいけない?」
「………ほんとに、それだけか?」
「あんたが心配なのよ。何度もあんな無茶した姿見せられたら、止める人が必要でしょ」
言葉を失ったアレンはなんとか反論しようとして頭を抱えたが結局いい言葉は見つからずに脱力した。
「ぐぅーッ、正論すぎて反論できねぇ」
頭を抱えるアレンの側に近づいたレジーナは、ポンッとその肩に手を置く。
「シエルが決めた道です。あなたが止める事はできません」
「だけど」
それでもと納得の行かないアレンに対してレジーナはそっと顔を近づけ耳元でこう囁いた。
「アレン。自分の心を偽るのはやめなさい。あなたの本当の想いに従うことです」
「ちょっ、なにいってるのシスター?」
「ふふふっ、あなたは自分で思っている以上に分かりやすいていうことです」
アレンの側から離れたシスターは、シエルの方へと向き直った。
「シエル、シスター・ミカエラ。速く馬車にお乗りなさい」
「はぁ~い!」
「はいッ!」
シスターに急かされて馬車に乗り込む二人、それを呆然とするアレンをシスター・レジーナが名前を呼ぶ。
「アレン、こちらを見なさい」
「はっ、はい」
「シエルとミカエラのことを頼みます」
「………わかりました。必ず守ると約束します」
止めるのは不可能だと諦めたアレンがそう答えると、よろしいとレジーナがうなずいた。
「最後にアレン、村長からあなたにこれを渡すように頼まれました」
レジーナが最後にアレンに紐で縛られた何かを手渡した。
受け取ったそれを触った感触からして、なにか布の塊のようだと思ったアレンはレジーナの方を見ながら尋ねる。
「なんですこれ?」
「アイザックがあなたに用意していたものです」
「開けていいですか?」
コクリとレジーナが頷いたのを見てアレンは紐の結び目をほどきくるまれていたものを広げる。
それは、アレン用に用意された新しいコートだった。
今まで着ていた物よりも旅に出るためにと用意されたその服は、今まで狩りに行くときに着ていた物と比べて生地は厚く、よりも丈夫そうだ。
今着ているものを脱いで新しい服に袖を通したアレンは、自身を見に包む紺色のコートを見下ろし少し体を動かしたあと小さく笑みを浮かべた。
「新しい服、ぴったりだ………ありがとうザクじい」
もう話すことの出来ないアイザックへ感謝の言葉を述べたアレンは、もう一度レジーナにお礼を言う。
「ありがとうシスター。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
色々と納得の出来ないところはあったが、それを飲み込みアレンはヴァルドに準備ができた旨を伝え、シエルとミカエラが乗った馬車に同乗した。
「おっ、似合ってるじゃん」
「シエルも、その深緑のコート似合ってんね」
「ありがと」
馬車の中にはシエルとミカエラ以外にヴァルドの商人仲間と護衛が数人乗っており、その顔ぶれはもう何年もこの村に来ていた人たちなのでほとんどが顔見知りであった。
馬車に乗ったアレンはなにも言わずに空いていてシエルの横に腰を下ろした。
護衛として雇われているアレンは事前の取り決めでは、交代で見張りに駆り出されるまでは自由にしてていいと言われたが、何かあった時にすぐに動けるようにしておく。
「出発するぞッ!」
馬車の外からヴァルドの声が聞こえると、それに合わせるかのようにゆっくりと馬車が進みだした。
ガタゴトッと揺れる馬車の振動を感じながら、アレンは馬車の荷台から最後に村の風景をこの目に焼き付けていた。
「行ってきます」
もう一度アレンは自分を育ててくれたこの村に別れの言葉を告げるのであった。
⚔⚔⚔
そこはセントレシア公国の外れにある小さな遺跡の中、その奥にはローブを身にまとった一人の男がいた。
いつの時代に作られたのかわからないほど昔に創られたこの遺跡の最奥には、かつて何かの儀式に使われたのであろう祭壇とそこで執り行われていた儀式を書き記した壁画があった。
ローブの人物は、手に握られた松明の明かりを頼りにその壁画を見つめる。
「やはり、最後の一つはこの地にある!これで全てが揃うのだ!世界を手にするほどの強大な力が、今我らの手にッ!」
ローブの人物が見つめる視線の先には空高く剣を掲げる三人の男の姿が描かれているのだった。




