出生の秘密と決意
成人の儀を終え始まった宴会を抜け出したアレンは一度家へと戻ろうとすると、隣で振舞い酒を飲んでいたシエルがそのことに気がついた。
「あれ、どこ行く気なのよアレン?せっかくお酒たくさん飲めるのよ!飲まなきゃ損よ、損ッ!」
この村で酒を振る舞われるのは今日のような成人の儀、あるいは結婚式などの祝い事や新年祭のときにわずかに配られるくらいのため、大人たちは始まったばかりだというのにすでに酔い潰れ始めている。
ついでに普段全くと行って飲める機会がない上に今年から飲めるようになった酒をシエルも好んで飲んでいた。その手にはすでに三杯目のジョッキが握られており、すでにアルコールに当てられて赤くなっていた。
「ちょっと家に戻るよ。母さんたちに話しがあるって言われててさ」
「ふぅ~ん。なら仕方ないけど速く戻りなさいよ。じゃなきゃなくなっちゃうわよ?」
「なるべく早く戻るつもりだけど、初めて飲んだ時みたいに飲みすぎてぶっ倒れるなよ~」
「うるさいわねぇ!速く行ってきなさいよッ!それと今日は朝まで飲むから付き合いなさいよッ!」
ひらひらと手を振りながらシエルのもとから去ったアレンは、面倒な約束を結ばれたなッとげんなりしながら家への道程を歩いていく中、アレンはふと足を止めて村を囲う壁を見つめる。
あの壁の外には今もどこかで星獣が跋扈している。
一度気を抜いてしまえば命を落としてしまう危険が伴うそんな世界が広がっている。だけどアレンは誰かに二度と外に出たくないかと聞かれれば、即座に否と答えるだろう。
あんなに何度も危険な目に会い、何度も殺されていたかもしれないというのにアレンはまたもう一度、この村を出て外の光景を見てみたいと、そう思ってしまうほど魅せられているのだ。
この小さな村にいては知ることのできないような色を持つ、外の世界にアレンは惹かれ魅せられている。
悪いことではない、この村を出ていった多くの人たちもアレンと同じ思いで旅立った人は少なくない。それでもアレンはその想いに蓋をし忘れようとしていた。
「速く行かなきゃな」
再び歩き出したアレンはしばらく暗い夜道を歩き、我が家へと戻る。
「ただいま、父さん。母さん。成人の儀、ちゃんと終わったよ」
声をかけながら家の中に入ると、奥の方から声が聞こえてきた。
「おかえりなさい。こっちに来なさいアレン」
誘われるように自分の席につくと、ミアはお茶を淹れたカップをアレンの前においた。少ししか飲んでいなかったが、お茶を飲んで酔を冷ました。
「でっ、話ってなんなの?」
コップを置いたアレンは二人に問いかけると、答えようとするミアの表情は優れない。
「あのね、アレン実は───」
「いいよミア。ここは私が」
「あなた……お願いするわ」
表情の優れないミスを止めて代わりにカシウスがアレンと向き合った。
「アレン。話す前に一つ確認したい。魂葬祭で私たちが誰の魂を送っているか、わかるかい?」
「うんん。知らないしだれも教えてくれなかったから分からないけど、きっと二人に縁がある人なんじゃないかってのは分かってるつもりだよ」
「そう………ずっと黙っていた。アレはね、私たちの子供の、君のお兄さんの魂を送っているんだ」
やっぱりそうかと思う一方でアレンはなぜ両親が今までそのことを隠していたのか、なぜ今その秘密を話したのかアレンには分からなかった。
言いたくはない、だけどアレンはここで聞かないわけにも行かないと思い尋ねる。
「ねぇ。二人がそのことを黙ってたのって、僕のことに関係があるからなの?」
「あぁ。そうだよ」
カシウスは目を瞑りながら、ギュッと手を包み込み握りしめるとまるで何かを決めたかのようにアレンに向き直った。
「アレン。君にとって信じられないことかもしれないけど、君は私たちの本当の子供じゃないんだ」
「…………あぁ………うん………そう、なんだ………」
その話しに言葉を失ったアレンは、頭の中で必死に言葉を探しながらもどうしてかその話はとても良く理解できていた。
なぜかは分からないが、こうして言われる前からもどこか自分はこの二人とは血が繋がっていないのでは、そんな予感がずっとしてい
た。だからかは分からないが、思っていたほどショックは受けなかった。
戸惑っているアレンを見ながらも、カシウスは話そうと決めていたことを話し始める。
「十五年前、あの災害の直後。私たちが暮らしていた場所は奇跡的に災害の被害も少なくてね。平和に暮らしていたんだ……それでもあの夜、私たちの暮らしていた場所も星獣に襲われ、そのときにあの子を失った」
「そう……なんだ」
「この村にたどり着く少し前、森の中に捨てられていた君を拾ったんだ。………その後はまぁ、君を私たちの子供として育てて来た。これが私たちが君に隠してきたことの全てだ」
カシウスの話を全て聞いたアレンは、下を見ながらギュッと手を固く握りしめた。
「聞きたいんだけどさ。捨てられてたって、僕の本当の親は生きてるの、かな?」
「分からない。ただ私たちが君を見つけたとき、襲われた形跡も何もなかったから生きている。かもしれない」
「そっか………ねぇ最後にもう一個教えてもらいたいんだけど」
「何でも聞いてくれて構わないよ」
「じゃあさ、僕は二人にとって───」
口に出そうとした言葉をアレンは既のところで飲み込んだ。
その言葉を口にして、もしも思っている答えが帰ってきたときアレンは自分が何をするか分からなかった。だから、その言葉を既のところで飲み込むと、残っていたお茶を飲み干し立ち上がった。
「ごめん、やっぱり何でもない」
「アレン。どうしたんだい急に?」
「いや、その……シエルをまたしてたのを思い出して、速く戻るって約束してたから………それでもう行くよ。あっ、父さんたちも酒なくならないうちに来なよ」
そそくさと立ち去ろうとしたアレン、その前に立ち上がったミアがアレンを呼び止める。
「ちょっと待ちなさい、アレン」
「なに、母さん」
「あまり遅くならないで、飲み過ぎちゃだめよ」
「分かってるよ。じゃあ、行ってくるね」
パタンッと扉が閉まる音が聞こえると、ミアは力なく椅子に座った。
「ねぇあなた………いま、アレンが言おうとした言葉って」
「あぁ………多分そうだろうね」
あのときアレンが飲み込んだあの言葉が何なのか、二人には容易に想像がついていた。
───僕は二人にとって、亡くなった子供のかわりなの?
きっとアレンはそう言おうとしたに違いない。
「私はあの子を、カインの変わりだなんて思ったことないわ」
「それは、私も同じだ………だけど、あの子にとっては違うのだろう」
「分かってる………でも、やっぱり悲しいわよね」
子供にあんなことを言わせようとしたことをミアは後悔した。
「ミア。あの子はもう大人だ。この家に縛ることは出来ないんだ」
「そんなこと、言われなくてもわかっているわよ」
暗い顔をするミアのことをカシウスは優しく抱きしめるのだった。
⚔⚔⚔
家を出て宴の会場へと歩いて戻ったアレンはテーブルで自分の両親と酒を飲み交わすシエルを見つけた。
「シエル、お待たせ」
「あっ、おっそいわよ。何してたのよ」
「ごめん。話が長引いちゃってね。あっ、シエルそれもらってもいいかな?お腹へっちゃって」
シエルの前にあった皿からパイを一欠頂こうとしたアレンだったが、パイに手が触れるよりも速くシエルが皿を横にずらした。
伸ばされた手が空を切ったアレンがつんのめると、こんなことをしてくれたシエルを見る。
「何するんだよ」
「………ねぇ。何かあったでしょ?」
「はっ?何かってなんのこと?僕はいつも通り、至って普通ですけど?」
疑いの眼差しを向けてくるシエルから視線を外すとシエルの両親イオとライラも訝しんだ表情でこちらを見ていた。
どこかおかしなところがあったかと、アレンは自分の行動を思い返してみるも理由が全く思い浮かばないでいると、テキパキとテーブルに乗っていた料理を二つの皿にまとめ始める。
「あっ、ちょっ、シエル!?なにしてんの!?」
「今から静かなところ行くわよ!アレン!新しいジョッキにお酒淹れてきなさい!」
「えっ、何でッ!?」
「いいから、拒否権なしッ!あとジョッキは四つね」
こうなったらもう止められないと諦めたアレンは、酒樽が置かれている場所に向かうと酒を配っていたおじさんに声をかける。
「おじさん。エールをジョッキで四つ頂戴」
「おっ。アレンじゃないか!飲んでっか、この色男!」
ガハハッと笑っているおじさんの顔はすでに真っ赤、相当出来上がっていると見たアレンはめんどくさそうだと思いながら、速くエールをもらっていこうとした。
「素面で酔っ払いの相手したくないんだけど。早くエール頂戴」
「ほいほい。ったく、これ持って嫁さんのところ戻ってやれ。待ちかねてんぞ」
「嫁って……いったい誰のことだよ」
「そんなもんシエルの嬢ちゃんだろ!さっさと行ってこい色男め!」
おじさんの言うシエルのあの眼は待ちわびている目ではなく、さっさともらってこっちに来なさいよッと催促している眼だ。
それを言ったところで何もならないので、適当に言葉を返してジョッキを受け取ったアレンはシエルの待つテーブルに戻った。
「もらって来ましたよ」
「遅いッ!けどまぁいいわ。じゃあお母さん、私静かな場所でアレンと飲んでくるわね!」
「はい。いってらっしゃ~い。酔い潰れてアレンくんを襲わないようにねぇ~」
あまりのライラの言葉にエールを飲もうとしていたイオが吹き出し、アレンもズッコケかけた。
「おばさん、冗談でもよしてよ」
「おいアレン、シエルを傷物にしたら………分かってるな」
「…………………」
ガシッと肩を掴まれたアレン、後ろからイオの凄まじい殺気を感じながら無言で何度も首を縦に振ると、横からシエルがアレンの腕をつかんで歩き出した。
「じゃあ行くわよアレン」
「あっ、ちょっとシエル!?」
引っ張られて腕を振り払ったアレンは無言で先を行くシエルの後を追っていくと、残されたイオとライラは小さく息を吐いた。
「さっきの様子だと、ミアはあのことを話したのかしら?」
「そう、だろうな」
二人はアレンの出生の秘密を知っている。
もちろん、カシウスとミアがこれまで隠していた理由もわかっているつもりであったが、あのようなアレンの姿を見ては本当にこれで良かったのか、そう思ってしまった。
「やっぱり早かったんじゃないかしらね」
「分からん。だが、他の家のことをとやかくいうわけにはいかん」
「そうよね………でも、アレンくんのアレ、本当にそっくりだったわね」
「親子だからな。似るもんなのだろう」
二人の言うアレとは、アレンの誤魔化しの仕方であった。
嘘をついたり、なにかを隠そうとしたとき、アレンはよく変な敬語を入れる。それは父親であるカシウスがよくやる癖で、アレンも同じような癖があった。
例え血は繋がってなくとも、それだけでもしっかりと親子なのだとイオとライアは思っているのだった。
⚔⚔⚔
いったいどこまで行くのか、そう思いながらも下手になにかを言える空気ではなかったので黙ってその後ろをついていく。宴会の行われている場所から離れ、段々と明かりも少なくなっている。
静かな場所と言っていたが、一体どこのことを指しているのかと考えたアレンは、薄暗い視線の先で見えてきたそれを見てようやくシエルが向かおうとしている場所がわかった。
「おいシエル、もしかしなくても見張台登る気か?」
「そのつもりよ。どうせ今使われてないんだから」
この数ヶ月で壁は補強され、その際に壁の上に見張り台が新しく設置され前の見張り台は使われることはなくなった。しかし、灯りもないこんな暗闇で登るのは不味いだろうと思った。
「両手塞がってるし、飛ぶわよ───フライ」
風魔法で空を駆け回るシエルを目で追ったアレンは、即座に顔をそらした。いくら暗いからと言っても、スカートの中を覗く訳にはいかない。
「おぉ~い、速く上がってきなさいよ」
「上がって来いって、はぁ~、闘気で飛ぶの難しいのに」
全身に闘気を巡らせて身体を浮かしたアレンはゆっくり空へと飛び上がった。
闘気で空を飛ぶには精密なコントロールが必要で基本的に戦闘で使うことは出来ない。練習を重ねれば多少はマシになると言われているのだが、剣の修行にかまけてそちらを疎かにしてしまった。
フラフラと、たどたどしくもどうにか上へとついたアレンだった。
「遅いわよッ!零してないでしょうね?」
「零してないよ。はい」
片手に持ってたジョッキをシエルに差し出すと、ありがとうッとお礼を言って受け取ると豪快にジョッキの半分ほど飲み干した
「はぁ~、やっぱりエールは美味しいわね」
「色気ねぇ~」
「あんだって」
「何でもございませんです、はい」
脅しに魔法を使うのは反則だろうと思いながらも目をそらしたアレン、大人しく自分の分のジョッキから酒を飲もうとしたら横からシエルに奪われてしまった。
「はいはい。アレンはまだ飲んじゃダメ」
「えっ、何で!?」
「先になにがあったのか、きっちり吐いちゃいなさい」
「吐けって、別に僕はなにも隠してなんか」
「隠してるでしょ?目をそらして変に敬語使ってるときは、大体嘘ついてるときなのよ」
自分でも知らないような自分の癖にそっと目をそらしたアレンは、隠していてもしょうがないかと思い正直に答えることにした。
「僕に兄さんがいたのだって」
「お兄さんが?」
「あぁ。だけど災害で死んじゃったんだって………それで」
「それで、なにがあったの?」
「父さんと母さんから僕は本当の子供じゃないって言われた」
シエルの口からハッと息を呑む音が聞こえてきたが、アレンは気にせずに話を続ける。
「僕は二人がこの村に来る前に捨てられてたんだって、まぁ今の世の中じゃあまり珍しくないよね」
話をしたアレンはなにも言わないでいるシエルの手からジョッキを奪い去ると、口をつけて飲み始めるが一口飲んでアレンは顔をしかめた。
「うぅ~ん。やっぱり旨いとは思えない」
「ねぇそれだけなの?」
「なにが?」
「だから、それだけじゃないんでしょ!」
向き直りアレンの頬を両手で包み込んだシエルは、真っ直ぐアレンの瞳を見つめる。
「自分じゃわからないでしょうけど、あなた今すごく傷ついているわ。なにがあったかは知らない、でもね。それは胸の中にしまっていても良くならないわよ!」
「シエル」
「言いなさいアレン!あなた、なにがあったの?なにをいったの?教えなさい、アレン!」
力強いシエルの言葉にアレンはポツリと言葉をこぼした。
「ついさ、聞きそうになったんだ……僕は、その子のかわりだったのかって」
「それを聞いたの?」
「言えなかった………出そうとして、怖くなって…………聞けなかった」
「じゃあ、何で聞こうとしたの?」
「だって………不安になったんだ!僕が捨て子だってわかって、父さんも……母さんも………ずっと僕じゃない誰かを見てたんじゃないかって、だから………でも………ッ!いざ口に出そうと思ったら余計に、怖くなった……」
口に出すごとにアレンの両目からポロポロと涙がこぼれだす。
ずっと我慢していた心の内をさらけ出しながらアレンは言葉を紡ぎ続ける。
「もしも、そうだって、お前は……ただの代わりなんだって……言われたら、僕は………どうすればいいんだって………そう思って、なにも言えなくなって……」
感情が決壊し大粒の涙がこぼれ落ちるごとに、今まで取り繕っていた感情が全て砕け散りもうなにもわからない。
涙をこぼし小刻みに震えるアレンを見たシエルは、そっと抱きしめる。
「シエル?」
「アレン………あなたは、あなたよ。誰かのかわりなんかじゃない」
「─────ッ!」
その言葉こそ今のアレンが欲しかった言葉だった。
伸ばされたアレンの両腕がシエルの背中に回されギュッと力強く抱きしめる。
「シエル、僕は………僕で、良いんだよね?」
「うん。うん」
それからしばらくアレンはシエルの胸の中で泣いた。
シエルはその間優しくアレンの頭を撫で続けていた。
しばらくして落ち着きを取り戻したアレンは、どことなく気不味くなり離れたところに座って気泡の抜けたエールをチビチビと飲んでいた。
「ちょっと、何でそんなに離れてるのよ?こっち来なさいよ」
「うるさい………なんとなく気まずいんだよ」
「ふぅ〜ん、そうなんだぁ~」
ニヤニヤと笑いながら近づいてくるシエルの顔に、ちょっとだけイラッと来たアレンだった。
「それよりさ、どうするか決めたの?」
「何の話だよ?」
「これからのこと、成人の儀が終わったんだから。村に残るか、出るか」
「あぁその話か」
成人の儀が終わった今、村に残るも出るも当人の自由。何度か村を出るのかどうかと聞かれたことがあったが、ずっとアレンはその答えが出せないでいた。
村でなにかの仕事をつくこともできるがこれと言ってやりたいこともなく、かと言って村の外に出る気も起きなかった。しかし、星獣との戦いを経験した今、アレンはあることを決めていた。
「村に残るなら仕事決めなきゃね」
「いいよ。必要ない」
「えぇ~、無職は流石にちょっと」
「なに考えてんだよ───僕は……村を出ようと思う」
突然の告白にシエルは目を丸くしながら驚いたが、すぐに平静を取り戻して尋ねる。
「出るんだ………なんかちょっと以外ね」
「自分でもそう思うけど………星獣との戦いで思い知らされたんだ、僕は弱い………だから、強くなりたい。もっと、誰かを傷つけないように守れるように、もう誰も失いたくないから」
「だから、村を出るの?」
シエルの言葉にアレンは小さく頷いて見せる。
「出てどこ行く気なの。まさか当てもなく各地を放浪の旅して武者修行とか言うんじゃないでしょうね?」
「なわけねぇよ。首都に行って衛士団に入ろうと思う」
「衛士団!?」
衛士団とはセントレシア公国が組織した騎士団とはまた違った防衛機関だ。
その目的は国の治安維持や国外からの侵略に対抗する騎士団と違い、この世界共通の脅威である魔獣や星獣被害にも対応する組織だ。
役割としてはギルドと同じように思えるが、有事の際は騎士団と連携したり決められた持ち場を守護するため、多くの制約を受けることが多い。
「何でまた衛士団なのよ?」
「衛士団は国を、人を守るための組織だ。それに、今のあそこにはあの人もいるからね」
あの人というアレンの言葉にシエルも反応した。
「そういえばそうだったわね。でも私は、てっきり冒険者になるとばかり思ってたわ」
「心惹かれないって言われれば嘘になるけど、冒険者って基本的に金でしか動かないだろ………それに、昔あんなの見たら見ちゃったらな」
独立の機関である各種ギルドの殆どは寄り合い所のようなものだ。
例えば商人ギルドなら各国の市場の情報を集めて商人に分け与え、その情報で得た利益の一部をギルドが受け取る。
木工ギルドならば山の管理や伐採した木材の加工し、商店へと卸してその利益を貰う。そして冒険者ギルドは、討伐した魔獣の肉や毛皮あるいは魔石の売買による収益、そして依頼者からの報酬を得て成り立っていた。
それはあの災害以降も同じで、数年前たまたま村に立ち寄った冒険者にこの村に留まって守ってほしいと村長が頼んだことがあった。
だけどその願いは聞き届けられず、守ってほしければ金をよこせと言ってきた。
金を払うのは冒険者を雇い入れるのだから当たり前だと納得した。しかし冒険者側から提示された金額はこの村の村民全員の有り金を掻き集めても到底足りない程の金額だった。
それを一月に一度支払えとその冒険者達は言ったのだ。
「金を取るのは仕方ないにしても、月に百万シル、首都じゃ二十万シルで一月は暮らせる額だってね」
「あとで行商のおじさんに聞いた話でも、駐在冒険者を雇うのに月に十五万とかだってね。えらくぼったくられたわよね」
しみじみとそう語る二人。
ちなみにシルとはセントレシア公国で使われている通貨である。
災害以降、今の国の形を取り始めてから流通するようになった硬貨で、アレンたちの村にもいくらか存在はしている物の、村の中では基本的に物々交換が主流なので使うところとしては、数ヶ月に一度の頻度で訪れる行商のキャラバンだ。
こんな世界でも行商人おり、首都を拠点としてあちらこちらに点在する村や里を渡り歩いている人たちだ。もちろんこの村にもやってきており、極稀に手紙なども運ばれてくることもある。
「じゃあさ、出発は次のキャラバンで?」
「そうなるかな」
残っていたエールを飲み干したアレンは勢いをつけて立ち上がった。
「さてと、色々聞いてもらえてスッキリした。あんがと、シエル」
「フッフッフッ。存分に感謝しなさい。っともうお酒も料理もないし下りよっか」
「そうだな」
空になった食器を片手に物見台から飛び降りた二人は未だに宴の続く会場へと戻っていくのだった。




