プロローグ
新作です。
皆さんに楽しんでいただけるように頑張りますのでよろしくお願いいたします。
ここは魔法によって発展した星アウロラは、大きく分けて三つの大陸によって形作られていた。
各大陸にはそれぞれ全く別の発展を遂げていった。
一つは様々な種族が共存し栄えた大陸、一つは魔法と機械技術を合わせた魔道工学によって栄えた大陸、一つは豊かな森と魔法によって栄えた大陸。この三つの大陸はそれぞれ一国の大国が大陸中の国をまとめ上げていた。
大国による支配は小さないざこざを巻き起こしながらも、世界は平和にそれでいて豊かに栄えていた。
だがそんな平和な世界も十五年前までの話だった。
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十五年前、のちに"落星の日"と呼ばれたあの日、突如として世界のいたるところに無数の隕石が降り注いだ。
降り注いだ隕石によって大陸は割れ、多くの国が世界か消え去去るほどの被害を受けた。
世界中が混乱に陥る中、更なる厄祭が人々を襲った。
空から落ちてきた無数の隕石の中に潜んでいた厄災が突如として人々を襲いだした。
隕石とともに現れた厄災は姿を持たず、黒い泥のような身体に無数の眼玉を持ったそれは、この世界にいた魔獣と呼ばれる生き物に寄生し繁殖を繰り返しこの世界で増えて行った。
だが奴らが寄生するのは魔獣だけではなく、ごくごくまれに人やただの家畜にまで寄生することがあった。魔獣以外に憑りついた奴らは短い時間暴れまわると、突如糸の切れた操り人形のように倒れて絶命したという。
のちの学者の発表によるとこの化け物は魔獣の中にある魔石を狙って寄生する。そして、魔力を持つ人や動物を狙って襲っていたという学説が建てられた。
その理由として、魔石は劣化や外部からの力で破損しない限り永続的に魔力を生み出す。
これはこの世界に暮らす人々の生活を支えるにあたり、無くてはならない物でありあの化け物が生きていくうえでどうしても必要な物なのだとされてきた。
魔獣とは違うその化け物はのちに星よりこの世に降り立った獣、星獣と呼ばれるようになった。
それを倒すには身体にある数十から数百あるとされる目玉のすべてを潰すか、あるいは寄生した魔獣を殺すしか対処方法はなかった。
星獣の出現によって世界は混乱に陥る中、人に寄生する星獣もいたことから多くの人々は疑心暗鬼に陥り、多くの場所では人狩りが起ったとも言われていた。
天より降り注いだ無数の隕石による天災、そして隕石によってもたらされた異形の化け物によって、更に多くの人が亡くなった。
隕石の飛来、星獣の出現によって住む場所を失った人類はただやられるだけではなかった。
元来魔獣と戦う冒険者と呼ばれる人々が星獣と勇敢に戦いながら人が住める土地を取り戻しくていく中、戦うすべを持たない多くの人々は集まり助け合って生活をしていたが、各地で生き残った多くの人々は、より多くの人の集まる場所を探すために荒廃した世界を彷徨った。
世界が荒れ果て、すべてを無くし、すべてを失ったそんな世界で住む場所を追われた一組の夫婦が、安住の地を求めて森の中を彷徨っていた。
「次の町まで、どれくらいかしら……?」
「分からない。だけど少しでも早く移動しよう。あいつらが暴れ出す前に」
星獣は昼間は活動が低下し、夜に凶暴性を増す。
それは星獣が現れてからすぐに人々の間に広がった。
日が出ている内はそれほどまでに凶暴性はなく、人を襲う事はあっても力が大幅に低下しているている星獣なら、戦う力もたない一般人でもどうにか太刀打ちが出来るほどだった。
だがひとたび夜になってしまっては力を持たない人は無力となる。
それでも星獣に太刀打ちする手段が皆無という訳ではない。元が泥のような身体だからなのか、あいつらは火を恐れる。
それがたとえ、とても小さな火でさえ奴らを怯えさせる事ができる。ゆえに一度夜になってしまえば彼らのような旅人は瞬きする間に殺されてしまうだろう。
「この先、なのよね?」
「あぁ。地図では、だけどね」
"落星の日"運良く直接的な被害もなく、壊滅を免れた村だったが数ヶ月前に星獣に襲われた。
住んでいた村が滅び家族をなくした二人は生き残りを探して旅を始めてすでに数ヶ月、彼らはかつて町があったとされる場所を練り歩き、生き残った人々が住まう場所を探した。しかし、すべて空振りに終わった。
住む場所を失った彼らは生きるために歩き続けた。
「ふぎゃぁ……ふぎゃ〜」
森を越えようとしたその時、ミアの耳に赤ん坊の鳴き声が聞こえてきた。
突然、脚を止めて周りを窺い始めたミアを訝しんだカシウスが尋ねる。
「どうしたんだい、ミア?」
「今、赤ちゃんの声が聞こえたような」
「鳴き声?……私には何も」
「いいえ、確かに聞こえたのよ………あっ!あなた、あそこに赤ちゃんが」
木の根元、布に包まれた赤子が声を上げて鳴いているのを見つけたミアが駆け寄ろうとしたその時、カシウスがそれを阻んだ。
「やめるんだミア」
「どうして止めるの!」
「いまどき捨て子なんて珍しくない。キミだって見てきただろ」
”落星の日”からはや数ヶ月、孤児なんてものは珍しくもなんともないどころか、経済が破綻し身分や何もかもが機能しなくなった今、食糧難によって餓死者さえも多く出ていた。
そんな中で赤ん坊や老人などは斬り捨てるべき対象として捨てられるのは珍しくもなんともなかった。
彼らとてそれは重々理化していた。旅の途中、獣に食われた人の亡骸や餓死し蛆にまみれた赤子の死体をいくつも見てきた。
子供だから助けなければなどただの偽善、こんな世界だからなどという綺麗ごとなど言っている暇はない。
明日とも分からぬこの世界で赤子を抱え旅をすることなど不可能だ。
「ミア。いまの私たちに子供を育てる余裕はないんだ。キミもわかっているだろ?」
「分かってるわ……分かってはいるのけど」
自分たちの状況も理解している。
明日の命も分からない今、赤子を育て上げることなど出来るはずない。しかし、鳴き声を上げる赤子の姿を見たミアの手が赤子に伸びようとしたその時、カシウスはミアの手を掴んで歩き出した。
「行こう。かわいそうだけど……仕方ないんだ」
腕を引かれ進んでいく二人だったが、不意に泣き叫ぶ赤子の声がミアの耳に届く。
その声を聞いたミアは"落星の日"に亡くした我が子の姿を思い起こされ、自然と足を止めていた。
「何をしているんだミア」
「ごめんなさい、あなた」
「えっ?」
「……私にはどうしても、あの子を見捨てられないの」
「ミア!」
夫の手を振り払い泣きわめく赤子を抱きかかえる。
「大丈夫よ赤ちゃん、もう大丈夫だから」
「うぅ……ぁあぅ」
今まで泣いていた赤ん坊はミアに抱きしめられたことで落ち着いたのか泣き止んでくれた。
抱きしめたミアの頬をペタペタと触る。
頬に触れる小さな手の感触と少し高い子供の体温がミアに伝わってくる。懸命に生きようとするその小さな命、その温かさにミアはポロポロと涙を流し力強く抱きしめていた。
「ぅっ……うぅ」
子供をなくしたあの日、枯れてしまったと思っていた涙が溢れ出した。
涙を流すミアの姿に感じるものがあったらしいカシウスは、ミアの思いを組むことにした。
「ミア……分かった。その子も連れて行こう」
「あなた……いいの?」
「いいも悪いも、ここでこの子を見捨てたら、あの子に合わす顔がないよ」
「……ありがとう、あなた」
「いいさ。行こう」
目元に溜まった涙を拭ったミアは腕に抱いた赤子の顔を覗き込んだ時、赤子が何かを握りそれを食べようとしていることに気づいた。
「あらまぁ!だめよ、もぐもぐしちゃ!」
「あぅあぁ!」
「今度はどうしたんだい、ミア!」
「どうしたも、この子が何かを咥えてたのよ」
赤子は手に持ったものを口に含んでしまう。
そうなったときの大変さをよく知っているミアとカシウスは、赤子の口からそれを取り出す。
「全く……なんだこれ?」
「金貨、じゃないわね。なにかしら、このメダル?」
ヨダレでベタベタになったそれを見て、二人は首を傾げた。
赤子が口に含んでいた金のメダルは、少なくともこのあたりで使われていた硬貨ではない。
「隣の国のお金かしら?」
「いや、違ったはずだ」
カシウスはそう語るが、ならばこの金貨はいったい何なんだろうとミアは思った。
表には一本の樹が、裏には竜の絵姿が刻印されたこの金貨……いいやメダルは何なのかと考えていると、カシウスは首を横に降ってからミアに声をかけた。
「ミア、こんなことをしている時間はない。この子を連れて速く森を出よう」
「そうね」
森を出るために進もうと提案するカシウスにミアも賛同し、赤子から取り上げたメダルをしまおうとしたその時、あることに気がついた。
「あら、これは……」
メダルの裏側になにか細かい文字が刻まれていることに気がついた。
もしかしたらなにか手がかりになるかもしれないと、それを覗き込むとどうやらナイフか何かで後から掘られたらしいその文字は、ところどころ読み取ることができなかったが、名前のようだとミアは思った。
「これは、あ……れ、ん……?アレン」
「ぅあ?」
そう発音すると赤子がまるで自分のことだと理解したかのように反応した。
「そう。あなたの名前はアレンというのね」
「ミア、速く行くよ」
「えぇ」
赤子のアレンを抱きしめたミアはカシウスの後を追って歩き始める。
この日、一組の夫婦が赤子を拾ったのと時を同じくして他の二つの大陸で赤子が拾われた。
その赤子が、いつの日か世界に運命を決めることになるとはまだこのときは誰にもわからない。
そして、時は流れ十五年後───世界の運命がゆっくりと動き始めるのだった。
このあともう一話投稿いたします。
他にも作品を投稿しておりますので、こちらもよろしくお願いいたします。
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