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6.ある歴史学者の研究室にて。正史

 ここは、気が遠くなるような未来。とある歴史学者の部屋である。


 北向きで窓の向こうには建物があるため、昼間でも薄暗い。


 壁という壁を書棚が覆っており、そこにはあらゆる国の、あらゆる年代の婚約破棄にまつわる情報が、事象別にきっちりと整理されて並んでいた。


 学者は、その中から「星の王国 真珠姫処刑」と書かれた薄い紙箱を取り出した。その中には何十枚もの資料や関係者の姿絵が収められている。


 世界中で年代を問わず起こるこの手の事件について男は調べていた。当事者だけではなく、その時代に活躍した者たちも含めた綿密な調査を行なっている。


 以下は、男の資料を一部抜粋したもの。( )内は、男の手書きである。




 星歴986年

 ★アシュテルラ王国第一王子セオドリク、ユルゲン子爵家三男ザッカリー、ウィザーミア伯爵家長女トルペ誕生


 星歴987年

 メリー子爵家三女キャンディス誕生


 星歴988年

 ★マルガレーテ公爵家長女ペルラニア、ファイルヒェン男爵家長女ヴィオレッタ、リパーン男爵家庶子アレッタ誕生


 星歴995年

 ペルラニアとセオドリクの婚約が結ばれる

 ヴィオレッタとザッカリーの婚約が結ばれる


 星歴1000年

 ペルラニアの父、マルガレーテ公爵が死亡(野盗に襲われたため。しかし……?)


 星歴1002年

 ペルラニアの母、マルガレーテ公爵夫人が死亡

(病のため。後年、遅効性の毒によるものと判明。マルガレーテ公爵領秘蔵のその毒は、長期にわたって飲み続けると、難病星点病を誘発することが最近判明)


 星歴1003年

 伯爵令嬢トルペが下男と駆け落ちする

(のちに、トルペが実家で虐げられていたこと、下男はそれを救い出すために連れ去り、のちに恋仲になったことが明らかになっている)


 星歴1004年

 子爵令嬢キャンディスの恋人が星点病の特効薬を開発。平民であった恋人はそれによって叙爵され、二人は婚約する。

(本当は共同開発であったが、ふたりが結ばれるために令嬢は手柄を譲ったようだ)


 星歴1005年

 ペルラニアとセオドリクの婚約が破棄される

(ペルラニアと従僕の不貞のため)


 星歴1006年

 ペルラニアによるセオドリク暗殺未遂

(視察中にペルラニア本人に刺された)


 セオドリクと聖女アレッタの婚約が結ばれる

(王子の命を救った褒賞として)


 ペルラニアは王族毒殺未遂のため処刑

(ペルラニアの生家が行なっていた毒の生産や人身売買など、数々の罪も暴かれる)


 星歴1007年

 セオドリク・アレッタ婚姻

 ザッカリー・ヴィオレッタ婚姻


 星歴1010年

 セオドリクとアレッタに第一王子誕生。


 星歴1012年

 第二王子誕生。

 第一王子が病を得て寝たきりに。


 星歴1021年

 国境に出現した大型魔獣を、冒険者の夫婦が討伐。元伯爵令嬢トルペとその夫だと判明。

 二人は騎士として登用され、その後も飛躍的な活躍をする


 星歴1023年

 元子爵令嬢キャンディスと夫が、共同名義で新薬を開発。

 寝たきりとなっていた王太子を含む、難病患者を多数救う


 星歴1025年

 ザッカリー・ヴィオレッタ夫妻が、魔力封印の解呪方法を解明

 国民すべてが魔法を使えるようになる

(他国でも似たような事例が見られ、のちの研究で、古代神による「血の縛り」ではないかとの説が出ている)





「今日は"宵の日"だったな」


 男は窓の向こうに目をやった。何の変哲もない、薄暗い午後だ。


 男の住む国では、宵の日になっても日が陰ることなどない。

 あれには、あの国を守護する神のいたずらだとか、本質だとか、さまざまな謂れがある。


 男は仕事柄、あらゆる国の祭祀についても男は精通していた。祭祀には歴史を紐解くヒントがある。


「……っ」


 そのとき、一瞬立ちくらみを覚えて、こめかみを押さえた。そして……次に顔を上げたとき、男は信じられないものを見た。


 資料の文字がひらひらと剥がれて、書き換わっていったのだった。

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