12.悪女ペルラニア・マルガレーテ
神の投影したものを見た民衆は、貴族は、誰も声を発することができずにいた。ひらひら、ひらひらと闇の中に光る花びらが舞い散る中で、ペルラはこてりと首をかしげている。
「ーー? わたくし、なにか悪いことをしていて?」
「貴様……っ」
はじめに立ち上がったのはセオドリクだった。
彼は巻き戻る前も優秀な王子として知られており、婚約破棄にも彼の瑕疵は一切なかった。同時に、あのときはペルラへの愛情も持ち合わせていなかった。
けれども、時を巻き戻され、毒を飲まされ苦しみ、思うように動かない体で、第一王子としての責任を果たそうと奮闘してきた。そしてそれを支えてくれるパートナーだと信じていたペルラが、彼女こそがその引き金になっていたことを知り、彼はその場に崩折れた。
それをそっと支えたのは聖女アレッタであった。その目にも涙が浮かんでいた。
彼女の実家も巻き戻る前とは違い、盗まれたアイディアのせいで没落してしまっていた。そんな彼女を聖女として見出したのはペルラで、だからこそ、あんな事件が起こるまでは彼女を慕っていたのに……。
「あなたが今ここに立っている原因となった、あの事件についてはどうお考えですか」
ヴィオレッタの静かな声が闇夜に響いた。
黒いドレスの裾が風にはためいている。
「ーーああ、あれ」
ペルラはけだるげな顔をした。
「あまり覚えていないのよ。記憶が曖昧というか……。エメリーとミーアは賢い子だと思っていたのだけれどね……」
半月ほど前、舞踏会の夜にペルラニア・マルガレーテは、第一王子セオドリクに毒を盛った。
二人きりになったところで吹きかけた香水には毒が混ざっていた。泡を吹いて倒れたセオドリクを見て、半狂乱になったペルラの様子は演技には見えなかった。そして彼女もまた、微量の毒を吸い込んで卒倒した。
その叫び声を聞いて駆けつけたアレッタが、星魔力を使い、王子は一命をとりとめたのだが……。そこにペルラの姿はなかった。
セオドリク本人が「なにかの間違いのはずだ」とは言いながらも、香水を吹きかけてきたペルラについて調べていくと、実家も含めて驚くほどの悪事を重ねていることがわかった。
それからしばらくして、ペルラの潜伏場所がもたらされた。騎士が踏み込み、こんこんと眠るペルラと、そのそばで崩折れるようにして絶命した双子を見つけたのだった。