夜の帰り道
仕事終わり。
今日は仕事が早く終わって、夕方から夜にかけて出かけた。
と言っても、隣の隣の田舎町まで行って夕食を食べて帰るだけのドライブ。
今、夕食を食べ終えたところだ。
古ぼけた小さな食堂を出て、自分の車に乗る。
もう夜。
夜空には半月が出ていた。
「ああ。もうすぐ春だな。」
と、星空を見てつぶやく。
西の空に目をやると、オリオン座やおおいぬ座と言った冬の星座が見え、東の空には、うしかい座やおとめ座が見えていた。おとめ座の一等星と、うしかい座の一等星を辿って空を見上げると、そこにはおおぐま座の柄杓星。
「さて、帰ろう。夜空の下を。」
と、言いながら、車のエンジンをかける。
自宅のある町は県庁所在地だが、ここはかなりの辺境の田舎町。だけど高速道路も、ボロボロの錆び錆びだけど小さな電車も来ている。行きで高速道路を使ったけど、帰りも同じ道は嫌。なので、帰り道は一山超えた所を並行して走る国道で帰ろう。
その国道へいくため、険しい岩峰のとがった荒々しい山になんとかしてへばりついている峠道を走る。
峠道に入ると、疎らだった街灯りは無くなり、自分の車のライトの明かりと、満天の星と月明り。
そうした僅かな光が、幾重にも連なった山々を照らすのは幻想的。
誰も居ない峠道。
走っているのは自分だけなのだ。
それは、寂しいようで心地よい。
まるで、夜行列車の機関士になったようだ。
峠を越えると、国道に出る。ガソリンスタンドがあったので、車にも給油してやる。
疎らな町の中でも、煌々と灯りを放つガソリンスタンドは、まるで車の灯台だ。
「ガァーッ」と言う走行音を奏でながら、大型トラックが国道を峠に向かって走っていく。
国道なだけあり、ここまで来ると、車通りもあるのだが、夜のこの時間は交通量は少なく、走っているのはトラックが多い。
また、「ガァーッ」と走行音を奏でて大型トラックが通過。
こちらは給油終了。
自宅まであと、町一つ越えて20キロ。
「行くか。」
エンジンをかける。
ガソリンスタンドを出ようとすると、ちょうど入ろうとするトラックに譲ってもらった。
あのトラックは何処へ行く途中なのだろう?
みんな、何処へ行くのだろう?
そして、そんないろいろな目的地へ向かって行く車の流れに乗せて、自分も夜の国道を駆け抜ける。
疎らな灯りが目に入っては消えて行く。
流れ星のように。
パチ屋やラブホのまぶしい灯り、寂し気に照らす街灯の灯り、そして、他の車のライトの灯り。
パチ屋やラブホの灯りや、街灯の灯りが星であれば、車の灯りは銀河鉄道と言うべきか。
隣町の中心に入る。
灯を落とした店、家の向こうには、東洋一の亜鉛工場の灯り。その中から、星が生まれるように、まぶしいヘッドライトを付けて、貨物列車が夜の町の中へ向かう線路へと旅立っていくのが見えた。
この先、線路をアンダーパスする国道。
自分の車がアンダーパスで線路を潜った時、線路を貨物列車がヘッドライトを輝かせて、国道を越えて行った。
何処へ行く貨物列車なのだろう?
ふと思った時、県庁所在地ではないが、県庁所在地よりも栄えている町が見えて来た。
「無事、帰って来たな。みんなも、それぞれの目的地まで、お気をつけて。」
と言いながら、国道を逸れて自分の住む町へ通ずる県道へと、自分は降りて行ったのだ。
また、夜の道を走るためにも、明日の仕事も頑張らなければ。