サムーイン国にて⑧
……あれ?
私、どうして寝てたの?
部下さん達と大食堂にいて……ルドさんが来て……気が遠くなっちゃった事までは覚えてる。
「うぅ…、頭が痛い。」
頭が痛くて、気持ち悪い。
横になったまま部屋の中を見回すと、部屋の中央にあるテーブルの上に水差しに入った水とコップが置いてあるのが見えた。
怠くて動きたくないけど…、喉も渇いてるし、飲ませてもらおう。
身体を起こしてベッドから降りると、思った以上に身体が怠くて辛い。
どうにかテーブルまで行くと、ベッドからは見えなかった1枚の紙とベル?がテーブルに置いてある事に気付いた。
「コレ……私?」
その紙には4コマ漫画が描かれていて、1コマ目にはベッドの上に眠る私と思われる女の子の絵。2コマ目にはベッドの上で上体を起こす私。3コマ目にはテーブルの上に置いてあるのベルの絵。最後のコマには私がベルを振って音を鳴らす絵だ。
ベルを鳴らせって事?
私はここの世界の文字が読めないから、分かりやすい絵で書いて置いてくれたみたい。
ベルを持ってチリンチリンと鳴らすとすぐに部屋のドアをコンコンとノックをする音が聞こえた。
「かにゃで……起きたんだな。入っても良いか?」
この声はルドさん。
「はい、どうぞ。」
入室の許可を出すと、泣きそうな表情のルドさんが優しそうなおばあさんと一緒に部屋に入ってきた。おばあさんは小柄で、大柄なルドさんと並ぶと、とても小さく見える。
「その、すまなかった。オレが声に魔力をこめてしまったばかりに……。頭痛がするだろう?コレを飲めば治る。」
叱られてしょんぼりとする大型犬のようなルドさんが差し出してきたのは、瓶に詰められたかき氷のメロンのシロップを薄めたような色の水。
「コレはポーション……かにゃでにわかりやすく言うなら………そうだな、薬や栄養ドリンクの一種だと思ってくれれば良い。」
薬か栄養ドリンクの一種。
ルドさんが声に魔力をこめたって言ってたから、私の気が遠くなったのも、頭痛の理由もルドさんの魔力が原因って事になるのかな?
頭痛を治すのにはこのポーションを飲まなければならない……のね。
「ありがとうございます。」
ルドさんにお礼を言って受け取ると、ポーションを口に含む。
「んぐ……。」
口の中でポーションがしゅわ〜ってきた。
「これ、炭酸飲料!」
炭酸飲料は液体の中にぷくぷくと炭酸の気泡があるけど、ポーションは気泡なんてないから油断した。
私、炭酸飲料苦手なのに。
口の中でシュワシュワする感覚が本当に無理。キツめの炭酸に目頭が熱くなってくる。
「ポーションが炭酸飲料……だと?そうか!コレが炭酸飲料か!!」
炭酸の強い刺激に目を強く閉じる私に、ルドさんが興奮した声をあげた。
「かにゃで!コレはコーラか?サイダー……がっ!?」
「キャアッ!」
うっそぉ!!
嬉々として私に問うルドさんの後頭部をおばあさんが飛び上がって蹴り飛ばしたよ!!
蹴られた反動でルドさんの首が思いっきり仰け反ってる。
「不意打ちで私の蹴りで吹っ飛ばないのは流石だね?」
私は見た!
おばあさんの驚異のジャンプ力!!
大きなルドさんの胸より低い身長のおばあさんが、ルドさんの背よりも高くジャンプした!!
「ばあさん……何故蹴るのだ?」
「ったり前だろ?苦手なもん飲んで苦しんでるレディになんだい!!それにばあさんだなんて年寄りみたいな呼び方はお止め!メルサさんとお呼び!!」
メルサ……おばあさんの名前かな?
ルドさんを一喝するおばあさんは凄い迫力だ。
「かにゃでさん、苦手なもん飲ませて悪いね。でも、全部飲まなくちゃだよ。」
口調も笑顔も優しいけど、何故だろう。逆らえない迫力がそこにある。
「…………はい。」
一気に飲むか、ちびちび飲むか……。
よし、一気にいこう!!
ごくごくごく
「うぅ……。」
口の中が痛いよぉ。
炭酸、きらぁい。
げっぷって出そうなのも嫌。
「かにゃでさん、コレを。いちごミルクの飴だよ。」
おばあさんが差し出してくれたのは、包みに包まれた飴ちゃん。
「ありがとうございます。」
口に入れるといちごミルクの優しい味が広がった。
「全部飲めて偉かったね。私はメルサ。ルドヴィックの祖母だ。」
祖母?
って事はルドさんのおばあさん?
こんなにも小柄なおばあさんのお孫さんが、こんなにも大きなルドさんだなんて、遺伝子って不思議よね!!
「って今考えるのはそこじゃないよね。」
頬2回ピタピタと叩いてメルサさんを見ると、メルサさんは申し訳なさそうに私を見ていた。
「かにゃでさん、話は聞きました。孫が大変ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。」
「かにゃで、本当にすまない。」
私に深々と頭を下げるメルサさんとルドさん。
「せめてここでの生活が快適に過ごせるように、努めさせていただきます。」
メルサさんは頭を上げると、胸に手を当てて軽く膝を折る。こちらの礼儀は私にはわからないけと、礼節を重んじる行動だと言う事はわかった。
ルドさんは頭を下げたまま動かない。
「………あの、私……。」
メルサさんに何て声をかけたら良いかがわからない。
ランダーさんの魔法で心穏やかにいられるけど、ルドさんが私に対して色々やらかしている事はわかる。
ルドさん本人から、そして祖母としてメルサさんから謝罪されても、その謝罪を受け入れることは私には難しい。
私の何も言えない複雑な心中を察したのか、メルサさんは穏やかに微笑んだ。
「かにゃでさんに服を用意したんだ。きっと似合うから着てみないかい?」
服?
私が首を傾げると、メルサさんは何もない空中からスルリと服を取り出した?
「えっ?えぇっ?」
「コレは私の収納の魔法だよ。」
収納の魔法?
………駄目だ。頭がついていけない。
色々な事があり過ぎて、不思議な出来事を頭が理解しようとはしてくれない。
「難しく考えなくて良い。透明でどこでも持ち運び可能なスーツケースがあるって思ってくれれば良いよ。」
笑顔を向けてくれるメルサさんの手にある服は、温かそうでとても可愛いワンピース。
民族衣装のようなそのワンピースは……私がよく好んで使う黄色だった。
不思議な出来事を頭が理解してくれないのは、奏がまだ混乱しているからってのもあるけど、パニックにならないようにランダーが思考を鈍くさせていると言う理由です。