サムーイン国にて⑥
「大隊長ぉ、何をお説教されるかってのは……わかってるっスよねぇ?」
奏がルドヴィックの部下と去った後の応接室。
ランダーが座るソファの前でルドヴィックかま大きな体を極力小さくして正座で座っていた。
本来テーブルがあった位置に座るルドヴィックの額には大粒の汗が浮き出ている。
「かにゃでに、次の聖なる星の夜に……その、全裸で願う、と言ったからだと……。」
「かにゃでにおっさんの全裸見せるつもりっスか?変態っスね。あぁ、かにゃでに変態って思われたかったんっスかねぇ?」
「ぐっ!」
変態と言う言葉がルドヴィックの心に深いダメージを与えた。
「それもそうっスけどぉ。」
ランダーの瞳がルドヴィックを冷たく見据える。
「まず1つ目は、全裸で願うって言う前の一言っス。もし見つからなくても……大隊長がそう言った時にかにゃでの動揺が激しかったっスよ。」
ランダーは奏が応接室にいた間、奏がパニックを起こさないように常に気を遣いつつ奏に魔力を巡らせていた。
ルドヴィックがもし見つからなくてもと口にした時、奏に巡らせていた魔力が大きく持っていかれた事から、奏はとても動揺してしまった事がわかった。
「うぐぐ…、申し訳なかった。」
ランダーに言われるまで己の失言にさえ気付いていなかったルドヴィックは、頭を下げて謝罪する。
「それからもう1つ。大隊長ぉ、あんた本当にかにゃでを元の世界に戻す気あるんスか?」
「それはもちろんだ!!」
ランダーの言葉に顔を上げるルドヴィックは心外だと声を出す。
「かにゃでが笑って過ごせるよう全力を尽くす。だから、ずっとオレの側にいてくれないだろうか?……でしたっけ?求婚なんてしちゃってまぁ……そんなんで本当に星の女神様にかにゃでを元の世界戻して欲しいって願えるんっスか?」
聖なる星の夜に星の女神に願いを願う際、その願いは心の奥底から願った願いでないと叶わない。……と言われている。
奏にずっと一緒にいて欲しいと言ったルドヴィックは、果たして奏を元の世界に戻せるよう願えるのだろうか。
「それは、だな。万が一にも元の世界に戻れなかった後に、で。その…。」
「ルドヴィック。」
ルドヴィックを大隊長としてではなく、名前で呼ぶランダーに、ルドヴィックの顔が引き締まった。
「元の世界に戻れる事を心底願わなければならない人間は、元の世界に戻せなかった時の事は考えるべきでない。ルドヴィックよ、かにゃでには誠実であれ。」
「はい。申し訳ありませんでした。」
ランダーから発せられる威厳のある圧にルドヴィックが深々と頭を下げると、ランダーからの圧が消えていく。
「お説教ほここまでにして、かにゃでの所に行きましょっか、大隊長ぉ。」
ソファからぴょんと立ち上がりドアに向かうランダーからは、先ほどの威厳たっぷりの圧はない。
その事に少しだけ安堵しつつも気を引き締め直し、ルドヴィックはランダーと共に奏のいる大食堂へと向かった。