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サムーイン国にて④


薄暗い部屋で寝てる私。


もしかして……今、夜?


「あっ、私ったら制服のまま寝ちゃったんだ。」


制服のサイズが合わないわけじゃないけど、ラフな服よりも窮屈な服装で寝てたからかなぁ。


……寝起きなのにスッキリ感がなく、妙に身体が痛い。


「お腹……空いた。」


今日の晩ごはんは何って言ってたっけ?


スマートフォンを手にしようとして、いつものように寝転んだままベッドのサイドテーブルに手を伸ばす。


「あれっ?」


サイドテーブルが、ない?


ベッドの横にはスマートフォンとランプが置かれたサイドテーブルがあるはずなのに……。


上半身を起こして周囲を見回すと、部屋の様子に違和感を感じた。


「電気がない?」


天井についているはずの電灯がなくなってる。



「あ……あれ?」



部屋の中が何か違う。


部屋の中は暗いけど……私の部屋にあるはずの家具がない事も、私の部屋からは見えないはずの雪景色が見える窓がある事はわかる。



ドキン!と、胸が嫌な音を立てた。



「ここは私の部屋じゃ、ない?」



ドキン、ドキンと胸の嫌な音が速く大きくなっていく。


「えっ?……えっ?!」


ここ、どこ?


私は何でここにいるの?



「かにゃで?起きたのか?」



コンコンっと控えめにドアをノックする音と、男の人の小さな声。



「ルド……さん?」



今の声はルドさん。

部屋の外から聞こえる。


あれ?私……いきなり空から落ちた?


ルドさんに連れられて雪がいっぱいの場所に来た?


あれ?あれ?夢じゃなかったの?

いきなり空から落ちるっておかしくない?

魔法って何?

雪の中を上半身裸で、私を抱えたまま猛スピードで走るなんて嘘でしょ?!


思考が追いつかなくて、呼吸が浅く速くなる。



「かにゃで、入るぞ?」



部屋にルドさんが入ってきた。

部屋には入ってきてないけど、ルドさんの後ろには何人も男の人がいる。


「………。」


泣きそうな顔で私を見るルドさんは幻には見えない。

私、……本当に魔法のある世界に来たちゃったの?

もしかしてラノベで流行りの異世界転移ってやつ?

私はラノベはあまり読んだ事はないけど、誰かがそんな事言ってた。


「かにゃで?」


私、どうしてここにいるの?

私、帰れるの?

怖いよ。


お父さん……お母さん。


助けて


響矢


………苦しいよ


「かにゃで、頼む!落ち着いてくれ。」

「大隊長こそ落ち着いて下さい!!」

「これはアレだ、アレ!過呼吸!!昔っからパニックになると起こしてたじゃねぇか!!」


どうしても私が昔から過呼吸起こす事をこの人達が知ってるの?!


身体がルドさん達を警戒して硬直する。


「かにゃで!ゆっくり息を吸うんだ!!」


焦って声を大きくするルドさんの低い声に、身体がビクッと跳ねた。


「す、すまない!!声が大きかったな。怒鳴ってるつもりはないんだ!!」


「大隊長、声がでかいって!!かにゃでがびっくりしてるじゃないですか!!」


「お前もな!!」


みんなして声が大き過ぎて、怖くて……、苦しくて、目がじんわりと潤んできた。


「かにゃで!泣かないでくれ!!」


ルドさんの声がますます大きくなっていく。



苦しい。


手足が痺れてきた。



「かにゃで!!頼む!ゆっくり息を吸うんだ!!」



ルドさんが大きく手をバタバタ振りながら、私の周りを右往左往している。


私の瞳からぽたりと涙がこぼれた。



「まったく、なーにやってるんスか?泣いてるレディの部屋にごつい野郎が押し入るなんて………怯えさせるだけッスよ。」



混乱した部屋の中に、響いたのはランダーさんの声。


ルドさんと一緒にいた男の人達がランダーさんに道を譲るように左右に分かれると、汗ぐっしょりで息をきらせたランダーさんがそこにいた。


「ランダー!!」


「だーかーらー、大隊長が潤んだ目で上目遣いしても怖いだけで可愛くないっスよ。」


服の裾で汗を拭いながら歩いてくるランダーさん。


「ちょっと失礼するッス。」


私の所まで来たランダーさんは、苦しくて固く握りしめていた私の手をその大きな手で優しく包んだ。


「今からかにゃでに魔法をかけるッス。かにゃでに害のある魔法じゃないっスから……信じて欲しい。」


ベッドに座ったままの私の目線に合わせてしゃがんだランダーさんは、優しく微笑んでいる。


「かにゃで、『落ち着いて、ゆっくり息を吸うんだ』。」


ランダーさんの声に、嵐のように荒ぶった心が不思議と凪いでいく。


「『オレ達の話を取り乱さないで聞いて欲しい。』」


苦しかった呼吸がゆっくりと穏やかなスピードに戻り、硬直した身体がゆっくりとほぐれていった。


「良い子ッスね。」


ランダーさんは片手は私の手を握ったまま、もう一方の腕の服の袖で私の涙を拭う。


「話の前に温かくて甘いミルクを用意するッスよ。」


温かくて甘いミルクは、私が大好きな飲み物。



この人達は私を知ってる。


ミルクを飲んだら、その理由を聞くんだろうとわかった。

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