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サムーイン国にて➁


「おっ!大隊長が女を連れて帰って来たぞ!!」


「何ーっ!!?あの堅物大隊長がかっ!?」


白い雪原の先に見えた高い壁の上から複数人の男の人がこっちを見ているように見える。


私から見て豆粒大にしか見えない人影なのに、声が聞こえるって不思議。


「カタブツ大隊長……さん?」


この上半身裸の男の人がカタブツ大隊長なのだろうか?


「自己紹介がまだだったな。オレはサムーイン国防衛隊の大隊長を務めるルドヴィック=ベルガーだ。ルドと呼んで欲しい。」


この私を抱っこして走る上半身裸の男の人は、サムーインって国の防衛隊の大隊長さんのルドヴィックさん。

略してルド大隊長さんね。


「ルド大隊長さん?」


「……推しがオレの名を。」


ルド大隊長さんは、何かを噛みしめるかのように目をギュッと閉じて走り続ける。

目を閉じても真っ直ぐ走れるって凄いわ。


「役職はいらない。ルド、と。」


目を閉じたままの状態でそう言うルドさん。


「ルドさん。」


私がルドさんの名前を呼ぶと、ルドさんの閉じられたままの目から涙が溢れた。


何故!!?


「欲を言えばルドと、語尾にハートマークを付けて呼び捨てにして欲しいが……。推しがオレの名を、しかも親しげに愛称で呼んでくれた。」


ルドさんの溢れる涙はルドさんが猛スピードで走っているからか、ルドさんにお姫様抱っこされている私に降りかかる事なく空中に舞い、凍り付いては雪原に落ちていく。


「今ここで我が命朽ち果てようとも、一片の悔いなし。」


「朽ち果てちゃ困るからっ!!」


ルドさんって言ってる事がいちいちおかしい!!

って、私が今置かれている状況からしておかしいけどっ。


「あれ?あの子……かにゃでそっくりじゃね?」


「まじっスか?!大隊長ってば、ついに最推しそっくりさんを誘拐してきたんスね!」


「かにゃで本人だって言われても納得レベルのクオリティ……やべぇな。」


ん?

かにゃでそっくり?


かにゃでって、私よね?


私そっくり?


「あいつら………。」


男の人達の、私が私のそっくりさんと言う声が聞こえた途端、ギラリと目を光らせたルドさんが怒気を含んだ低い声で呟いて走るスピードを上げた。


「飛ぶぞ。」


飛ぶ?


飛ぶっ!?


「き、きゃぁあぁ!!」


本当に飛んだよ、この人!!


飛ぶって言うか、物凄いジャンプ!!


あっと言う間に喋ってた男の人達のトコロまで一飛び。


これも魔法?それともルドさんの脚力が異常なの?


「貴様ら………、本物のかにゃでだと、何故一目でわからん!貴様らの目を節穴かっ?!」


喋ってた男の人達の中にズダンッ!!と音を立てて着地したルドさんだけど、私に着地の衝撃は一切ない。

これも魔法なのかしら?


「ヒェッ!」


「すんません!!……って本物?!」


「本物って、『恋はメロディ☆ト・キ・メ・キ♪ラビューン』のあのかにゃでですか?」


「大隊長が本物って言うなら『恋はメロディ☆ト・キ・メ・キ♪ラビューン』のかにゃでなんスよね?」


鼻息荒く私を見る男の人達が怖っ!!身体がビクッて震えると、ルドさんの腕に力が入った。


「お前らみたいなゴツい男がかにゃでを見るなっ!かにゃでが減る!!」


減るのっ?


ゴツい男の人達に見られたら、私減るの?!


確かにメンタルはゴリゴリに削られてるけど!!



「ってか、何でかにゃでがここにいるんスか?」



それは私も知りたい。



「それが…空から降ってきたんだ。理由はオレにもわからん。かにゃでもここに来る直前の記憶はないらしい。」



ルドさんの言葉に、私が何故ここにいるかを尋ねた人が口元に手を当てて眉を潜めた。


「大隊長は『恋はメロディ☆ト・キ・メ・キ♪ラビューン』の46章を買いに行ってたんスよね?見せてもらっても良いっスか?」


「あぁ。」


私が何故ここにいるかを尋ねた人に言われて、ルドさんが取り出したのは汚れた本。


「………泥だらけじゃないっスか。」


「不測の事態が発生したんだ。」


ぐぬぬと唸るルドさんを周りの人達は呆れた目で見ている。


「納得っス。かにゃでがここにいるのは、大隊長のせいじゃないっスか?」


「?!」


私が何故ここにいるかを尋ねた人の言葉に、私もルドさんも周りの人達も驚いた。


「薄っすら見えるシルエットから、今回の表紙絵はかにゃでっスよね?」


私?!


汚れた本をジッと見るけど、確か女の子?が、書かれていたらしいシルエットは見える…気が、する?

でも顔はわからない。


「大隊長がこの本を汚したのは夜でしょ?しかも空に女神の星が輝く時間帯、場所はヌクイーナとサムーインの間にある祈りの大地……。」


「まさか!!」


「その、まさかっスね。昨日は年に1度の聖なる星の夜。星の女神様が大隊長の願いを叶えてくれたんスよ。」


「!!」


私には2人が何を言っているかはわからないけど、ルドさんは何やら思い当たる節があるのか、呆然と立ち尽くしている。


「推しに会いたいって、切実に願ったんスね?聖なる星の願いの日に。ちょっと失礼するっスよ。」


私が何故ここにいるかを尋ねた人は、呆然と立ち尽くすルドさんから私を取り上げると、歩き出す。


「オレは大隊長の部下のランダーっス。ランランって呼んで欲しいッス。」


にこっと笑うその人は、ランランと呼んでも差し支えのない、男の人にしては可愛らしい顔立ちをしている。周りにいる男の人達がゴツいからそう感じるだけかもしれないけど。


「いや、そこはランダーさんで。」


初対面の男の人をそんな親しげに呼べないし。


「そりゃ残念っス。一先ずそこで呆然としてる唐変木は放っておいて、ゆっくり休むっスよ。どうせ休憩なしでここまで来たんでしょ?」


そう言ってランダーさんが連れて来てくれたのはベッドのある部屋。


男+ベッド=いや~んな方程式を頭に思い浮かべてしまった私は、身体が硬直してしまった。


「男を警戒する事は良い事っスけど、かにゃでには誰も手を出せないんで安心して欲しいっス。あんたに何かあれば大隊長に殺されるっスから。」


柔らかくベッドに降ろされると、ランダーさんはすぐに私に背を向ける。


「水と食べ物を用意するっス。色々知りたい事はあると思うっスけど、話はまた明日って事で。」


ランダーさんが出て行くと、部屋には1人。

部屋に1人だと言う事に気が緩んだのか、身体が急に重くなった。


ベッドに横になると沈んで行く意識。


食べ物を用意したランダーさんが戻って来た時には、私はフルートのケースを抱きしめたまま夢の中にいた。

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