エピローグ
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臨時休暇の三日があけると、シャルルとルイーザの起こした騒ぎがあったことが嘘のように、平和な学園生活が戻ってきた。
シャルルとルイーザの裁きはまだ終わっていないが、シャルルは学園を退学になり、ダンマルタン伯爵家の跡取り資格を失った。
オルテンシアを害そうとした罪に、人身売買未遂の罪も加わるので、シャルルとルイーザには厳しめの裁きが下るのは間違いないだろう。長期間の労役か国外追放かのどちらかではないかとフェリクスが予想した。
クラウディオたちが調べたシャルルの寮の部屋には荷物がほとんど残っていなかったという。この国を去るため、ほとんど持ち出した後のようだった。
ルイーザを自分の寮の中に匿っていたことはシャルルが白状したし、オルテンシアに例の薬草を使ったことも裏が取れた。オルテンシアに差し出したキャンディーの中に、薬草の成分が入っていたらしい。クラウディオがシャルルから残りのキャンディーを押収し、成分を調べたところ、キャンディー一つに含まれていた薬草の寮はそれほど多くなかったそうで、オルテンシアの体への負荷はほとんどかかっていないだろうと判断された。
ちなみに、学園祭当日になくなった、オルテンシアのクラスのハムだが、これは何と、ルイーザが盗んだことが判明した。
シャルルの寮に隠れ住んでいたルイーザだが、寮の食事は食堂で出されるため、シャルルが食堂からこっそり持ち出したパンや、休みの日に買ってきたお菓子などを食べて生活していたルイーザは、食に飢えていたようだ。学園祭の日にこっそり寮を抜け出して、たまたま見つけたハムを盗んでいったと言う。
ルイーザの中では、自分が家を追われたのも、外に出られずまともな食事が食べられなくなったことも、すべてオルテンシアのせいになっていて、取り調べの際もオルテンシアへの文句ばかりで、取調官を困惑させたそうだ。
「次期生徒会長はフェリクス殿下、副会長はオルテンシア様で問題ないですよね?」
今日は、生徒会の引継ぎを行っている。
学園祭が終わると、生徒会メンバーが新しくなるのが伝統なのだ。
フェリクスやオルテンシア以外にも、書記や会計など、事前の通知がされていた生徒会の新メンバーが生徒会室に集まっている。
フェリクスがベルトランから生徒会室の鍵を受け取って、引き継ぎ書にサインをする。
ベルトラン達旧生徒会メンバーが生徒会室から出て行くと、新メンバー同士挨拶をして、今後の学園の催し物について相談だ。
と言っても、貴族の子女である学園の学生たちは、現在社交で忙しい時期なのもあり、当面の間大きな行事はない。次の行事は卒業式だ。卒業式には、パーティーも開かれるので、その準備を生徒会主体で行うことになる。
夕方は社交パーティーで忙しいので、しばらくの間は週に一度、朝集まって会議の日を設けることでみんなの意見が一致して、今日は解散となった。
フェリクスと一緒に歩いていると、クラウディオが大量の資料を抱えて歩いているのが見えた。
クラウディオはフェリクスとオルテンシアを見つけると、「ちょうどいいところに」と言って足を止める。
「資料運びを手伝っていただけませんか? まだまだあるんです」
王子と公爵令嬢を顎で使おうとするのは、教師と言えどクラウディオくらいしかいないだろう。
オルテンシアは苦笑して、フェリクスと頷き合うと「何を運んでいるんですか?」と訊ねる。
「例の薬草の資料です。今回の一件のせいで、管理はすべて私の研究室で行うことになったので、研究資料を含めすべて運び出さなくてはいけないんです」
「なるほど。それは大変そうだな」
「だから手伝ってください。殿下の件も黙っていてあげたんですからいいでしょう?」
「……わかったから、その話を蒸し返すのはやめてくれないか?」
フェリクスががっくりと肩を落とすのを見て、オルテンシアは笑った。
フェリクスが記憶喪失になったふりをしていたことだが、クラウディオだけにはばれていたらしい。クラウディオは昔から、フェリクスのオルテンシアへの気持ちも知っていたので、何も言わずに黙っていてくれたそうだ。
フェリクスが仕方なさそうな顔をして、クラウディオが持っていた資料を受け取った。
「これ、私の部屋までお願いします。まだまだあるので頼みますね」
クラウディオがそう言って、自分は次の荷物を取りに薬草の保管庫へ向かった。
「フェリクス様、半分持ちますよ」
「いや、これは重いから、この筒だけ頼んでいいかな?」
「わかりました。……何ですかね、この筒。軽いですけど」
振ってみるとかさかさと音がする。
「薬草を乾燥させたものが入っているのかな。不用意に開けるとクラウディオがうるさそうなのでやめておこう」
「そうですね。この薬草の扱いはどうなることになったんですか?」
「いくつかの研究機関にデータとともに渡すことが決まっているが、この薬草を生み出したのは学園の薬学研究部だからね。使用権は学園に置くことにしたらしい。この薬草の研究をしていた薬学研究部の部員の多くは卒業後研究機関に席を置くそうだよ。ベルトランは違うが」
ベルトランは、卒業後は王城で文官として働くことが決まったそうだ。頑張っていれば、フェリクスやセレスタンが卒業後、側近として取り立ててもらえるかもしれないと、やる気に満ちている。
「ベルトランが言い出した学園祭の人気投票は面白かったから、来年も引き継いでもいいかもね」
「そうですね」
生徒会の仕事は忙しいが、フェリクスとすごす時間が増えるので嬉しい。
「そう言えば、今週のパーティーだけど、オルテンシアが着るドレスの色を教えてくれないか? タイの色を揃えようと思うんだ」
フェリクスが思い出したように言う。フェリクスがタイの色とドレスの色を揃えようと言ってくれるのははじめてだった。
「ピンクと紫のどちらにしようか決めかねていたんですけど、タイの色を揃えるなら紫にします」
「うん。あとそれから……ダンスを、二曲続けて踊りたいんだけど」
フェリクスが恥ずかしそうにぽそりと言った。二曲以上続けてダンスが踊れるのは、婚約者の特権だ。婚約者以外の男性とは、二曲続けて踊ることは許されない。
ちなみにだが、フェリクスが記憶喪失のふりをしていた王城でダンスを踊ったとき、彼のダンスがうまくなっていると思ったのは気のせいではなかったようだ。これは国王陛下がこっそり教えてくれたことだが、フェリクスはひそかに、オルテンシアと二曲続けてダンスをするために練習を積んでいたらしい。
「二曲と言わず、何曲でも」
オルテンシアが言うと、フェリクスが嬉しそうに微笑む。
フェリクスとオルテンシアがおしゃべりしながらのんびり歩いていると、新しい資料を取りに行ってきたクラウディオが後ろから追いついてきて「真面目に手伝いなさい」と文句を言った。
無理やり手伝わせておいてひどいものだと思ったけれど、確かに亀の歩みのようにゆっくり歩いていては、資料運びがいつ終わるかわかったものではない。
「仕方ない。おしゃべりはあとにしよう」
フェリクスが肩をすくめて、歩くスピードを上げる。
たくさんの資料を抱えて速足になったフェリクスに、オルテンシアは慌てた。
「殿下、そんなに急ぐと――」
オルテンシアの言葉が途中で止まる。
案の定、フェリクスが廊下に資料をまき散らしながら、盛大にすっ転んだ。
お読みいただきありがとうございます!
本作、これにて完結です!
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