もう一人の転生者 5
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「つまり、娘はシャルル・ダンマルタンに拉致された可能性があると?」
「まだ裏が取れたわけではありませんが、その可能性が高いと仮定して、現在調べさせています」
城から飛び出したフェリクスはシャロン公爵家の玄関ホールで、公爵と話をしていた。
サロンに案内すると言われたが、時間が惜しかったのだ。
「しかし、どうしてダンマルタン家の子息が……」
「理由はわかりません。ただ、怪しい動きをしていたことは確かなようです。僕もこのあと、学園に向かう予定です。陛下にはすでに連絡を入れたので、ダンマルタン家の方は陛下が確認してくださると思います。僕はこのあと学園に向かい、クラウディオたちと合流します。クラウディオたちはシャルル・ダンマルタンの寮の部屋を調べているので」
「わかりました。貴重な情報をありがとうございます」
フェリクスがそう言って、シャロン公爵家から去ろうとした時のことだった。
シャロン公爵家の門からものすごいスピードで一頭の馬がこちらへ走ってくるのが見えて、思わず足を止める。
「旦那様!!」
門番をしていた男たちが慌てて馬を追いかけるが、馬は止まらず、玄関前まで駆けてくると、大きくいなないて止まった。
「クロエ!?」
馬にまたがっていた、何とも扇情的な衣装を身にまとった女性に、シャロン公爵が愕然とする。
クロエはひらりと馬から飛び降りた。見れば、真っ青な顔をしている。唇は紫色になっているし、体は小刻みに震えていた。この初冬の時期に、薄着で馬にまたがり猛スピードで駆けてきたのだから当然かもしれない。
公爵がクロエを玄関の中に入れる。クロエは玄関ホールに倒れこむように座ると、寒さからかガチガチと歯を鳴らしながら、ポケットからちぎれた紙を取り出した。
「お、おじょうさま、からです」
シャロン公爵が人を呼び、クロエに温かい飲み物を毛布を持ってくるように命ずる。
どこから馬を飛ばしてきたのか、クロエは立ち上がることもできないほどに疲弊していた。
クロエに差し出された紙を広げたシャロン公爵が、さっと表情をこわばらせる。
「殿下、娘は今、ザントワーク港にいるようです」
シャロン公爵に紙を渡されたので、文面に視線を走らせたフェリクスはぎゅっと眉を寄せた。
手紙には簡潔に、シャルルに攫われたこと、ザントワークの倉庫に閉じ込められていること、国外に売り飛ばされそうなことが書かれていた。
「クロエ、オルテンシアは大丈夫なのか?」
たまらずクロエを問い詰めると、彼女は震えながら首肯する。
「閉じ込められていますが、売り飛ばすことを想定しているからか、手荒なことはされませんでした。ただ、わたくしが連絡を取るために倉庫から抜け出したので、それに気づかれると危険かと思います。急いでお嬢様を……」
使用人が持って来た毛布にくるまりながら、クロエが言う。
フェリクスは一度公爵と目配せを交わし、急いで踵を返した。
「一度城に戻り、陛下に報告し、兵を連れてザントワークに向かいます。人身売買まで絡んでいるなら、これは学園の中だけの問題ではなくなる。陛下も兵を貸してくださるはずです」
「私もすぐに向かいます。クロエ、倉庫の位置はわかるのか?」
「お手洗いの格子窓に、青いリボンを結び付けています。殿下が土曜日に行かれた、ティーカップを購入した店のリボンです。ただ、窓の位置が高く、しっかり結びつけることが難しかったため、ほどけているかもしれません。すみません」
クロエは、誰かが気づいてくれるかもしれないと願いを込めて、リボンを結び付けたのだという。
「わかった」
フェリクスは馬車に乗り込むと、急いで城へ戻るように告げる。
もしもオルテンシアに何かあれば、正気でいられる自信がない。
(オルテンシア……!)
どうか、無事でいて――





