もう一人の転生者 4
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「本当にうまく行くんですか?」
服を脱ぎながら、クロエが疑いの目を向けてくる。
「大丈夫よ。男たちが回収していく箱の順番は間違いないはずだもの」
木箱の影でオルテンシアはクロエの脱いだ服を回収しながら、ちらりと倉庫の扉に視線を投げた。
クロエが帰って来てから、オルテンシアはさっそく考え付いた作戦について相談をした。
男たちが箱を外に持ち出すのならば、箱の中に隠れておけば自然と外に運び出されるのではないか、と。
あの後も何度か男たちが倉庫には行ってきて箱を回収していくのを見ていたオルテンシアは、男たちが倉庫の入口に近いところから箱を持ち出していることに気が付いたのだ。
オルテンシアは奥の箱の中から見つけた服をクロエに手渡す。かわりに、彼女が脱いだ服に、木箱の中で見つけたクッションや枕などから綿を抜き取り詰め込んでいった。
「わたくしは監視の目が厳しいから誤魔化せないけど、クロエならしばらくはこのお手製人形で誤魔化せるわ。ほら、早く着替えて」
「……この服、露出が多すぎませんかね?」
南の国の民族衣装なのか、胸元が大きく開いて、深いスリットの入っている、チャイナドレスに近い形の服に、クロエが嫌そうに眉を寄せる。
「どれも似たようなものだったわよ。木箱の服の中に埋もれていたら寒くないと思うから大丈夫よ」
オルテンシアは胸の谷間に隠し持っていた手紙をクロエに手渡す。
クロエはそれを服のポケットに入れると、ちらりとオルテンシアお手製人形に視線を向けた。
「エプロンに入っているロープですが、もしもの時にはあれを武器にしてください。後ろから首に縄をかけて全体重をこめて引っ張れば、大男であっても一人くらいは何とかなるはずです」
それはクロエだからできることであって、オルテンシアには無理だと思うけれど、何もないよりはましだ。
「わかったわ。外に出られたら隙を見て逃げ出して、この手紙がお父様かフェリクス様に届くようにしてくれる?」
「わかりました。お嬢様もくれぐれも気を付けてくださいね」
「ええ」
ルイーザの話を信じるならば、船が到着し、出港するまで一週間もある。それだけ時間に余裕があるならば、クロエが父かフェリクスに連絡さえ取ってくれれば充分に何とかなる。
事前に中身を抜き取っておいた倉庫に近いところの木箱の中にクロエが入る。その中に、オルテンシアはこれでもかとほかの木箱の中にあった服を詰め込んだ。
「窮屈だけどごめんね。あとはお願い」
服に埋もれたクロエが頷くのを確認して、オルテンシアは木箱の蓋を閉める。
そしてすぐに後ろに移動すると、お手製人形を横たえて、扉からは眠っているようにしか見えない角度に調整した。
しばらく待っていると、大男がやってきて、予想通り、クロエが入った箱を回収していく。ほかの箱の中を確認した限り、食器類など重たいものも入っていたから、人一人分の重さの箱にも、男は疑問を抱かないようだった。
固唾を飲んで見守っていると、大男はオルテンシアのお手製人形にも気づかずに、箱を外に運び出した。
(よし)
箱がどこに運ばれて行くかはわからないが、それらに監視がつけられているとは思えない。さすがにシャルル一人に、そこまで大勢の人間を雇う金はないだろう。
(頼んだわよ、クロエ……)
攫われて倉庫に閉じ込められても、冷静に縄を回収するようなクロエだ。きっとうまくやってくれると信じている。
オルテンシアは祈るように手を組んで、倉庫の入口を見つめた。
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